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魔力値1の少女はくじけない  作者: 白いレンジ
第一部:波乱に満ちた学園生活

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#11_昼食がないッ!(2)・ところにより……


 サラーシュ王国・謁見の間では、先日この国を手中に収めたゴルドゲルズの王・ガーヴが筋骨隆々としたその巨躯を玉座に預けていた。

 隣には全身を黒衣と外套に包んで覆面で顔を隠した男が立っており、そして正面には見目麗しい褐色の肌の女性たちが両手を縛られて跪かされていた。



「これだけいると、流石の俺でも今夜だけで全員の相手はできそうにねえな」


「贅沢な悩みで結構ではないか」


「まあな。それもお前ぇのおかげだ。まさかここまでとんとん拍子に進むたあ、大したものだぜ」


「あれくらいは造作もない。それで、私の目的の物は見つかりそうか?」


「いや、城のヤツら誰も口を割りやがらねえ。本当に知らんだけかもしれねえが」


「王族はまだ生かしているのか?」


「一応な。何かに使えると思ってな」


「では、王子を使って国王を揺さぶってみるか。使わせてもらうが、いいな?」


「勿論だ。好きにやってくれて構わねえよ」



 黒衣の男は並べられた女性たちを一顧だにせず謁見の間から出ていった。

 ガーヴはその後ろ姿を見送ると、小さく眉間に皺を寄せて呟いた。



「こいつらに見向きもしねえで出て行くってのも男としてどうかと思うが……あいつ、本当に何者だ?」





 黒衣の男は地下牢から十歳になったばかりの王子を連れ出し、国王の牢屋に入った。

 まだ四十前半の国王はその目に活力が漲っていて、黒衣の男を鋭く睨みつけた。



「貴様、息子に何をするつもりだっ!」


「アーティファクトがどこにあるか教えてもらおう」


「アーティファクト?なんだ、それは」


「素直に言った方が息子のためだ。白を切るならその度に指を一本ずつ切り落とす」


「っ!」


「貴様っ!」



 想像するだけで発狂しそうになることを言われた王子は、顔を悲痛に歪ませて必死に首を振って嫌だと言う。

 国王は怒りに口を強く引き結び、黒衣の男を目で殺さんとする。



「息子は関係ないだろうっ!用があるなら私だけで十分のはずだっ」


「誰も口を割らないのなら、こういう手段に出るしかない。もう一度訊く。アーティファクトはどこだ?」



 黒衣の男は、王子の指に短刀を這わせた。



「くっ……!」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 王城での会議の翌日、理事長室に教皇が訪れていた。用件は無論、昨日の会議の話を伝えるためだ。

 応接用のテーブルで話を聞き終えたゼストは神妙な顔つきになった。



「話は分かりました。そういう事であれば、微力ながら私も力添えさせていただきます」


「そうですか、それはとても助かります。陛下にはそのように伝えておきましょう」



 胸を撫で下ろしたのが声で分かった。だが、ゼストの話はそれで終わっていなかった。



「ですが、どうやら会議に出席された方々は私を過大評価しています。勇者という称号を授与されはしましたが、私は何百人も相手できるほど強くはありません。魔物は人間の軍隊のように統率もされていなければ、数にも雲泥の差があります。魔物なら数十体、人間であれば十数人が関の山。

 私が過去戦い抜いてこられたのは、共に戦う仲間がいればこそ。私はあの旅の中で、勇者とは一人では成り立たないと強く感じ入ったのです」


「しかし、貴方の強さは本物では?でなければ、前任の教皇が称号を与えなどしなかったはずです」


「確かに、前の教皇様の目には正しく私の力が映っていたのでしょう。ですが、巷では魔王を打ち果たした勇者というイメージが独り歩きをして、本来の私の実力を知っている者がどれだけいるか……。私も人の身である以上、皆が思い浮かべているような人間離れした力は持っていません。

 実際に泥臭い私の戦いを見た事がある者は、ほとんどいないのです。ご無礼を承知で申すなら、猊下もご存じないはずです」



 勇者という絶対強者のイメージだけで目の前の男を見ていたと気付かされたのは、教皇にしてみれば目から鱗だった。

 己の無知蒙昧さに素直に反省した。



「……仰る通り、これまで私は貴方の戦う姿を見た事は一度もありませんでした。市井の者たちもそうでしょう。申し訳ありません、過度な期待を押し付けてしまっていたようです」


「いえ、訂正してこなかった私も悪いですから。とにかく、一兵士としてカウントしていただくのなら異存はありません」



 教皇は難しい顔をして、すぐに頷けなかった。



「貴方と話せたことで、私の中の誇張された勇者像はなくなりましたが、国中に広まっている勇者のイメージを払拭するのは大変に難しい。それでも認識が正されたその時は、失望の象徴としてこの学園が槍玉に上げられる可能性が高い。

 話を持ち込んでおいて今更ですが、学園を思うのであれば作戦には参加しない方が良いでしょう」


「……承りはしましたが、正直、見極めが難しいところです。作戦に参加せずこのまま若者を育てていくべきか、それともここが理事長としての役割の潮時というものなのか」



 ゼストは僅かに俯いて深刻に考える。

 それを見た教皇は、宥めるように言葉を掛けた。



「まだじっくりと考える時間はあると思いますので、すぐに答えを出す必要はないでしょう。今回の件に関しては、学園運営との折り合いで回答まで時間がかかりそうだと、他の方々に説明しておきます」


