第七十五章 次元の彼方、どの星にも影響が出ない果てない場所
エリスとフィリップしか存在しない空間。
光も闇も無い音も無い風も無い、全く何にも無い無限に広がるだけの空間。存在しているのはエリスと宇宙の消滅神・フィリップのみ。
ここが次元の彼方、どの星にも影響が出ない果てない場所。
「覚えているかい、フィリップ。初めて出会った時のことを」
あくまでフィリップに話しかける。
「君はいきなり僕に絡んできたよね。その後も会う度に絡まれた。模擬戦の時なんて命さえも危なかったよ。正直、君のことは好きにはなれないし、悪い思いでしかない。でもね、悪い思い出も思い出には変わらないんだ」
聞いているのか聞いていないのか理解できているのか理解できていないのか、フィリップは何も答えない。
「さぁ、決着付けようフィリップ」
地面に立っているのか空に浮かんでいるのかも解らない。それでも、自分のやるべきこと、居場所は見失っていない。
宇宙の消滅神・フィリップの放つ闇のオーラが濃くなり、体に纏わりつきながら覆っていき、その姿を変える。
伝説に出てくるような巨大なドラゴンをベースに、エルフに獣に鳥に魚に昆虫の要素をごちゃ混ぜにした姿に変貌した。
「本当にRPGのラスボスに相応しい姿になったね」
光のオーラを纏うエリス。巨大化はせず、光り輝く鎧のようなに光のオーラを纏い、背には何枚もの翼にも後光のようにも見える光が出現。見るからに神々しい姿。
エリスには自覚がないが、これはこれでRPGに出てくる女神のようである。
神々しくも美しい女神のエリスに、禍々しくグロテスクな悪魔の姿をしたフィリップ。
傍から見れば神と悪魔の対峙、実際は宇宙の女神と宇宙の消滅神の睨み合い。
圧倒的に宇宙の消滅神・フィリップが大きいが、エリスの放つ覇気は負けてはおらず。
拳を握りしめる宇宙の消滅神・フィリップ。振り上げると、エリス目掛けて一気に振り下ろされる一撃。
ただの一撃ではない、幾つもの星を粉々に砕いてしまう破壊力を持つ星砕きの槌。
エリスと宇宙の消滅神・フィリップの距離は開いているが、衝撃波の槌は届いた。。
星砕きの槌を素手で受け止める。幾つもの星を粉々に破壊してしまう衝撃波の槌を人間サイズ、それも小柄な体型の手で受け止めて見せた。
エリスが手を閉じる。星砕きの槌に比べて小さな手なのに握り潰され、星砕きの槌は跡形もなく消えた。
宇宙の消滅神・フィリップが放ったのは相手を空間ごと切り裂いてしまう空間裂き。
エリスが柏手を打った。途端、迫ってきていた空間裂きが粉々に破壊された。
宇宙の消滅神・フィリップが咆哮し、次元の彼方、どの星にも影響が出ない果てない場所を振動させるほどの波を発生させた。
これ程の振動を前にしてもエリスはびくともしない。
宇宙の消滅神・フィリップが腕を上げると、無数の対エイリアン用弾丸が発生。正真正銘の戦士たちが普段使っている対エイリアン用弾丸。
どこからか瞬間移動させたのではない、フィリップの記憶から対エイリアン用弾丸を創り出したのだ。
さらに闇のオーラで包み込み破壊力を倍増させ、一気に撃ち出す。
向かってくる無数の闇の弾丸へ、エリスは指を鳴らす。
たちまち、闇の弾丸は花びらに変化、舞い散った。
宇宙の消滅神・フィリップの周囲の気温が一気に下降、絶対温度1ゲルビンとなる。
ケンタウルス座の方向にあるブーメラン星雲は絶対温度1ゲルビンの気温、摂氏約-270℃。
エリスの周囲の気温が一気に上昇、摂氏約21万℃となる。
WR 102、ウォルフ・ライエ星の気温は摂氏約21万℃。
次元の彼方、どの星にも影響が出ない果てない場所は超高温と超低温で二分される。
もし、地上で戦っていたら全ての生きとし生けるものが存在は消え失せていただろう。
この場所を決戦の地に選んだことは正解。
恐るべきことはこんな状況下でもエリスと宇宙の消滅神・フィリップが平気で存在出来ていると言うこと。
軍施設で御子から、次元の彼方、どの星にも影響が出ない果てない場所の話を聞かされた時。エリスは即決でやばい状況になったら、ここに送られることことを了承した。
何も巻き込みたくない、誰一人として死なせたりしない。
ここなら、全力で戦える。
どれだけの時間が経っても二分された超高温と超低温の拮抗か崩れない。
どれ程の時間が経ったのか二分された超高温と超低温が同時に消え、真っすぐ飛んできた宇宙の消滅神・フィリップが大きな口を開け、闇のオーラを硬質化して造られた大牙でエリスを噛み砕こうとする。
このままでは埒が明かない、直接攻撃に切り替えたのだ。
下降するエリス、空を噛み砕く宇宙の消滅神・フィリップの顎。
下降したエリスは高速で前進、目の前にあった文字通りの黒い腹に掌打を叩き込む。
加速と掌打の直撃、果ての無い世界、何処までも吹っ飛んで行く、宇宙の消滅神・フィリップは闇のオーラを凝縮して吐いたブレスで勢いを相殺、急加速で戻ってくると同時に体当たり。
急加速で体当たりを仕掛けてくる宇宙の消滅神・フィリップの脳天目掛けて踵落とし。前世で身に着けた技を出す。
直撃、今度は下方へどこまでも落ちていく、もしくは飛んで行く。
今度も闇のブレスを吐いて勢いを相殺。
エリスが下降しながら、勢いを乗せた鉄拳を放つ。
宇宙の消滅神・フィリップは巨拳を打ち込んできた。
鉄拳と巨拳が衝突、発生した衝撃波で光も闇も無い無い音も無い風も無い、全く何にも無い無限に広がる空間が震えた。
すぐに距離を取るエリス。
普通なら、両者の体が破壊されてしまう戦闘。
「しびれたじゃないか」
手首を振りながら言う。ダメージは無いが手がしびれたような感覚はした。
サイズに差があれど、エリスと宇宙の消滅神・フィリップのパワーは同等。受けた感覚は同じなのに、見れば宇宙の消滅神・フィリップは平然としている。
人としての意思と感情が残っているか残っていないかの差が出た。
今は小さな影響でも、この差は戦いに大きな影響を与えることになる。
例えば時間間隔。エリスには時が経つことを自覚しているが宇宙の消滅神・フィリップは自覚していない。
時間間隔だけでも精神に影響を与える。喜怒哀楽など、他にも影響を与えるものは沢山ある。
「戦いが長引けば僕の方が不利になるか……」
このまま戦い続けていれば勝ち目はどんどん薄くなっていき、そして無くなる。
ならば“アレ”をやらなくてはならない。
「出来れば“アレ”を使わずに倒したかったんだけど、そんな甘い相手ではなかったか……」
御子から教えられた“アレ”はしくじれば、エリスどころか宇宙が消滅する。危険な賭けであり、最後の手段。
ここなら、誰も巻き込まずに思いっきり戦える。




