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第4章 境界の露呈
ガビはピッピをムレに連れて来た。その瞬間、空気が変わった。
子どもたちが最初に気づき、大人たちの後ろに隠れた。女たちが身を寄せ合う。男たちは武器には手を伸ばさなかったが、毛皮の下の筋肉を強張らせ、低い唸り声を上げた。
ビジルが進み出た。ピッピを見て、一歩止まる。
「これは……ホーホーの娘だ」
静かな声だったが、火のように広がった。
ピッピは周囲を見た。何も言わない。ただ、一人一人の顔を、ゆっくりと確認するように動いた。
そして、ヤンマが上げた小さな悲鳴に驚くと、声もなく走り去った。
ガビは追おうとした。
「行くな」
ヤンバがガビの腕を掴んだ。これまでとは違う力だった。指が肉にめり込む。
「放してくれ」
「行くな」
ヤンバの体は、怒りではなく、深い絶望で震えていた。その震えは、繋いだガビの腕にまで伝わってきた。
ガビは父の顔を見た。ヤンバは視線を逸らした。
「……昔も、こういうことがあったのか」
ヤンバは答えなかった。ただ、その手がガビの腕をゆっくりと離した。
ガビは森の方を見た。ピッピの姿はもうない。だが、彼女が走り去った方向の草が、かすかに揺れていた。




