#22_ライザース襲撃(2)
アレックスはゼストに託された通りにフォスノウス学園の門を叩いた。
「ラウマール教諭はいらっしゃいますかっ?!ゼスト殿より伝言を預かったアレックスと申します!聞こえておられたら応答願います!」
ラウマールは理事長室でその言葉を聞いていた。
魔法でロックされた門には、周囲の物音を理事長室と教員室に伝達する魔法も同時に展開される仕様になっていた。
そして物音が届くのなら、その逆も然り。
「私がラウマールですが、伝言とは?」
「教会に向かっていたゼスト殿は、王都門の状況を私から聞いて王城へ向かわれました。それが一つ。もう一つは、その王都門での戦いについて詳細を共有せよとの事です」
ゼストが教会に行くつもりだったというのは、学園の教師たちしか知らない事実。それを知っているということは、彼は間者の類ではないと考えていいだろう。
「……分かりました。詳しい話は中でお伺いします」
ラウマールはデスクの上に浮いているいくつかの小さな魔法陣の一つに触れて、正門の魔法壁とロックを解除した。
「どうぞお入りください」
「感謝します」
門が開き、アレックスを迎え入れ、そして門は魔法でロックされて魔法壁は張り直された。
そして同時に、彼以外の何かも入り込んだことに誰も気付いていなかった。
理事長室にアレックスを迎え入れ、情報を共有した。王都門の現状について知ったラウマールとカザックは僅かに眉間を寄せる。
「人間……しかも蛮族と来ましたか。しかし数が多い。加えて、姿を隠蔽できるとは……魔族に操られた人間か、純粋にこの国を奪いに来たどこかの国か」
「そんな魔法があるのでしょうか?」
「さて、その辺はどうなのでしょう、カザック先生」
専門家の意見をと話を振られたが、彼にも心当たりはないようだ。
「私も初めて聞く魔法です。ひとつだけ言える事があるとすれば、火水風土のどれでもないのは魔法をかじった事のある人間なら誰でも分かる事。とてもお役に立てそうもありません」
「では、未発見の属性という可能性は?」
「それは……可能性としてはないわけではないでしょうが、今まで四属性以外を使える者がいたという話は聞いたことがありません。それがここにきて誰かに発現したというのは……些か考え難いかと」
「四属性以外、ですか……」
僅かの間沈黙が生まれ、アレックスは気まずくなった。それに彼が頼まれた仕事はもう終わっていたので、ここに留まっている意味はない。
「あの、それでは私はこれで――」
彼の言葉を聞いていなかった二人は、同時に閃いて声を上げた。
「アーシェス・アルシェイドっ」
「へっ?」
「彼なら何か知っているかもしれません」
「ええ、早速ここに呼びましょう」
ラウマールはデスクの魔法陣の一つに触れながら、そこに向けて発声した。
「一年Fクラスのアーシェス・アルシェイド。一年Fクラスのアーシェス・アルシェイド。今すぐ理事長室に来てください」
その放送を大講堂で聞いていたシェリーは、非常に困った顔になった。
「嘘でしょう、どうしていない時に限って呼び出しなんか……。誰か、彼の居場所知らない?」
クレア、ジャック、ケイトは顔を見合わせて揃って首を振る。
「アーシェスを昼休みで見かけたこと一度もないです。学食にいたのかも?」
「だとしても、さっきの非常召集の放送を聞いていれば大講堂にいてもいいはずなのに……。でも、どこにもいないわ。他に心当たりはない?」
思い付きのようにジャックが言ってみる。
「じゃあ、学園の外にいたんじゃないですか?」
その言葉にシェリーは、なんでそんな事を、と理解できない素振りを見せかけて止めた。
「……彼なら十分にあり得るわね」
まさか冗談を真に受けられるとは思わず、自分で言っておきながら疑う。
「学園の外に出てどうするんですか?まさか、わざわざ外食しには行かないと思いますけど」
「……でも、放送を聞いてもここに来ていないのは事実。かくれんぼでもしてるなら話は別だけれど」
三人は気まずそうに顔を見合わせた。
「……アーシェスに私たち以外の友達がいるとは思えないんですが」
シェリーも本音ではそう思っていたが、流石に言葉に出すわけにはいかない。