「助かります」



 だが、もしかしたら本当にここらが潮時かもしれないと思うと、ゼストの顔は晴れなかった。

 そういえば、とあまりにも突然な話だったので忘れてしまっていたが、ふと水晶の事を思い出す。



「そうだ。教皇様、お預かりしているアーティファクトについてなのですが、調子を診てはいただけないでしょうか」


「何か不具合でも?」


「というより、不具合が起きているかを調べていただきたいのです。少々お待ちください」



 そう言ってゼストは、扉の真下にある不自然な絨毯の僅かな切れ目に鍵を差して回す。

 すると、理事長室の壁に魔法陣が浮き出て回転し、何もなかった壁に扉が現れた。

 教皇は嘆息した。



「ほう。この仕掛けはなかなか……」


「まさか扉の床に鍵穴があるとは誰も思わないでしょう。今、お持ちいたします」



 ゼストは扉の先の小部屋から水晶を持ち出して来て教皇に渡した。

 上下左右からつぶさに見て、それから水晶を返した。



「どうですか?」


「特に傷が付いていたり様子がおかしい箇所は見当たりません。正常です」


「そうですか、ありがとうございます」


「何かあったのですか?」


「いえ、そういうわけではないのですが。とある者ののステータスで気になるところがあったので」


「ふむ……これ以上は私の出る幕ではないようですね。それでは私は戻るとしましょう」


「門までお送りします」



 水晶に不具合はなかった。それが返って不可思議さを強くさせるのだった。







 グラウンドでは一年生たちが集められ、一週間後に控えたオリエンテーリングの説明を受けていた。



「三人一チームを組んで、学園の敷地内にある森の中に放った魔法具を探し出し、回収するのが目的です。魔法具は全部でニ十個。スタートは全チーム同時で、競争してもらう事になります」



 競争と聞き、意気込む者もいれば尻込みする者も。



「別チームの魔法具回収の妨害は認めますが、奪取は禁止。そして当然の事ですが、学生同士の戦闘も禁止です。違反した場合は、即退学処分とします」



 退学という一番重い処分が下ると聞き、時が止まったかのように途端に静かになった。



「この学園に在籍している皆であれば、その理由は分かりますね?では、チーム編成は三日後に発表します」



 「理由は分かりますね?」と敢えて説明しないところが妙に怖く、厳しい。大袈裟ではなく、事実として前例があったのだと強く言い含められていた。

 なぜか、ベルナルドたちは小さく舌打ちした。



「身の程を弁えさせる絶好の機会だと思ったんだけどな……」


「だけど、妨害が許されているのなら……」


「ああ」



 怪しい笑みでクレアを見るベルナルドたちだった。





 昼休みの食堂。

 クレアは三度途方に暮れていた。



「うそでしょ……。こんなに私だけ続くのっておかしくないですか?」



 二度あることは三度ある。

 とはいえ、何かあるのではと疑念を抱くには十分な回数だ。

 職員は食堂関係者たちに注意をしたと言っていたが、もうそれを鵜呑みにできるほどの信用はかなぐり捨てた。クレアもお人好しではない。

 そしてクレアは未成年らしからぬ行動に出る。



「どのタイミングで私のご飯が忘れられるのか調査させてください」


「調査?というと、どうするんだ?」


「まずは――」



 そこでケイトとジャックが来て、クレアの真剣な様子にまたかと察する。



「……三度も、ですか?」


「ちょっとこれは酷いね……」


「二人とも丁度いい所にっ」



 何が丁度いいのかと目をパチクリさせる二人に、まずは証人になってもらう。



「今朝私が出した明日の分の昼食の半券、そちらにまだありますよね?」


「あ、ああ。今朝分のものは事務所に保管してあるはずだが……」


「じゃあ、それをこれから見せてください。そして、それが他の人と同じ場所にあるのを確認します」


「……本当であればスタッフしか入れないんだけど、仕方がないな」


「ってことで、二人にもその証人になってもらっていいかな?私だけだと、また忘れられた時に強く出れないから」



 二人は快諾した。



「そういう話ならもちろんさ」


「ってことで、案内してください」



 職員は食堂を出た先の事務所に三人を案内し、今朝提出された半券をまとめたバインダーをクレアに手渡した。



「これが明日の分だ。確認してくれ」



 クレアは一つずつ半券を捲って確認していくと、クレアの半券が確認できた。



「ここに確かにありますよね。みんな、確認をお願い」



 ケイトとジャック、職員は確かにそこにクレアの明日の昼食チケットの半券があるのを見る。



「うん。今の時点ではまだあるね」


「問題は、明日のお昼までの間のどこで紛失するか。そして、どのタイミングで私の分が用意されなくなるのか」



 職員はクレアのその物言いに困惑した。



「明日も君の分が無いと決めつけているようだが……きちんと用意させるよ」



 クレアは半目になって冷めた態度で反論する。



「その言葉は昨日と一昨日も聞きましたが、どうしてこうなってるんでしょうね?」


「それは……」



 言い訳できない程に正論。職員は黙ってクレアの言葉を受け容れるしかなかった。

 そして、他にも確認すべきことがあった。



「それから、明日の昼食を作る方は今日は来られますか?」


「え?それを聞いてどうするん――」


「三度もこんな仕打ちを受けて、私がそれでも大人しく待っているとでも?あらかじめ釘を刺して、絶対に忘れないようにしてもらいます。もし忘れたら、学園に報告して押しかけてでも学食用の昼食代金をいただきます。

 ここまで言えば、私という存在を嫌でも忘れないでしょうからね」



 ジャックは感心した。



「なるほど、頭良いな」


「それで、いつ来られるんですか?」


「いつも通りなら、材料と在庫のチェックのために夕方頃に来ると思う」


「なるほど。では、また夕方に」



 本当に今年で十六の少女なのか?と疑わずにはいられない堂々たる姿勢に、ケイトとジャックだけでなく、職員までも呑まれていた。






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