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第6話:巨大交易ステーションでの物々交換と、謎の種


『――現在地、宙域指定ゼータ・セクター。前方に超巨大交易ステーション【バザール・オメガ】を確認しました』


アーク・パルナスのメインコンピューターのアナウンスが響く。

モニターに映し出されたのは、無数の小惑星をリング状に繋ぎ合わせた、まるで一つの巨大な都市のようなステーションだった。周囲には大小様々な形をした無数の宇宙船が飛び交い、活気に満ちているのが画面越しにも伝わってくる。


「おおっ! 久しぶりの文明の匂いがするぞ!」


私の頭頂部(センサーアレイの近く)によじ登ったハカセが、小さな白衣の裾をパタパタと揺らして興奮の声を上げた。


「ハカセはステーションに降りる用事があるのですか? ネズミは人混みが苦手かと思っていましたが」

「失礼な。この天才ハカセには、定期的な最新技術データのインプットが必要なのだ。……それに、アーク・パルナスのデータベースで解析できない星図データを入手したいからな」

「なるほど。では、小型降下艇で向かいましょう」


全長十キロのアーク・パルナスは大きすぎてドックに入れないため、私たちはステーションの近くに船を停泊させ、小型艇で乗り込むことにした。

私は念のため、第4プラントで今朝収穫したばかりの『特選トマト』をコンテナに山積みにして持っていくことにした。宇宙での買い物には、現地通貨だけでなく「物々交換」が有効だとデータベースにあるからだ。


