虐殺と敗北
ビストラ市 西街道
俺達は、ビストラ市から2kmほど離れた、西に延びる街道でゴーレムに膝を付かせて待機していた。
「そろそろじゃな」
オシホ様が振動関知でオークの動きを捕捉し、戦闘の頃合いを告げてきた。
ゴーレムを立たせ、俺達も立ち上がると、オークの集団が森と森の間一杯に見えた。
森と森の間は、100m程だ。
時間は丁度正午になる。
俺達の襲撃で、少し遅れてきたのだ。
「では、行きます。突撃!」
俺達は突撃し、当時に魔具による壁を発生させる。
壁は、俺達の待機場所の少し後ろに設置されており、街からの私選を遮るための物だ。
街道に展開しているのは、遠征用の戦闘用ゴーレム45体、通常の作業用ゴーレム50体、遠征用の作業用ゴーレム15体、そして、俺とオシホ様、アルファとベータのみだ。
中央に俺とオシホ様達を中心に遠征用の戦闘用ゴーレムが展開し、その左右を通常の作業ゴーレムが挟んでいる。
そして、遠征用の作業用ゴーレムが俺達の後ろで荷馬車を牽いている。
「撃て!」
俺達は、突撃しながらオーク達が射程に入った所で『ロックジャベリン』を放つ。
中央の部隊では、俺とオシホ様、アルファ、ベータしか放てないが、俺が4発、オシホ様が10発、アルファとベータがそれぞれ5発放つ。
左右の作業用ゴーレム達は、魔具を装備しているので、左右からそれぞれ25発の『ロックジャベリン』がオーク目掛けて放たれた。
最大射程で放った『ロックジャベリン』は、走りながら放ったせいもあって、いくつかは手前に落ちたが、ほとんどがオークの先頭に当てる事が出来た。
そして、『ロックジャベリン』が当たったオークのほとんどが撃破された。
生き残った数匹も倒れる等して、後続の足を妨害した。
「止まれ!」
俺達は、足裏を滑らせながら止まる。
「構え!」
方膝を地面に着いてから構える。
「撃て!」
そして、『ロックジャベリン』を放つ。
今度は、止まって、地面に方膝を着いて魔法を放ったので、安定して目標に当たった。
目標は、オーク先頭の足。
俺達が放った『ロックジャベリン』は、オークの足を貫通し、後続の足にもダメージを与え、先頭集団のオーク達は、足をやられて多くが倒れた。
これによって、俺達の出現、突撃によって足が止まりかけていた一団の足が完全に止まる。
それを見計らって、今まで後ろで荷馬車を牽いていた遠征用の作業用ゴーレム15体が、荷馬車五台を押して前に出る。
この荷馬車五台が俺達の切り札になる。
この荷馬車は、軍の食糧を搭載していた荷馬車で、車輪や車軸などが強化された物で、荷台には回転式連続発射機構が固定されている。
つまり、簡易的な戦車になる。
荷馬車は、作業用ゴーレム2体で押し、1体が回転式連続発射機構と共に荷台に乗り、回転式連続発射機構を操作する。
魔力は、回転式連続発射機構自体に供給されているので、作業用ゴーレムは照準をつけるだけだ。
前に出た荷馬車が横一列に並び、回転式連続発射機構が回転し始めて、回転式連続発射機構に装着された魔具か『ロックジャベリン』を放っていく。
一秒に二発程度のスピードで『ロックジャベリン』が放たれ、次々にオークに突き刺さる。
「凄い物じゃな。こうしてオーク相手に使ってみると良く分かる」
オシホ様が、回転式連続発射機構の素晴らしさを理解してくれる。
子爵軍にも使いはしたが、あの時は威嚇に使っただけだったし、テストではゴーレムを相手に使ってみたかしただけだったので、魔物とは言え生き物に使うのは初めてなので、回転式連続発射機構の威力が生々しく分かったのは、今回が初だ。
「ですが、それだけに……」
「わかってはおる。ワシも人を見てきたからの。これが他の者達に渡った時の事は容易に想像ができる。じゃが良いのか?これがあれば、モンスターの多くを退ける力を得、人の生存圏拡大に大いに役立つと思うが?」
「モンスターだけに向けられれば、ですよね?機構は簡単ですので、見られれば真似される可能性はありますが、俺が生きている内は可能な限り秘匿していようと思います」
「真似はできるじゃろうが、実用性のある物を作れるとは思えぬな」
「そうですね。魔力の消費が膨大ですから、最低でも戦闘用ゴーレムクラスのコアぐらいは用意しないと、魔力を貯めておけませんし、倒した数を考えると、収支的にはマイナスになりそうですから、あまり好き勝手には使えませんね」