「……まったく、どこにいるのよ」
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王都は蛮族の襲撃により騒然としていた。
アラートにより住民は建物内に避難をしていたので一般人に被害は出ていないものの、増援で駆け付けた兵士たちとの戦闘で建物に傷が出来たり大きく揺れたりしている。
この王都防衛戦は、まだ態勢を整えられていなかった王国側が隙を突かれた形だ。薪を少しずつくべるように各所から兵士の増援を余儀なくされ、劣勢を強いられ続けている。
ゴルドゲルズの猛進を止められず、半刻もしないうちに中央広場まで攻め込まれてしまった。
「そんじゃあ手筈通り、俺の部隊は城に向かうぞ。馬車と残りヤツはアイツんとこに行けッ!」
「「おおおおおっ!」」
させてなるものかと、王城を守るように立ち塞がる兵士たち。突撃してくるゴルドゲルズ兵を迎え撃つ。
「死んでも奴らを通すなっ!王を、国を、家族を守り切れッ!」
「「おおおおおおっ!」」
ところが、意気を上げる兵士たちの目の前で不可思議な行動を見せるゴルドゲルズ軍。
国王の首を獲らんと王城への道を野獣の如く暴れ回る一団と、脇道へ逸れてどこかへ行く一団に分かれたのだ。
王城へたどり着く道は正面にしかなく、目前のファナリース兵を突破する以外に道はない。別れた一団はどこへ向かおうというのだろうか。
こんな時に無意味な行動を取るとは思えないが、そちらに構っていられるほどファナリース側に戦力の余裕はない。
悪い予感しかしないが、何を措いても国王にその凶刃を届かせるわけにはいかないので捨て置くしかなかった。
「一体何が狙い……」
兵士の一人が全てを言い切る前に自身で気が付いた。
「っ?!あの先はフォスノウス学園……。まさか学生たちを狙うつもりかっ!」
気付いたからといって、どうにもできない。
中央広場で繰り広げられる戦いは、ファナリース側の増援が続々と到着して苛烈を極めた。
二台の馬車を率いた一団は、一度も戦闘することなくフォスノウス学園の正門前に到着してしまった。
一際体格の良い蛮族の一人が一歩前に出て、高らかに声を上げた。
「さあ、門を開けてくれッ!宴の始まりだ!」
突然、野蛮な声が理事長室に響いた。ラウマールたちは一瞬驚いた後に、その者が例の敵であると確信した。
アレックスが、理解できないと戸惑う。
「どうしてここにっ?!ここには学生たちしかいないのに……」
「……この学園には貴族の子供たちが多数通っています。人質としては申し分ないでしょうね」
「くっ!」
憤りを隠せないアレックスとは対照的に、教師二人は思考を巡らせていた。
「正門裏門ともに鍵は掛けてありますし、魔法壁も正常に機能しています。ここの守りは万全なので無視していても問題は無いでしょうが……」
「姿を消す魔法以外の未知の魔法が使われないとは限りません。一応、学生や教師たちにも臨戦態勢を取らせ――」
「良い読みだが、警戒が足りなかったな」
理事長室内に三人以外の男の声が聞こえた。
ラウマールたちの背筋に冷や汗が伝う。まさか、そんな……。
「何者ですか!」
それが答えだと言わんばかりに、デスクの上の魔法陣が一つ一つ砕け散っていく。
ラウマールは咄嗟に剣を抜いて何もないであろうデスクの上を斬る。やはり感触は何もない。
次の瞬間、窓ガラスが盛大に外側へ破られた。三人は振り向くが誰もいなかった。
「まさか、すでに学園内に入り込んでいたなんて……」
「逃げられてしまいましたか」
「ラウマール先生っ。魔法陣が全て破壊されてしまいました。これでは門が……」
「もう、こちらの声が校舎全体に届けられません。至急、私たちも大講堂へ向かいましょう。アレックス君、君も来てくれると助かります」
この短いやり取りの最中でアレックスも肚を括った。
なり行きで巻き込まれてしまったが、こんな状況を放っていくわけにはいかない。
「はっ!」
二人の教師はアレックスに頷いた。ラウマールとカザックの後ろをアレックスはついて行く。
年を召したとは思えないほどの、下手をすればそこらの兵士を凌ぐラウマールの健脚にアレックスは舌を巻く。
「(このご老人、ただ者ではないっ)」




