第10話「真実と嘘、そのはざまで」
ギルド支部に戻ったレイルは、応急処置を終えた肩を少し引きずりながら、静かに受付へと向かった。
カティアはすでにそこにいた。彼女は、レイルの姿を見つけると、ゆるく微笑んだが――その目には迷いが浮かんでいた。
「おかえりなさい。……その、お怪我、大丈夫ですか?」
「少し切られただけです。薬草と包帯で十分でした」
レイルが淡々と答えると、カティアは視線をわずかに落とした。
「……先に、ベルトンさんが報告を済ませています。あなたにも報告書を書いてもらいますが……少し、お話をうかがっても?」
レイルはうなずき、窓際の静かなスペースへと移動した。
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◆ 真実の重さ
「……藪の奥に反応があって、モモンに確認させたところ、跳牙猿が飛び出してきました。D-ランクに分類される個体だと思います」
「はい、記録によれば単体でも十分危険な個体です」
カティアは相槌を打ちながら、目元だけは微かに緊張していた。
「その時、ベルトンさんは?」
「……後方で、剣も抜かずに立っていました」
一瞬、カティアのペンが止まる。
「戦闘には……?」
「参加していません。こちらに攻撃が来た時点で、少し後退していたと思います」
(事実だけを淡々と述べる――それが、今の自分にできることだ)
レイルはそう自分に言い聞かせた。
事を荒立てたくないわけではない。
ただ、無用に騒げば、テイマーという職がさらに軽んじられるのが分かっていた。
「……ありがとうございます。私の方でも、報告を調整しておきます」
その言葉は、ギルド職員としては本来口にするべきではない“含み”を持っていた。
だが、レイルはただ静かに、深く頭を下げた。
「……助かります」
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◆ ささやかな評価
夕方。素材の換金で鍛冶屋ドロックを訪れた。
「おう、レイル。……あー、また肩か。お前、ケガばっかだな」
「跳牙猿でした。傷物になった皮は買い取り落ちると思いますが……」
「バカ言え。命張って持ち帰った素材だ。キズがあろうが価値はある」
ごつい手で素材を確認しながら、ドロックはニヤリと笑った。
「跳牙猿ってのは、単体でもD-相当だ。よく一人でやったな」
「ミルと、モモンが頑張ってくれました」
「……あのスライム、ちょっと気になるな。見た目以上のもんがある」
そう言って、ドロックは素材に対して“通常よりやや高め”の買取価格を提示した。
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◆ ギルドの風向き
夜。酒場の隅、ギルド職員の小部屋では、ささやかな話題が上がっていた。
「レイルのやつ、今回の跳牙猿の件……どうも話が食い違ってるらしいな」
「ベルトンの言い分じゃ、テイマーが自滅しただけって話だが……」
「でも受付のカティアさん、妙に静かだったぞ? それに素材、上物だったって話だし」
誰が味方で、誰が敵か。
少しずつ、その空気が揺らぎ始めていた。
レイルの財布事情(第10話終了時点)
前回残高
878ルム
収入:素材売却(跳牙猿の皮・牙など)
+240ルム
支出:治療追加費・晩食
-60ルム
残高合計
1058ルム




