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魔力値1の少女はくじけない  作者: 白いレンジ
第一部:波乱に満ちた学園生活

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39/48

#39_友の為(5)


 両親による署名活動虚しく、クレアの人生最期の日が来てしまった。

 早朝から広場に建築作業員が駆り出され、処刑台の設営が始まる。作業員の顔には覇気が全くなく、やる気が感じられない。

 それもそうだろう。今自分たちが建てている台で斬首されるのは年端も行かない少女。罪状は、貴族を刺傷。殺していないどころか、被害者の方は完全回復している。作業員も彼女と同じ平民だ、憐みを抱かないはずがない。あまりにも重すぎる処罰に、その片棒を担がざるを得ない彼らが心を痛めないわけがなかった。

 嫌だと言って仕事を放棄すれば、今度は彼らが処罰を受けてしまう。少女には悪いと思いながらも、やはり自分の身が一番なのは正常な思考だろう。

 そうしたやりきれない気持ちでステージを組み上げていた。





 本日、学園は臨時休校となった。

 ベルナルドと取り巻きたちは、学食のテラスで朝食後の紅茶を飲んでいた。取り巻きの一人が、今日はどこでも持ち上がるであろう話題を振った。



「にしても、ベルナルドがあの平民の処刑を見に行かないなんてな」


「ああ。てっきり、ざまあみろと楽しみにしていたと思ってたぞ」



 一番クレアを毛嫌いしていたはずのベルナルドが、大人しく学園内で待機していたのは誰の目からも奇異に映ったことだろう。

 それには無論、彼なりの理由があった。



「そんな真似してみろ。アイツを贔屓にしていた姉上に今後一生どんな目で見られるか……」


「あー……そういう……」



 二人はすぐに納得した。が、口には出さないがもう一つなんとなくの理由があった。



「(姉上を刺したのだから当然の処分だ。だが、何故だ。この流れ、嫌な感じがする……)」



 つまらなそうな顔で取り巻きたちの話を聞き流すのだった。







 日が中天に差し掛かる少し前、学園の正門で待ち合わせをしていたケイトたちは合流してから街中へ歩き出す。

 目的地は、先日広場で言っていた花屋だ。監視者が付かず離れずの距離を保って尾行している。

 尾行されたままケイトたちは目的の花屋の前に来た。



「では入りましょう」



 軒先の花には目もくれず、店内へと入る。

 監視者の身なりは店内に入れば逆に目立ってしまうので、外から様子を窺うしかない。

 店内は商品棚や背の高い花のせいで、外からでは奥まで良く見えない。だが、店に入ったのであればいずれは出てくる。それを待って尾行を続ければいい。そう思ってケイトたちが出てくるのをひたすらに物陰で待ち伏せていた。





