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ノイルフェールの伝説~天空の聖女(セインテス)~  作者: 朝霧 巡
第4章 故郷ウーラニアー

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3.聖騎士の館……③

 ステファニーの女中(メイド)である「フロラ・トゥイル」のテキパキとした動きを思い出す。

 何かにつけて絡んでくるステファニーとの関係は相変わらずだが、その後、静かに取り成してくれるフロラには好感を持っている。彼女とは歳も一緒で、同じ平民という事もあって、かなり仲良くなっていた。


 貴族の言葉も使い熟(こな)せないばかりか、そもそも口下手な事もあって、学院では無口同然のシェリルではあったが、フロラ相手なら気負わずに話もできるし、口調も敬語は使っていない。今、学院の中で一番心許せる相手がフロラだ。


――わたしもフロラちゃんみたいなるかな?


 屋敷の中には誰もおらず、手にした女中(メイド)服だけが、存在感を示すが如く青白い光を放っている。

 興味を惹かれたシェリルは、試しに袖を通してみることにした。サイズはシェリルにぴったりで、思った以上に身体に馴染んだ。まるで服自身に意志があるように感じてしまう。

 目の前にある鏡の前に立つと、女中(メイド)姿の自分がいた。水白群色(アクアブルー)の服と、桜色の髪が対照的で煌めいている。


――なんか、可愛い……わたしじゃないみたい


 鏡の前でくるりと回ってみる。膝丈の裾がふわりと舞い上がり、こんな自分でも可愛らしく見える。すると、不意に背後から微かな気配を感じた。


「よく、似合っているじゃない!」


 驚いて振り向くと、扉の近くで微笑むユーリアの姿があった。


 「……っ!?」


 シェリルは激しく動揺した。勝手にユーリアの衣装を着て、一人で悦に浸っていた所を見られていた。

 後悔と羞恥の気持ちが一気に押し寄せてきた。しかし、今さら着替えたところでもう遅い。シェリルは精一杯の謝罪をした。

挿絵(By みてみん)

 「ご……ごめんなさい……勝手に……」

 「良いのよ、女の子なんだから、ドレスアップは憧れるわよね」


 ユーリアが室内に入ると、いつも以上に綺麗になっている室内を見回した。


「あげるわよ、その服。家を綺麗にしてくれていたんでしょ? だから、そのお礼」

「えっ!?」


 当惑するシェリルだが、ユーリアは話を続ける。


「その服には精霊魔術が施されていて、上位精霊が宿っているのよ。だから、着る人を選ぶの」

「そんな不思議な……」

「それだけじゃないわ。契約で結ばれたら、その人に合わせて寸法を変えるのよ。一番馴染む状態でね! 凄いでしょ?」

「だったら、余計に……」


 受け取れないと言い掛けたシェリルの唇を、ユーリアの人差し指が抑え、女中(メイド)服に手を添えた。


「この子が気を悪くするわよ。気難しい上位精霊に気に入られたんだから受け取りなさい。きっと役に立つから」

「でもこれはユーリアさんの服だから、契約はユーリアさんと……」


 ユーリアが首を左右に振って微笑んだ。


「聖騎士(パラディン)になった時に、私との契約は解除してあるの。以来この子は次の主を待っていたのよ。だから……」


 ひと際大きな存在感を持つ女中(メイド)服が目覚めたのを気付いたのだろうか?

 気紛れで我儘な精霊達が、いつもより大人しい。これがこの服に宿った上位精霊の意志なのだ。理解したユーリアは笑顔を向けた。


「名前を付けてあげて。それでシェリルとの契約は完了よ」


 ユーリアが後押しするようにポンと背中を叩いた。

 言葉を発する事はないから、シェリルがこの服の意志を読み取ることはできない。しかし、彼女の思いには反応するようだ。シェリルは、暫く考え込んだが、鏡に映る服が仄(ほの)かに光っているのを見て呟いた。


「光(ルーメン)……妖精の服……ルーミア……」


 やがて呼び掛けに応じるように服は蒼く光り、室内を輝きで満たしていく。魔術円(マジックサークル)が幾重にも重なり、シェリルの全身を包んでいく。ユーリアにはそれが、新たな主を得て喜んでいるように思えた。


