出産と出撃
なんとかなりました。
研究所 出産用特別室前
ルティが産気付いたので、出産仕様に整えた特別室に連れていき、産婆さんを呼んだ。
産婆さんはシルトラ・ファリエスさんという方で、カティの部下で26歳になる。
シルトラさんは助手二人と一緒にルティの出産を助けてくれた。
出産の準備は可能な限りは整えていたので、産気付いてから素早く移動して産婆さんも呼んだので、俺はルティの無事を祈りながら待機する事となった。
特別室の前で椅子に座りずっと待機していた俺は、一人で待っている。
俺以外の人達は、全員が特別室の中に居る。
ルティは四人目の出産であり、元々安産の傾向にあったので、手本とは言わないまでも、初産になるカティの参考になれば、と出産の見学がされる事になった。
ついでとはがりにルティの娘三姉妹とマリーも見学する事になった。
それを聞いたオシホ様が同席を希望し、精霊トリオも参加、ステラ達まで見学を希望してきたので、ミリシアとレティシアまで参加する事になり、アリスさん含めて特別室には多数の者達が居る。
そんなに居ることになるなら俺も見学しようとしたのだが、これはルティに断られてたので、特別室の前で一人ソワソワしながら第一子の誕生を今か今かと待つことになった。
そして、ルティが産気付いてから6時間後、無事に子供が産まれた。
特別室内に呼ばれた俺は、額に汗をにじませ産着に包まれた赤ちゃんを抱っこするルティを見て、本当に産まれたんだと実感した。
「コウ様、元気な男の子を、生むことが……出来、ました」
ルティが目に涙を一杯に溜めて男の子だと教えてくれた。
ルティは男の子を産めなかったので冷遇されていた事があり、男の子を産みたいという希望があった。
俺はどちらでも良かったので、妊娠中には何度も女の子でも大丈夫だと言って聞かせたが、やはり男の子を産めて嬉しいのだろう。
「あぁ、元気な男の子だ。ルティ、良く頑張ってくれましたね。ありがとう」
俺はそう言ってルティを抱き締める。
「ありがとう、ございます。……コウ様、名前をお願いできますか?」
「勿論だ。ルティの希望通り俺の名前から一部取って、ヘイヴィア。どうだろうか?」
「ヘイヴィア。良い名前です。コウ様、この子に良い名前をありがとうございます」
ルティは、俺が名付けた名前を喜んでくれた。
日本風な名前も考えたが、いずれは外に出て他の子供達と過ごすことになるかも知れないので、こちら風の名前にした。
その後は、ルティは出産の疲れもあるので、ルティを産婆さんとアリスさんに任せて、今日は早々に引き上げる事になった。
もう夕食前でもあるし、夕食を食べて休もうとしたのだが、見学していた者達の疲労も凄く、軽い食事をして解散となった。
ルティの出産を手に汗を握って応援していたらしい。
オシホ様達精霊組も終始興奮している様子がうかがえた。
何にしても、無事にるの出産が済んでくれて良かった。
万が一を想定して最上級ポーションやその他色々と準備していたが、こちらも使わずに済んで良かった。
この日は少々興奮気味で寝付けなかったので、アリスさんにお願いして強制的に眠らしてもらった。
翌日、ルティの元を改めて訪れた。
俺の第一子、ヘイヴィアも元気そうにしており、生まれたてのしわくちゃな感じから脱していた。
「ルティ、おはよう。体調は大丈夫ですか?」
「コウ様、大丈夫です。ヘイヴィアも元気にお乳を飲んでいます」
それからは、たわいもない話をしてルティとヘイヴィアが元気な事を心の底から喜んでいることを伝えた。
「コウ様、いつ出撃の予定ですか?」
ルティが俺に尋ねる。
ルティの出産は、オークの支配する地域奪取作戦準備の終盤で起こったので、もうすぐ俺が出撃する事をルティは知っていた。
