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追放はずれ勇者と聖女コンビの激闘ぽかぽか旅  作者: 遥彼方
一章 よわよわ追放コンビ結成

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23 タラレバ

 音もなく、オーガが縦に割れる。

 遅れて噴き出した血を、一歩横に動いて避けた。


『オーガを倒しました。レベルが上がります』

『『不屈』の効果が終わります』


「……よしっ」


 この土壇場で成功したっ。


 思わず片手で拳を握った。

 僕が岩を斬ることに成功したのは、ただの一度だけ。母のように小枝で斬るのは無理だった。

 だからオーガを斬れるかどうかは、千回、万回に一回あるかないか。その奇跡的な勝利を手繰り寄せるために、不安も恐怖も彼方に押しやり、オーガを斬ることだけに集中した。


 成功したことで極限の集中力を切り、喜びに浸ったのも束の間。


 にゃああああああっ!


「うわっ」


 いつの間にかすぐ近くまでやってきていた、スタンピード第二波のモンスターが、ソラの雷に焼かれた。

 オーガという僕たちにとっての最大の脅威が消えても、スタンピードという数の濁流が新たな暴威となって押し寄せてくる。


「よくやったな、ルイ!」


 雷で焦げたモンスターを踏み越え、迫ってきていた別のモンスターをウェズが盾で押し返し、斬る。ケイリーが短槍で素早く刺し殺した。ザビエルは魔力が尽きたのか、剣で応戦している。


 しっかりしろ。ぼーっとしてる場合じゃない。


 慌てて剣を構えると、刀身が今にも折れそうにボロボロだった。

 あああああ。大金貨7枚分が~。


 仕方なく剣をその辺に捨てると、短剣を抜く。ゴブリンの喉を狙った短剣は、斬るというより潰した。駄目だ、短剣も血脂で斬れたもんじゃない。


「『ぽかぽか』『浄化』『ぽかぽか』『防御壁』『ぽかぽか』『回復』」

「おりゃ!」

「それっ!」


 ヒヨリさんの援護を受けながら、村人たちも奮闘している。けど、どこまで持ちこたえられるだろう。


 スタンピードそのものの数は何万から数十万という莫大な数。その端っこであるとはいえ、数百から数千。本来ならたった30人ほどの僕たちじゃ、どうにもならない。


 どうする。

 オーガのような、デカくて膂力のあるモンスターを利用する手段はもう使えない。

 逃げ時だと、理性も本能も言っている。


 でも、ここまで来たらウェズたちを見捨てられない。


 身をかがめ、倒れたゴブリンのこん棒を奪い、上に振り抜く。すぐ横に来ていたキラーウルフの顎を跳ね上げた。低い姿勢のままコボルトとゴブリンの足を払い、こん棒を振り下ろして潰す。横から噛みつきにきたキラーウルフの横面を張り倒すと、こん棒が折れた。


 あーもう、木のこん棒じゃすぐ折れる。何かいい武器は‥‥‥。


 ふと目に入ったのは、小山のようなオーガの死体の横にある巨大なメイス。僕の身長よりも大きな金属製のメイスは、普通なら扱えない。けど僕には新しいスキルがある。


「『ふわふわ』!」


 チャージタイムの10秒はとっくに超えた。


 半分の質量になったメイスを持ち上げる。

 ぐっ。半分でも重い。だけど持てないほどじゃない。


「うっりゃあっ!」


 気合いでメイスを持ったまま、みんなから離れる。メイスの間合いに味方がいなくなってから、両足を踏ん張り、メイスを振り回した。


「『ドスン!』」


 ある程度振って速度が出たら、今度は重さを加える。

 メイスの届く円形の範囲内のモンスターを薙ぎ払った。


『ゴブリンを倒しました』

『エントを倒しました』

『‥‥‥を‥‥‥した。‥‥‥を‥‥‥』


 頭の中に声が猛スピードで響く。いちいち聞いていられない。

 スキル制限時間の10分内、軽くしてはメイスを振り、重くしてモンスターを倒す。クールタイムの10秒や握力がなくなってメイスが握れなくなったは、その辺の武器を拾って使うか、素手で凌ぐ。レベルが上がって復活し、またメイスを振るう。それを何度繰り返しただろう。


 少しずつモンスターの数が減る。遥か先の前方、カストルムでぶつかっていたスタンピードも、無数の集合体からばらばらの小さな塊になっていき、そのうちただの残骸に変わっていた。