 聖騎士(パラディン)になるためには、従属する全ての眷属(けんぞく)と契約を解除しなければならない。それが聖騎士(パラディン)の掟(おきて)だ。

 ノイルフェール神に忠誠を誓い、一身を捧げる誓いを立てるためだ。

 かつて『スヴェトラーナ』と名付けていたこの女中(メイド)服は、ユーリアにとっては大事な相棒だった。主に従い、幾つもの戦いの場に臨んだ際も、彼女を護ってくれた。


「気に入ったようね。じゃあこの子は今から『ルーミア』よ!」


 ユーリアは心に一抹の寂しさを感じながらも大きく頷いた。


――しっかりこの子(シェリル)を守るのよ。スヴェトラーナ……いえ、ルーミア……


 ユーリアは目を細めた。

 幼い頃故郷を失い、行く宛もなく森を彷徨っていたユーリアは、賢者(セージ)シルヴィと風精神族(ハイエルフ)のアイリスに保護された。以来、近習(きんじゅう)として……特にアイリスの……身の回りを忙しく走り回っていた事を思い出しながら。


                          ◆◆◆◆


 こうしてシェリルの所有物になった『精霊の服(ルーミア)』は、何も持たないシェリルにとって、非常に便利なものだった。

 また、3年経って気付いたこともあった。


 布地の糸一つ一つに『自在変容』『物理干渉無効』『魔術完全抵抗』『自動魔力回復』の術式が施されていて、主となったシェリルの希望に応じて、自在に服装を変えることができる。これはユーリアから聞いた通りだった。


 何より汚れたり解(ほつ)れたりしないのがありがたい。しかし、機能を維持するため、中に宿る精霊(ルーミア)の魔力を消費してしまうので、概(おおむ)ね年に一回程度は、魔力回復のため休養させなければならない。

 この事は、新しい発見だった。


 そして今、シェリルはルーミアを女中(メイド)服として身に纏い、ユーリアの前にいる。


「こんなに……持って行くの? いくら何でも多い……」


 鼻歌交じりで大きな鞄を幾つも並べているユーリアを、シェリルが驚きながらも半ば呆れたように見ている。日頃から表情の変化に乏しい彼女にしては珍しい反応だが、それだけユーリアには心を許している証なのだろう。


「いったい……どれくらい空けるつもりなの?」

「大丈夫よ。精霊(あの子)達には、私からよく言っておくから」


 普段は結界を張り、風精族(エルフ)の独自能力(ユニークスキル)である精霊達を召喚して留守を任せているが、シェリルがいる間は、館の管理をシェリルに任せていた。

 普段は気難しく移り気であり、召喚主であるユーリアでさえ手を焼く精霊達だったが、シェリルには日を空けることなく懐いてしまった。

 家精霊(ニスミリス)に至っては、初めから好意的で、風精族(エルフ)であるユーリア以上に懐いていて、学院の休みの時期を心待ちにするようになっている。


 加えて、召喚して姿を見せる精霊も年々その数を増やしている。

 最初は家精霊(ニスミリス)の他には、1体しかいなかった精霊は、二年目には2体となり、今回は4体だ。この調子で行けば、来年は8体、再来年には16体になるのだろう。


「うん、ユーリアっち、とっととでかけなよ~」

「あとはぼくたちにまかせて~」


 精霊達は構わずにシェリルの周りを思い思いに飛び交っている。その様は、ユーリアも呆れるほどだ。


「あんた達、いい加減にしなさいよ。少しは召喚主に敬意を払いなさい」

「えー? やだよ~」

「だって、ユーリアっち、こわいもーん」

「らんぼうものだし、がさつだし~」

「シェリルちゃんのほうがおちつくもん~」


 精霊達が光を放ちながら、ユーリアの周りを揶揄(からか)うように飛び回る。しかし、彼女が言いたいことは留守番の事ではないようで、大きく溜息を吐いた。


「そういう問題じゃ……ない……」


 彼女は、ユーリアの背後に堆く積み上げられた荷物を指差した。これを飛竜(ワイバーン)に積もうというのかという抗議の眼差しと共に。


「『三日月(クレセント)』が可哀想……まるで罰ゲーム……」

「ああ、そっちね!」


 ユーリアはペロッと舌を出し、自分の頭を軽く叩いた。


「テヘッ……じゃないと思う……過重労働、動物虐待」


 シェリルの言葉が容赦なく降り注がれていくが、ユーリアに動じる気配はなく、ただ頭を掻くだけだった。


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