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スターチス  作者: 愛姫
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 薄目で寝起きの視界。頭はぼーっと冴えてなく、勝手にまぶたが降りてくる。それでも無理やり開けると現れたのは小さい――昔の――が居た。



「紅葉ちゃん大丈夫?」



 ちゃん? あぁ⋯⋯そういえばこの頃はまだ互いに――



「大丈夫だよ――ちゃん」



 なんだこれは。口では咄嗟に否定したけど、信じられないぐらいに頭が痛い。割れそうなほど、酷く響く。馬鹿みたいに聞こえる外の音。大嫌いな雨音が余計に苦痛を加速させる。



「風邪⋯⋯治りそう?」



 幼い顔を覗かせて、ひたいを付けてきた。恋人たちがやる、テレビや漫画でしか見たことない熱の測り方。どうせどこかで見て真似てるのだろう。



「治るわ。だから心配しないで」



 これは夢なのだろうか。妙にリアルではっきりとしている。ただ、明らかにおかしいことばかり。現実では無いのは目を見るよりあきらか。自分の手を見ても明らか小さく弱々しい。それなのに私は今の高校生としての記憶がある。乖離しているこの状況をどう受け止めれば良いものか。とりあえず、今、目の前に居る幼い少々を心配させないように、なんとか嘘で見繕わなければいけない。



「そっか! 私が一生懸命、看病してあげる!」



「そうなの。嬉しいわ」



 やはり有り得ない。何をどうしたら風邪をひいてる私の元にこんな小さな子供が居るのか。見た目はリアルだけど現実的なリアリティがない。ただ、言ってる言動と動きの一つ一つは今と何も変わらっていない。今の――が、この頃から何ひとつ成長してないということなのか。



(駄目⋯⋯まぶたが重い⋯⋯)



 脳がオーバーヒートを起こしそう。ぬるま湯のように、何も冷たくない氷枕が気持ち悪い。それに止まらない冷や汗。外は雷まで降ってきたのか騒がしすぎる。



「紅葉大丈夫か!?」



 壊れる勢いで開けられたドア。焦り声と疲れ果てた顔。



「お母さん⋯⋯」



 全身ずぶ濡れで床に水が滴り落ちる。急いでいたのか、肩が随分と揺れ動き、息を切らしてる荒い音。薄れゆく意識の中で見た母は随分と若かった。



「――ちゃん⋯⋯」



「こんにちは! お世話してました!」



 子供だから仕方がないが、大人の真剣な顔を見て、よくそんな言葉が出てきた。空気が読めないのか、マイペースなのか。



「そうか⋯⋯ありがとうな!」



 私は安心からなのか、頼れる人が来たからなのか、体がまだ子供だからなのか。分からないが、今ある欲求を素直に受け入れ、抗う必要が無くなった。私は意識が飛んだように眠りについた。



「おい! 紅葉! 紅葉――」



 遠くから聞こえる母の声。何度も私に呼びかける。何をそんなに慌てて⋯⋯



「おい紅葉!」



「⋯⋯え?」



 目を開けると母の顔。今の⋯⋯夢で見た若い顔ではなく、現実の⋯⋯



「意識あるか? 大丈夫か!?」



「大丈夫だけど⋯⋯」



 何をそんなに確認することがあるのか。安心とは程遠い表情に疑問が残る。



「お前⋯⋯さっきまでうなされてて呼んでも起きないし⋯⋯」



「え? そんなことになってたの?」



 夢を見ていて全く知らなかった現実。体感ではそんの数分に寝たように感じただけなのに。



「とりあえず大丈夫そうなら良かったけど⋯⋯お前その服だと風邪ひくから着替えろ。氷枕も新しいのもってくるから」



「うん⋯⋯」



 首にベッタリとくっついた髪の毛。首元から背中、下半身までびっしょり。見ていた懐かしい光景とは裏腹になぜこんなことになっているのか。あれは悪夢だったのだろうか。母が一階へ降りてる間に服を脱ぐ。



「ねぇ青葉⋯⋯そんなに私⋯⋯」



「うぅ⋯⋯よ゛がっ゛だ! 紅葉が無事で!」



 まだ悪夢は続いてるのか。なぜ馬鹿みたいに泣いているのだろう。



「⋯⋯とりあえず背中拭いてくれないかしら?」



 ***




「寝言から始まって、次は歯ぎしり、流れるように汗かきはじめて⋯⋯」



 体を拭いてもらいないながら話を聞くと結構、酷いことになっていたらしい。何度呼びかけても反応しないし、どんどん酷く苦しみだして。そんな時、母が部屋に入ってきて⋯⋯私が起きたようだ。



「もう⋯⋯二度とこんなことしないで」



「私だってしたくてやった訳じゃ⋯⋯」



 突然、体に重さがきた。背中越しから巻かれた腕。寝る前、私がやったみたいに、ピタリとくっついて離れそうにもない。



「ちょっと⋯⋯今私汗かいてるから⋯⋯」



「大丈夫だよ。紅葉はいい匂いだから」



「さすがに看過かんかできない発言なんだけど⋯⋯」



 もう、何を言っても無駄。一生このまま私を離さないらしい。



「わかった⋯⋯とりあえず服だけ着させて」



「ん⋯⋯」



 服を変えるだけで随分と気分がいい。綺麗になって心が軽い。ベッドに仰向けで転がると、私の顔の真横に頭をつけて、乗っかり、抱きついてきた。



「さすがに近すぎるんだけど?」



「いいの! これぐらいでいいの⋯⋯」



 病人なのに。私よりも甘えちゃって。でも、それを許してる私が一番、甘い。

 頭を撫でて、髪に触れて。同じ匂いがしてくる。




「なんだか紅葉、変態みたい」



 何をどうしたらそんな結論になったのか。毎日、自分がしてる行動の方がよっぽどなのに。



「嫌なの? 私は好きな人の香りなら嗅いでたいんだけど」



「⋯⋯やっぱり変態だ⋯⋯」



 気難しい。寝る前までは子犬だったのにまるで今は猫のよう。自分勝手で自己中心的。自分ファーストな気分屋。



「⋯⋯夢を見たの」



「どんな夢?」



「⋯⋯不思議な夢。その中には小さな貴方が居たの」



「そうなんだ。夢でまで私を見ちゃうなんて。一途な愛だな」



「それ意味あってる?」



 体にかかる重さと嫌でも伝わる温もりがとても心地よい。このままいけば安眠出来そうな。とてもいい抱き枕。



「眠くなってきちゃった」



「また変なことなんない?」



「それは⋯⋯保証できないわね」



「ばか⋯⋯」



 悪夢でも何でもいい。貴方が居てくれたら。それだけで。それに――不謹慎だけど、こうして甘えてくれるなら⋯⋯見たいとさえ思ってしまう。執着心。自分でも嫌って程に感じる。どんどん大きくなって抑えきれない。



「紅葉、新しいの持ってきた⋯⋯って寝てりゃあ。それも、すっげぇ幸せそうに。起こすのも悪いし⋯⋯どうすっかなぁ⋯⋯」








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