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ー22ー 殺戮王蔡 ⑧

 



 ガシャン、ガシャンと崩れる漆黒の鎧。


「こ、こんな所で......この私の能力が(やぶ)れるなんて......。」


 信じられない。アラギアナの表情に見えるのは、ガロを破壊された事での悔しさや悲しさ、怒りではなく、驚きであった。



 ガロ、アラギアナの能力《影鬼神(シャドウ・ノーム)》は、アラギアナが影を(もち)いた能力で、暗黒魔法と呼ばれる類いのものである。


 黒の鎧に依代(よりしろ)として、数万の人の魂を込めた宝石を核として作る。

 命を大量に使うことによって、禍々しくもとてつもない力を得る事ができたのだった。

 ちなみに屋敷に人が居なかったのも、全てこの核に使われたからである。ナツメがなんどか見たという使用人は、この屋敷の者ではなかった。



 ザガッ


 大剣を地面に突き刺し身体を預けるナツメ。もはや魔力の(とほ)んどを再生と血界の印(ブラッディ・ソング)に使い、消耗しきっていて身体を起こしているのもやっとであった。


 シュウウウ......とガロの鎧から影が霧散(むさん)し消え行く。

 ようやく腕についていた影が消えて、彼が消えた事を実感する。


 しかし、ナツメは安堵することはできない。何故なら魔族になってしまった今、この街の冒険者や他の聖騎士に討伐される事が確定したからだ。


 魔族は討伐対象。以前の街でもそうだったように、この街デアーユにも結界がはってあり、魔族に反応する。



 ......はあはあ。多分、俺は、聖騎士か冒険者に、殺される。


 ......この街からでることもできない。なら......



「......最期まで、あいつらの......役にたってやるか」


 ノアを助けるなら、聖騎士が邪魔だ......刺し違えてでも、あと一人......。



「おや、ガロは死んでしまったのですね。」



 ドゴオオオォオオッッッ!!!



 と、轟音(ごうおん)と桃色の発光と共に、アラギアナの屋敷が半壊した。

 ナツメを狙って放たれた攻撃は、魔法であり、極単純な魔力を水鉄砲(みずでっぽう)のように撃ち抜く魔導師が最初に習うア・バーンという初歩的なものであった。


「あれ、死んでしまいましたかね?」


 しかし、彼女の持つ膨大(ぼうだい)な魔力と、その魔力の性質、灰塵(かいじん)により、破壊力はとても初歩の魔法とは思えない程のものになっていた。


 彼女は共に連れてきた10人の部下へと、魔族の女を捕らえろと指示をだし、アラギアナに言う。


「アラギアナ様......もうご安心ください。我が主、ブリマールは貴方を迎え入れる事をきっと望まれましょう。ここは危険なので一緒に来ていただきますね。」


 こ、こいつ......これほどの数の部下を引き連れ、たまたまこの場に居合わせたなどありえない!


 おそらく魔族の女の動きを察知し、泳がせ、私を襲撃するタイミングを見計らっていたのか!!

 まずい、ガロを失った私はもはやユリウスに抵抗することもできない......ブリマールの屋敷に連れていかれればどうなるか......。


「ユリウス様、捕らえました!」


 ナツメは残りの魔力を瞬時に防御へとつかい、即死はまぬがれていた。

 が、両の腕は折れ、右足は潰れ、意識はなかった。


「さて、と」


 ユリウスは部下へと命じる。


「起こしなさい。殺しはしないように。」


 ドカッとユリウスの部下に腹部を殴れるナツメ。


 がはっ......はっ......と、ナツメは苦痛に意識を戻された。


「おはよう。魔族の女。」


 赤い鎧のユリウスは、ゆっくりと静かに言葉を紡ぐ。

 バイザーからは目が見えないが、冷徹な視線を感じる。


「これから貴方を数時間かけ、拷問します。」


「答えなくても良いのですが、その分長い苦痛に苦しむ事になるでしょう。素直に答える事をおすすめします。」


「あ、わからなければ、正直にわからないと(おっしゃ)ってくださいね。」


 ユリウスの部下達がナツメの身体を押さえつける。


「さて、それではお聞きしますね。貴方と一緒にいたお仲間はどこへ?」


 仲間......ははっ......俺の方が、知りたいぜ......。


 アリス、ノア......ミライ......。



「はぁ......はぁ......わ、わからない......。」


 ザクッ


 があっ......!!


 ユリウスの部下により、ナツメの左手の小指が落とされた。


「そうですか。さて、次の質問です。」



 アラギアナはこの光景を震えながら眺め、理解した。

 これは、私に見せているのだと。

 ブリマールに逆らわず、思い通りの傀儡(かいらい)になれと。

 逆らえばお前もこうなるぞ、と。



「指、あんまり効果ないみたい。ふふっ......。」


「よし、目玉!指では反応いまいちなので、目玉をくりぬきましょう。


「もっと、ちゃんと良い声で鳴いてくださいよ。ふふ。」



 部下は用意してきた拷問道具の中に入れておいた、小さめのナイフを取り出し、ナツメの目のふちへとそれをあてる。


「あ、質問でした。失礼、忘れるところでした。」


「えーと、うん」


「なんでもいいか。」


「他の仲間は助かると思いますか?」

 






 ......みんな。大好きだったよ







「......俺の家族は、死なない。」



 ユリウスは部下へと頷き、目玉を抜けと合図した。


 ナツメの目のふちにあてていたナイフを差し込もうとした時、ナイフに反射した影を部下は捉えた。


 え?と、上へと視線を向けたがそれを知るすべがなかった。何故なら、空から落ちてきた者に首を落とされ確認のしようが無くなってしまったのだ。


 ユリウスの部下は、瞬く間に蹴り飛ばされ、ナツメから引き剥がされた。


「ナツメ、あとで説教だから。」


 と、ナツメの前に立った白髪の猫耳は少し大きめのナイフをヒュンと一振りし、ナツメを見て微笑んだ。


 ローブのような布を身に(まと)った彼女は、ナイフを持っていない手のひらに赤い火の玉のようなものを出し、握る。



凶狼猿(ガリオル)



 巨大な炎の魔獣が現れ、ユリウスの部下を一掃(いっそう)した。






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