回転式連続発射機構は、最低でも戦闘用のゴーレムのコアぐらいの大きさの魔力タンクを用意しないと、まともに使えそうには無い。
俺達みたいに、魔力をほぼ無限に使えるなら話は別だが、ほぼあり得ない。
だが、アイデア自体は他に転用できるので、何がどうなって返ってくるか分からないので、回転式連続発射機構は可能な限り秘匿する。
「うむ。それよりも、そろそろ頃合いじゃ。攻撃準備せよ」
「了解です」
オシホ様の言葉を受けて、荷馬車以外で『ロックジャベリン』を放てる者は、ゴーレムを含め、全員が攻撃準備をする。
俺達は、膝を地面に着いた状態で、魔具の角度を調整し、地面に対して60°に構える。
「良し、撃て!」
オシホ様の号令で、俺達は空に『ロックジャベリン』を放つ。
空に放った『ロックジャベリン』は、一定の距離まで真っ直ぐ飛んでいき、重力に従い落ちていく。
そして、何本かがオークに直撃する。
俺達からでは、命中の確認はできないが、静止状態の今なら、オシホ様によって振動関知である程度分かる。
「14匹撃破じゃな。位置を適度にズラして攻撃続行じゃ」
これは、『ロックジャベリン』を山なりに放つ、曲射だ。
正面が回転式連続発射機構で十分に対処できると判断された場合に備えて、追加での攻撃方法を検討した結果、こうなった。
回転式連続発射機構で射撃をしている以上、接近戦はできないので、当然の帰結になる。
俺達が放つ『ロックジャベリン』は一つ100Kgほどはあるので、そんなのか上から降ってくると、ただでは済まない。
結果として、オシホ様以外で放った『ロックジャベリン』64発の内、14発が敵を倒した。
外れたのもあるだろうが、当たっていたなら、倒せてなくてもダメージは与えられているだろう。
俺達の曲射での攻撃は、敵の混乱に拍車を掛け、少しでも敵を多く倒す事だ。
それから少しの間、この状態が続き、少なくない数のオークを撃破すると、オーク達は左右の森に入りだした。
これも想定済みで、既に森の中には通常の戦闘用ゴーレム達が配置さるている。
右の森にドライが指揮する通常の戦闘用ゴーレム100体、左の森にアインが指揮する通常の戦闘用ゴーレムが100体居り、それぞれの部下もついているので、かなり細かな指揮ができる。
混乱して、森に入ったオークなど、簡単に潰すだろう。
回転式連続発射機構は、両端が森に入るオーク達を狙い撃ちにし、残り三台で正面と奥を凪ぎ払う。
俺達も変わらず曲射を続ける。
しばらくして、ほとんどのオークが森の中には中には入り、回転式連続発射機構の射程からオークが居なくなった。
左右の森での戦闘も、オシホ様の振動関知で、かなり優勢であり、俺達より前進していた事は分かっていたので、俺達も前進する事にした。
前進は、回転式連続発射機構を搭載した荷馬車を後方に下げ、遠征用の戦闘用ゴーレムを薄く展開して、その中に作業用ゴーレムを集めて進んだ。
左右の森の中から、アインやドライと戦闘していないオーク達が俺達を目指して突撃してきたので、オークを牽制しながら下がり、回転式連続発射機構で殲滅した。
そして、それを何度か繰り返す内に、目標値に達した事をオシホ様が知らせて来た。
「そろそろ10,000じゃ」
「分かりました。撤退します。合図を上げますね」
そう言って、俺は街の人にも分かるように、上空に火の玉を三発放った。
街の側には、二発なら作戦失敗、三発なら作戦成功と伝えてある。
これは、街の側にもオーク討伐をさせるためで、また報酬の件をぶり返させないためだ。
面倒な交渉は何度もしなくない。
その後、壁がある地点まで後退すし、荷馬車に搭載した回転式連続発射機構を布で隠す。
「撤退準備完了」
「良し、ならば壁を消すぞ」
魔具によって発生させていた壁を消して、簡易陣地まで撤退する。
俺達から少し遅れて、森の中からもアインとドライ達も出て来た。
簡易陣地まで撤退した俺達は、素早く集まり、アインとドライの戦果報告を聞く。
両者共にオーク5,000程とオークジェネラル1匹を撃破している事が分かった。
俺達の側のオーク15,000撃破と合わせると、オーク25,000以上撃破、オークジェネラル2匹を撃破したことになり、敵に残っているのは、オーク10,000程、ハイオーク2,000程、オークジェネラルが数匹といった所だと分かった。
「む。動くぞ」
オシホ様が言葉を発し、意味はすぐに分かった。
オーク達が、ドライが居た森から、アインが居た森へと移動した。