――――――――――――――――――――――――――――――





 最期の日を独房で迎える事になろうとは夢にも思わなかった。

 記憶のないうちにこの手は人を刺し、相手は危険な状態に陥った瞬間もあったという。

 未だに信じられず、誰かの罪を被せられているのではと思えてならない。

 だからなのか、処刑されると聞かされてもなかなか実感が湧いてこない。そんなクレアを置き去りに、周りの大人たちは処刑の準備を進めていく。

 ここ数日で見知った一人の神官が、最後の説法のために独房を訪れていた。



「死を前にするのはとても辛い事。ですが、早かれ遅かれ人はその時を迎えます。これまでの人生で何を思い、何を感じ、どう考えたか。それは死よりも大切な事です。

 人は過ちを犯します。全ての行いが正しい人間なんていないのです。その過ちを悔いて反省し、その一方で人の過ちを許せるような者を神は見捨てません。

 己が罪を受け容れたあなたの今生は短くとも、きっと女神エリクシアが来世を素晴らしいものにしてくださるに違いないでしょう。

 そして、私からも女神エリクシアに祈りましょう」


「はぁ、ありがとうございます」


「これが最後の機会。どなたかに伝えたい事はありますか?」



 あれは私の意志じゃない、と散々言っても聞く耳持たず、弁護人も弁護する気など最初からなかった。全ては誰かの掌の上。

 誰かの物語を読んでいるような感覚だ。両親やケイトたちは毎日のように顔を見せに来てくれたけれど、その度に悲壮な顔を見せてくる彼女たちとの温度差を感じてしまう。

 ただ、昨日のケイトたちは少しこれまでと違っているように見えた。どこがと聞かれれば上手く答えられないが、目つきが少し違っていたように思う。

 とうとう明日……と思ってのものだったのか何なのかは、もう会えないから結局は分からないまま終わりそうだ。

 今考えているのはそんな事で、これから死ぬというのに割と平然としていた。



「特に何も……。あ、カッシェル村の子に、約束守れなくてごめん、って伝えておいてくれますか?帰省した時に学園の話をしてあげるって約束してたので」


「……っ……わかり、ました。責任をもって伝えましょう」



 思わぬ言葉に心を打たれた神官は僅かに言葉を詰まらせたが、どうにかクレアの遺言を受け取った。

 死にたくない、こんなのはおかしい、さっさと殺せ、殺すのは俺の生き甲斐だった、貴族を呪ってやる。両親に詫びたり愛情を伝えたり、この世を儚んだり最後まで身勝手な罪人を神官は大勢見てきた。

 そのどれもが根本にあるのは、自分の感情。憎悪の言葉は言わずもがな、両親への言葉は自己満足も含み、世界の否定は溢れ出す思想で、命の簒奪者に後悔はない。

 だが、この少女は小さな約束事を口にした。それも家族でもない近所の子供との約束だ。どのような人生を歩めば、このような大人でも出てこない言葉を紡げるのか。

 神官は少女に何かを感じた。



「……こんな事を訊くのはルール違反なのですが、一つだけ、よろしいですか?」


「何ですか?」


「あなたは、本当は……」



 自分の意志で人を傷付けたわけではないのでしょう?

 そう言いそうになったが、寸でのところで押さえつけた。

 今更それを聞いたところで目の前の少女の死が覆るわけでもない。逆に彼女の心を乱すだけだ。

 言い止まった神官にクレアは先を促す。



「本当は、何ですか?」


「いや、申し訳ありません。忘れてください」


「はあ……」



 そのタイミングで兵士がクレアを迎えに来た。



「死刑囚クレア・シールズ、時間だ。出ろ」



 対面していた神官は辛苦の表情で道を空け、クレアは独房から出る。

 その背中に神官は言わずにいられなかった。



「あなたに祝福をっ」



 クレアは振り返り、少しだけ微笑んで答えた。



「ありがとうございます。神官さんのような人に出会えてよかったです」


「っ……」



 神官の目が潤む。

 だが感傷に浸らせてくれるほど兵士は優しくはなかった。



「さあ、行け」



 クレアの背中を強く押し、歩かせた。

 この独房は王都の端にある。そこから中央広場までクレアは両手首に鎖付きの嵌め具を付けられたまま歩かされる。

 当然、道中には物珍しい公開処刑を受ける大罪人を一目見ようと、見物人が貴族平民老若男女問わず道路脇に立ち、見世物小屋の動物を見るような目をクレアに向けてくる。

 クレアにはそれが死ぬことよりも堪えた。

 自分の意志で招いた事であれば受け入れられるが、そんな目を向けられるような事はした覚えはない。学園での嫌がらせとは違う、不気味な好奇の眼差し。

 いま初めてクレアは無実を声高に叫びたかった。でも出来なかった。訴えたところで誰も助けてくれないのは分かっていたから。逆に惨めになるだけだ。

 早く処刑場に連れて行って欲しいとさえ思ってしまった。

 そんな時、側頭部に小石を投げつけられた。



「いたっ」



 投げられた方を見ると、身なりの良い男の子が無邪気に笑いながら小石を持っていた。



「お前、悪いヤツなんだろ?オレが成敗してやるっ!」


「っ」



 二つ目が投げられ、肩に当たる。子供の力なので体はそこまで痛くはなかったが、深く心が傷付けられた。

 私、笑って石投げられるほど悪いことしたかなぁ。



「じゃあ俺もっ」「俺も!」



 石を投げる子供たちは増えていく。止める大人はいなかった。

 あと十数歩歩けば中央広場というとこに来て、大きめの石が足の甲に当たった。



「っつうっ!」



 堪らず蹲るが、兵士は尻を蹴飛ばして立ち止まる事を許さない。しかし痛みは酷く、足の甲を押さえながらしゃがんで歩くという不格好な姿で中央広場に着いた。

 クレアの前は海を割ったように人が道を空け、このあとクレアの命を刈り取る断頭台がその目に入った。






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