「明後日出撃します。もう少し一緒に居てあげたいが、俺の搭乗型ゴーレムでは対策をしても雪上の戦闘には不向きです。南の方で雪が積もる前に向かわなければならないので、明後日がギリギリです」
出産したばかりの妻を置いて出撃する。
不本意であるが、実行せざるを負えない。
俺の搭乗型ゴーレムは、メタルゴーレムになっていて、重量がそれなりに増えているので、現行の対雪上装備では対処が難しい事が分かっていた。
なので、南に雪が積もる前に向かわなければならない。
雪解けを待っても良いが、そうなると人への対策の時間が限られてしまう。
オシホ様達ならば雪の中でも動けるので、今オークの支配地域を奪う事が出来れば、冬の間に領地を整備する事が可能になり、人への対策を十全に準備する事ができる。
しかし、出産したばかりの妻を置いてまでしなければならない事かと問われれば、否と答えたかもしれない。
少なくともルティが行かないでと言えば、この計画は取り止めにしていただろう。
だが、ルティは――
「今夜には準備が整うのですよね?私には構わず、明日出撃してください」
「いや、それは……」
「コウ様が、出産したばかりの私と一緒に居てくれようとしてくれるのは嬉しいです。ですが、コウ様の危険を増やしてまで居て欲しいとは思いません。なので、早く行って安全にオークを倒して、早く帰ってきて下さい。そちらの方が嬉しいです」
本来なら今日出撃していたハズなのだが、ルティが産気付いたので出撃の準備作業が中断していた。
天候や作戦などを考えて、最大で明後日まで残ることがてきると予想は出来ていたが、あくまでそれは予想に過ぎず、雪が降り始めてぬかるんだ場所で戦う事になりかねない、という事はルティに秘匿するように要望を出していたのだが、どうやら誰かが話してしまった様だ。
「分かった。明日出撃するように調整して来ます。ルティ、ありがとう。でも今日はルティと一緒に居ますよ?」
「はい」
オシホ様とアリスさんに明日出撃すると伝えに行くと、既に調整済みだと教えられた。
やはり、どちらかが伝えたのだろうとは思ったが、言及はしなかった。
この日一日は、ルティと一緒に過ごそうと思ったのだが、皆が入れ替わり立ち替わり訪れ、なかなか静かには過ごせなかったが、ルティとヘイヴィアを目に焼き付けなから過ごした。
授乳も見学したが、ヘイヴィアにお乳をあげているルティは、慈愛に溢れた女神の様だった。
☆☆☆
その翌日の朝、ルティとヘイヴィアに挨拶をして、皆に見送られながら出撃し、一直線にコアがある場所を目指した。
出撃のメンバーは、俺、オシホ様、精霊トリオとその直属の新精霊たちのみになり、オシホ様直属の新精霊四人は研究所と聖堂院に残る。
今回は作戦上精霊トリオ達に戦力を集中したかったので、この編成になった。
メンバー以外は前回同様に、通常の戦闘用ゴーレム300体、作業用ゴーレム100体、遠征用の戦闘用ゴーレム45体、作業用ゴーレム15体を連れて行く。
更に、今回は防御型ゴーレムであるメタルゴーレムも10体連れていく。
激しい抵抗が予想されるため、俺の護衛として特別に持っていく事になった。
そして、搭乗型ゴーレムは3体持っていく。
1体は搭乗型メタルゴーレム、2体は搭乗型強化ロックゴーレムになる。
搭乗型強化ロックゴーレムは、移動のために持っていく。
強化ロックゴーレムは、魔力供給範囲外の活動時間が大幅に犠牲になったとは言え、6時間は戦闘行動ができ、挙動に多少癖が出来たものの、それほど違和感を感じること無く使えた、という事で雪上での移動用に限定した使うことになった。
雪上では搭乗型メタルゴーレムと通常の防御型のメタルゴーレムではまともに戦えないので、ソリで運ぶことになり、大型のソリ四台を連結して搭乗型メタルゴーレムを、2台で1体ずつ防御型のメタルゴーレム運ぶ。
なお、搭乗型強化ロックゴーレムはもう一体連れてきているのは、こちらは予備になる。
