第六十六章 教師たちの飲み会の帰りで
今回はラースの話になります。
教師たちの飲み会の帰り、途中まで帰り道が一緒のエックハルトとボドワンとローズモンドが歩いていた。
ドワーフのエックハルトはお酒に強く、エルフのボドワンとローズモンドもお酒に強い。
「エリスくんたち、活躍していますな」
「ええ、学生の頃から良い物を持っておりました」
校長と教頭が共に高評価。エリスとダイアナとケイシーは三体のイヴィルを倒している、それも死者ゼロで。エイリアンとの戦いにおいても死者を出さずに勝つのは困難なことなのに。
スペリオルの力を持っていたとしても、すごいことには変わらない。
「エリスくんたちの才能を磨き上げたローズモンド先生のお陰ですね。どんなに優れた才能でも磨かなければ輝くことはありません」
「私は教師としてやるべきことをやっただけです」
ローズモンドもエリスたちの活躍を聞いて嬉しく思っている。正し、言っていることは本音。彼女は生徒たちに対し、教師としてやるべきことはやってだけだと。
「「「!」」」
エックハルトとボドワンとローズモンドは同時に足を止めた。道の先に現れた人影。三人とも人影には見覚えがある、よく知っている人物。
「フィリップ君」
エックハルトが名前を呼んでも返事がない。
ボドワンが動いた。
「イラトリ・ウ・ウュルス」
伸ばした指先から放たれる水流の槍。
フィリップは顔を上げた。暗く淀んだ眼、以前のような傲慢さは無く、あるのは闇。
身に纏う闇のオーラが水流の槍に絡みつき、握り潰す。
フィリップが手を伸ばす、放たれる闇の槍。狙われたのはドワーフのエックハルト。
「モル・カマデ・ベ」
静かに呪文を唱えるエックハルト。目の前に現れた魔法の壁が闇の槍を弾き砕く。
「いい加減にしろ、フィリップ!」
怒鳴りつけるローズモンド。教師として正気に戻ってほしいとの思いを込めて。
「無駄ですよ、ローズモンド先生。彼はもう人ではないのです」
二発目の水流の槍を放ちながら言う。
フィリップはもうイヴィルなのだ。各星で“置き土産”を生み出し被害をもたらしている手配犯。
「カー・ナンイグ・レ」
突き出した拳から炎の鉄拳が飛び出し、フィリップの顔面に直撃。
焼け爛れて潰れた顔面を闇のオーラが覆い尽くす。
倒れもしないし、ぐらつくこともしない。
「びくともしないのか……」
炎の鉄拳は直撃したのに、大したダメージを与えられていない様子。
軍学校の教師三人とはいえ、対エイリアン武器を持っていない今の状況ではイヴィル相手では分が悪すぎる。
フィリップの纏う闇のオーラが蠢き出す、攻撃してくるつもりだ。逃げ出すにしても逃げ切ることは不可能。勝てるどころか生き延びるのも難しいだろう。
「ボドワン先生とローズモンド先生は私の後ろへ」
いつまで耐えれるかは解らないが無いよりはまし、エックハルトがありったけの魔力を込めた魔法の壁を作ろうとした矢先、
「ミネカト・ラオ・ウ・イノヤキハ」
聞こえてきた呪文。大きくなくても周囲に聞こえる声。
幾重のも光の帯がフィリップを包み込み、拘束する。
苦しみ出すフィリップ。幾重のも光の帯に締めあげられただけではない、光の帯そのものがダメージを与えているのだ。
「私が開発した闇の精霊を浄化する魔法です」
いつからそこにいたのか御子が立っていた。闇の精霊を浄化する魔法。対闇の精霊には効果てきめん。
神官と対エイリアンライフルを装備した戦士がフィリップを取り囲む。
神官が呪文を唱える、戦士が対エイリアンライフルを一斉に撃とうとした。
突然、フィリップが消えた。フィリップを拘束していた幾重のも光の帯が霧散する。
「逃げられましたか、即興で開発した分、威力が弱かったようですね」
悔しいのか悔しくないのか、自分の感情を読ませない声。
「「「助かりました」」」
エックハルトに続き、ボドワンとローズモンドがお礼を述べる。
「あれが、フィ――イヴィルなのですね」
「……」
エックハルトに御子は何も答えんかったがフィリップが人でなくなっているのは明らか。
報告は受けていたが、実際に見るのは初めて。他のイヴィルと違って人の形をとどめているが。
「“奴”を追います、ラースに居るうちに」
感情の起伏を感じさせない声。
「そうですか……」
エックハルトの沈んだ声。エックハルトだけではない、ボドワンもローズモンドと同じく、果っての生徒の変貌が辛いのだ。
「魂は救うつもりです」
あまり感情を感じさせない御子に、僅かながら優しさが見えた。
フィリップがラースに現れました。




