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魔力値1の少女はくじけない  作者: 白いレンジ
第一部:波乱に満ちた学園生活

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#25_ライザース襲撃(5)


「ラウマール先生にカザック先生!」



 外のゴルドゲルズ兵をあらかた片付けた二人とおまけの一人は、大講堂の入口で立ち止まって中の様子を確かめた。

 大講堂内のゴルドゲルズ兵たちは教師たちに注意を向けながら二人にも目を向ける。



「なんなんだ、てめぇらは。俺らの仲間が外にいたはずだっ。まさか、全員倒してきたってのかよ」



 話しかけられたラウマールだったが、無視して大講堂に見える者以外に敵が潜んでいないか気配を探る。



「伏兵は……いませんか。では、残りの不埒な輩はこの者たちだけですね」


「無視してんじゃねぇよコラ殺すぞ」


「シェリー先生、学園生たちは無事ですか?」


「え、ええ。なんとか……」



 完全にシカトされたリーダー格は頭に血が上り、周りの兵士に命令する。



「おめえら、コイツを殺せッ!」


「「おおおっ!」」



 大講堂入口近くにいた三十人程のならず者たちが三人に襲い掛かる。

 ここまでずっと二人にエスコートされてきただけの一般兵のアレックスは悲鳴を上げる。



「ちょ、嘘でしょーっ!」


「君は下がっていなさい」


「ここは我々が引き受けよう」



 なんとも頼もしすぎる言葉に全力で甘える。情けないとは自分でも思ったが、身の程を弁えていると言ってもらいたい。出しゃばると逆に二人の邪魔になるのは道中で学習済みだ。

 ラウマールが悠然と大講堂に一歩踏み入ると、すぐに前と横から四人同時に斬りかかって来た。

 刹那で腰を落として振るった横薙ぎの一閃は、雷鳴の如く。



「「があああああっ!」」



 四人が一斉に吹き飛ばされて天井に叩きつけられた。彼らは成すすべなく落下し、床に背中を強かに打つ。



「「かっはっ!」」



 動きの鈍った今がチャンスと、男性教師たちはベルトや上着で落下したゴルドゲルズ兵を縛り上げる。

 ラウマールの動きを見ていたリーダー格は、ラウマールの桁違いの強さに歯噛みする。



「クソが……。こんなバケモノいるなんて聞いてねぇぞ」



 リーダー格の声を無視していたラウマールが問う。



「それで、貴方がたはどこの誰で、何が目的でこの学園を襲ったのですか?」


「こっちを無視しといてそれか?随分と勝手じゃねえかよ、ええ?」


「それはそうでしょう。アポイントもなしに押し入るような無礼者に律儀に応える義理がどこにありますか。それよりも、こちらの問いに答えてください」


「ふんっ……」



 宣戦布告もなしに仕掛けてくる蛮族に、ラウマール達の道理は通用しない。それは分かり切っていた事だったが、一応建前だけでもと聞いてみたが時間の無駄だった。

 リーダー格は無事な仲間と何やら目配せし合い、突然叫んだ。



「行けっ!」



 その掛け声と同時にほとんどのゴルドゲルズ兵はラウマールとカザックに襲い掛かり、二人の視界を埋め尽くした。

 残りの兵士は教師に向かって行く。



「凝りませんね」


「手心など加えてやる必要もないですね」



 袈裟斬り、逆袈裟、横薙ぎ。カザックは習得していた短縮詠唱スキルで、中級魔法や上級魔法を見舞う。

 吹き飛んだ兵士の後ろから次の兵士が波のように次々と襲い掛かってくるが、二人はそれを鎧袖一触で何度も吹き飛ばす。



「わたくしたちも戦いますわよっ!」


「うんっ」



 エスカティリーナはクレアに身体強化魔法を施す。



「ブーストっ」



 だが、何も変化は見られない。エスカティリーナはまさかの不発に焦った。



「こんな時に限って失敗ですのっ?いいえ、そんなわけはありませんわ。もう一回――」


「お姉さんっ、牽制お願いっ」



 既に走り出していたクレアの正面には敵がいた。補助魔法に固執して良い場面ではなくなっていた。



「え、ええっ!」



 ここは上級魔法を狙うより、詠唱に時間のかからない初級魔法や中級魔法で小刻みに突いていくべきか。そう判断したエスカティリーナは殺傷能力の低い魔法を撃ち込み、怯んだ隙にクレアが木剣で倒した。

