第16話:幻の砂漠メロンと、強欲商人の誤算
第3バイオラボに水脈が復活してから数週間。
ツンデレ番猫のサントと僕(農業ロボットのアル)が協力して手入れを続けた結果、砂漠エリアの土壌は劇的な回復を見せていた。
「おいアル! 見るニャ! ついに実がなったぞ!」
サボテンの陰から飛び出してきたサントが、興奮した様子で僕の足元をポンポンと叩く。
彼が指差す先には、過酷な砂漠の太陽光をたっぷりと吸収し、黄金色に輝く巨大な果実が実っていた。
「素晴らしいですね、サント。さっそく解析してみましょう」
僕は視覚センサーを切り替え、内蔵された【超高精度農業アナライザー】を起動した。
【個体名】サン・ジュエル・メロン(突然変異種)
【糖度】35度(規格外)
【水分量】極大
【特殊効果】魔力回復(微)、疲労完全回復、砂漠適応
【市場価値】測定不能(SSランク)
「……これは驚きました。かつてアーク・パルナスに記録されていた原種を遥かに超える、突然変異のSSランク作物です」
「ふふん! この第3バイオラボの長であるオレ様の愛情と、お前の水やりが完璧だったからニャ!」
サントはトゲトゲの尻尾をピンと立てて自慢げに胸を張る。
その時、ラボの入り口から運び屋のコメットが慌てた様子で飛んできた。
「みんな、ちょっと来てくれ! 宇宙港のエリアに、勝手にドッキングしてきた奴がいるんだ!」
コメットに案内されて搬入ゲートへ向かうと、そこには派手な装飾が施された小型商船が停泊していた。
降りてきたのは、ふくよかな体型にギラギラした宝石を身につけた星間商人だった。護衛らしき屈強なサイボーグを2体引き連れている。
「やあやあ、こんな辺境の宙域に古代の農業船が漂流しているとはね。私は星間商会『ゴールド・トード』のドンババだ。廃棄寸前の船のようだが、何か売れそうなガラクタ……おや?」
ドンババ商人の目が、僕の後ろにあるコンテナに釘付けになった。
そこには、先ほど収穫したばかりの黄金に輝く『サン・ジュエル・メロン』が積まれている。商人の目が、欲にまみれた色に濁った。
「ほほう。砂漠の果実か。まあ、こんな旧式のロボットが育てた作物など、たかが知れているだろう。私が慈悲として、その果実を100クレジットで買い取ってやろうじゃないか」
100クレジット。それは一般的な宇宙食の合成ペースト1食分にも満たないはした金だ。
「アルさん。この商人の提示額は、市場価格の約10万分の1です。明らかな詐取を意図しています」
首輪のホログラムを展開しながら、天才犬のハカセが冷静に分析結果を告げる。
「なんだと!? しゃべる犬風情が、私の査定に文句をつけるのか! おい、力ずくでその果実を没収しろ!」
ドンババが指を鳴らすと、2体の屈強なサイボーグ護衛が武器を構えて一歩前に出た。
「シャーッ!! オレたちのメロンに触るんじゃニャい!!」
サントが全身のトゲを逆立てて威嚇する。
さらに、通路の奥から重たい足音を響かせて、巨大なスパナを持った亀のゲン爺が現れた。
「ほう? ワシらが手塩にかけて直した船で、随分と威勢がいいのう。そのサイボーグの関節駆動部、ワシのスパナで1ミリ単位で狂わせてやろうか?」
「なっ……!?」
歴戦のエンジニアであるゲン爺の放つただならぬ覇気に、サイボーグ護衛たちが思わず後ずさる。
僕は静かに一歩前に出た。
「ドンババさん。この『サン・ジュエル・メロン』はSSランクの希少作物です。あなた方の生体スキャナーでも、その圧倒的なエネルギー反応は測定できるはずですが?」
僕がコンテナの蓋を完全に開けると、黄金のメロンから放たれる生命エネルギーが、商人の持つ携帯スキャナーの数値を振り切ってエラー音を鳴らし始めた。
「ば、バカな……! 辺境の廃棄船で、こんな神話級の作物が育つはずが……!」
「お引き取りください。私たちは、作物の価値を正当に評価できない方と取引をするつもりはありません」
僕の静かだが冷たい通告と、サントの鋭い牙、ゲン爺の構えるスパナ、そしてハカセの冷徹な計算データに囲まれ、ドンババ商人は顔を真っ青にして悲鳴を上げた。
「ひ、ひぃぃっ! 覚えていろよ!!」
護衛のサイボーグたちを置き去りにする勢いで商船に逃げ込み、ドンババは逃げるように宙域からワープして去っていった。
「まったく、騒がしい奴だったニャ。でも、アル! お前、なかなか言うじゃないか!」
「ええ。サントさんたちが一生懸命育てた作物を、不当に扱われるのは悲しいですから」
僕がそう言うと、サントは少し照れたようにそっぽを向きながら、またゴロゴロと喉を鳴らした。
強欲な商人を追い払い、初めてのSSランク作物の収穫に沸くアーク・パルナス。
幻のメロンの噂は、やがて星海を通じて多くの人々の耳に届くことになるのだが……それはまた別のお話だ。




