↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仁侠?それって美味しいですか?  作者: 甲斐性なし
5/10

第5話


 嬢こと改めて、百木(ももき)の孫の鶴太郎(つるたろう)は、食事を済ませてないということで、3人で食卓を囲んでいた。


「それで鶴太郎、お(・)ま(・)え(・)は(・)ど(・)っ(・)ち(・)な(・)ん(・)だ(・)?」


「???…なにが?あっマサおじさん、醤油とって」


 しらばっくれんじゃねぇよと、百木はがなり立てる。目の前の鯖(さば)をほぐす箸は止めずに、話を続けた。


「そんな成(な)りしやがって、もう男か女か、分かりゃしねえじゃねえか。まぁ今(・)時(・)の(・)流(・)行(・)り(・)ってんなら、仕方ねえけどよ…」


 ぶつぶつと呟く百木に、なにを言いたいか察した鶴太郎は、悪びれずに答えた。


「性癖のこと?だったらバ(・)イ(・)だけど、性別のことならま(・)だ(・)男だよ」


 百木が箸を止める。真坂(まさか)はそのやりとりを、忍笑いで見ていた。


「性癖が倍(バイ)…?倍だと、どうなンだ?なんか余計なもんでも増えんのか?」


「両刀って意味だよ、そんぐらい自分で調べなよ、タロじい。てかいい加減に、飛(・)ば(・)し(・)の携帯を使ってよ。こないだ渡したじゃん」


「へん、お断りでぇ。第一電話なんざ煩わしくていけねぇ、面(ツラ)合わせて話すのが一番伝わるってもんだろ」


 箸を振り回しながら、得意げに講釈する百木を無視して、真坂が話す。


「鶴ちゃん、こ(・)な(・)い(・)だ(・)の(・)鬼(・)島(・)の(・)配(・)信(・)な、あれ結構な投げ銭があったぞ。企業舎弟(フロント)にも、裏(・)モ(・)ノ(・)で(・)捌(・)か(・)せ(・)て(・)る(・)」


「そうなんだ。マサおじさんのとこなら大丈夫だろうけど、上手に捌いてね?」


 にしても、あの最中のネットリした口調は演技かい。そっちのが売れ筋だからね、と話し込むふたりに、百木はヘソを曲げた。


「おい、無視すんじゃねえよ……あれ、この酒けっこうイケるな」


「高かったからね、馬鹿スカ飲まないでよ?」


 重畳(じょうじょう)、重畳と百木は、お猪口をあおる。すでに一升瓶は、半分を切っていた。


____________________


「それでタロじい、そろそろ決めたの?」


 晩酌している百木に、鶴太郎が尋ねる。真坂はすでに休んでいた。


「決めるってえアレか、海外に高跳びするって話かい」


「それ以外でなにがあるの。いつまでもマサおじさんに、迷惑かけられないでしょ」


「迷惑ぅ?俺と一緒に、何度も修羅場を潜り抜けてきた兄弟に限って、そんなことねえよ。寧ろ心強いってなもんだぜ、きっと」


 百木が嘯くと、急に襖が開いた。そこには休んでいたはずの真坂が立っている。


「いや、迷惑だぞ」


 頼みの梯子を外されて、百木がうろたえる。真坂はため息をついて、諭し始めた。


「いいか兄弟、そもそもだ。暴行で指名手配食らってよ、そっからひとふたりも膾(ナマス)にしちまってよ、挙げ句に逃走までかましてんだ。これじゃどんな凄腕の弁護士つけたって、どうしようもねえよな?」


「へ?ありゃ正当防衛じゃねえのか?」


「馬鹿野郎、長ドスさげて自分(てめぇ)からカチコミかけてんじゃねえか。極刑に決まってんだろ」


 チ(・)ン(・)ピ(・)ラ(・)殺(・)し(・)が(・)無(・)罪(・)な(・)ん(・)て(・)、(・)若(・)い(・)頃(・)じ(・)ゃ(・)ね(・)え(・)ん(・)だ(・)と真坂が嘯く。流石に昔でも無罪はないと思いつつも、鶴太郎はいちいち話の腰を折らなかった。


「でもよぉ、海外なんておっかねえよぅ。仁(・)義(・)も(・)ヘ(・)チ(・)マ(・)も(・)ね(・)え(・)奴等で一杯じゃねえか…」


「それこそ若い時分の兄弟じゃねえか。それに、今はまだ睨みが利くがよ、サツも本腰だ。いつまでも庇っちゃいられねえよ。

 さっきも言ったが、犯人隠匿で懲役食らうのは、俺だけじゃねえからな。高跳びする機会は今しかねぇんだ、腹括れ」


「でもよぉ兄弟、あいつ(女房)の墓を置いてまで行きたくねえよぉ…」


「白々しいこと言ってんじゃねえ、いまだって墓参りにも行けねえじゃねえか。いいか、なにも一生海外で過ごせってんじゃねえンだ。ほとぼりが冷めりゃ、顔と国籍でも変えて、しれっと帰ってくりゃいいだろ」


 むこうの生活費も持つし、帰国の段取りだって組んでやると、真坂は一気にまくし立てる。嫌なことはやりたがらない、百木の性格を知り尽くした誘導だった。


 もう少しで流されそうな百木を、真坂がさらに丸め込もうとしたところで、真坂の若い衆が駆け込んできた。


「取り込み中に失礼します!オヤジ大変です、熊野(くまの)の叔父貴が、重(・)体(・)で(・)病(・)院(・)に(・)運(・)ば(・)れ(・)ま(・)し(・)た(・)!」


 唐突な知らせに虚を突かれた真坂より先に、百木が立ち上がった。


「一大事じゃねえか兄弟!おい若い衆、車回せ!病院に急ぐぞ!」


 そう言って若い衆より先に、部屋を飛び出そうする百木を、鶴太郎は呆れながら部屋に押し留めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。