#17_結果発表!
「では、結果を発表する」
全校集会のように整列した学園生たちを前に教師陣が並び、中央の男性教師が手元のバインダーを見ながら読み上げる。
「ボール回収数、二つ。ペイシー・ギャレッツ、モンドル・ダンカー、リヒャルド・ゲイツ。前へ」
「「はいっ」」
呼ばれた三人は列から外れて教師の前に並ぶ。
「今回のオリエンテーリングで優秀な成績を修めた君たちには、学食を三日分無料で使用できるチケットを報酬として用意した。受け取りたまえ」
男性教師の隣にいた女性教師がペイシーたちにチケットを配る。
それを嬉しそうに受け取り、仲間と喜びを分かち合う。
三人の手にチケットが行き渡ると男性教師はペイシーたちを戻らせ、次の者たちの名前を読み上げる。
「ボール回収数、同じく二つ。カトリーナ・ウェスタル――」
そうして次のチームも前に出てチケットを受け取って列に戻る。
「ボール回収数、四つ。ベルナルド・ガーランド、マイアス・フェルヴス、ヒューゴ・タルメア。前へ」
「「はい」」
前の二チームに比べて、返事に活気がない。原因はクレアというのは言わずもがな。
彼女さえいなければ、トップはベルナルドたちに違いなかったのだから。
「第二位の君たちには、学食一週間分の無料チケットが贈られる。受け取りたまえ」
女性教師から受け取ったチケットを、まるでゴミでも見るかのような目で見る。
すぐに興味すら失い、チケットを持った手をだらりと下げて教師が戻れと言う前に踵を返した。
その態度に教師は呆れたが、気を取り直して第一位のチームを読み上げる。
「……では、第一位。ボール回収数、十個。クレア・シールズ、ジャック・パーチアン、ケイト・ランシス。前へ」
「「はいっ!」」
四大英雄のと呼ばれるほどの血統であるベルナルドを押さえて、平民のチームが一位を取った。
それを面白く思わない貴族の子息らは舌打ちや腰に手を当てたりと、あからさまな態度を見せる。
半面、少数派の平民出身の学園生たちの目には小さな英雄のように映った。しかし、貴族たちの目を恐れてその気持ちを表に出すことはできない。
故に、クレアたちを歓迎しない雰囲気が出来上がってしまった。ジャックが弱気を見せてしまう。
「……一位になれたのは嬉しいけど、こんな風に見られるならいっそボールなんか――」
「そんな卑屈になっても良い事ないよ?周りがどう見ようと、精一杯頑張る。じゃないと自分を誇れないよ」
「……クレアは強いな」
教師たちの前に出る直前にそんなやり取りをしていたが、ちょうど教師にも聞こえた。
こういう場面で私語は褒められた行為ではないが、教師は咎めず小声で話す。
「クレア・シールズの言う通りだ。人の目に遠慮しては、一体何のためにこの学園に入ったのか。我々教師は、常に上を向き研鑽を重ねる君たちをより高みへ押し上げるのが仕事だ。余計な事は無視しなさい」
「先生……」
教師は他の学園生には分からない程度に微かに頷き、報酬の話をする。
「君たちには、学食一か月分の無料チケットが贈られる。受け取りたまえ」
読み上げ役の教師の隣に立っていたシェリーの手からチケットが手渡される。
「よくやったわ、あなたたちっ。というより、平民のチームが一位っていうは前代未聞なんだけどね」
笑顔でウィンクする。
自分たちのやった事が思った以上に大きな事だと聞いて、ケイトとジャックは嬉しさと興奮に満ちた顔で見合う。
「そんなっ、本当に僕たちが?」
「やりましたねっ」
クレアは一人感慨に浸れずにいたが、水を差すのも嫌だったので喜んでる二人を見て喜ぶことにした。
「(ん~、あんな簡単なので前代未聞とか言われてもなぁ。村の人たちが参加したらどうなることやら。でもま、二人が嬉しそうならそれでいっか)」
教師はクレアたちを戻らせると、締めくくりの言葉を述べた。
「諸君らは疑問に思ったことは無いか?どうして魔法を回避する魔道具を捕まえなくてはならないのか」
ただの授業の一環だと思って、そこまで深く考えていなかった。
終わってから教えられるこのオリエンテーリングの持つ意味は、どのようなものなのかと静かに聞き入る。
「魔物や魔族の中には、魔法を無効化する体質の個体が稀に存在すると言われている。ということで、疑似的かつ触り程度ではあるが、それに相対した場合の戦い方を経験してもらった。
