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魔力値1の少女はくじけない  作者: 白いレンジ
第一部:波乱に満ちた学園生活

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#24_ライザース襲撃(4)


 大講堂に集まった大半の学園生たちはただ怯え震え、何も考えることが出来なかった。ジャックも恐怖で目が泳ぎ、ケイトはじっと侵入者を見据えていた。

 大勢の学園生の中で、クレアとエスカティリーナだけが静かにいつでも飛び出せる姿勢を取った。

 シェリーが守るように教え子たちの前に出て、男たちを睨む。



「何者ですかっ!」



 ゴルドゲルズ兵たちは女と見るや、下卑た笑いを浮かべて品定めし始めた。



「へぇ……なかなかの上玉じゃねぇか。こりゃあ、後が楽しみだなぁ」


「てめぇは俺の後にしやがれ。いっつも使いモンにならなくなってから寄越してよぉ」


「俺のせいじゃねえよ、女が弱すぎんだよ」


「じゃあてめぇはメスゴリラとしてろ」


「ああん?やんのかこらぁ」



 勝手に仲間割れをし始めそうになった二人を、蛮族の中にいて異様なフードの男が止めた。



「やり合うのは勝手だが後にしろ。まずは仕事をこなせ」


「ちっ、わあったよ。さっさと終わらせるとすっか」



 だが、そう言う割には誰も動こうとはしない。

 不気味な静けさが耳を劈いた後に、ゴルドゲルズ兵の後ろ、すなわち外から砂を擦るような音が聞こえて来た。

 ゴルドゲルズ兵は左右に分かれて入口を開ける。

 そこから入って来たのは、武器を持った二十人前後の一般人。だが不気味な事に、全員が無表情。



「はあ~、半信半疑だったけど、まさか本当に操っちまうとはな」


「操っているわけではない。攻撃目標を指定しただけだ。貴様らがこやつらに攻撃すればその対象に加わるぞ」


「おっかね。でもま、こいつらに任せておけばすぐ終わるだろ。なにしろこいつらは……」



 武装した一般人は、狂気に目を血走らせて動物の様な雄たけびを上げた。



「「ぁぁぁああああっ!」」



 無差別に襲い掛かってくる狂人たち。



「先生方っ、子供たちをっ!」



 すぐにシェリーは中級魔法を唱え始めたが、ゴルドゲルズ兵の声が被る。



「俺らに利用された、ただの一般人なんだからよ」


「っ!?」



 たった一言だが、それは戦意を削ぐには十分だった。

 シェリーは躊躇って詠唱を止めてしまい、振り下ろされた斧を飛んでかわす。

 身を案じたクレアが叫ぶ。



「先生っ!」


「大丈夫よっ、それよりあなた達は自分の身を守る事を第一に考えてっ!」


「でもっ」


「……う……うぅぅわあああああああああっ!!」



 躊躇わずに殺し来る者たちを見た学園生らは、すぐに理解が追い付かずに数秒硬直した。それからようやく恐怖に駆られて動き出すが、ステージの奥へ奥へと我先に逃げ出す。

 シェリーと他の教師たちは学園生たちを守るべく、体術でなんとか凌ごうとする。敵はただ操られているだけの罪のない国民。どうしても気が引けてしまい、魔法の使用を躊躇してしまう。

 素手で戦う教師たちを見たクレアは、飛び出すように大講堂の倉庫に向かった。

 突飛な行動にエスカティリーナたち三人は反射的に呼び止めようと声を掛ける。



「ちょ、クレアさん?!どこへっ」


「動いたら危険ですっ。戻ってきてください!」


「狙われるよっ!?陣形もどうするんだよっ?!」



 クレアは止まらない。

 その間にも教師たちは学園生たちを守るように戦っている。が、気持ちで既に押されてしまい、学園生たちに凶刃が届くのも時間の問題だろう。

 フードの男が予定通りに事が進むのを確信すると、隣のゴルドゲルズ兵に一言告げた。



「ここは問題ないだろう。私は別行動を取らせてもらう」


「おう。それにしてもアンタに欲はないのか?目の前にご馳走があるってのに」


「はて。私こそが欲の塊だと思うがね」



 言い捨てて大講堂から出て行った。



「……さっぱり分からんね」



 戦う教師たちに、意味ありげにこの場を去っていく男の姿を見る余裕はなかった。

 振り下ろされた斧を受け流し、腹部に掌打を打ち付けた教師が苦言を呈す。



「シェリー先生、とてもではないですが我々教師だけでは手が足りませんよっ。利用されて気の毒だとは思いますが、子供たちを第一に考えるならばここは心を鬼にしなくてはっ」


