第15話「静かなる支え、そして試練」
森の中、風を切る音と共に影が跳ねた。
小柄なネズミ型のモンスター――〈群跳鼠〉。
素早さと集団行動を武器に、複数で襲いかかる厄介な魔物だ。
「っ、三時方向! ミル!」
「任せて、飛びつき型はあたしの担当!」
ミルの鉤爪が唸りを上げ、跳ねてきた一体の胴を裂く。
この装備は、以前レイルが集めた素材で鍛冶屋ドロックに依頼して作らせたもの。
ミルの軽量な身体と相性が良く、今回の任務でも威力を発揮していた。
一方で、モモンは敵の動きを察知して先回りし、粘性液で足止めを行う。
「ぷしゅーっ」と可愛らしい音に反して、スライムとは思えないほどの的確な働きだった。
レイルは自ら前線に立たず、仲魔二体を駆使して群れを分断し、じわじわと殲滅。
その戦法は、まるで職人のように洗練されてきていた。
──だが。
「おい、そっちは片付いたぞ。こっちもちゃんとやってるかぁ?」
ベルトンの声が、木の間から届いた。
隣村のCランク冒険者崩れ――今はDランクに落ち、村の任務を中心に受けているが、相変わらず高圧的だ。
「ああ、終わった」
「ふん。こっちは三匹だったがな、お前の方は……なんだ、スライム頼りか?」
「……そうだよ」
ベルトンは鼻で笑う。
レイルはそれを無視し、倒した跳鼠の素材をすぐに袋へ詰め込む。皮、爪、そして尻尾。
どれも鍛冶屋が地味に買い取ってくれる、貴重な収入源だ。
村へ戻る道中、レイルは小さく息を吐いた。
手や腕には擦過傷が残り、ミルとモモンもかなり消耗している。
「お兄、大丈夫?」
「平気だ。……ミルは?」
「平気。あ、でも鉤爪、少し刃が欠けたかも……」
「そっか、ドロックのところで見てもらおうな」
ミルがこくりと頷いた。
──その夜。
ギルドの報告所では、すでにベルトンが報告を済ませていた。
「はい、群跳鼠の討伐。自分の指揮で完了しました」
「レイルさんも同行されてたと聞いてますが……?」
受付にいたのはカティア。
落ち着いた目をしているが、言葉の端々には探りを感じる。
「……あいつは、サポートに回ってただけだよ。ま、楽だったけどな?」
レイルが受付に着いた頃には、もう報告書はカティアの手に渡っていた。
彼女はちらと視線を向けるが、何も言わずに小さく頷くだけだった。
ギルドを出て宿に戻ると、柔らかな灯りが迎えてくれる。
カウンターの奥に、エマが立っていた。
「あっ……おかえり、レイル」
「ただいま」
「……無茶、しなかった?」
レイルは苦笑しつつ、手に巻いた包帯をちらと見せた。
「ああ、それ。実は、昨日こっそり入れといたの。あんた、すぐ無理するから」
「……ありがとう」
「……それと、今夜の布団は、わたしが敷いといたから。ちゃんと、あったかい場所にね」
「……そうか」
そう、誰も見ていなくても――
エマだけは、黙って自分を支えてくれている。
レイルは食堂の片隅で、冷めたパンをちぎりながら思った。
“俺は、きっと独りじゃない。……ミルも、モモンも、エマも”
だからまだ――耐えられる。
だが、翌日のギルド掲示板。
報酬明細には「400ルム」とだけ記されていた。
しかも、討伐数7体中――
“ベルトン5体、レイル2体”という内容で記録されていた。
実際には、レイルと仲魔たちが5体を倒し、ベルトンが倒したのは2体。
状況証拠だけで、まるごと逆転されていた。
「……これ、完全に書き換えられてるよね?」
ミルが呟き、モモンも「ぷしゅ……」と低く震える。
「……そうだな。でも、証拠がない」
無言でレイルは掲示板を見つめたまま、拳を握る。
“働いた分、評価されるとは限らない”
それが、「不遇職」であるテイマーの日常だ。
ミルが壁際でつぶやく。
「……お兄、これ、前にもあったよね。“あの時”と同じ匂いがする」
「……でも、あの時とは違う。俺は、もう一人じゃないから」
静かに握った拳が、小さく震えていた。
レイルの財布事情(第15話時点)
•前回所持金:1400ルム
•任務報酬:+400ルム(実際は700ルム相当の成果 → 300ルム横取り)
•支出:
•傷薬補充:−80ルム
•宿代+食費:−50ルム
▶ 現在所持金:1270ルム
(※本来得られるはずだった+700ルムとの差額:−300ルム)




