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魔力値1の少女はくじけない  作者: 白いレンジ
第一部:波乱に満ちた学園生活

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#6_実技能力査定(2)


 ベルナルドの横薙ぎが滑るように老人の胴へ迫る。

 やはりというか、達人の域に達している老人は難なく木剣を縦にして受ける。ベルナルドは次々と打ち続けるが、老人は一歩もその場から動かないまま全てを捌く。



「その剣筋、王国剣術ですか」


「ええ、もうすぐ上級かと言われる程度の腕ですが、ねっ!」



 力一杯の袈裟斬りを放つ。



「そうですか」



 老人はそう言ってベルナルドの剣を弾くと、彼の木剣は手を離れて宙を舞い、地面に落ちた。



「……そんな、こんな軽くあしらわれるはずは……」


「Aですね。はい、次の方」


「ま、待ってくださいっ!もう一度、もう一度お願いしますっ」



 どうやらベルナルドは、いとも容易くあしらわれた事に納得いかないようだ。



「俺の実力はまだこんなものじゃ!今度こそ本気で――」


「私はこのテストに本気だとかそんなのは最初から見ていません。私が見ているのは、体捌きや筋肉の動かし方、そして目です。

 それに、一番上のAクラス判定ですよ?これ以上打ち合ったところで意味はありません。周囲を見渡して御覧なさい。学生に貴方の強さは十分に伝ったはずです。ここが引き際ですよ」


