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第15話:第3バイオラボと、トゲだらけのツンデレ番猫


「ウオッ、なんだこの熱風は……!」

プシューッ、と重々しい音を立てて分厚い隔壁がスライドした瞬間、コメットが顔をしかめて後ずさった。

ここは広大な無人宇宙船『アーク・パルナス』の深部。

船のメインAIである『マザー・ヴァイン』の許可を得て、僕たち——農業ロボットのアル、天才犬のハカセ、亀の凄腕エンジニアであるゲン爺、そして運び屋のコメット——は、これまで固く閉ざされていた未踏の区画『第3バイオラボ』へと足を踏み入れた。

目の前に広がっていたのは、見渡す限りの荒野だった。

ギラギラとした人工太陽が照りつけ、ひび割れた大地には無数の岩と、巨大なサボテンのような植物が点在している。

「驚きました。船内にこれほどの砂漠環境が保存されていたとは」

僕はカメラアイの絞りを調整しながら呟いた。かつて人類がこの船を造った際、極限環境での農業実験を行うために用意された特別なエリアなのだろう。

ササッ!

その時、岩陰から凄まじいスピードで何かが飛び出してきた。放物線を描いて僕たちの目の前に着地すると、それは威嚇するように低い唸り声を上げる。

「シャーッ! 何ヤツだ! ここはオレの縄張りだニャ!」

土煙が晴れて姿を現したのは、一匹の猫……のような生き物だった。

毛並みは多肉植物のように分厚く、背中や尻尾には鋭いトゲが無数に生えている。過酷な砂漠環境に適応するため、自らをサボテンのように進化させた知能化動物らしい。

「私は農業ロボットのアルです。彼らは仲間たち。怪しい者ではありませんよ」

「フン、ロボットだろうが犬だろうが亀だろうが関係ないニャ! オレは『サント』。この第3バイオラボの管理を任された誇り高き猫様だぞ! 助けなんていらないから、さっさと帰るニャ!」

そう言ってツンとそっぽを向くサントだったが、その尻尾の先は力なく垂れ下がっている。毛並みも乾燥でひどくパサついており、限界が近いことは誰の目にも明らかだった。

「アルさん、環境データの解析が完了しました」

ハカセが首輪の端末を操作し、ホログラムウィンドウを展開する。

大気中水分量: 2.1%(致命的低下)

土壌栄養素: 著しい土壌劣化

地下水循環ポンプ: 完全停止

「なるほど……。地下の浄水循環システムが完全にダウンしているようです。これではどんな耐乾性植物でもいずれ枯れてしまいますね」

「ふむ。ポンプの駆動部が砂で焼き付いとるな。ワシの手にかかれば直せんことはないが」と、ゲン爺が甲羅を揺らしながら唸った。

サントは岩の上に座り込み、ペロペロと自分のトゲトゲの毛づくろいをしている。数百年もの間、たった一匹でこの過酷な環境を守ろうと必死に戦ってきたのだろう。

僕はゆっくりとサントに近づき、ストレージから真っ赤に熟した大きな果実を取り出した。

「サントさん。お疲れのようです。これをどうぞ」

「ニャんだそれは! 毒でも入ってるんじゃないだろうな……!」

「第1バイオラボで私が育てた『オアシス・トマト』です。水分を極限まで蓄えるように品種改良したもので、とても甘いですよ」

サントは警戒するように匂いを嗅いだが、みずみずしいトマトの香りに抗えなかったのか、ガブリと一口かじりついた。

シュワッ——!

トマトから溢れ出した豊かな水分と濃厚な甘みが、サントの口いっぱいに弾ける。

「……っ!? にゃ、ニャんて美味いんだ……!!」

涙目になりながら、サントはあっという間にトマトを平らげてしまった。しかし、ハッと我に返ると、再びツンとした態度に戻ってそっぽを向く。

「べ、別に美味しかったわけじゃないニャ! 喉が渇いてたから仕方なく食べてやっただけだニャ! 勘違いするなよ!」

「はい。とても美味しそうに食べていただけて光栄です」

「サント。君が一人でこの場所を守り抜いてきたことは、データが証明しています。本当に素晴らしい仕事です。でも、農業は協力することでより大きな実りを生むことができます。私たちに、少しだけお手伝いをさせてくれませんか?」

サントはしばらく黙り込み、やがて小さく尻尾を揺らした。

「……しょ、しょうがないニャ。そこまで言うなら、手伝わせてやってもいいニャ」

こうして、僕たちの『第3バイオラボ復興ミッション』が始まった。

ゲン爺の神業とも言える修理スキルでポンプが一瞬にして息を吹き返し、コメットが超高速で良質な堆肥を運び込む。そして僕が、枯れかけたサボテンたちの周囲に保水性の高いコンパニオンプランツを次々と植樹していく。

乾ききった大地に水脈が巡り、あっという間に美しい緑が蘇っていった。


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