第七十四章 本体
宇宙の女神VS宇宙の消滅神。
黒い霧になって消えて行くエイリアン・フィリップたち。
「こいつら、全部分裂体だよな」
ケイシーは巨人のままで警戒を解除していない。多少、てこずりはしたが、宇宙を滅ぼすような脅威は感じなかった。
「ええ、本体は倒せていません」
ああ、やっぱりなエックハルトの答え。やはり宇宙の消滅神・フィリップはまだ現れてはいない。
誰にもちょつぴり期待はあったけど。
集まった戦士全員が周囲を探る。結界は解かれていない、宇宙の消滅神・フィリップはキスブキノスカのどこかにいる。
「完全に気配を断っています」
ボドワンはどこから来るか解らない相手に、すぐに魔法を打ち込む体制を整えている。
「出てこい、フィリップ、僕はここにいるぞ!」
キスブキノスカに全域に響き渡る声で言った。でも、うるさくはない。
すると、その叫びに答えるかのように路地の向こうから誰かが近づいてきた。暗闇でよく見えないがシルエットはフィリップのもの。
「分裂体が残っていたのか」
エルフの戦士が対エイリアン用ライフルを構える。一体でも放っておくとまたどんどんと増えてしまう。
街灯にフィリップの顔が照らされた。顔面は闇のオーラに覆われている。
「……」
エックハルトはよく見る。闇のオーラの合間に見える顔面は焼け爛れていた。見覚えがある、ローズモンドの炎の拳を殴られた跡だ。
「あれが本物のフィリップ、宇宙の消滅神です」
エイリアンの再生力は高い、イヴィルなら尚更、さらに宇宙の消滅神なら尚更の尚更。
しかし、宇宙の消滅神・フィリップは顔の傷は癒えてはいない。教師の思いを込めた拳は宇宙の消滅神の再生力を上回ったのだ、理屈抜きで。
集まった各星の戦士たちが対エイリアン用ライフルを一斉射撃。
どれほどの弾丸、レーザー、散弾を食らってもびくともしない。
闇のオーラを硬質化させ何十本の槍状を造り出し、一気に放とうとした。
前に出るエリス。何十本の槍を一瞬にして焼き尽くし、消し去る。
「僕が相手だフィリップ」
敢えて宇宙の消滅神・フィリップではなく、フィリップと呼ぶ。
睨み合うエリスと宇宙の消滅神・フィリップ。
宇宙の女神と宇宙の消滅神、両者が放つ並々ならぬ覇気。誰もが邪魔にならないように後退した、
イデア、ジャック、エマ、ダイアナとケイシーのスペリオルまでもスペリオル・モードを解除して後ろに下がった。
スペリオル・モードを解除したケイシーは体は元のサイズに。
あそこには誰も立ち入れない、エリスと消滅神・フィリップ以外に。
先に仕掛けたのは宇宙の消滅神・フィリップ。闇のオーラが渦を巻き、幾つもの竜巻となった。
闇の竜巻に触れた立て看板がバラバラに切り裂かれる。あらゆるものを切り裂く真空刃の竜巻。
幾つも闇の竜巻を一気に放つ。
エリスは時速2000㎞の暴風を生み出し、宇宙の消滅神・フィリップと幾つも闇の竜巻だけを狙って吹っ飛ばす。
海王星では時速2000㎞の音速を越える暴風が吹き荒れている。それを再現してみせた、周囲に被害が出ないようにして。
暴風が消えた後、幾つも闇の竜巻によって周囲にあった建物は切り裂かれ、中には倒壊した建物も。
幾つも闇の竜巻は吹っ飛ばせたが、宇宙の消滅神・フィリップはふっ飛ばせなかった。
「やはり、こんなものでは倒せないか」
最初から、この攻撃で倒せるとは思ってはいない、いわば小手調べ。
闇のオーラがクラゲの触手のようにぬらぬらと伸びて広がっていく。闇のオーラの触手に触れた雑草が枯れた。
触れた生物全てを枯れさせる闇のオーラの触手がエリスのみならず、全宇宙から集まってくれた戦士全員を包み込もうとした。
エリスが掌の上に生み出したマイクロ・ブラックホールが全ての闇のオーラの触手を吸い込み、消し去る。
マイクロ・ブラックホールを宇宙の消滅神・フィリップ目掛けて投げつける。
投げつけられたマイクロ・ブラックホールを闇のオーラで包み込んで握り潰す。
宇宙の消滅神・フィリップが闇のオーラを纏ったパンチを放ち、エリスは光のオーラを纏ったパンチを叩きつける。
衝撃で二人の近くにあった建物が消し飛ぶ。
宇宙の消滅神・フィリップは口から、いかにもやばそうな煙を吐き出し、エリスが息で吹き飛ばす。
皆が気付いた時にはエリスと宇宙の消滅神・フィリップが距離を詰め、手と手を合わせて力比べを始めていた。
光のオーラと闇のオーラが縺れ合い渦巻き、強力な圧力が周囲に放たれる。
二人の立つ石畳が抉れ、陥没していく。
振動する大地、集まった戦士たちも立っていられないレベル。
激しい揺れにキスブキノスカにある建物が崩れ始め、石畳が裂ける。
振動に続いて暴風が吹き荒れる。戦士たちは何とか耐えるが、いつ吹き飛ばされてもおかしくない。
これが宇宙の女神と宇宙の消滅神の戦い。このままではキスブキノスカどころか、ラースが危ない。
エリスは決意した。
「御子さん、お願いします」
静かに頷く御子。
「ウル・ソーラ・ムン」
呪文を唱えた瞬間、エリスと宇宙の消滅神・フィリップが消えた。激しい揺れも暴風も収まる。
ローズモンドは辺りを見回し、エリスの姿を探したがどこにも見当たらない。ローズモンドだけではない、戦士たち全員が探したがエリスの姿は見当たらない。
「エリスはどこに行ったんですか!」
御子に詰め寄るダイアナ。
「宇宙の消滅神と共に次元の彼方に送りました。どの星にも影響が出ない果てない場所へ」
一瞬にしてダイアナの頭に血が上った。
パーン、音がした人間サイズに戻ったケイシーが御子を殴った。倒れる御子。
ダイアナが殴る前に殴ったのだ。
タイタンの力は使っていないので大したケガはなし。激昂してもギリギリで自分を抑えることが出来た。
ダイアナは思った、自分だったら抑えることが出来たのだろうかと。
各星の戦士たちは慌てたが、神官たちは慌てなかった。前以て殴られることは聞かされていたから。
「エリスも了承しているんですね」
アランが手を差し出し、倒れた御子を起こす。
御子は頷かなかったが、ダイアナにも解った。幼い頃から遊び、エリスのことを愛しているのだから。
エリスなら、ラースを仲間たちを危険にさらすぐらいならば次元の彼方に行くことを選ぶ。
「エリスくんには、もう会えないんですか……」
恐る恐るジョナサンが聞いた。
御子の口が開く前に、
「帰ってくるよ、こんなことぐらいで消えて皆を悲しませるような子じゃない、エリスは。父親だからこそ解る」
気休めではない、その言葉には強い自信が込められていた、ここにいる全員に信じ込ませるほどの。
転移先は……。