「くっ」



 この老人から一本取れなかったのは悔しいが、言われた事はもっともだ。

 ここで駄々をこねて仮に次で一本取った所で、大人げない所の方が目立ってしまう。

 それはベルナルドとしても不本意とするところだった。



「わかり、ました。ありがとうございました」


「よろしい。では、次の方」



 ベルナルドに割り込まれた生徒が改めて前に出る。



「よ、よろしくお願いしますっ」



 以降の学生もほぼ木剣を一合交えただけで評価を下され、ジャックとケイトは共にDランク判定。

 そして、アーシェスの番になった。



「次の方、どうぞ」


「よろしく頼む」



 やはり相手が誰であっても言葉遣いに変わりはないようだ。

 アーシェスが老人の前に立ったその瞬間、老人の目は僅かに見開かれた。



「っ、貴方は……」



 眉間に皺を寄せて難しい顔をすると、老人は言った。



「もう十分です。下がってください」


「何だ、やらないのか」



 アーシェスは感情が乗っていない声で呟くと、次の学生に場所を明け渡した。

 それを見たベルナルドたちは、勢いづいたように嘲る。



「相手にされない程のザコだったということは、やはりさっきの授業はイカサマを使ったということではないか」


「お前といい、あの女といい……Fクラスは問題児の寄せ集めだな」


「これ以上恥をかく前に、退学届を出した方がいいんじゃないか?」



 アーシェスはやはり何も聞こえていないかのようにグラウンドから出て行こうとする。

 無視されているのが我慢ならず、取り巻きの一人が声を張り上げる。



「おいっ!俺たちを無視するとどうなるか分かってるのか!」



 アーシェスは反応することなく、グラウンドからいなくなった。

 三人は怒りを露わにする。



「あの野郎、ふざけやがって」


「痛い目を見なくては分からないようだな……」



 一部始終を見ていたクレアは、いなくなったアーシェスの背中に同情の眼差しを向けて手を合わせた。



「ご愁傷様です。晴れて私のお仲間ですね」


「ご、ごめん……」



 ジャックがクレアに謝罪する。



「なんでジャックが謝るの?悪いのは完全にあっちなんだし、シェリー先生も言ってたじゃん、フォローしてくれるって。だからそんなに大したことないでしょ」


「だと、いいけど……」



 ケイトがそこに付け加える。



「それに、案外口だけかもしれませんよ」


「そうそう。貴族だか何だか知らないけど、ああいうタイプはみんなから嫌われるからね。嫌がらせをしても困るのはあっちだよ」



 そこで老人から呼ばれた。



「そこの話し込んでいる貴女、順番が来ましたよ」


「あ、す、すみませんっ」



 急いで老人の正面に立ち、挨拶をする。



「よろしくお願いしますっ!」


「はっはっ、この中では一番元気が良いですね。では、始めましょう。いつでもどうぞ」


「では、いきますっ!」



 クレアは獣のように姿勢を低くして飛び出した。

 老人は片方の眉を上げ、機嫌良さそうに口を歪めた。



「これは面白いですね」



 老人の剣の範囲目前まで迫り、普通であればそのまま剣を振り抜くところだが……。



「ふっ!」



 半歩間合いの外で老人の頭よりも高く飛び上がった彼女は、そのまま飛び越えるような軌道を描く。

 そして順手に持っていた木剣を素早く逆手に持ち替え、老人の真上から頭に突きを放った。



「な、なんだあのでたらめな動きはっ」



 ベルナルドの批難は耳に入っていない。

 老人は迫る剣先をしかと捉えていた。半歩足を引き、目標を失った木剣を横薙ぎで払った。



「うわっ」



 払われた木剣に体が引きずられ、クレアは背中から地面に落ちた。



「いたたたたっ……」


「今のは私の知らない流派のものですが、一体どこでそれを学んだのですか?」



 クレアは体を起こして答える。



「学んだというか、獲物を狩るために色々と考えてたうちの一つですけど……。まあ、これは後ろから狙った時の仕留め方だったんで、さすがに正面からじゃ意味なかったですね。あはは」



 そう言って軽く笑ったクレアに、老人は射抜くような目を向ける。



「えっ、だめ、でした……?」


「いや、そういうわけではありませんが……。まさか、狩猟の技を人の身で受けるのは初めての経験だったものでして。評価は少し保留とさせてください」


「は、はい。わかりました」



 ベルナルドの取り巻きが漏らす。



「野蛮人がこの学園にいるなんて……汚らわしい」


「先生方も甘すぎる。どうしてこんな奴らを入学させたのか」


「……」



 そうして剣術のクラス分けテストは終わった。





 昼休み。

 寮の食堂に昼食を頼んでいた学生は、ここで昼食を受け取る。

 昼食申請時に名前を書いた半券を本人と食堂側で持ち、昼食は受け取り口で本人の持つ半券と引き替えに貰える。

 クレア、ジャック、ケイトの三人は同じテーブルで昼食を囲っていた。



「アーシェスは学食なのかな」


「どうなんだろう。彼、そんなにお金使う感じしないけど……」


「ご一緒にと思っていましたけれど、残念ですね」


「明日誘ってみよっか」



 そうしようそうしようとそれぞれが頷き、昼食に舌鼓を打つ。



「えっ、なにこれメッチャ美味しいっ!」


「本当だっ。やっぱり、貴族も口にするかもしれないからこだわってるのかな」


「ちょっとジャック~、せっかく忘れてたのに思い出させないでよぉ」


「ご、ごめん」


「まあでも、さすがにプライド高そうなアイツらの事だから、学食使ってるでしょ」


「ここにはいらっしゃらないようですから、そうなのでしょうね」



 ベルナルドたちは学食で同時にくしゃみをしていたのを、彼女らは知る由もない。



「午後の授業って何だっけ?」


「学園案内ですね。それで今日の授業は終わりのようですよ」


「じゃあ、本格的な授業は明日から、ってことかな」



 あとはジャックの実家のパン屋の話だとか狩りの話を少しして昼休みは終わった。

 午後の学園案内は恙なく平穏無事に終わり、その後は講堂で教科書や道具などを受け取って自室へ戻る頃には陽は暮れていた。

 シャワーを浴びて夕食の為に食堂へ向かう。



「あ、アイツらまたいるかも……。時間、遅らせよう」



 そうして踵を返し、夕食の時間を遅くしたのは正解だった。

 そんなこんなで翌日の歴史の授業。



「……という歴史がこのファナリース王国にはありました。女神エリクシアの加護がなければ、この地は今も不毛の大地のままだったでしょう。

 この国をはじめ、世界中のほとんどの国が女神エリクシアを崇めています。他の神を祀っている国も在りはしますが、それは本当にごく一部の小国ですね」


「ほえ~」



 初めて知る事ばかりで、とりあず受け止める事しかできていないクレア。



「あと、魔法の詠唱も女神エリクシアの名を借りる事で効果が劇的に変わります。特に、上級魔法以上を行使しようとするならば必須です。

 そして現在、神の名を借りずに上級以上の魔法を使える者は存在していません。このことから、どれだけ女神エリクシアが人間にとってどれほどの影響を現在も与え続けているかは分かりますね」


「ほえ~」


「クレア、それしか言えないの……?」



 隣でジャックが苦笑いしていた。



「いや、村の学校だと神様の話とか教えられなかったし、歴史の授業自体が初めての経験だからね」


「い、田舎にもほどがあるだろう……。逆に一体何を教えられてたんだろう」


「そこ、私語はしない」



 二人は肩を縮こまらせて謝る。

 シェリーは軽く息を吐くと、話を切り替えた。



「クレアさんにこれ以上詰め込んでも頭がオーバーヒートしそうね。じゃあ、ちょっとだけ面白い話をしましょうか」



 シェリーは講師の顔から、近所のお姉さんのような柔らかい顔になって話し始めた。






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