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エピローグ

 



 トールデン王国 モルトルデン男爵領東 元モルト市要塞



「それで、報告は事実だったのかね?」


 尋ねたのはハルメジア・フォン・アマルムデン公爵、オークの支配する魔境を制圧する事を目的に編成された王国軍の総大将。


「はっ、改めて斥候を放ったところ、確かに北のゴーレムの巣からゴーレムが消えていたと報告がありました。防壁を越えて中にも入ったそうですが、防壁内は更地になっており、何も発見出来なかったそうです」


 答えたのは幕僚の一人で、ジルト市の北の街道上にあるゴーレムの巣と呼ばれる場所からゴーレムが消えたとの報告を受け、再調査を命じられた者だった。


「……そうか。雪が降る前に撤退したと見るべきか」


「恐らくは」


 公爵は、聖堂院からの救援だったゴーレム達が完全に撤退してしまった事に落胆の色を隠せない。



 公爵は当初、王国からの援軍をこのジルト市で持ちこたえる事は十分に出来ると考えていた。

 だが、北に抜けられた100,000のオークに、ジルト市を包囲していたオークとは別なハイオーク100,000が新たに出現した事で、その考えは無くなっていた。


 ジルト市が包囲されていた事で北の救援には迎えず、明らかに隠されていた戦力であるハイオーク100,000。

 どちらかへの対処が出来ないだけで、ジルト市からの悲惨な撤退戦を覚悟していたが、どちらも聖堂院のコウヘイ・ツチクラによって助けられた。

 だが、そのコウヘイ・ツチクラに、文字通り弓を引いた馬鹿が居た。

 それがよりにもよって自分の一人息子だと言うのだから頭が痛い。


 しかも、馬鹿息子が矢を射ったのを知ったのはかなり後になってからだった。

 知った時には再びオークの襲撃が始まっており、コウヘイ・ツチクラが撤退した後に残されたハイオーク30,000によって防壁が破られ、少なくない被害が出ており、戦力の低下した現状では防壁の修復やオークへの対処で精一杯となってしまい、コウヘイ・ツチクラ側に使者を送りたくとも送れない状況になっていた。


 報復やゴーレムの動きからコウヘイ・ツチクラが生きては居ると思われるが、我々が彼に対する敵対は二度目だ。

 今回の撤退の事を考えても、最早友好な関係を築くのはかなり難しいだろう。




「伝令!」


 頭を抱えそうになっていた公爵に更なる凶報が届いた。

 それは、援軍であった王国軍200,000がオーク50,000によて半壊したというものだった。


 オーク50,000は、北に抜けた残りだと思われるが、この情報は援軍にも伝えてあり、警戒はしていたハズだった。

 援軍の王国軍200,000は、オーク50,000は撃滅したものの、ハイオーク10,000が混じっており、陣に侵入されたハイオークによって100,000近い被害が出たそうだ。


 そして、被害が甚大な援軍の王国軍は、領都までは到達できたものの、再編に時間がかかっており、いつこちらに来れるかは分からないそうだ。


「これでは、雪が降るまでに間に合わないな。……馬鹿息子はまだ地下牢か?」


「はい」


「顔を見に行く。全軍には撤退の準備をさせよ。領都まで引く」


「……了解しました」




 領主館 地下牢



「父上!何故私はこの様な地下牢に入れるのですか!」


「何故かは考えなかったのか?」


「分かりません!私は――」


 公爵が自分の一人息子を地下牢に閉じ込めたのは、コウヘイ・ツチクラに対して矢を射かけたからでは無い。

 その事で叱責はしたものの、地下牢に入れる程ではなかったからだ。

 では、何故地下牢に入れられているのか。

 それは、オークに突撃するために部隊を率いて出撃しようとしたからだ。

 数が少なく、明らかな罠だと言うのに、それに飛び込もうとする息子を守る方法が、これしか思い付かなかったのだ。


 公爵は息子の言葉を無視して用件を告げる。


「援軍として来ていた王国軍がオークに襲われ半壊した。現状では魔境の制圧は無理と判断し、領都まで撤退する」


「なっ!何故です!半壊ならば100,000はまだ居るハズです!」


「雪が降る。この辺りの雪が軍が動けなくなるほどだ。今領都に引かねば、領都を落とされ魔境に孤立する事になりかねん。それに、攻めるには時間が無さすぎる」


「ですから私が出撃して道を作ろうと……」


「オークの罠に対抗できる策があれば、それも良かっただろう。だが、無策で突っ込もうとしたお前は無意味に戦力を減らそうとしただけだ。だから地下牢に入れたのだ」


「ですが!」


「もう良い。撤退準備が整うまで地下牢で待機せよ」


 息子が何か言っていたが、聞く耳を持たずに執務室へ公爵は戻った。




 それから二日後の昼前にオークに動きがあった。

 その日は警戒して動かなかったが、翌日領都からの伝令が届き、公爵は驚愕した。


「魔境が制圧されただと?!」


 領都からの伝令は、王国からの援軍を迎え入れる為に領都に戻していたカバリムからで、魔境が制圧された。というものだった。

 地域支配をしている者ならば、隣接する地域の状況が分かるので、カバリムが虚偽の伝令を出しなのでなければ、確実にそうなのだ。


「一体誰が……」


 公爵はそう口にしたが、思い当たるのは一つしか無い。


「コウヘイ・ツチクラか……ッ!」


 あのゴーレム達でコアを強襲したのだ。

 だからオーク達が引いたのか!


 最悪だ。

 魔境を取れなかっただけではなく、敵対してしまった勢力に取られてしまった。

 これでは、王国が不利益を被っただけになってしまう。



 ……いや、まだだ。

 隣は人が居ない。

 もうすぐ雪が降り始め、交通の弁は最悪になり、住民の移住は春になってからだ。

 春までに大量の民間人と物資を準備して、春になってから送り込み、地域地盤を王国色にしてしまえば良いのだ。

 そうすれば、治世をコントロールできるかもしれない。


 もし仮に、民間人への攻撃があれば、大義名分を得、それを理由に攻撃ができるし、連合さえ組める可能性がある。

 あのゴーレムと戦うには、是非とも連合を組んで被害を他国の者に担当してもらいたい。







 公爵の目論みは、土倉広坪の領民の財産保有を禁ずるという一文によって潰されるのは、しばらく先の事になる。

 これにより、コウヘイ・ツチクラが支配する地域に移住しようとする者が誰も居なかったからだ。



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