第8話
繁華街近くの交番で、新人警官が無線対応する。切迫した声を受話器越しに聞きながら、鼻をほじる新人警官の姿は、出来の悪いドラマのワンシーンの様に、堂に入っていた。
適当な相槌をしながら行けたら行くスと、信じられない暴言を吐いて無線を切った新人警官は、隣でガンプラを組んでいる先輩警官に声をかけた。
「先輩いいっすか?なんかいつものやつ、きてますけど」
新人の呼びかけに顔を向けることなく、先輩警官はピンセットを動かしている。
「はぁ?馬鹿かおまえ、見りゃわかんだろ。本官は厳正な職務中だろうが」
ガンプラがもうちょいで完成なんだよと、先輩警官は顔パーツにシールを貼ろうとしていた。かれこれ20分近く、シールを貼ろうと悪戦苦闘している。その手はアル中で震えていた。
酒の臭いが、離れた席まで漂っている。新人警官が私物のスマホを弄りながら、ダルそうに苦言を呈した。
「そうやってこないだも通報無視したじゃないすか。また署長にバレたら、今度こそ首っすよクビ」
「うっせえな、じゃあテメェだけで行けや。俺に飲酒運転させる気か?」
なんで勤務中に飲んでンすかと笑う後輩に、馬鹿野郎、なんで働かなきゃならねえンだと先輩は返した。
繁華街の交番だけあって、日に数度は出動がかかる。大半は酔っ払い同士の喧嘩などだが、ここ最近は半グレ案件が激増している。百木・鬼島は抗争によって、ほぼ壊滅した。その空白地帯に半グレがシノギを始め、結果的に犯罪件数が急増したのだ。
組織としてのヤクザのように、芋蔓式で検挙できない半グレでは、もはや数人程度を検挙したところで、焼け石に水だった。トップの入れ替わりや、集団の結成・消滅が激しい半グレ相手では、現行の当局では対応し切れないのが現状だ。
それを抜きにして、この交番は終わっていた。
「あ?先輩これ、さっき通報あったビルすね」
「はあ?何言ってんだおめー…あぁん?!」
TURU-TANまじ可愛い、まじでやりてぇと叫びながらダークウェブの生配信をみる後輩に、ガンプラの頭パーツを投げつけた先輩がスマホを奪い取った。
「オイゴラァパイセンラァ!!スッゾメー!!」
「ウッセ、ダ↑マ↓レ↑!ガキゴラメー!!」
こいつ間違いねえ、鬼島んとこの賞金首だと先輩が叫ぶと、先輩まじ臭え、ドブみてえな口臭だと後輩が笑った。
先輩は交番を飛び出すと、パトカーの運転席に飛び乗った。遅れて助手席に座る後輩の手には、署から横領した自動小銃が握られていた。
「えっ先輩?!これ、えっ??TURU-TANをやれるスよね!?」
「当たり前だ、やりまくれ!!」
なんならご祝儀つきだぞと先輩は叫びながら、サイレンを鳴らして急発進した。