 モンスターの咆哮も、僕やウェズたちの怒号も、武器の唸りも、魔法の地響きも鳴りを潜めていった。


『スタンピードから生存しました。おめでとうございます。目標達成。運が元に戻ります』


 残ったのはおびただしい死体と、生臭い風と、疲労と血で重い自分自身。


 そして。


「『ぽかぽか』『回復』『ぽかぽか』『回復』っ、『ぽかぽか』『回復』」


 ヒヨリさんの悲痛な声だった。


 ヒヨリさんが回復スキルをかけ続けている青年は、蒼白な顔で浅い呼吸をしていた。血は止まったものの、脇腹がごっそりと無くなっている。欠損はA級以上の回復スキルでないと無理で、臓器が無くなればどうやっても人は死ぬ。


「もういい、嬢ちゃん」

「でも」


 ヒヨリさんの顔色も真っ白だった。体もふらふらと揺れている。魔力切れだ。


「無駄だ、もうやめてやってくれ」


 ウェズが言うと、のろのろとヒヨリさんが青年から離れた。頼りなく落ちた細い肩に手を置くと、腕の中に飛び込んできて、力のない嗚咽が漏れる。


「うううっ」

「ごめんなさい。辛い状況に付き合わせてしまって」


 ヒヨリさんをスタンピードに向き合わせたのは僕だ。僕がウェズたちと村人を逃がすという選択をしなければ、この惨状を目にすることなく次の町に行っていただろう。


 だけど僕は、何度同じ場面になっても同じ選択をする。だってスタンピードの理不尽は、僕の原点だから。でもそれは僕の理由。ヒヨリさんを巻き込むのは違う。


「いいえ」


 腕の中のヒヨリさんが首を横に振った。


「私、どこかでここを、現実だと思ってなかったんです。召喚された時に説明を受けたし、ルイさんからスタンピードのことも聞いてました。実際にモンスターも目にしてました。それでも、どこか。物語やゲームの世界のように思っていたんです」


 濡れた黒曜石の瞳が、僕から周りに移る。


「スタンピードと人の死は、こんなにも痛くて悲しくて身近なんですね」


 眼鏡の下の黒い瞳に映るのは、黙とうするウェズたちと村人。動かなくなってしまった青年。青年よりも先に逝った数人の村人も寝かされている。


「‥‥‥どれくらいの等級だったら、治せたんでしょう」

「体の欠損は程度によりますがA級以上です」

「そうですか」


 静かにつぶやいたヒヨリさんは、こつんと僕の胸におでこを当てて黙ってしまった。


 ヒヨリさんの言葉にしない気持ちは、おそらく僕と一緒だと思う。


 ヒヨリさんはスキル等級を、僕はレベルを上げられる。


 回復スキルがA級だったら。レベルが上だったら。

 もっともっとスキルを使って等級を上げていれば。もっともっとモンスターを倒してレベルを上げていれば。


 全員助けられていたかもしれない。全員とはいかなくても、死者を減らせたんじゃないか。

 そんな風に思ってしまう。


「ルイ。ヒヨリちゃん」


 青年から離れたウェズたちが、僕たちに近づいた。


「まさかあいつらを助けられなかったとか、気に病んでるんじゃないだろうな?」

「それは無しだぜ」

「俺たちも、死んだあいつらも、覚悟決めて行動した。その結果で死んでも、覚悟決めたやつの責任だ。外野が背負うもんじゃない」


 腰に手を当てたウェズ、腕を組んだザビエルと肩をすくめるケイリー。三人の顔には疲れと悔しさと悲しみと、優しさが滲んでいた。


「‥‥‥そうですね」


 僕のせいでとか。僕がもっと助けられたとか。

 ‥‥‥なんて。そんなことあるもんか。


 それは傲慢だ。強者の理屈だ。

 弱い僕にそんなことを言う資格はない。覚悟して亡くなった人たちにも失礼だ。


 他人の命を背負えるほど、僕は強くない。偉くない。賢くもない。才能も技術もない。

 なかったものを嘆いても結果は変わらない。

 時間は戻らない。


 現時点の僕は、僕なりに全力を尽くした。

 でも足らなかった。


 力も、知恵も、技量も、経験も。

 努力も。

 何もかも足らなかった。

 後からタラレバを言っても駄目だ。


「私、強くなります。もっとスキルを磨きます」


 目元を赤くしたヒヨリさんが顔を上げた。


「そうか。ヒヨリちゃんならやれるぜ」


 ウェズがヒヨリさんの黒髪をわしゃわしゃと撫でる。きちんとまとめていた髪が崩れて、眼鏡もずれたけど、ヒヨリさんはにっこりと笑った。

お読み下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
うう……たられば、思っちゃうよね( i _ i ) どこかゲームのように…… きつい体験ではあったけど、今経験できてよかったんだろうなぁ。 もしも二人がチート持ちだったら最後まで気づかないよね>< 弱…
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