#5_実技能力査定(1)
クレアたちは魔法練習場という体育館のような場所に連れて来られた。
ここのフィールドは四方を魔法の壁(魔法障壁)で囲われていて、並大抵の威力の魔法は壁に阻まれて無効化される。
ここは主に魔法を用いる授業に使用され、申請を出せば自主訓練でも使用可能。そこにクレアたちFクラスとAクラスの学生が集められていた。
正面に立つ男性教師が、彼らにこれから何をしてもらうのか説明する。
「今から現時点での君たちの魔力における実力を計り、結果に応じて今後の上級・中級・初級のクラス分けをする。
決して手を抜かず、真剣に取り組むこと」
自分たちの実力が試されると聞き、学生たちは一様に張り切る。
そんな中、Aクラスにいたベルナルドがクレアに突っかかって来た。
「魔力値1のお前に、一体何ができるのか楽しみにさせてもらおう」
「いちいち嫌味を言わないと死ぬ病気でも持ってるの?」
「威勢だけは良いが、果たしてずっと続くかな?」
言い捨てて離れていった。
「私が嫌いなら無視してればいいのに」
入れ替わるようにジャックが隣に来た。
「あ、あのさ」
「ん?なに」
「今朝の事、きちんとお礼言ってなかったから」
「ああ、いいよいいよ、気にしないで。見て見ぬ振りが出来ない性分なだけだから。それより、アレと知り合いなの?」
ジャックは気まずそうに眉を顰めた。
「まあ、顔を知っている程度にはね。ずっと同じ学校だったんだ。その時はあまり関わらなかったんだけど、僕がこの学園に受かったって知ってから……」
「ふぅん。なんで嫌がらせしてくるようになったんだろ」
「それは、僕が平民だからだよ」
「それ。それだよ。ホームルームでもそんな話聞いたけどよく分かんなくて。なんで……」
話し込む寸前に教師から注意が飛んでくる。
「そこ、喋ってないで早く列に並びなさい」
「す、すみませんっ!」
いつの間にか魔法練習場のフィールド中央に的が四つ立てられていて、学生たちは十メートルほど距離を開けてその前に列を成していた。
急いで最後尾に並ぶと、教師が説明する。
「この的に向って魔法を撃ってみろ。属性は問わない。全力を出すように。では、一番前の生徒から、始め」
教師の合図で最前列の学生たちが魔法を練り始める。
水、火、風、土で構成された球体が生み出され、その大きさは学生ごとによって様々。
野球ボール大だったり、バスケットボール大だったり。
「はああーっ!」
「やあっ!」
「せいっ!」
「たあっ」
掛け声と共に撃ち出し、球体は的へ当たる。
的は砕けると思いきや、全くの無傷。そしてその上には文字が浮かび上がっていた。
「ふむ。C、E、B、B……。では、次」
教師は名簿にランクを記入してから次の学生を促す。
そうして魔法の実力が計られていき、ベルナルドたちの番が来た。
「先生。あの的はどれくらいの威力まで耐えられるんですか?」
「中級魔法までは傷一つ付かない設計だ。上級魔法で或いは、といったところだな」
魔法にはランクがあり、下から、
初級→中級→上級→大魔法→特大魔法→極大魔法→神域魔法
と格付けされている。
初級魔法は、手洗い用の水を生み出したり蝋燭に火を灯したり等、日常生活にあれば便利という程度。
中級魔法は、木を切ったり獣用の落とし穴を作ったりできる程度。
上級魔法は、家屋を吹き飛ばしたり一瞬で田んぼ一つを焼き畑にできる程度。
大魔法は、上級魔法の三倍程度。
特大魔法は、小さな町や村を壊滅させる程度。
極大魔法は、国に影響を及ぼす程度。
神域魔法は、大陸に影響を与える程度。
それぞれのランクを魔法を使用するにあたり、相応のエネルギーをどう使うかは個人の意志次第。薄く広くしてもいいし、小さく凝縮させるも自由だが、元となる魔力量と魔力操作スキルがそれぞれの水準に達していなければ発動は出来ない。
「では、替えを用意しておいた方が良いですよ」
「……始めなさい」
ベルナルドたちはそれぞれの的に向けて手の平を向ける。
「女神エリクシアの御名の元、煉獄の炎に踊りし七つの獣、怒りの鉄槌を今ここに示せっ」
「女神エリクシアの御名の元、濁流に呑まれし海の守護者、嘆きの叫びを今ここに示せっ」
「女神エリクシアの御名の元、地に封印されし身食らう蛇、輪廻の摂理を今ここに示せっ」
彼らの前に、高密度で人の大きさ程の炎、水、土の塊が生成される。
詠唱を終え、気合を込めて放つ。
「フレイムバースト!」
「ウォーターバースト!」
「ロックバースト!」
それぞれの魔法が空気を震わせながら的に向かい、命中する。
炎、水、土の魔法は的を破壊し、フィールドの壁に当たる少し手前で消滅した。
「す、すげぇ……」
「さすが四大英雄の血統だ」
「やっぱり敵わないよ」
興奮する学生たち。
「大英雄ガーランドの血を引く者として、この程度は出来て当然だ。この二人も、それなりに名のある英雄の血筋。俺たちの評価は約束されている」
涼し気な言葉とは裏腹に、持て囃されて若干得意げだった。
教師は壊れた的の替えを隣の倉庫から持って来ると、ベルナルドたちの実力を判定した。
「三人ともAか。……ん?なんだ、まだやっていなかったのか?」