「っ」



 ちらりと背後に目を遣ると、そこには怯え震える学園生たち。

 一年生は仕方がないにしても、二年生は多少は戦う術は身に付けているはずなのだが、幼い子供のような不安な目でこちらを見ているだけだ。

 こんな体たらくで卒業しても、しばらくは騎士団やギルドでお荷物になるだろう。もしかしたら、これまでの卒業生らも今でこそ優秀と言われてはいるが、最初はそうだったのかもしれない。

 シェリーたち教師らが目指していたのは、卒業後すぐに即戦力として活躍できる人材の育成だったはずなのだが。



「みんな……」



 戦う覚悟を教えられてこなかった学園生たちは、今や単なる保護対象にしかなっていない。

 赤子を守るには、刃を向けてくる相手が脅迫されていようが何だろうがなりふり構ってはいられない。



「仕方ありません、こちらも全力で――」


「先生たちっ!受け取ってっ!」



 溌剌とした女子学生の声がシェリーの声に被さって注目を集めた。

 そこにはクレアがたくさんの木剣を抱えて立っていて、教師たちに向けて放り始めた。



「クレアさん?!あなた、どうしてっ」


「木剣持って来ましたっ!少しは戦いやすくなるかと思ってっ」



 クレアの投げた木剣を受け取った教師が、力強い笑みを浮かべる。



「よくやったっ!この数を素手では流石に相手にしきれないと思っていた所だっ」



 木剣を受け取った教師たちは戦況を巻き返し始める。先ほどのままでは、罪なき人たちの命を奪うしかないと思っていたので本当に有難かった。

 足や手、時には加減して脳震盪を狙い、敵の侵攻を打ち止めていく。



「「ああああがああああ」」



 元々そこまで数が多くなかった狂人たちは、獅子奮迅の活躍をする教師たちの手によってあっという間に無力化された。



「「ああああぐうううううう」」



 意味を成さない声がそこらじゅうで上がり、地を這う狂人たちは意味なく手や首を上げ下げする。

 ただ、攻めてきた時とは違って声に感情が乗っていなかった。

 教師たちはほんの少しだけ緊張を解く。



「諦めてくれた、と思っていいのだろうか」


「分かりませんが、まだ終わりではありませんよ。本命が控えてます」



 ゴルドゲルズ兵の一人が、狂人を倒した教師たちを称賛する。



「いやあ、まさかただのセンコーがここまでやるとはねえ。ちょーっと甘く見過ぎてたかもしんねぇな」



 男性教師が反応した。



「伊達にこの学園の教師を任せられているわけではないのでね。そこらの騎士よりかは強くないとやってられないんですよ」


「それはそれは。だけど忘れてもらっちゃあ困るな。俺らはそのお強いセンコー十人ばかしをぶっ倒してアンタらの目の前にいるってことをよ。こっちはまだ五百人以上は残ってるんだぜ?

 そこらの騎士より強いだけじゃあ、この差はどうにもなんねぇよなあ」


「くっ……」



 せめてこの場にゼストがいれば……。

 全ての教師がそう切願した時、大講堂の外が何やら騒がしくなった。

 ゴルドゲルズ兵は眉を顰めて首だけ動かし、仲間に訊く。



「何だ?後ろで何が――」


「うわああああっ!」



 続く言葉は後方からの叫びで中断された。

 騒がしく何かと戦っている様子なのは伝わってきた。不可解なのは、外から聞こえてくるのはゴルドゲルズ兵たちの叫び声だけという点。



「こいつらっ!」


「たった三人だ!取り囲んで潰せっ!」


「クソがっ!近寄れねえっ!」


「駄目だ、突破されるっ!」



 一瞬の静寂。破壊された入口から、騒ぎを起こした者たちが大講堂内に姿を見せた。



「無駄に数が多かったですが、何とかなりましたね」


「さすがはラウマール先生。先生のおかげでここまでたどり着けました」


「いやいや、カザック先生のサポートあればこそですよ」


「……ははっ、俺、何の役にも立ってない。何なんだ、この二人は……」



 理事長室からここまでの敵を、一人は剣圧だけで人を吹き飛ばし、一人は手当たり次第に上級魔法をぶっぱなして来た。アレックスは肩を縮こませて二人が作った道をとぼとぼと歩いて来た。






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