バザール・オメガの内部は、むせ返るような熱気と、多種多様な異星人たちの喧騒で満ちていた。

機械の体を持つサイボーグ、ゼリー状の宇宙人、毛むくじゃらの巨人。あらゆる種族が入り乱れ、露店で怪しげな品物を売り買いしている。


「おいアル、あそこの店だ! 情報屋の看板が出ているぞ」


ハカセの指示に従い、私はコンテナを牽引しながら薄暗い路地にある店舗へ向かった。

カウンターの奥にいたのは、カメレオンのように目がギョロギョロと動く、四本腕の爬虫類型宇宙人だった。


「いらっしゃい、機械のお客さん。パーツの修理かい?」

「いいえ。最新の広域星図データと、バイオテクノロジーの論文データを探しています」


私が要件を伝えると、爬虫類の店主はニヤリと笑った。

「データはあるぜ。だが、安くはない。現地通貨オメガ・クレジットで五万はもらうぞ。それか、同等価値のレアメタルでもいいが?」

「五万、ですか」


もちろん、ずっと迷子になっている私たちにそんな持ち合わせはない。

私はアームを伸ばし、後ろのコンテナのフタを開けた。


「お金はありませんが、これで手を打っていただけませんか? うちのプラントで採れた、最高品質のトマトです」

「……はぁ?」


店主は目をパチクリさせた後、腹を抱えて大笑いし始めた。

「ゲラゲラゲラ! 冗談きついぜ、ロボットさんよぉ! 野菜なんかで五万クレジットのデータが買えるわけ……」


店主の言葉が途切れた。

コンテナの中から溢れ出した、熟れた果実の甘く爽やかな香りが、彼の鼻腔(のような器官)をくすぐったのだ。

爬虫類の店主は、吸い寄せられるようにコンテナに近づき、艶やかな赤いトマトを一つ手に取った。


「なんだ、この野菜は……。俺の知ってる合成野菜とは、重量感も、匂いもまるで違う……」

「無農薬、適正温度管理、そして長老マザー・ヴァインの愛情たっぷりの一品です。騙されたと思って、一口どうぞ」


店主は、ゴクリと唾を飲み込み、トマトにガブリと噛み付いた。


「――ッ!!!」


パァァァァン! と。

店主の脳内で何かが弾ける音がした(ような気がした)。

彼のギョロギョロした目は限界まで見開き、四本の腕が感動のあまりブルブルと震え出した。


「あ、甘い……! いや、程よい酸味が甘さを引き立てている! 果汁が、本物の水の果汁が口の中で爆発したぞ! なんだこれ、俺の細胞が歓喜の歌を歌っているゥゥ!」

「お口に合ったようで何よりです」

「五万だ! いや、十万クレジットの価値がある! このコンテナごと置いていけ! データは全部くれてやる!」


店主の叫び声に、周囲の露店にいた異星人たちもワラワラと集まってきた。


「おい、あのカメレオンが『生鮮食品』で感動して泣いてるぞ!?」

「なんだあの赤い宝石は! 一個五千クレジットで譲ってくれ!」

「俺は一万出す! うちの星の王族に献上するんだ!」


あっという間に、私たちは異星人たちの人だかり(いや、宇宙人だかり)の中心になってしまった。

「フハハハハ! 見ろアル、お前のトマトが超高級食材扱いだ! さすがこの天才ハカセが土壌データを微調整してやっただけのことはあるな!」

「土を作ったのは私とマザーですが……まあ、喜んでもらえているなら良しとしましょう」


持ち込んだトマトは瞬く間に飛ぶように売れ(交換され)、私たちは欲しかったデータドライブどころか、大量の資材や珍しい金属パーツまで手に入れてしまった。


「さて、目的のものは手に入りましたし、そろそろ帰りましょうか」


私が空になったコンテナを片付けようとした、その時だった。


「――待ってくれ、そこの凄腕の農家さん」


黒いローブを目深に被った、小柄で怪しげな人物が路地裏から声をかけてきた。


「まだ何か? トマトならもう売り切れですよ」

「いや、買い物をしたいんじゃない。あんたのその『命を育む腕』を見込んで、頼みがあるんだ」


ローブの人物は懐から、古びた金属製の小箱を取り出した。

箱を開けると、中には『黒く干からびたクルミ』のような、奇妙な形をした種が入っていた。


「これは、ある古代遺跡の深層で発見された『未知の植物の種』だ。宇宙中のどんな植物学者も、どんな最新鋭のプラントでも、発芽させることができなかった。……あんたなら、これを育てられるんじゃないかと思ってな」

「ほぅ……未知の植物の種、だと?」


ハカセが私の頭の上から身を乗り出し、ヒゲをピクピクと動かした。科学者としての好奇心を大いに刺激されたらしい。


「アル、面白そうだ! さっき手に入れたレアメタルを全部払ってでも、そいつを手に入れるぞ!」

「レアメタルは要らない」とローブの人物は首を振った。「もし発芽して、実をつけたら……その時は、その実を一つだけ私に分けてくれ。それだけでいい」

「条件としては悪くありませんね」


私はアームを伸ばし、その黒い種をそっと受け取った。

電子頭脳のセンサーでスキャンしてみるが、内部構造は硬い殻に守られており、全く解析できない。しかし、確かに微弱な『生体反応エネルギー』のようなものを感じた。


「お引き受けしましょう。どんな種であれ、芽吹かせられない種はありません。私は宇宙一の農家ですから」

「……頼んだぞ、ロボット」


ローブの人物は深く頷くと、雑踏の中へと姿を消していった。


アーク・パルナスに帰還した私たちは、さっそく第4プラントのマザー・ヴァインの元へ向かった。


『(……アル。その種、不思議な気配がするわね。生命力そのものが眠っているような……。でも、私のプラントの土では、少し力が強すぎるかもしれないわ)』


長老である巨大トマトの樹、マザー・ヴァインが念波で警告を発した。


「マザーの土壌でもダメだというのか? じゃあ、どうやって育てるんだ」

ハカセが首を傾げる。


「となると、他の環境を試すしかありませんね。メインコンピューター、本船内で現在封鎖されている『第2バイオラボ』の環境設定はどうなっていますか?」

『――第2バイオラボ。五百年間、アクセス権限がないため封鎖されています。内部環境は不明ですが、特殊な重力と大気成分で満たされていると推測されます』


「……そこだ」

私は種を見つめながら、静かに駆動音を鳴らした。

「この種を植えれば、開かずの扉である第2バイオラボのシステムが何らかの反応を示すかもしれません」


未知の星、未知の異星人、そして未知の種。

行き先不明の宇宙の旅は、少しずつ、しかし確実に騒がしさを増してきているようだ。

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