的は四つで、ベルナルドたちは三人だ。
残る一つの的の前に立っていたのは、アーシェスだった。
「……くだらないな」
彼が一言そう漏らしたその直後、彼の前から物凄い速さで小石のような何かが放たれ、的の中心に穴を開けた。
結果など興味がないという風に、ポケットに両手を突っ込んでその場を離れる。
的は、文字を表示できずに風穴を開けられたまま佇む。
「……え?」
「何が、起きた?っていうか、何かしたのか?」
「今のは、魔法、なのか?」
不信がる学生たちを代表するように、ベルナルドがアーシェスの背中に叫ぶ。
「……おい、お前っ、これはどういう絡繰りだっ!よもや、不正をしたのではないだろうなっ。そもそも、これは魔法を測るものだっ、物理でやってみせたところで意味は無いぞっ!」
ベルナルドが騒ぎ立てるが、まるで聞こえていないように修練場から出て行った。
怒りの形相で教師へ抗議する。
「先生っ。こんな不正は到底許せませんっ。それに彼のあの態度!学園に相応しくありませんっ」
教師はベルナルドの声に答えず、穿たれた箇所を検分して呟く。
「これは……。いや、まさかただの子供が……。本当に不正を?どちらにしろ、後で話を訊かなくてはならないな」
「先生っ」
教師は替えの的を設置し、何事もなかったように再開した。
ただ、ここに居る全員が見落としていた。
的のずっと奥、魔法障壁にも小さな穴が穿たれていた事を。
その後のテストは妙な雰囲気のまま進んでいった。
クレアが小声でケイトに訊ねる。
「ねえ、ああいうのって、どうやれば出来るの?」
「えっ?もしかして、魔法を使った事がないのですか?」
「だって村の学校じゃ魔法なんて教えてもらえなかったし。っていうか、そもそもみんな魔法使えないし」
「……あぁ、なるほど。確かに王都から離れていたらそれも無理はありませんね」
「そういう事だから、ね?」
クレアは拝むように手を合わせて片目を瞑った。ケイトは快く教えてくれる。
「分かりました。魔法は体の中にある魔力を感じるところから始めなくてはならないのですが、最初は集中しないと難しいかもしれません……どうですか、感じますか?」
眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げて何かを感じようとするクレア。
「……ん~、なんとなく?この気のせいかもしれない程度にぞわっとしたヤツ?」
「ぞわっと?ま、まあ、一般的な感覚とは違いそうですけれど、それは個人の感じ方ということなのでしょうね。では、今度はそれを掌に集めるようにしながら水や火などの具体的な形をイメージしてください。
そうすると、みんなみたいに魔法が見える形で発現しますので、あとはそれを強く撃ちだすように力を籠めれば出来るはずです」
「な、なるほど。ありがとう。ぶっつけ本番だけど、やってみるしかないか」
教師がクレアの列を呼ぶ。
「次の生徒、始めなさい」
「は、はいっ」
クレアは的の正面に立つ。
「むむむっ」
言われた通りに集中すると、正面にマッチの火みたいな小さい球体が現れた。
「うん、いい感じですよっ」
ケイトが応援を送る。
そして、思いっ切り集中して生み出した魔法を、言われた通りにイメージして撃ち出す。
「てやっ!」
ふよふよふよふよ×2。
ぽすっ。
「中った!」
的が判定を下す。
的「?」
「はてなって何だよっ!」
次の授業は剣術で、グラウンドでクラス分けのテストが行われる。
ここでもAクラスと合同だ。魔法実技のクラス分けを途中でバックレたアーシェスは来るのだろうかと心配していたが、きちんと出席していた。
「えーそれでは各自、木剣は持ちましたね。では、一人ずつ順番に私に打って来なさい」
背筋がまっすぐ伸びた紳士的なご老人が、片手で木剣を構えた。
先頭にいた男子学生が挨拶をし、両手で構えて飛び掛かった。
「やあーっ!」
「ふむ」
上段から振り下ろされる木剣に合わせて、老人が下から突き出すように剣先で止めた。
直線に対して、点で合わせる神業だった。
学生たちが息を呑むが、それを受けた学生は彼ら以上の衝撃を受けて言葉を失った。
「なっ……」
点で合わせただけでなくこの老体のどこにそんな力があるのか、男子学生の木剣は老人の木剣を一ミリたりとも押し返すことができない。
その一合で老人は男子学生の実力を見極め、判定を下した。
「Cですね。では次の方」
次に待っていた学生が前に出ようとした時、ベルナルドがその肩を掴んで止めた。
「次は私がいかせてもらいましょうか」
それを遠くで見ていたクレアはため息を吐いた。
「アイツ、まぁた勝手な事してる」
割り込んだベルナルドに向けて、老人が諭す。
「やる気があるのは良い事です。ですが、その前に貴方に割り込まれた彼の許しを得るのが先でしょう」
「……仰る通りですね。おい、いいな?」
学生は作り笑いを浮かべて了承した。
「は、はい。もちろんです」
「これで問題はありませんね?」
「強引ですねぇ。ま、良いでしょう。いつでもかかってきなさい」
「それでは……いきますっ!」
ベルナルドが木剣を脇に構えて飛び出した。




