#38_友の為(4)
クレアを知る者たちは失意の中、裁判所を出た。
クレアの両親がケイトとエスカティリーナに声を掛ける。
「クレアのために、今日はありがとう。娘も言っていたけど、二人の気持ちに心が救われたと思う。限られた時間しかないけど、またクレアに会いに行って欲しい」
「そんな……。結局何もできませんでした。もっと考えを練っておけば良かったと、悔やんでも悔やみきれません……」
「ロガール卿さえあの場にいなければ……いえ、泣き言はみっともないですわね。わたくしたちに力が無かった、ただそれだけの事ですわ……」
「そんなに卑下しないで。親である私たちはあの子を守るために、あなた達みたいに行動できなかった。結局は流れるままに受け入れて……。だから、ありがとう。おかげで決心出来たわ。
判決は下ってしまったけれど、最後まで諦めない。多くの人の声を集めて、再審を要求してみせるわ」
エスカティリーナはこの両親が無茶をしそうで心配になった。
「お母様……。でも、くれぐれも無茶をされないでくださいまし。あちらの派閥の貴族は何をしてくるか分かりませんもの」
「ええ、ありがとう。大丈夫よ、私たちまで捕まってクレアを心配させるようなことはしないから」
「あの子は良い友人に囲まれたな」
ケイトとエスカティリーナは皆の後ろ姿を見送ってから寮に戻った。
ケイトの部屋で待機してたサリアは二人が入室するなり鍵を閉め、ケイトは結界を張った。
「……まるで子供みたいにあしらわれるなんて、腹が立ちますわっ!」
地団太でも踏みそうな勢いで憤るエスカティリーナを、ケイトはさらりと流す。
「ですが、これでクレアさんの刑が確定してしまいました。もう打てる手は一つのみ。エスカティリーナさん、最後にもう一度確認します。思い止まるならまだ間に合います。……本当に、実行しますか?」
エスカティリーナは挑むように即答する。
「もちろんですわっ!こんなデタラメを見過ごせば、ご先祖様に顔向けできませんもの。とはいえ、憂慮が全くないと言えば嘘になります。
後のこの国がどのようになるのか気がかりですが、どの道このままでは貴族がこの国を腐らせていくのは確実。これもいい機会。荒療治も兼ねるといたしましょう」
ケイトはまっすぐ彼女の目を見つめ、その決意と覚悟を受け取った。
「これからは皆、一蓮托生ですね。それではサリア、すぐに始めましょう」
「御意」
跪いたままサリアは深々と頭を下げると、「失礼します」と言ってからケイトに接近するのだった。
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公判が終わった日の夜のロガール邸では、裁判長とボードルフ卿がワインを手にしながら主人と話していた。
「あの時は助かりました。一瞬どうしようかと思いましたよ」
と裁判長。
「貴方が急に話を流してきた時は本当に肝を冷やしました。今後、ああいった事はやめていただきたいものです」
とボードルフ卿は冗談交じりに言う。
「いやあ、すみません。あそこで裁判長である私が沈黙するのは悪手だろうと思って、つい」
「しかしまあ、ロガール卿が上手くまとめてくれて良かった」
ロガール卿はグラスを置き、椅子に深く腰掛ける。
「なに、王女といえどまだ小娘。ですが、この敗北を機にあの王女は化けるやもしれません。一応は刑が執行されるまでは警戒しておくべきでしょうな」
二人はくゆらせていたグラスを止め、視線だけを動かす。
「そこまであの王女が危険ですと?」
「少し慎重すぎでは?」
「思い返してみれば理解していただけるかと。先の裁判、王女は事前に国王に起訴状が渡っていない事を確認し、訴訟に関する最低限の知識も身に付けていた。
たった十六の娘が、気まぐれで裁判の勉強をしようとは思うはずもない。実際に、この穴だらけの公判の隙を見事に突いた。
何より、友人の為に我々を相手取る気概を持つ彼女が、これで終わろうとは私には思えないのでね」
二人は目を合わせ、ロガール卿の意見に賛同した。
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公判から一週間後、クレアの公開処刑の日程が中央広場の掲示板に大きく公表された。その前でクレアの両親や村長が必死に署名を呼び掛けていた。
運命の日は今日から三日後、日が中天に差し掛かった時に執行される。
ケイトとジャック、珍しく同行していたアーシェスが共に掲示板の文字を追っていた。
「早すぎるよ……。エスカティリーナ様も許してるっていうのに、やっぱり理不尽だよ……」
「そうですね。ですが、私たちにはもうクレアさんを救う手立てはありません。無力なのです」
広場に集まっている人たちに聞こえるようにわざと声を少しばかり大きくして話す。
民衆の同情を買って暴動を起こさせようとでもいうのだろうか。
少し離れた場所でその会話に聞き耳を立てている人物数人。だがケイトたちに話しかけることは無く、むしろ彼らに気付かれないように注意深く目と耳だけで注視している。まるで監視でもしているかのように。
そして珍しくアーシェスが口を出す。しかし、どこか棒読みに感じるのは気のせいだろうか。
「そういえばエスカティリーナ様はどうしていらっしゃるのでしょうね。ケイトさんとあの日からお会いしていないんでしょう?」
「ええ。彼女もショックだったのでしょう。今は授業もお休みになられて、寮に籠ってらっしゃるようです。お部屋に伺っても、どうもあの時の事を思い出してしまうようで……誰にも会いたくないと」
アーシェスの棒読みに構わず、台本通りに答えるケイト。
普段のアーシェスを知っているなら違和感しかないが、それを知っているのはここの二人と学園の教師のみ。どれだけ不自然だろうと、それが演技かどうかを部外者が判断することはできない。
「せめてさ、その日、花を買ってクレアに贈ろうよ。僕たちの気持ちを形にしよう」
「そうしましょう。三人で一緒に選びましょうか」
「それがいい。そうしよう」
そうして寮へ帰る三人。
不審な輩たちはケイトたちが学園の門を潜るまで尾行し、見届けると散開した。
その日の夜、監視していた男たちは自分たちの主人へ昼間の報告をしていた。
ロガール卿にも報告が上がる。
「……という事です」
「ご苦労だった。下がり給え」
「はっ」
ドアが閉まり、一人になる。
「……今日まで不審な行動がないとは、私の杞憂だったか?いや、最後までは油断すべきではないか。まさかとは思うが、監視に気付いているとしたら……」
ロガール卿は窓辺に寄り、夜に覆われた街並みを見下ろす。
「今や国内の貴族の七割方は我々の志に賛同した。国王派や他の弱小派閥が結託したとて、こちらにはそれらを容易く蹂躙できるほどの兵力と発言力が備わった。
逆らうだけ無意味というのは、あの王女であればすぐに行きつきそうなものだが……。念には念を入れて観客の数は制限し、警備の数も増やしておくのが最善か」
報告ではケイトらはクレアを諦めたとあったが、ロガール卿は警戒を緩めなかった。