今回相手にしたボールは攻撃も反撃もしないが、本物は殺しにかかってくる。オリエンテーリングを経験する前と後ではその違いにピンとは来なかっただろうが、今は軽くでも想像は出来るようになっているはずだ。
そしてその少しの違いが生死を分けることもある。今日の授業を真面目に取り組んだ諸君らは生き残れる確率をゼロから1に上げた。たった1と思うな。その1は諸君らが思うより遥かに大きく、そして重い。
こうした研鑽の積み重ねが、己をより高みへを導く。
このオリエンテーリング以外でもこの学園で学べる事は多いはずだ。卒業後は騎士になるか冒険者になるか、はたまた他の道に進むかは君たち次第だが、ここで学んだことが大きな財産になるのは卒業生がその身で示している。
胸を張って彼らと肩を並べられるよう、今後も一層励むように。
長くなったが、これで終わりにする。解散」
「「ありがとうございましたっ」」
そうしてオリエンテーリングは終了した。
翌日の昼休み。食堂。
クレアたちはいつものように半券とランチを引き換えるが、職員がやや興奮気味に話しかけてきた。
「君たち、私たちの間でも噂になってるよ。貴族の子たちに勝ったんだって?」
「勝ったっていうのとは少し違うと思うけど、オリエンテーリングで一番になったよ」
「九割クレアのお手柄だけどね」
ジャックが誇らしげに笑いながら付け加えた。
職員は軽く体を仰け反らせ驚くが、すぐに得心したように頷く。
「凄いな、それは。いや、だけど君ならあり得るかもな。あの時の……ランチを用意出来なかった私たちを叱ってくれた君ならばな」
「どういう事ですか、それ」
まだ一週間も経っていないがクレアの中ではもう笑い話に落ち着いていて、わざとむくれた顔で抗議した。
職員はまだ少し引きずっているようで苦笑いする。
「すまない。あの時の君は、まさに大人顔負けだったからね。あれほどの行動力を示せる子は、まずいないだろう。そんな君だからあり得る、と言ったんだ」
クレアはそれをどう捉えたら良いか分からず、ケイトとジャックに訊いた。
「……よく分かんないけど、これって褒められてるの?」
二人は、何を馬鹿な事を聞いているんだと呆れた。
「当たり前じゃないか。逆にどこに疑う余地があるのか分からないよ」
「クレアさんはもっとご自分の周囲からの評価に敏感になってもいいと思いますよ」
多少たじたじになってクレアは職員にお礼を言う。
「そ、そうなんだ。えっと、ありがとう」
「ははっ。ま、何でもいいけど、聞くところによると一か月分の学食チケットが貰えたらしいじゃないか。早速明日から使う予定か?」
職員の何気ない質問に、三人は難しい顔になって言い淀む。
「それなんですけど、どうにも、ねぇ?」
「ええ。ただでさえ学食に庶民が足を踏み入れれば悪目立ちしてしまうというのに、良くも悪くも今の私たちはそれでなくても充分に注目を集めてしまっていますから」
「なんでお昼食べるだけで気を遣わなきゃいけないんだろうね?」
「なるほど……」
職員は察したようで、腕を組んで渋い顔をする。
「……これは知り合いの学食勤めのコックから聞いた話なんだが」
「なんですか?」
「どうやら学食には一種の儀礼的なものがあるらしいんだ」
「儀礼、ですか?」
「ああ。学食で平和に過ごしたければ、学園内で実家の身分が一番高い『とある学園生』に挨拶をする。それを怠れば学食を利用できない……わけではないが、他の貴族たちから軽い嫌がらせみたいなのを受けるようだ。
躓くフリをして飲み物を被せたり、わざとテーブルにぶつかって威圧したり、それこそ聞えよがしに陰口を言うとか。普通の貴族ですらそんな扱いだ。もし学食を使うなら、それだけは忘れないようにした方が良い」
とんでもなく陰湿で面倒くさい。そんな目に遭うかもしれないのなら、チケットを無理に使う必要はどこにもない。
「うわぁ、そんなことして何が楽しいんだろうね。関係ない人の事なんか放っておけばいいのに」
「僕はそこまでしてこのチケット消化しなくてもいいや」
「そうですね。面倒事は避けるのが無難です」
報酬で貰った学食チケットは、期限が切れるまでそれぞれの部屋の金庫に寝かされるのだった。