恐らく、南の森で再編成をしているのだろう。
そして、南の森に集結したという事は、撤退か俺達に突撃をするつもりなのだと理解した。
「撤退と突撃、どちらじゃと思う?」
オシホ様が俺に尋ねてきた。
「……そうですね。もう勝てない事は分かっているハズなので、通常なら撤退でしょう。ですが、我々の方が移動速度は速い事は向こうも分かっているでしょうし、逃げられるとは思ってはいないでしょう。それに、向こうは後方攪乱が目的でしょうから、突っ込んで……。いえ、俺なら、オークをこちらに向けて足止めし、ハイオークを街に向かわせます!」
「確かにあり得るな。アイン、街の防壁沿いで待機せよ」
「了解」
オシホ様がアインを街の防壁に向かわせると同時に森からオークが出てきた。
そして、俺の言った通り、オークがこちらと街を分断するように動き、ハイオークは一目散に防壁への最短ルートを猛突進する。
幸いに、こちらもほぼ同時にドライ達を動かしたので、ドライはハイオークと防壁の間に割り込めるだろう。
「こちらもオークに突撃をしましょう!」
俺はオシホ様に提案する。
敵の講堂をそのまま受ける必要は無いので、こちらと街を分断しようとしているオークに突撃して、目的を阻害したい。
なので、ゴーレムはオシホ様達が支配しているので、俺だけが動いてもあまり意味は無い。
「良し、行くぞ!」
オシホ様は意図を理解してくれて、動いてくれた。
街の側にドライを配置して、俺達もオークへ突撃する。
オークへの突撃は、俺達の『ロックジャベリン』一斉射でこちらが有利に戦闘を開始できた。
戦闘力もこちらの方が高いので、囲まれる前に次々にオークを撃破し、俺達は街を背にするように移動しながら戦闘を継続した。
アインの側は、ハイオークと街の防壁の間に入り込んだ後、その場では待機せず、向かってくるハイオークに対して突撃を敢行した。
アインを先頭に戦闘用ゴーレム達が突撃し、ハイオークと激突した。
アインは一撃で先頭の2匹を切り殺し、ハイオークの攻撃を大剣で受け止める。
一時的にハイオークの突撃を止める事には成功したが、一部のハイオークを残し、他は再び街の防壁への向かおうとした。
「オシホ様!」
俺は、アインの側を気にしていたので、アインが突破されたそうな事に気付き、オシホ様を呼ぶ。
「ドライ!全部連れて行くのじゃ!」
「了解」
オシホ様、俺の意図を瞬時に理解し、ドライと戦闘用ゴーレム100体をさらに向かわせた。
こちらの前衛の三分の二を引き抜いたので、こちらは前線を維持できない。
「下がりながら応戦する!」
「了解です!」
俺はオシホ様の指示に従い、下がりながらの戦闘をする。
オシホ様指揮下の遠征用の戦闘用ゴーレムも、横に広く展開し、下がりながらオークと戦闘をしている。
そして、通常の作業用ゴーレム達が後ろから遠征用の戦闘用ゴーレム達の隙間を狙って『ロックジャベリン』を放つ。
ハイオーク達は、アインの部隊をすり抜け防壁に迫るが、ドライ達がハイオーク達の横っ腹に突撃した。
ハイオークの勢いは再び削がれるが、先頭の一部が防壁に迫る。
そして、ハイオーク達は防壁の上から矢の雨を降らされる。
「グオォォォ!」
しかし、ハイオーク達は止まらず、叫び声を上げながら突撃し、防壁へ攻撃する。
更に矢や魔法が防壁に到達したハイオークに殺到し数匹のハイオークを倒すが、ドライをもすり抜けたハイオークが更に矢や壁に取り付き、防壁を攻撃する。
アインが足止めに残されたハイオークを打ち倒し、ドライへ合流し、次々にハイオークを斬り倒して、防壁へ攻撃しているハイオークへ迫るが、一歩遅く、ビストラ市の防壁は崩れた。
「広坪、街の壁が崩れたぞ」
オシホ様の言葉に、俺は思わず顔をしかめる。
ビストラ市の防壁を突破される。これは、俺達の敗北を意味する。
「完全にやられましたね」
「そうじゃな。油断があった」
俺達は、オーク達を圧倒できる戦力がありながら、防衛目標に到達され、防壁の一部ではあっても、破壊されてしまった。
ハイオークを、防壁破壊の直後に全滅させたとしても、住民や兵士達に被害が無くても、防壁を破壊されたなら、こちらの敗北だ。
ビストラ市の壁が崩れてから少しして、全てのオークの討伐が完了した。
最後は、オーク達がハイオークが穴を開けた場所に殺到したので、俺達全員で穴を守り、防壁の上に居るビストラ市の兵士達と共に、オーク達を殲滅して戦闘は終わった。




