表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/9

第2話 神の目に映る朝

あ、主人公は女性です。

あと神官になるのに性別は関係なく、この神殿でも男女半々ぐらいです。

 神というものは、すべてを見ている。見ていなければならない。

 それゆえ私も神である以上、すべてを見なくてはならないのだ。


 人々が眠りについた夜も、朝日が昇る瞬間も、神殿で交わされる小さな会話も。

 私は、この神殿に祀られる神として、長い年月をここで過ごしてきた。


 人々は私に願いを捧げる。


 豊かな実りを。

 病の癒しを。

 家族の幸せを。


 その願いを聞き届け、時には導きを与えることが私の役目だ。

 だからこそ、私は公平でなければならない。

 誰か一人だけを特別扱いすることなど許されることではない。


 ……本来ならば。


「今日も、お供えしますね」


 そう、彼女のお供えの存在を知るまでは。


 朝の静かな神殿に、彼女の足音が響く。

 候補者の中でも特別優秀というわけではない。

 知識なら他の神官の方が多く、儀式の技術ならより熟練した者がいる。

 けれど、彼女には他の者にはないものがあった。


 心から神を思う気持ちだ。

 最近は神のことを空想上の存在と考える神官も増えてきているため、彼女のことはとても目立つのだ。


 今日も彼女は、小さな皿を持って私の前へやって来る。

 そこに乗せられているのは、手作りの菓子である。

 形は少し不揃い。

 けれど、丁寧に作られていることは一目で分かる。


「昨日より少し甘さを変えてみました。気に入っていただけたら嬉しいです」


 そんなことを言いながら、彼女は静かに頭を下げる。


 私は神だ。

 人の感情に流されてはいけない。

 そう分かっている。

 分かっているのだが。


 ……この菓子は、やはり美味しい。


 毎朝変わる味。

 少し焦げた日もあれば、甘さが強すぎる日もある。

 それでも、そこには必ず「喜んでもらいたい」という想いが込められていた。


 だから私は、いつしか決めてしまっていた。

 次の神官長は、この者にする、と。


 だが、それを口にすることはできない。

 神が一人の人間を選んだと知られれば、神殿の秩序は崩れてしまう。

 私はただ、見守ることしかできない。


 ……表向きは。


「また始まったか」


 彼女が神棚から離れた後、私は神殿全体へ意識を向ける。

 そこには、今日も醜い争いがあった。


 神官たちは次期神官長の座を得るため、互いの弱みを探し、失敗を願い、密かな妨害を仕掛けている。

 そして今日は、彼女もそんな妨害の対象になってしまっていた。


 いつも厨房の片づけを終え、祈祷場へ向かう道の途中にある古井戸。

 近くを通ると足元が崩れ、そのまま中に落ちてしまうように細工がされていた。


 普通ならば、気づくことはできない。

 だが私は気づいてしまった。そう気づいてしまったのだ。


「……まったく」


 ため息をつく。

 本来ならば、他の神官たちと同じように災難に遭わせるべきなのだろう。

 公平とはそういうものだ。


 しかし。


 彼女は何も知らない。

 ただ今日も昨日も、いつも私へ菓子を供えに来てくれるだけだ。

 そんな者を傷つけることを、私は見過ごせなかった。

 だから、ほんの少しだけ手を加える。


 祈祷場へ向かう前に、彼女がいつも行う厨房の片付け。

 その時間を、ほんの少しだけ長引かせる。

 洗った皿が一枚だけ棚の奥へ転がる。

 布巾がいつもの場所から少しだけずれる。

 彼女はそれを見つけ、丁寧に片付ける。


「危なかった。忘れるところだった」


 そう笑う。


 その間に、本来彼女が井戸の前を通る時間は過ぎていく。

 彼女は何も知らず、いつもより片付けるのが遅くなったため少し近道をして祈祷場へ向かった。


 私は静かに息を吐く。

 危うく、また手を出してしまうところだった。

 神である私が、一人の人間を気にかけすぎている。


 それはきっと、正しいことではない。


 けれど。


「今日の菓子も……悪くなかった」


 誰にも聞こえない声で呟く。


 彼女が捧げる小さな贈り物は、長い年月を無為に生きてきた私にとって、いつしか何より楽しみなものになっていた。

 だから今日も私は、誰にも知られぬよう彼女を守る。


 神としてではなく。


 ただ一人の、彼女を見守る存在として。

 これ以上彼女に危害が加えられないことを願いながらも。

井戸には1話でびしょびしょだった神官が落ちました

「なんで、なんでなんだぁ」

だそうです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