#4_入学式、そして能力検査(2)
「体力438、魔力値と信仰心は共に……1だと?精神力と探求心は……5500?なんだこのデタラメな数値はっ。どうなっているんだ、故障か?」
大講堂内がベルナルドの時以上にざわついた。このようなアンバランスな結果は教師でも見た事が無いらしく、怪訝そうに眉を顰めた。
一応数値を記入はしたが、水晶の故障を懸念した教師は一旦講堂から出て行った。
ステージ上に取り残されたクレア。そこにベルナルドたちが詰め寄った。
またか、とゲンナリする。
「魔力値が1だって?そんなカスみたいな実力でよく試験が通ったものだな。食堂の時にも思ったけど、やはりお前はこの学園の名を穢す」
「それに、シールズなんて家名聞いたことないぞ。まさか……」
「平民の出か?」
「だったら何?どうでもいいじゃない、そんな事」
講堂内の温度が冷たくなった。
それを言語化するかのようにベルナルドは罵る。
「どうでもいい?良いはずないだろう。ここは英雄、勇者たちに連なる者たちだけが通う事を許された場所だ。そこにただの平民が存在するだと?学園の品格が損なわれてしまうだろうが。今すぐここから去れっ!」
「そんなの今初めて聞いたんだけど。もしあんたの話が本当なら、私が試験を受けたいって言った時、試験官が却下してたんじゃないの?でも私はこうして試験に受かってここにいる。それは私がここに通っても良いって学園が認めたからでしょ?」
「そんなのは手違いに決まっている。こんな……こんな品もなければ魔力もないゴミが、由緒正しきフォスノウス学園に在籍していいわけがない。なあ、みんなもそう思うだろうっ!」
ベルナルドは壇上から皆に賛同を求めた。
ぽつりぽつりと自信なさそうに同意を示す者が出始め、やがて大きな一つの意志となった。
ベルナルドは我が意を得たりと、同じ新入生の意見をクレアに突きつける。
「これが学生の総意だ。これで分かっただろう、ここはお前が居ていい場所ではないっ!」
だが、こんな事で怯むクレアではなかった。
「っていうか、そういうあんただって何かの数値が12とかだったじゃん。私と大して変わらないじゃない」
「ふんっ。この学園では魔力以外はお飾りだ。信仰心や探求心など無くても構わん。ここでは魔力はあって然るべきもの。これは無視できるものじゃないぞ。その証拠に、教師が焦って出て行ったじゃないか」
「むぅ」
ベルナルドの話の前半はよく分からなかったが、確かに教師がクレアを放ってどこかへ行ったのは気になる。
だからといって、当の教師から理由を聞く前に彼の言葉を全て信じ込むのは愚かだろう。
「でも先生がどこかに行った理由が、あんたの言う通りとは限らないじゃない」
「今に分かるさ」
勝ち誇った笑みを浮かべる彼、むくれた顔のクレア。
睨み合って数十秒経過した頃、教師が戻って来た。
「お待たせしました。クレア・シールズ、貴女の数値はこれで登録します」
「なっ!」
「はーいお願いしまーす。……ふふん」
勝ち誇った顔のクレア、今にも歯ぎしりしそうな彼。
クレアは軽やかな足取りでステージから降りた。
彼女の背中に怒りの眼差し向けるベルナルドに教師の声がかかる。
「何をしているのですか。査定が終わっているのなら下で待機していなさい」
「ちっ」
教師であるはずの人物に舌打ちをして、三人はステージから降りた。
「あの女、絶対に許さん」
新入生全員のステータス査定が終わると、大講堂の壁にクラス分けの紙が張り出された。
この後は自分の名前が書かれたクラスに向かえば良いようだ。
クレアは自分の名前を探しながら、強く願った。
「(あの男と一緒のクラスになりませんようにっ!)」
果たしてその願いは成就した。
が、張り紙を見て首を傾げた。
「……クラスメイト、三人だけ?」
「今日からこのFクラスの担任になったシェリー・コーウェルよ。主に歴史を教える事になるわ。みんな、宜しくね」
入学式の後にクレアたちFクラスに割り振られた四人が案内されたのは、煌びやかな本校舎から少し離れた旧校舎の空き教室。
まだ学園が創立されて半世紀も経っていないのでオンボロとまではいかないまでも、時代に取り残された感じは否めない。
そんな教室に教壇が一つ、そして机が四つ。物寂しくて仕方がない。
だが、クレアは全く気にならなかった。
「(なんだ、村の学校とそう変わらないじゃない)」
こういった環境に慣れていたクレアとは違い、他のメンバーは落ち着かなそうだ。
「あー、まあみんなが何を思っているのかは手に取るように分かるわ。どうしてこんな場所に、どうして四人だけなのかってね」
「どうか、教えてください」
そう言ったのは、食堂であの三人にいじめられていた男子生徒だった。
「ええ、勿論よ。でも、その前にみんな自己紹介をしましょう。それじゃあ、廊下側の貴女からお願い」
トップバッターはクレアだ。椅子から立つ。
