#47_バトルフェスティバル(2)
本日はAブロックの第一回戦のみの六試合。二日目はBブロック、三日目はCブロック、四日目はDブロックの順番。
本年度のバトルフェスティバル第一戦目がもうすぐ始まろうとしていた。
円形に作られた観客席。その内側に掘られた場所がバトルフィールド。最前列の観客は、試合の展開によっては目の前で迫力のある戦いが見られる。
地下だというのにすり鉢状に作られた観客席は大きく、数万人は収容できそうである。これほどの施設を作るには、最低でも五年以上はかかるのではないだろうか。
それが終戦の翌年には完成していたというのだから驚きだ。
フェルツバーグは後ろの席でそんな事を考えていた。
「(戦争を止めるために戦時中から着工していたのか?それとも、一年で完成まで持っていける何かがあったのか……)」
今考えても栓ない事に没入しそうになった時、バトルフィールドに進行役の男が選手入場口から姿を見せた。彼は声を遠くまで波及させる筒状の魔道具を持っていた。
「皆さま、大変お待たせいたしましたーっ。これより第五十二回、バトルフェスティバルを開催いたしますっ!」
会場を埋め尽くす観客たちは怒号のような歓声を上げた。
フェルツバーグは驚いて肩をビクリと震わせ、忙しなく首を左右に動かして周りを見た。
「こ、これは人の声、なのか?」
彼が人生で経験してきたお祭りごとやイベントといえば、夜会に祝賀会などお上品な場のみだった。
感情をダイレクトに表現する光景など見た事もない。もし戦時中であれば、王族の務めとして戦場に赴いて鬨の声を聞く事もあったろうが、生まれた時から生憎の平時。
今日は見るもの聞くもの全てが彼にとって初めてだった。
「今年の参加者はザッツベルド、サウェスト、ノウェスト合わせて四十八名。
トーナメントブロックはAからDの四つ。それぞれ十二名ずつに分け、最終的に各ブロックの優勝者同士でチャンピオンの座を奪い合ってもらいます。
本日はAブロックの第一回戦を六試合を行い、翌日はBブロック、翌々日はCブロック、四日目にはDブロックの順で行います。その次の四日間で準々決勝、次の四日間で準決勝を行い、十三日目に決勝戦を行います」
観客たちは進行役の言葉などどうでもいい、早く試合を見せろととでも言っているような言葉が判別できないざわめきが会場に充満していた。
雰囲気のブーイングを受けるベテランの進行役は、分かっている、とでも言うように説明は最小限にして第一回戦の出場者をコールする。
「それではこれよりAブロック第一回戦第一試合、サルザー・ヒューネル 対 クレア・シールズ!両者、入場ッ!」
盛大な効果音と共にバトルフィールド上部に吊るされた四面の魔導スクリーンに、サルザーとクレアの画像が表示された。
それまで冷え切っていた会場内が一気に熱狂に包まれ、大歓声でもって出場者を迎える。
「フフフッ……」
サルザーなる男は、ステータスを全てパワーに振ったとしか思えない、絵に描いたような筋骨隆々の巨漢。
対するクレアは背は高くも低くもなく、体格も太くも細くもない、平均的な十六歳女子だ。戦わずとも結果は見えている。
観客たちはヤジを飛ばしてクレアをからかう。
「お嬢ちゃん、迷子かい?ほら進行役っ、出口まで連れてってやりなよ!」
「ここは子供の遊び場じゃねえんだ、殺される前に帰りなっ」
「おい審判、試合するまでもないだろっ。早くサルザーの勝ちを宣言してくれよっ」
一人一人の言葉は聞き取れないが、言われている事の大体の予想はできる。
フィールド上のクレアも本心では棄権したかったが、ここまで強制連行して来た悪党の言葉が蘇る。
「自由になりたきゃあ優勝しろ。負けたり棄権したりしたら娼館に落とす。あの勇者が創設した学園の生徒という肩書とバトルフェスティバル出場経験ありとなりゃあ、値段はそれなりに跳ね上がるからな。
まあ試合中に死んだら、もったいねえけどそれでお前のやらかしたことはチャラにしてやるよ」
死ぬか、負けて娼館に売られるか、優勝するか。
死にたくない。でも棄権はしたくない。娼婦であることに誇りを持って生きている人もいるだろうが、クレアはそういう商売に身を染めたくなかった。
実質、一択である。
外野のヤジをいちいち気にしている余裕はない。勝つために、目の前の対戦相手を観察する。
その視線をサルザーは勘違いした。
「おいおい、まさかこの俺の筋肉に惚れたのか?なら、試合が終わったらよぉく見せて触らせてやるよ。二人っきりでな、くくくっ」
「えっ、ええっ……?」
んなわけないから、と否定しそうになったが即座に考えを改め、敢えて明言を避けた。
「あ、あははっ、そうですかぁ」
言葉の応酬?の間に進行役は審判と交代してフィールドから出て行った。
ちょうど二人の中間に立った審判は、二人に試合開始前のルールの最終確認をさせる。
「試合中に死亡が確認された時点で試合終了。ギブアップ後に追撃した場合は反則負けとする。申請した武器以外の使用は禁止。魔法も大魔法以下の攻撃魔法のみに限定。それら大会の規定に反した場合、即失格とする。同意は?」
審判は二人の顔を見て、頷くのを確認してから声高らかに告げた。
「では、Aブロック第一回戦第一試合、始めッ!」
試合開始を宣言した審判は、纏った飛行魔道具で宙に飛び上がった。
目の前の相手よりも審判の動きに目を奪われたクレアだったが、はたとすぐに試合が始まった事を思い出し、焦ってサルザーに目を向ける。
審判に気を取られている隙に攻撃が飛んでくるかと肝を冷やしたが、彼はその場を動いていなかった。
「お嬢ちゃん、バトルフェスティバルは初めてか。なら不意を突くのは客にとっても無粋ってものだ」
攻撃せずに待ってくれていたのは彼の気遣いだった。そう思いたいが、後腐れなく試合後のお楽しみタイムを迎えたいという下心もあるのでは、と邪推が働いてしまうのは仕方ないだろう。
クレアは余計な思考を追い出し、ナイフを逆手に構える。
「ほう。なかなか様になってるじゃないか。遊びで出場したってわけじゃあなさそうだな」
サルザーは腰に吊り下げていたグローブを嵌めて、ファイティングポーズをとった。
「見ての通り、俺の武器はこの肉体そのものだ。そしてグローブには内側に鉄の板を仕込んである。流石に刃物持つ相手と戦うとなりゃあ、いくら俺でもそれなりの備えをしねえと分が悪いからな。
当たったら痛えから、覚悟しとけよ?」
サルザーはその場で足を右、左、右と弾ませてステップを踏む。
その姿を見てクレアは考える。
「(瞬発力は凄そう。あの筋肉だからパンチも多分速い。でも、それに私が反応できれば勝ちは見えて来るかも。それに……)」
クレアはリズミカルに弾む足を見続けていた。




