幕間 第19.5話 夜のささやき、揺れる想い
──夜。村の静寂に、いくつもの心の灯りが揺れる。
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1. ライナ視点
夜の警邏を終えたライナは、村外れで足を止めて夜空を見上げる。
(レイルさんは、村ではほとんど評価されていない。
それどころかテイマーなんてバカにされがちなのに――
あの人は誰かに感謝されるより先に、
いつも真っ直ぐ“みんなのために”動いている)
けれど、彼の背中にはいつも静かな“影”が見える。
その孤独や痛みを感じるたび、
「……すごいな」と、心の奥が熱くなる。
自分はまだ、そんな孤独も痛みも持てない。
けれど、なぜか――あの人に、ずっと憧れずにはいられなかった。
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2. カティア視点
ギルドの更衣室、帳簿を抱えたまま窓辺で夜風に髪をなびかせる。
(エマ……最近すごく女らしくなった。でも、私は負けたくない)
鏡の前でリップをひと塗りし、
わざとブラウスのボタンを多めに外してみる。
胸元や首筋をなぞる指先に、自分でも妙な熱を感じる。
レイルは誰よりも真面目で、素直で、まっすぐ生きている。
だけど、ときどき――理由もなく、誰にも届かない深い影を背負っている。
その“危うさ”に、私はどうしようもなく惹かれてしまう。
大人になった今でも、
「優しさ」や「強さ」じゃ埋まらない、
“心の奥の闇”がある男にこそ、無意識に惹かれてしまう。
「理由なんていらない。
あの人の全部が欲しくなる。ただ、どうしようもなく」
鏡越しに、少しだけ強い微笑みを浮かべる。
「明日は、もう少し自分に素直でいてみようかな……」
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3. ドロック視点
夜の鍛冶場。
炉の火が揺らめき、分厚い手が古びたペンダントをそっと握る。
「昔、仲間に裏切られて……俺は誰も信用せずに生きてきた」
だが、今は――
レイルたちのまっすぐな目や、ふいに見せる深い影を見るたびに、
「もう一度だけ、信じてみようか」と思い始めている。
「若いもんの未来に賭けるのも、悪くねぇな……」
孤独な大人の静かな覚悟。
鍛冶場の灯りが、優しくその顔を照らす。
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4. エマ視点
湯上がりの部屋。
月明かりに透ける浴衣のまま、鏡の前でそっと髪を下ろす。
(レイルさんは、不器用でまっすぐで、
宿屋のカウンターでは何も言わずに食器を片付けてくれたり、
重たい荷物を代わりに持ってくれたり、
いつも私が気づく前に、小さな優しさをしてくれる)
けれど、ふとした瞬間――
背中で誰にも見せない“影”を感じてしまう。
(私なんて、何も取り柄がないし、
あの人の隣に立つ資格なんてないかもしれない)
それでも――
みんなの前で笑っていても、レイルさんは時々すごく寂しそうな顔をする。
その時だけは、私がそばにいたい。
その孤独を、少しでも和らげてあげたい。
浴衣の胸元をそっと整え、肩をすこしだけ出してみる。
(明日も、もう少しだけ自分に自信を持てたらいいな……)
窓の外、夜風にそっと小さなエールを送った。