「クレア・シールズです。カッシェル村から来ました。よろしくお願いしますっ」
パチパチとまばらにだが拍手があがる。椅子に座ると、隣の女子生徒が続いた。
「ケイト・ランシス、です。よろしくお願いします」
なんだか大人しそうで優しそうな子だ。髪もおさげで瓶底眼鏡をし、小柄なのがよりその印象を強くさせる。
「ジャック・パーチアンです。実家はパン屋です。よろしくお願いします」
いじめられっ子はジャックという名前だった。
そして、最後の一人。
「アーシェス・アルシェイド。遊牧民の出だ。よろしく頼む」
なぜか尊大な言葉遣いだ。しかし、見下したような態度ではないので、元々そういう喋り方なのだろう。
遊牧民ということもあり、言葉遣いを教わる機会も無かったのかもしれない。と、皆は勝手にそう思う事にした。
「さて、自己紹介も済んだし、こんなクラス編成になった理由を説明するわね」
クレアとしては特に気にならなかったが、他の三人は不安そうに……いや、アーシェスは無表情でよくわからない。
「包み隠さずぶっちゃけると、この学園は貴族たちの寄付のおかげで回っているの」
ジャックは唇を軽く噛む。
ケイトは僅かに眉に力が入った。
「だから、必然的にこの学園の中では貴族の子供たちが幅を利かせてしまっている。その貴族の中にもランクがあって、英雄だった祖先の偉業や功績によって上下関係が構築されているけれど……まあそれは今は関係ないわね。
で、その貴族様たちの子供の中には庶民を見下す、いわゆる選民思想が強い生徒が多いのよ。父兄直々に、平民と一緒のクラスは避けたい、という要望が多く学園に寄せられていてね。
もっと過激なものになると、貴族のみの学園にしろ、という声もあるけれど、いくらなんでもそれはやりすぎで理事長の意にも反する。だから、それが不満だったら家庭教師を雇えば良いって話になるから、父兄も激しく抗議したりはしていないわ」
クレアの脳裏に先ほどのベルナルドの言葉が過った。
「ここは英雄、勇者たちに連なる者たちだけが通う事を許された場所だ。そこにただの平民がいては、学園の名が廃るというものだ。今すぐここから去れっ!」
なるほど、そういう事かと納得した。
「そんな考え方の父兄や生徒が少なからずいるから、こうやってクラスを別々にしたってわけ。これはあなたたちを守るためでもあるの」
「やっぱり、そういう事だったんですね」
ジャックが悔しそうに呟く。
だが、シェリーの話はまだ終わっていなかった。
「辛いことを言うけれど、クラスを分けたところで根本的な問題が解決したわけじゃないわ。廊下ですれ違う事もあれば授業で一緒になる事もあるし、学園行事で関わらなきゃいけない時もある。
あなたたちにとってこの学園生活で一番の課題は授業でもテストでもなく、その境遇を乗り越えられるか、そう言っても過言じゃないわ」
ジャックとケイトは深刻な顔で机に目を落とす。アーシェスは……うん、無表情のままだった。
クレアはというと、少しがっかりしていた。
「(村の外の世界が見たくて、って思って志願したけど……なんだかなぁ)」
余計な問題に煩わされそうだ。
「もし、どうにも我慢できないとなったら先生たちに相談しなさい。私たちはどちらか一方だけを贔屓になんてしないから」
そう言ってから、シェリーは最初の授業を始めた。
「最初の授業だし、基本的な歴史のおさらいから始めましょうか」
大昔、神々と魔王による戦争が勃発した。
両陣営の戦場は最初は神界、次に魔界、そして三千年前に地上に舞台を移した。
発端は、魔王による神界侵略。戦場の移り変わりから見えるように、神界を攻めた魔王軍は次第に劣勢を強いられ魔界へと押し返されたが、ホームグラウンドでは戦力が即時投入でき、戦況を巻き返し始めた。
戦場が中立地帯の地上へ移るのは必然だった。
魔王の軍勢は人間の町や村を襲い、資源を奪い、拉致した者を魔族の先兵として嗾けるようになった。
神々は魔王側の傍若無人なやり方に憤り、やがては人類と協力して魔王を打ち果たした。
「けれど、魔王は消滅せず、倒されても倒されても世界のどこかで何度も復活しているわ。その度に教会が勇者を選定し、強い力を秘めた仲間と共に魔王を討ってきている。直近では四十年前ね」
クレアがもっともな疑問を投げた。
「魔王が復活できなくなる方法はないんですか?」
「残念ながら見つかってはいないわ。というより、確実に倒したはずの魔王が蘇るのか、そのメカニズムを解析したくても相手が相手だから、ね。神々の知恵をお借りできれば判明するかもしれないけれど、戦争が終わった後はお隠れになってしまって、それ以来は誰もお姿を目にした人間はいないと言われているわ」
「そうなんですか……」
「どうやらクレアさんには勉強になったようだし、私も嬉しいわ。さてと、少し早いけれど休憩時間にしましょうか」
ケイトの号令でホームルーム兼最初の歴史の授業は終わった。




