ギルド登録と千年勇者
翌朝、俺は車いすに乗ってネコたちとともにローグシティの市役所に向かった。
市役所の入り口には20センチぐらいの段差が5段くらいあって、この街のバリアフリーに対する意識の低さをまざまざと俺たちに見せつけた。
基本的に異世界文明のコピーでできたこの街だが、バリアフリーの精神までコピーされたわけではないのだ。
「マスター、私がおんぶしてあげますぅ!」
「ダメ、私がおんぶするのぉ!」
「あんたは車いすでもかついでなさい!」
はやく役所に入りたかったのだが、俺を巡ってネコたちが争いをはじめ、なかなか入ることができなかった。
仕方ないので椅子ごと跳んだ。
「ふんっ!」
俺は唖然とするネコたちをおいて、建物に入っていったのだった。
ネコたちがいつまでも俺の奴隷でいるわけにはいかない、狩人ギルドのメンバーとして正式に登録する必要がある。
どんな惑星にも狩人という職業はあったが、社会があるていど発達してしまうと滅多に見受けられないものになった。
インフラが整えば整うほど牧畜や養殖は発達し、肉や素材を大量に安定供給できるようになってくる。素材を安定して供給できない狩人には、とても太刀打ちできない。
1000年前のアヴァロンはまだ牧歌的なファンタジー世界だったので、狩人ギルドが卸す肉や素材がふつうに市場に出回っていたが、中途半端に発達した現代ではすでに狩人はその役目を終えていたのだった。
書類に必要事項を記入してゆく。60人の獣耳美少女が列をなし、かわるがわる署名をしていくので軽く見ものだった。
ローグシティで正式な職業ギルドを立ち上げるには、60人以上のギルドメンバーの署名が必要だった。
そしてギルドの総資産額が790シルバー以上であること。
手続き費用10シルバーに加え、法人税を毎月支払う事、などの取り決めがあり、簡単にはなることができなかったが、それゆえに一度なってしまえば様々な優遇措置を受けられる。
これらの条件をクリアして、ようやく俺たちのチームは名実ともに『狩人ギルド』となった。
「マスター、正式にギルド登録するとなにが違うんです?」
「ほら、いままでは探索家ギルドに頼り切りだったじゃないか? だから探索家ギルドが街に許可をとったフィールドでしか狩りはできなかったし、素材を売るときも探索家ギルドにいろんな制約をつけられてきた。
けれど、これからは俺たちで狩りをするフィールドを決めることができるようになる。どんな魔物を生み出したいかを考えて、出現するフィールドを決めて、そこに狩りに向かうことができる。あと、素材を売る先や値段を自分で決められるっていうのもけっこう重要で……」
「あー! おいしそー! マスターあれほしー!」
俺にゆっくり歩調を合わせていた女の子は、すごい勢いで市場に向かっていってしまった。
どうせならお祝いにパーティでも開いてやろうかと思って、ネコたちを引き連れてそのまま市場を練り歩いたのだ。
ネコたちは快く荷物持ちを手伝ってくれたが、女の子を60名引き連れて買い物にいくことの恐ろしさを俺はまだ知らなかった。
彼女たちはゆく先々の店に群がって商品を選別し、殲滅し、検閲し、売り場をことごとく壊滅させていった。
俺は後から財布を持って代金を支払ってゆく係になっていた。
「あの金髪の子は元気か?」
この街に来た時に見覚えのある、パン屋の店主が俺に声をかけてきた。
「パンツは見つかったか?」
「何度も言うが、パンツは盗まれていない。パンだ。もう勘弁してくれ」
どうやら、エアリバドルのことを気にかけていたらしい。
彼女はここのところまったく顔を見せていないのだという。ずっと探索家ギルドの売店で買い物をしていたからな。
「エアリバドルか。ちょっと元気すぎて手を焼いてるところだ」
「この前のこと、すまなかったから、また来てくれって言ってくれよ」
「わかった、伝えておく」
「あと、レンパス? あれを真似して新しいパンを作ってみたんだ。けっこう評判でな、よかったら持ってってくれよ」
「そういう時は、精霊様にお礼を言うんだぜ?」
どうやら探索家ギルドの魔石が市場に出回ることで、徐々にだがローグシティの経済が息を吹き返しているみたいだった。
魔石はすべての動力源、いわば石油だ。地面から湧き上がってくるかぎり、売れ続ける。
安定して魔石が供給されれば、この街の経済が安定し、狩人ギルドの素材も売りやすくなる。
俺がいなくなった後も、これから末永くいい関係を結べることを願おう。
ようやくすべての店に支払いを終え、(ネコたちのせいで売り物にならなくなった野菜や衣類などの入った)買い物袋をかかえたまま、俺はギルド本部に向かった。
街灯のならぶおしゃれな住宅街の一本道にさしかかると、ネコたちは急に屋敷まで駆けっこをはじめ、我先にと先を急いだ。
ここまでくれば、もう彼女たちの庭まで戻ってきたようなものなのだ。
そこはかつてスラム街だった場所だが、いまは道も舗装され、真新しい一戸建てが軒を連ね、この街でもっとも景観の美しい場所になっていた。
「うーん、あいつら、俺が車いすだってことをすっかり忘れてるよな……」
俺があんまりにも不自由なく動けすぎているせいだろうか、誰一人、車いすを押そうともしてくれない。俺も正直どの場面で介助が必要なのかさっぱり見当がつかないのだが。
そのとき。
どこからともなく聞こえてきた声に、俺はぴたりと立ち止まった。
『『1』は、止まる』
……いや、立ち止まらされたのだ。
ふいに、住宅の陰から黒髪の少女が現れた。
頭上には短くちぎれた白い耳。
瞳は三日月やナイフを思わせる、鋭さと冷たさを兼ね備えていた。
そのくせ、お尻の子犬のように短い尻尾は、まるで俺との再会にはしゃぎまわるようにぶるぶる振られている。
山頂で見た白髪ではなくなっているが、チェストヒューだった。




