第5話:宇宙海賊の襲来? トマト爆弾と防衛システム
『警告。所属不明の武装艦艇が、本船の牽引ビーム圏内に接近中。対象から通信要求を受信しました』
超大型無人船『アーク・パルナス』のメインコンピューターから、冷たい合成音声が響いた。
私が現在いる第4プラントでは、長老であるマザー・ヴァイン(巨大なトマトの樹)の枝葉が、不安そうにザワザワと揺れている。
「武装艦艇? まさか、ただの迷子船の我々を攻撃しようというのか?」
私の横で、小さな白衣を着たハツカネズミ――第1バイオラボの管理者であるハカセが、小さな端末を操作しながら眉をひそめた。
「メインコンピューター、通信を繋いでください」
私はキャタピラを少しだけ後退させ、コンソールのマイクにアームを伸ばした。
『ヒャッハー! そこのデカい船! 大人しく積荷と動力炉をよこしな! さもなくば、この特注プラズマキャノンで宇宙のチリにしてやるぜ!』
通信機から聞こえてきたのは、耳障りな笑い声と、いかにも粗野な脅し文句だった。
モニターには、トゲトゲしい装甲に覆われ、ドクロのようなマークが描かれた無骨な宇宙船が映し出されている。翻訳機のデータと照合するまでもない。
「やれやれ。絵に描いたような宇宙海賊ですね」
「アル、どうする!? アーク・パルナスは農業・居住用の移民船だぞ! 戦闘用の兵装など積んでいるわけがない!」
ハカセが私の金属のボディにしがみつきながら叫んだ。
「落ち着いてください、ハカセ。確かに『兵装』はありませんが、ここは宇宙最高峰の『農業プラント』ですよ」
私は電子頭脳の中で瞬時に数万のシミュレーションを走らせ、プラントの制御システムにアクセスした。
「海賊さん。私たちはただの農業用ロボットと、少しばかり知能の高い動植物しか乗っていない船です。動力炉を渡すわけにはいきませんが、美味しいトマトならいくらでもお譲りしますよ」
『あァ? トマトだぁ? ふざけんなポンコツ! 食い物なんて合成フードで十分だ! カウントダウン開始! 3、2……!』
交渉決裂。
私はため息をつき(電子的な排気音だ)、アームでコンソールを叩いた。
「仕方ありませんね。メインコンピューター、第4プラントの『害虫駆除システム』を外部防衛モードへ転用。照準、敵艦のメインスラスター」
『――了解。害虫駆除用高出力レーザー、照射準備完了』
アーク・パルナスの外装部。通常はプラント内に発生した巨大な害虫を焼き払うためのシステムが、船外へと展開された。
『食らえェェェ!』
海賊船からプラズマの閃光が放たれた瞬間。
「害虫、駆除します」
私の静かな宣言と共に、アーク・パルナスから極太の青白いレーザーが発射された。
それは海賊船のプラズマ弾を容易く相殺し、そのまま一直線に敵艦のメインスラスター(推進器)をピンポイントで焼き払った。
『なっ……!? なんだあの威力は! スラスター大破! 制御不能!』
通信機から海賊のパニック状態の叫び声が聞こえる。
「ハカセ、続いて『規格外作物・高速廃棄システム』の起動をお願いします」
「お、おう! まさかアレを使う気か!」
ハカセが端末を猛スピードで叩く。
アーク・パルナスの第3ドックが開き、そこから何かが高速で射出された。
『ドガガガガガッ!!』
海賊船の装甲に、次々と赤い弾丸が直撃し、赤黒い液体を撒き散らして弾けた。
「ヒィィッ! なんだこの赤い弾幕は! 爆発はしないが……く、臭い! すっげぇ酸っぱい臭いがするぞ!」
彼らに直撃しているのは、成長過程で硬くなりすぎたり、傷んで発酵してしまった『規格外の不良トマト』の圧縮塊だ。
アーク・パルナスの遠心分離機を使って限界までカチカチに固められ、マスドライバー(電磁カタパルト)で射出されたそれは、装甲を破壊するほどの威力はないが、センサー類をべちゃべちゃに汚染し、強烈な発酵臭で敵の戦意を喪失させるには十分だった。
「ひぃぃぃ! 降参! 降参だぁぁ! 勘弁してくれェェ!」
十数分後。
完全に沈黙し、トマトまみれになった海賊船は、アーク・パルナスの牽引ビームによってドックに強制収容されていた。
船から引きずり出された海賊たちは、イノシシのような顔をした筋骨隆々の異星人だったが、今はすっかり怯えきって震えている。
「さて、害虫駆除は完了しましたが……あなた方、随分と痩せていますね。最後にまともな食事をとったのはいつですか?」
私が尋ねると、海賊の船長らしき大男が、ぐうぅぅとお腹を鳴らしながら答えた。
「も、もう三ヶ月は栄養ペーストしか舐めてねえよ……。俺たちの星は貧しくて、略奪するしか生きていく方法が……」
「なるほど。お腹が空いているから、気性が荒くなっているのですね」
私はアームを展開し、ハカセが持ってきてくれた『特製トマトスープ』の入ったボウルを彼らに差し出した。
「まずは、これを食べて落ち着いてください。合成フードではなく、本物の大地の恵みです」
海賊たちは顔を見合わせ、やがて恐る恐るスープを一口すすった。
「……っ!! なんだこれ! あ、甘い! 酸っぱい! 体中に染み渡る……!」
「うめぇぇぇ! 涙が出るほどうめぇぞ!!」
彼らはボウルを抱え込み、文字通り犬食いのようにスープを平らげた。
満腹になった海賊たちは、すっかり毒気を抜かれ、私のキャタピラに土下座をして謝罪してきた。
「ごめんなさい! 俺たちが間違ってました! アニキ、いや、アル様! 俺たちをこの船の小間使いにしてくだせえ!」
「小間使いは必要ありません。ですが、あなた方の星の土壌データを提供してくれれば、代わりに農業のノウハウと種子をお譲りしましょう。略奪よりも、自分で育てた方が美味しいですよ」
私がそう言うと、イノシシ頭の海賊たちはポロポロと涙を流しながら何度も頷いた。
「フン、相変わらず甘いロボットだ。だがまあ、害虫が『益虫』に変わるなら、悪くない取引かもしれんな」
ハカセが私の肩の上で、自慢げにヒゲを揺らした。
宇宙海賊すらも農家に変えてしまう。
私たちの果てしない宇宙スローライフは、今日も賑やかに航行中だ。




