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第2章 キイチゴの出会い
森は、音を忘れていた。
その静けさの中に、少女はいた。まるで最初からそこにいたかのように。
ガビを見ると、まばたきをしないまま視線を固定した。逃げるでもなく、近づくでもない。ただ、見ている。
やがて少女は、ゆっくりと歩み寄り、果実を差し出した。手のひらの上のキイチゴは、大きさも色も、不自然なほど綺麗に揃っていた。
ガビはそれを受け取った。指先に冷たさが遅れて広がる。
少女は、少し遅れて微笑んだ。
その表情が「笑い」だと理解するまでに、時間が必要だった。自分たちの笑いとは何かが違う。唇の動き方、目元の緩み方――どれも似ているのに、どこかが決定的に遠かった。
翌日、ガビは再び少女と会った。今度は自分からキイチゴを差し出す。
少女はそれを見て、しばらく動かなかった。そして、受け取ろうとして、わずかに手元を狂わせた。
「あっ……」
短い声が漏れた。果実が地面に落ちる。一瞬の沈黙。
少女はそれを拾い、少しだけ慌てたような仕草で口元に運んだ。
その"ずれ"に、ガビはなぜか目を離せなかった。
少女はまた微笑んだ。今度はガビも、すぐに笑い返した。