なので、無人なのはオシホ様の指揮下で動かされている。
搭乗型ロックゴーレムは、旧型は見た目的には球体の関節が目立っていたが、強化型は関節が腕や肩などに内蔵される様になり、より人に近い形になっている。
二日かけて移動し、コア攻略のための前線拠点に到着した。
コアの位置は基本的に変わらないので、アリスさん保有の地図を参考にして既に位置を特定している。
コア探索の為に、雪が降り始める前にジルト市の北側の街道に作った前線拠点を引き払い、魔力供給用の魔具を回収して再配置し、ドライによって無事にコアがある場所を発見していた。
オークの警戒網によって直接は確認していないが、ドライによって魔力が感知されており、まず間違いなくコアがある場所だと分かっていた。
ここはコアがある場所から北に100kmほど離れた場所だ。
100kmは遠いが、オークの警戒が無い場所となるとこれくらい離れなければならなかったそうだ。
途中からは雪が無くなったので、搭乗型メタルゴーレムで移動してきた。
こちらは全身の大部分を鉄で構成しているので、ロックゴーレムタイプだった旧型に比べて非常に頑丈になっている。
見た目的には旧型の操作性を重視したタイプに近いが、金属なので光を反射していて、ロックゴーレムだった時と比べるとかなり目立つ。
なので、今は表面を土で覆って保持させており、見た感じはクレイゴーやロックゴーレムに見える状態になっている。
「どうにか到着できましたね。それにしても遠かった」
「そうじゃな。600kmは移動してきたからな。少し早いが今日は早々に休め。明日は一気にコアに迫るのじゃからな」
「了解です。さっさと食事を済ませて休みます」
翌日、まだ日が上らない内にオシホ様に起こされた。
コアがある場所まで単純に移動時間だけで3時間以上かかるので、日ので前に出撃するためだ。
朝食を手早く食べた俺は、オシホ様に注意を受ける。
「ここも雪が降り始めた。移動には気を付けよ」
「もうですか……。承知しました」
簡易シェルターの外に出ると、確かに雪が降っていたがまだ小降りだった。
南に行けばまだ雪が降ってない可能性もあるが、地面がぬかるむ可能性もあるので、進軍の時は注意しよう。
搭乗型メタルゴーレムの元に行くと、軽く湯気が立っていた。
搭乗型メタルゴーレムは、全身が金属なので冷えるとかなり冷たくなってしまい、中まで冷えてしまう。
なので、胴体部分に限定してヒーター内蔵になっており、胴体そのものが暖かくなっているので、外気との差で湯気が立ったのだ。
搭乗型メタルゴーレムはこれ以外にも工夫があり、手は革手袋を装着している。
ロックゴーレムだった頃は、武器を持っても問題なかったが、メタルゴーレムになると、滑る様になってしまった。
なので、滑り防止のために革手袋を装着した。
これで、パワーの上がったメタルゴーレムでも存分に武器を振り回せる様になった。
武器と言えば、今回は大剣二本を装備して戦う。
防御をする必要が低くなったのもあるが、今回は攻撃特化な作戦を立てたので、攻撃力重視の装備だ。
装備は他にもあり、今回は武器庫の大半の武器を前線拠点に事前に運び込んでいた。
それは、通常の戦闘用ゴーレムに武器を持たせる為だ。
通常の戦闘用ゴーレムは手がある。
他の人間に目撃される可能性がある場所では、まだ武器を持って戦わせるには早すぎるので、ずっと素手で戦わせていたが、今回は魔境の奥地で人間の気配は無く、攻撃力が必要なので事前に大量の武器を運んでおいたのだ。
通常の戦闘用ゴーレム達は、武器を持って既に前線拠点の外で待機しているそうなので、俺も搭乗型メタルゴーレムに乗り込み、出撃準備を整える。
「出撃準備完了!」
「良し。出撃じゃ!」
俺達は、完全武装したゴーレムを引き連れて、オーク達が支配しているコアに向かって出撃した。




