第11話 「潜む気配と、動きすぎる影」
「依頼、出てますよ。……レイルさん、単独指定で」
朝のギルド支部。カティアがやや慎重な表情で、レイルにそう告げた。
「内容は?」
「郊外の林で、数日間モンスター反応があるらしいんですが……どうも動きが不自然で、原因の特定ができないんです」
掲示板に貼られた依頼書には、こう記されていた。
【依頼名】林域にて、不可解な動的魔素反応の調査
【報酬】基本報酬150ルム+成果報酬
【備考】テイマー等、索敵職歓迎
「テイマーが、索敵……?」
「ええ。ギルド上層部の一部で、レイルさんの観察力や仲魔との連携が話題になっていて。“特殊な使い方ができるかも”って」
(なるほど……あのときの報告が、誰かに届いたか)
ふと、先日の報告書を思い出す。ベルトンが先に提出した虚偽の内容。
だが、自分の真摯な報告が“何か”を揺らしはじめている。
「……ベルトンさん、また“裏”で何か言ってるみたいです。“テイマーなんかに調査なんて無理だ”とか、あちこちで」
「……分かってる。俺は、やることをやるだけだよ」
⸻
◆ 郊外・静かな林地
「この辺、何か……空気が濃い」
ミルが周囲を見渡しながら言った。
「魔素の密度が上がってるな。……モモン、スキャン開始」
《むん!》
モモンが身体をぶるんと振るわせ、半透明の膜のようなものを周囲に広げた。
「……それ、何?」
「《微細波探知》って呼んでる。
モモンの感覚で、空間に漂う“魔素の波”を読み取ってるんだ」
「魔素の……波?」
「生き物が動くと、微細な魔素の流れが発生する。それを感じ取って、位置を特定する」
モモンの体がさらに震えた。
すると、不意に耳の奥に届くような、震える声が響いた。
《……こっち、いる。でも……揺れてる……消えた……また出た……跳んでる?》
「跳ねるような移動……? おかしいな。普通の獣じゃないのか」
⸻
◆ 不可解な獣影と戦闘
藪を抜けた先――そこにいたのは、狼のようなシルエット。
だがその身体は黒ずみ、目の光が濁り、皮膚の一部が隆起していた。
「――魔獣化、してる……」
「まじで……? 本当にいるんだ、これ」
魔獣化。
それは、この世界における“禁忌の変異”のひとつ。
過去、魔素の暴走により生まれた“黒き星の災厄”。
それは古文書にのみ記される、大昔の大崩壊の記録だ。
そしてその影響は今も、時折こうして現れる。
強すぎる魔素の残滓を浴びた野生動物は、凶暴化し、魔物と化す。
それが、魔獣化――通常の魔物とは異なる、理性のない殺戮者。
「くるよっ!」
咆哮とともに、魔獣が跳ねた。
レイルが即座に回避を指示する。
「ミル、側面から! モモン、正面に跳べ!」
ミルの牙が喉元に食い込むが、相手は倒れず激しく暴れる。
その巨体が地面を抉り、木々をなぎ倒す。
(やばい、こいつ――普通の個体じゃない)
そのとき、モモンが自らの体をぶるんと二分しようとした。
――だが、完全には割れきれず、再びひとつにまとまる。
《……だめ、まだ、分かれない》
「……進化の兆し、か」
(こいつ……あのときよりも、また一歩近づいてる)
最終的に、ミルが咆哮とともに跳びかかり、喉に深く牙を突き立てた。
⸻
◆ ギルド支部・報告と波紋
「これが、討伐個体です。魔獣化していた可能性が高い」
レイルが提出した牙と黒ずんだ毛皮に、カティアは息をのんだ。
「この色……記録にある、古い災厄の影響を受けた獣……」
周囲の職員がざわつく。
「テイマーが、あれを単独で?」
「なんか最近、依頼もらってないか?」
「でも、前の報告はベルトンと食い違って……」
「どっちが本当だったんだろ」
少しずつ、“レイルへの疑念”と“信頼”がせめぎ合っていた。
「……カティアさん、この個体の記録、残してもらえますか?」
「もちろん。あとで文献も確認しておきます。……お疲れさまでした、レイルさん」
レイルの財布事情(第11話終了時点)
前回残高 1058ルム
収入:依頼報酬+素材売却
+250ルム
支出:食費・薬草・包帯代
-80ルム
残高合計
1228ルム




