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第13話:星の運び屋と、宇宙に広がる赤い噂



カテゴリー9の宇宙磁気嵐を抜け、アーク・パルナスは再び穏やかな星の海を航行していた。

船の装甲には嵐の爪痕が微かに残っているが、亀のエンジニアであるゲン爺の超高速アームによる修復作業が急ピッチで進められている。


「第4プラントの気圧、正常値。土壌のミネラルバランスも完璧です。皆さん、嵐をよく乗り越えてくれましたね」


私がアームで静かに土を撫でると、マザー・ヴァインをはじめとする植物たちが、誇らしげに葉を揺らして応えてくれた。


「フン、この天才ハカセの計算とシールド制御があってこそだからな! ……おいアル、メインレーダーに反応があるぞ。後方からものすごいスピードで接近してくる小型艇だ」


私の肩の上に座っていたハカセが、小さな端末を叩きながらヒゲをピクピクと動かした。


「宇宙海賊の生き残りでしょうか?」

「いや、武装はしていない。ただの民間機……それも、エンジンを限界までオーバードライブさせている。通信が入ったぞ」


『――見つけた! 見つけたよぉぉ! 幻の巨大農業船、アーク・パルナス!』


通信機から飛び出してきたのは、キャンキャンと甲高い、元気いっぱいの少女の声だった。

モニターに映し出されたのは、大きな垂れ耳とフサフサの尻尾を持つ、犬の獣人のような姿をした宇宙人だった。彼女はパイロット用のゴーグルを額に押し上げ、目をキラキラと輝かせている。


「初めまして。私はアーク・パルナスの農業ロボット、アルです。あなたは?」

『アタシはコメット! 宇宙を駆けるフリーランスの運びクーリエさ! いやー、あんたたちを探して、ゼータ・セクター中を飛び回ったんだから!』


コメットと名乗った犬の少女は、興奮冷めやらぬ様子で話し始めた。


彼女の話によれば、以前私たちが巨大交易ステーション『バザール・オメガ』に立ち寄った際(第6話)、物々交換で置いてきた特選トマトが、今や宇宙のセレブや王族の間で「赤い宝石」「命の果実」と呼ばれ、とんでもない高値で取引されているらしい。


『でも、誰もあのトマトを栽培できないし、出所もわからなかった。だからアタシが、バザール・オメガの出港記録から微弱な航跡ワープトレースを辿って、三ヶ月がかりでようやく追いついたってわけ!』


「なるほど。それで、運び屋さんが私たちに何の用ですか? 残念ながら、高価なレアメタルや情報は持っていませんが」

『違う違う! アタシはあんたたちと「専属契約」を結びに来たんだよ!』


コメットの小型艇が、アーク・パルナスの第3ドックにスリップインしてくる。

ハッチが開き、彼女はフサフサの尻尾を千切れんばかりに振りながら飛び出してきた。


「あんたたちの作るあの凄い果実……トマトっていうんでしょ? あれを、アタシの船で宇宙中の星に運ばせてほしいんだ! もちろん、売上は半分……いや、アタシが三割でいい!」


「フン、要するに我々のブランド力に乗っかって、一儲けしようって腹だな」

ハカセが腕組みをして鼻を鳴らす。


「まぁまぁ、ハカセ」私はキャタピラを鳴らしてコメットに近づいた。「コメットさん。私たちは商売で農業をしているわけではありません。この船の目的は、星々に命の種を蒔き、困っている誰かを助けることです」


「わかってる! だからこそだよ!」

コメットは真剣な顔つきになった。


「宇宙には、あんたたちが直接行けないような、航路から外れた辺境の星がたくさんある。疫病で苦しむ星、土が枯れて飢えている星……。アタシの船の機動力とネットワークを使えば、あんたたちのトマトの種と栄養を、もっと早く、もっと遠くの星まで届けられるんだ!」


彼女の言葉に、私の電子頭脳は素早く計算を走らせた。

アーク・パルナスは巨大すぎるゆえに、小回りが利かない。キサラギ博士が残した「星蒔き計画」をより広大に展開するためには、彼女のような存在は理にかなっている。


『(アル。彼女の心からは、純粋な風の匂いがするわ。植物の種を運んでくれる「鳥」や「ミツバチ」のような子ね)』

マザー・ヴァインから、穏やかな念波が届いた。


「どうやら、長老も賛成のようです。……ゲン爺さん、いかがですか?」


私が通信を入れると、第2バイオラボの湿地帯でまどろんでいた亀のエンジニアの声が、ゆったりと響いた。

『……ふぉっふぉっ……。賑やかになるのは……ええことじゃ……。あの犬っころの……船のエンジンも……ワシが……チューンナップして……やろう……』


「決まりですね」

私はアームを伸ばし、コメットに向かって握手を求めた。

「歓迎します、コメットさん。これから、私たちの自慢の作物を、宇宙中に届ける『ミツバチ』になってください」


「やったー! 任せといて! アタシと愛機『シューティング・スター号』に運べないものはないよ!」

コメットは私の硬いアームを両手でギュッと握りしめ、尻尾をブンブンと振った。


「まずは契約の印として、最高に美味しいトマトをご馳走しよう。ただし、うちのトマトは宇宙一甘いから、腰を抜かすなよ!」

ハカセが自慢げに胸を張り、コメットを第4プラントへと案内していく。


宇宙中を探し回ってやってきた、お騒がせな運び屋。

彼女の加入により、アーク・パルナスの「星海連盟」とも呼べる農業ネットワークは、ここから爆発的に広がっていくことになる。

私たちの宇宙スローライフは、さらに忙しく、そして賑やかなものになりそうだ。

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