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第5章 移動
その日から、森の気配が変わった。何もないはずの場所に、確かに"何かがいる"という確信だけが残る。
ヤンマの賑やかな笑い声は消え、ムレは重苦しい沈黙に支配された。
ビジルはその夜、火の前に長く座っていた。やがて、ゆっくりと言った。
「ここは……長くは持たない」
ヤンバが即座に反応する。
「どこへ行く」
だがビジルは答えなかった。代わりに、火を見たまま続ける。
「正しい場所など、もうないのかもしれん。我々は、混ざるか、消えるか、それだけだ」
それは決定ではなかった。しかし……
その夜からムレは動き始めた。
朝が来る前に、住処としていた岩陰も、毎夜囲んだ焚き火の跡も、すべてが過去のものとなった。