 これを見たジャックとケイトは勇気付けられた。クレアのサポートはエスカティリーナ一人で充分と思った二人は、魔法で教師たちの援護をし始めた。

 何度吹き飛ばされても起き上がって執拗に襲ってくる兵士たちのせいで、乱戦の様相を呈した大講堂。誰もが次々と襲ってくる目の前の敵に集中せざるを得なくなっていた。

 最早どこに敵がいて味方がいるのか分からなくなった頃、リーダー格の男の声とシェリーの叫び声がほぼ同時に聞こえた。



「もういいぞっ!」


「クレアさんっ!」



 ピタリと兵士の波状攻撃は止まり、不気味な笑みを携えながら後退る。

 何か嫌な予感がする。

 リーダー格までの道が開くと、それが的中していたとすぐに分かった。



「……そういう事でしたか」


「せ、先生……」



 クレアはリーダー格に捕まり、首筋にナイフが突きつけられていた。



「アンタらがどんなに強かろうと、これじゃあ手出しできねぇよなぁ、くっくっくっ」


「彼女を離してっ!」


「離すかよバーカ。さて、これが何だか分かるかな?」



 リーダー格は空いた左手で懐から金色に輝く何かを取り出して見せた。

 それは輪郭のぼやけた鍵のようだった。



「鍵がどうかしたのですか?それよりも、その子を解放しなさい。でなければ」


「でなければ、なんだ?」



 リーダー格はほくそ笑むと、その光る鍵をクレアの胸に突き刺した。

 悲鳴を上げるシェリーとケイト。叫ぶジャックに、声にならない悲鳴をあげるエスカティリーナ。

 カザックがリーダー格に詰め寄ろうとする。



「何をし――」



 だが、その先はクレアの悲鳴にも似た叫びで掻き消された。



「ああああああああああっ!!!!」



 白目を剥いて仰け反り、鍵と同じ色の金色の光がクレアを包む。



「うあああああああああっ!!!!」


「クレアさんっ!」



 シェリーの呼びかけは聞こえておらず、ただ心を浸食してくる何かに抗うかのように叫ぶ。

 が、それもやがて治まると、クレアは放心したように項垂れた。



「クレアっ!」


「クレアさんっ、大丈夫ですか?!」



 ジャックとケイトが心配して声を掛けたが、反応はない。

 代わりに、リーダー格の男が鍵をちらつかせながら説明した。



「こいつはこうやってぶっ刺さしたヤツの思うがままに動かせるって代物だ」



 エスカティリーナが目を見開いた。



「そ、それでは、彼女は……」


「コイツはもう俺の人形だ。で、とても悪い人間の俺たちがやる事といえば……決まってるよな?」



 クレアはくるりと後ろを向き、学園生たちを正面に据える。

 リーダー格はその手にナイフを持たせた。

 教師と学園生たち全員が、同じ想像をした。



「まさかっ」


「やめるんだっ」



 カザックがリーダー格に言葉を投げつける。



「貴様らの目的はなんだ、言ってみろっ!」


「あ?そんなの、この国そのものに決まってんだろ」









 一人学園内を探索していたフードの男はグラウンドに出た。

 つい先程出てきた魔法研究棟を振り返って一瞥する。



「あそこにも無かったか。他の可能性としては……」



 唐突に何かに気付いたように、ふと遠くの一点を見つめて声を出す。



「探すのはあれを片付けてからか」



 フードの男の見据える先、敷地の外から何かが飛来してくる。

 それは一瞬でグラウンドまで届き、一直線に砂埃を巻き上げて止まった。

 フードの男は全く動揺せずに飛来したものに言葉を投げる。



「貴様、何者だ?」


「それはこちらのセリフだ、です」



 土煙が収まって姿を見せたのは、片手を地面に着けたアーシェスだった。

 立ち上がり、不審者に問う。



「町の警報はあんただな、です。何をしに来たです」


「……いや、それよりもその変な言葉遣いはなんなんだ?」


「教師の教えだ、です。どこもおかしくはないです」


「ここの教師は何を教えているんだ……?」



 フードの男はおかしな教育に人の未来を心配しかけた。

 瞬時に、いやいやと頭を振って自分を取り戻す。



「そんなことは私には関係ない。それよりも貴様、ここにある特別な物を知っているか?」


「特別な物?さてな、どんな物か聞かなければ答えようがないです」


「アーティファクト……自己転写の水晶と呼ばれる物だ。私はそれを探している」


「水晶……。ああ、そういえば……」



 虚空を見つめて記憶を呼び覚ます様を見て、フードの男は期待する。



「知っているようだな。それはどこに……」



 アーシェスはふとフードの男に目を向け、訝る。



「何故あんたに教えなければならない、です」


「ちっ」



 焦って急かしたせいで怪しまれてしまったと思い、軽く舌打ちした。

 だが、この短いやり取りの中で感じた事があった。



「(滑稽な言葉遣いに、水晶に心当たりがあると簡単に口を滑らせたり、コイツもしかして……)



 上手くすれば騙せると思った彼は、芝居をうって水晶の在処を聞き出す方針に変えた。



「私はここのトップと仲良しでね。その彼に今日、水晶を借り受ける約束をしていたんだ」



 が、さすがにそこまで馬鹿ではなかった。



「魔王もどきが人間と仲良しであるわけがないだろう、です」






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