24 スタンピードのその後
近隣の農村と冒険者たちに多大な犠牲者を出して、スタンピードは終わった。
カストルムの街への被害はほとんどなく、ところどころ壊れた壁ぐらいだ。
だけど街の守り手である冒険者の数が減ったこと。街の周辺にあった農村がほぼ壊滅したことから、モンスター被害の増加、食料不足に見舞われるだろう。
ウェズたちの村は、無惨な有り様だ。家屋はズタボロ。家畜は散り散り。
森に逃げた村人も、全員が無事とはいかなかった。
僕たちが食い止めていたとはいえ、何体かのモンスターは森に到達。四人が犠牲になった。
「他の村はほとんどの村人が死んだらしいからな。うちは被害が少なかった。ありがとうな。お前らのおかげだ」
「僕は何も。今までウェズたちにかけたお世話の方が大きいです。ありがとうございました」
「私もです。ありがとうございました」
「ありあとおござぁました」
お礼を言うウェズたちに僕とヒヨリさんが頭を下げると、モーリーもぴょこんと小さな頭を下げた。
「何言ってんだ。こっちは片付けや修理まで手伝ってくれて大助かりだったんだぞ」
「どう考えても俺たちよりルイたちの方が大きい」
数人の村人たちが、ウェズたちの肩を小突いて笑った。
「強くなる」と心に決めた僕とヒヨリさんだけど、まずは等級やスキルを上げるより、村の復興の手伝いを優先した。
なにせ僕の新しいスキル『ふわふわ』『ドスン』は、重量を軽くできるから、瓦礫の片付けや新しい木材を運ぶのにめちゃくちゃ重宝する。ヒヨリさんは怪我をした人の回復はもちろん、片付けで腰痛になった人の回復も重宝された。
これから困る人を出さないように強くなることも重要だけど、だからって今困っている人たちを放っておけない。それじゃ本末転倒だ。
だからこの一ケ月、ずっと土木作業をしていた。後悔はしてない。
「これからどうするんだ?」
「プロバーティオ領を目指すつもりです」
「プロバーティオ領か。試練の塔だな」
カストルムの街はいい人が多くて居心地がよかったけど、ここにずっといると、レベルや等級が上がる僕たちは不自然だ。一ヶ所に留まらない方がいい。
「うーん。試練の塔か。ダンジョンと違ってモンスターの魔石は手に入らないし、討伐の報酬もないぞ」
「はい。でも代わりにスキルか、武器、防具、アイテムのどれかが手に入りますよね」
「まあな。しかし、使えるやつが出るかは運らしいし。上の階でないといいのは出ないんだろ」
「その割に試練内容は厳しいと聞くぞ。大丈夫か」
ウェズたちが心配するのも分かる。普通に稼ぐのならダンジョンの方が絶対に儲かる。
しかも塔に選ばれないと入ることすらできない。入り口で弾かれてしまう。選ばれる基準にスキルの等級や個人の強さは関係ないので、挑戦してみないと分からない。
だから試練の塔に挑戦するなんてこれっぽっちも考えてなかった。
そこに今回のスタンピードだ。
スタンピードが起きないよう、周辺のダンジョンは定期的にモンスターを一掃していた。にも関わらず、スタンピードは起きた。
原因は新しいダンジョンの発生。こういうことが各地で起きている。
魔王さえ倒せば新しくダンジョンが出来ることはない。古いダンジョンは消滅する。
「あはは。試練の塔だけが目的じゃないんで大丈夫ですよ。プロバーティオ領まで道のりは遠いですから。道すがら依頼やダンジョンでしっかり稼ぎます。で、ついでに塔に一回挑戦してみようかと」
どこかの街で依頼をこなしながらダンジョンでモンスターを倒して、レベルと等級を上げて、装備を揃えていく。
それでも十分強くなっていけるし、お金も稼げるだろう。試練の塔への挑戦はダメ元だ。
ダメ元だけど。
聖女のヒヨリさんはまず間違いなく塔に選ばれる。
なぜなら試練の塔は、元々勇者と聖女のためにあるからだ。
なんでも塔の最上階には勇者と聖女しか登ることが出来ず、そこには『魔王』がいるらしい。
なんでモンスターの親玉である魔王が試練の塔の最上階にいるのか。そんなとこにいるのに、なぜモンスターが活性化してスタンピードが増えるのか。その辺は謎。そもそも試練の塔自体が謎だし。
神様の御業だから、人間には分からない。
問題は、僕なんだよなぁ。
実を言うと僕は一度挑戦して駄目だった。二度目の挑戦で入れた人もいるから、その可能性に賭けてる。どうか入れますように‥‥‥!
「そうだな。俺たちと違ってルイたちは冒険者を本業にするんだし。まだ若いもんな。何事も挑戦は大事だ」
「お前たちなら、試練の塔も文句言わないさ」
「英雄になったらサインくれよ」
ウェズたちとも村人たちとも、すっかり仲良くなった。すごく名残惜しい。
あの時、ソラは大きくなったし、ヒヨリさんの回復スキルは一般的な神官よりすごかったし、モーリーはモンスターに言う事を聞かせていた。色々と不自然だったと思うけど、何も聞かないでいてくれた。
今も物が不足している状態で、寝袋や調味料、調理器具も分けてくれた。
「頑張れよ」
「はい。皆さんもお元気で!」
「またいつか来ます!」
「またね」
僕たちは大きく手を振って、歩き出した。
****
「聖女が試練の塔に弾かれただと!?」
国王ウォルトンが、血管が浮かぶほど玉座のひじ掛けを握りしめた。
「どういうことだ! 説明せよ!」
「はっ」
宰相が冷や汗を流しながら返事をした。宰相とてこの事態には動揺している。聖女が試練の塔に拒まれるなど前代未聞だ。
「申し上げた通りにございます。聖女アカリ様とS級3人に挑ませたところ、全員が弾かれました。試しに人員を変えても同じ。聖女様お一人でも入ることはできませんでした」
「ぬううう」
眉間のしわを深くして、国王が唸る。
「何故だ。勇者がおらぬからか。ええい、勇者の召喚はまだできんのか!」
「申し訳ございません」
筆頭宮廷魔法使いが平伏した。
「聖女様の召喚には成功しておりますので、召喚陣に間違いはございません。魔石も我々の魔力も十二分にございます。にもかかわらず勇者様を召喚できないのは、もしかすると二人目の聖女の存在という異分子が邪魔をしているのかもしれません」
「あのゴミ聖女か!」
玉座の間に、ぎりぎりと国王の歯ぎしりと怒鳴り声が響く。
「しかしあのはずれ者は始末したであろう」
「恐れながら、本当に始末できたのでございましょうか」
「なに?」
顎に手を当てて記憶を遡ると、始末した証拠は血塗れの靴だけだった。
「ドウェインを呼べ! 今度は確実に死体を持ってこさせるのだ!」
「お待ちください」
「なんだ」
いらいらとひじ掛けを指で叩く国王に、宰相が口を開く。
「はずれ聖女が生きているのは、チャンスかもしれません。生け捕りにして、塔に挑戦させましょう」
「……それはまさか。あのゴミが本物の聖女だということかっ」
あんなゴミスキル持ちが聖女だなど認められない。
「あくまで可能性の話でございます。挑戦させて塔に選ばれたなら本物。魔王討伐後に始末して、ひきつづきアカリ様に聖女を務めていただきましょう。選ばれなかったならば、予定どおりにさっさと始末すればいいだけのこと」
「ほう」
宰相と国王が、笑っていない目を合わせて笑った。
「ドウェインを呼べ。任務は偽聖女の捕縛だ」
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