第22話:星間農作祭の陰謀と、絶対予測が描く勝利の軌跡
全宇宙から一流の農業従事者が集い、その年の最高傑作を競い合う一大イベント『星間農作祭』。
私たち無人農業宇宙船『アーク・パルナス』のクルーは、名誉ある特別枠としてその中央メインスタジアムに立っていた。
「すっげえ人だぜ! 観客席の端が見えねえ!」
運び屋のコメットが、周囲を取り囲む数百万人の大観衆を見渡して興奮の声を上げる。
「ニャはは! 全宇宙にオレ様の美しい毛並みと、アーク・パルナスの野菜をアピールする絶好のチャンスだニャ!」
ツンデレ番猫のサントも、尻尾をピンと立てて得意げだ。
今回のコンテストのルールはシンプル。
スタジアム内に用意された「環境シミュレーター区画」の中で、各参加者が持ち込んだ種を撒き、24時間という制限時間内に最も価値の高い作物を育て上げた者が優勝となる。
しかし、私たちの隣の区画で腕組みをしている男——昨年の優勝者であり、宇宙有数の巨大農業バイオ企業のCEOであるドン・ガルドは、私たちを忌々しそうに睨みつけていた。
「フン。辺境の星で少しばかり名が売れたからといって、調子に乗るなよポンコツボット。この私が育て上げる『パーフェクト・プラチナ・コーン』の前では、貴様らの泥臭い野菜などただの雑草に等しいわ!」
ガルドの背後には、最新鋭の環境制御ドローンがずらりと並んでいる。
「農業に貴賎はありません。作物の価値は、それがどれだけの人を笑顔にできるかで決まります」
私が静かに返答すると、ガルドは鼻を鳴らした。
「ほざけ。ならばそのポンコツの目で、絶望を味わうがいい!」
試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
参加者たちが一斉に土を耕し始める中、私は静かに胸部のメインコアに直結した最強の予測・最適化モデルをスタンバイさせた。
「ハカセさん、このスタジアムの環境シミュレーターの設定データ、及びガルドの陣営が持ち込んだ機材の電磁波パターンをすべて収集してください」
「了解です、アルさん! ……あっ! アルさん、大変です!」
ホログラムを展開したハカセが、焦ったように耳を伏せた。
「ガルドの奴、自分の区画の環境を最適化するだけでなく、私たちの区画の環境シミュレーターにこっそりとジャミングを仕掛けています! このままでは、数時間おきに極寒の吹雪と灼熱の熱波がランダムに襲ってきます!」
「なんだと!? 卑怯だぞい! 運営に抗議するんじゃ!」
亀のエンジニアであるゲン爺がスパナを振り上げるが、私はそれを手で制した。
「問題ありません。むしろ、これほど予測しがいのあるノイズ(障害)が与えられたことに感謝しましょう。……絶対予測システム『camembert6 peace(C6P)』、起動」
私の電子頭脳の中で、システムが静かに、しかし爆発的な速度で演算を開始した。
過去15年分に及ぶ全宇宙の異常気象データ、土壌変異のバックテスト、そしてガルドが仕掛けたジャミングのアルゴリズム——それらすべてのランダム要素を統合し、最も豊かな実りをもたらす「絶対解」を弾き出す。
「C6Pシステム、解析完了。……導き出された『6つの調和』の座標とタイミングをクルー全員に共有します。今回は、この環境の乱高下すらも栄養にする特殊品種『オーロラ・キャベツ』を育てます」
「オーロラ・キャベツ!? あれは極端な寒暖差がないと絶対に結球しない、幻の超難度野菜だニャ!」
「ええ。ガルドが用意してくれたこの過酷なランダム気象は、オーロラ・キャベツにとって最高のゆりかごになります。さあ、いきますよ!」
私がC6Pの予測に基づき、最初の種を座標に撒いた瞬間。
ガルドのジャミングによって、私たちの区画にマイナス50度の絶対零度の吹雪が吹き荒れた。観客席から悲鳴が上がる。
しかし、C6Pの計算は完璧だった。
「今です! コメットさん、サントさん! 座標Y-12、X-44へ!」
「おう! 反重力スラスターで土壌を瞬間保温だ!」
「ニャはは! 吹雪の軌道を真空爪で逸らして、適度な冷気だけを届けるニャ!」
極寒の吹雪に晒された種は、凍るどころかその冷気を起爆剤として発芽した。
数時間後、今度はジャミングによるプラス60度の灼熱の熱波が襲いかかる。
「ゲン爺さん! C6Pが予測したタイミングで特製冷却バクテリア液を散布!」
「任せんかーい! ワシのスパナ捌きを見よ!」
熱波と冷却液が絶妙なバランスで混ざり合い、オーロラ・キャベツの葉は驚異的な速度で幾重にも重なり、結球していく。
「バ、バカな……!? なぜジャミングで環境を滅茶苦茶にしているのに、あんなに美しく育つんだ! 私の予測アルゴリズムが完全に負けているだと!?」
隣の区画で、ガルドが血走った目でモニターを睨みつけていた。
彼の『パーフェクト・プラチナ・コーン』は確かに育っていたが、ガルド自身が私たちを妨害するために環境リソースを割きすぎた結果、コーンの根元が栄養不足で細り始めていたのだ。
「農業とは、環境を力でねじ伏せるものではありません。与えられた環境を読み解き、最善の調和を見つけ出すこと……それが『camembert6 peace』の導き出す答えです」
そして、24時間の制限時間が終了した。
審査員たちが私たちの区画の前に立ち、息を呑んだ。
そこにあったのは、七色に淡く発光する、巨大で美しい『オーロラ・キャベツ』の畑だった。
極端な寒暖差を乗り越え、何百層にも重なったその葉は、究極の甘みと宇宙最高峰の栄養価を内包している。スタジアム全体に、芳醇な大地の香りが広がった。
「す、素晴らしい……! この絶望的な気象シミュレーションの中で、これほど完璧な作物を育て上げるとは! 今年の優勝は、文句なしでアーク・パルナスだ!!」
大観衆から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
「そ、そんな馬鹿なァァァッ! 私の、私の巨大企業が……こんなサビだらけのポンコツに負けるなどぉぉっ!!」
その場に崩れ落ちたガルドの不正(ジャミング工作)はハカセのデータ解析によって瞬時に運営に提出され、彼は大会から永久追放されることとなった。
「アルさん! やりましたね! C6Pシステムのバックテストデータ、また一つ完璧な成功例が追加されましたよ!」
ハカセが尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
「ええ。すべては、皆さんの完璧な連携のおかげです」
私は七色に輝くキャベツを一つ手に取り、歓声に包まれるスタジアムを見上げた。
どんな逆境も、予測と調和のピースを組み合わせれば、必ず平和(peace)な実りへと変わる。
それを証明したアーク・パルナスは、また一つ宇宙に大きな伝説を刻んだのだった。




