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ー23ー 殺戮王蔡 ⑨

 


 放たれた炎の獣、凶狼猿(ガリオル)は、ユリウスの兵達を圧倒的な力で()ぎ払っていく。

 その手に持つ、炎で出来た大きな(なた)を振り回し、暴れ、数分も経たない内に10人の部下は全滅していた。


 そして、残るユリウスに凶狼猿が襲いかかる。

 一瞬にして距離を詰め、鉈を振りかぶり体重をかけるように振り下ろす。


 ユリウスはギリギリでかわすことに成功し、凶狼猿の鉈を持つ手を魔法で攻撃する。ボンッ!!という破裂音。

 その魔法の威力に炎で形作られた手は腕ごとちぎれ、凶狼猿は無力化された。


 その時、凶狼猿の炎の身体の中からアリスが飛び出しユリウスへと斬りかかった。

 凶狼猿の身体の中アリスが潜んでいるなど、思わないユリウスは反応が遅れる。


 それを狙っていたアリスは頭へ一撃ナイフを振り抜く。しかし、鎧に包まれているので致命傷にはなり得ない。

 が、アリスはその振り抜いた勢いで反転し、ユリウスの胸目掛け後ろ蹴りをあてる。


 流石のユリウスも、この連続攻撃とアリスのスピードにはついていけずバランスを崩した。

 アリスはその(すき)を見逃さない。

 ナイフを逆手に持ち、振り下ろすように、鎧と鎧の間。隙間に体重をかけ突き刺す。


 倒れこむユリウスに馬乗り状態になるアリスだが、すぐに後方へ飛び、距離をとる。

 そしてナイフを見ると突き刺したはずの刀身(とうしん)には血液はついていなかった。

 それどころか()()()()()()()

 黒い煙をあげて最早(もはや)ナイフは使い物にならなくなっている。


「え......?あーっ!!!やばい!!私のナイフが!!これ、ノアと選んだやつなのに!!!」


 と、アリスが泣き出しそうにナイフの持ち手を見つめる。


 ちなみに後ろではナツメの治療をミライが始めている。

 多分、大丈夫。


 そして、ナイフ、ノアに何て言おう......と、思っていると、ユリウスが起き上がり、ゆっくりと喋り出す。


「ずいぶんと......余裕そうですね。アリス。」


「それ、私の能力ですよ。貴方の攻撃は私には届かない。

 私の能力、《灰塵》が武器も魔力も何もかも、無に帰しますからね。

 それをいまの応酬(おうしゅう)で、貴方は解ったはず。」


「どうするのですか?アリス。」



 アリスはユリウスの能力を知っていた。


 ここへ来る前、ミライと合流しナツメの動きはわかっていたが、駆けつけたい気持ちを圧し殺しユリウスの情報を集めた。

 ユリウスやガロとの力の差は歴然なのはわかっている。策も何も無しに行けば死ぬだけだ。


 だからマーリンに言われた通り、勝率をあげる。敵の能力を少しでも集め、知り、勝ち筋を見いだすのだ。


 そして、マーリンの友達でもある、街の情報屋の元に(おもむ)いた。

 聞いた話しによると、ユリウスは主同様(あるじどうよう)、ユリウスは拷問が好きで有名だったらしく、度々奴隷を買い遊んでいたらしい。

 時折ブリマールの屋敷から焼け焦げ灰となりかけている死体が出ていて、ユリウスの灰塵特有の魔力が漂っていたのだ。


 その死体の情報がユリウスの能力の弱点を(あぶ)り出していた。


 そして、それはそうと情報屋は情報屋。料金がしっかり発生するのである。


「ガロとユリウスの情報は、かなりレアな情報だぜ。情報料、高いぞ~。」


 と、情報屋、ナノ・アルカナは(胸は控えめだが)大きな瞳を閉じニッコリとする。

 私は考えた。マーリンは情報料の事を何も言わなかった......と言うことはマーリン持ち?だよね?


「マーリンが払います!じゃ!」


「えっ」


 そこからトップスピードでナツメの元へ駆けつけたのだが、ナツメはミライに言っていた時間より早くアラギアナの屋敷へ襲撃をかけていたみたいで、拷問されててビビった。私のナツメをよくも......!




「ユリウス、私は君の能力では焼かれないよ。」


「へえ......。」


 突如(とつじょ)ユリウスの鎧がメキメキと音をたて割れ始める。

 その隙間からはユリウスの鮮やかな桃色の魔力が立ち上ってゆく。

 やがて、頭の鎧が外れ、素顔が(あらわ)になり、その赤い目がこちらに向けられる。


 そしてついにはガシャンと、全身の鎧が脱げた。


「アリス、私のこの能力は今まで誰にも破れた事はありません。貴方がどう戦うのか、そうですね......興味がわきました。ふふっ。」


「私は全力で貴方を灰にしましょう。」


 中から現れたのは、金髪の幼女。足首まで伸びるその美しい髪は、ユリウス特有な魔力の色と混ざりあい妖艶(ようえん)な雰囲気を(かも)し出していた。

 目尻は少し垂れていて、柔らかく優しい印象であった。


 あまりのギャップにアリスは


「......え、あ、ちょっと待って。」


 と、気持ちを切り替えるのに時間を貰う。


「鎧と本体のサイズ全然違うんだけど、どうやって入って動かしてたの?」


 と言うとユリウスはキョトンとした顔になる。


「ああ、そんな事......。魔力操作で浮いてたんですよ。

 私程の魔力量であれば常に浮遊していることも簡単に出来ます。」


「......そんな事より。

 貴方、本当に緊張感ありませんね。

 良いんですか?」


「もう、()()()()()()()()?」


 その瞬間、アリスは何かに気がつきミライに叫ぶ。


「ミライ!!ナツメを連れて逃げて!!急いでこの場を離れて!!」


 治療を中断し、急いでナツメの身体を起こす。

 まだ意識の無い姉の身体を引っ張り離れようと引きずる。


「お姉ちゃん......大丈夫です。絶対、助かりますからね。せーのっ!」

 


 そして、次第に桃色に光る雨が降りだした。

 その雨は魔力の粒で、一滴に込められた魔力は計り知れず、落ちた場所には大きな穴が空き、ブスブスと煙をあげ灰にする。


「......そうか。」


 と、ユリウスは気がつく。


「先ほど、貴方を見たとき違和感があった......。」


「この街で最初に見たときから、魔力の質が変化している。だからか......。」




 アリスはユリウスの灰塵の雨を浴びても、平然とその場に立っていた。





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