21 交戦
お読み下さりありがとうございます。
木曜日には間に合わずですが‥‥‥頑張ります!
B級モンスター、オーガ。
硬さと高い耐久性、異常な体力と回復力を誇る。厄介なモンスターだ。
「くそ。オーガかよ」
ウェズが悪態をつく。
僕たちの装備は自分の等級にあったもの。同じD級の武器と防具だ。
オーガ相手だと、D級の盾や防具は紙切れ同然となる。D級の武器では、傷つけるだけで精一杯。致命傷を与える前に、武器の方が壊れる。
つまり、僕たちでは倒せない。
脅威はそれだけじゃない。
オーガと数十体のモンスター。その後方からゆっくりとやってくるモンスターの群れ。
スタンピード。数の暴力。その怖さを僕は身をもって知っている。
上と下も右も左も、押し寄せる暴力と悪意に、人は木の葉のように飲み込まれる。モンスターの濁流は、どんな大木であろうと木っ端微塵に砕いてしまう。
怖い。逃げ出したい。
だけど。
胸の奥深く。両親を亡くした時の後悔は残り火となって、今もちりちりと身の内を焼き続けている。
日常の海に沈めようが、忘却の彼方に流そうが、決して消えてくれない。
だから僕は冒険者になった。
消えないのならいっそ火中に飛び込んで、灰にしてしまおうと。
「オーガは後回しにして、他を倒そう。少しでも減らすんだ」
盾を構えたウェズが顔を強張らせて言った。
倒せない敵は放っておいて、他のモンスターを倒す。それしかない。
ただ、それをオーガが黙って見守ってくれるわけがない。
いや、待てよ。
それを逆手に取れないか?
ちらっと隣のウェズを見上げた。それから反対隣のザビエル、ケイリーに目を走らせる。この3人はずっと僕を一番危険なポジションには立たせなかった。村と関係ない僕たちを巻き込んだ負い目もあるから、今からやろうとしてることを言うと反対するだろう。
ということで。
制止される前に動く!
「僕が先行してオーガを引きつけます! ウェズさんたちは範囲外のモンスターをお願いします!」
「なんだと!? おい、ルイッ!」
言葉と同時に地を蹴った。ロングソードを抜刀。ウェズの慌てた声が瞬時に遠ざかり、数十メートルの距離がゼロになる。
オーガの前にいたゴブリンを斬り捨てる。ワイルドボアの頭を踏み台に蹴り抜いた。次にキラーウルフの顎を踏み砕いて、跳躍。オーガの左腕を登る。
『ゴブリンを倒しました』
『ワイルドボアを倒しました』
『キラーウルフを倒しました』
「らぁっ!」
オーガの首めがけて剣を振り抜いた。が、小さな切り傷を残しただけ。剣は弾かれ、両腕に痺れが走る。でも構わない。
「がああっ」
巨大な手が僕を叩き落とす前に、オーガの肩を蹴って宙返り。着地先はモンスターたちのど真ん中だ。
空中から落ちる数秒間、敵意にぎらついた視線が僕に注ぐ。
「そうだ。僕が敵だ。来いっ!」
落下の勢いのまま剣を振り、近くのモンスターを屠る。後は、他のモンスターたちの隙間を縫って走り抜けるだけ。
『キラーウルフを倒しました』
『ラウディアを倒しました』
「ぐおおおおッ」
怒りに筋肉を膨らませたオーガが、メイスを僕めがけて振り下ろす。暴風と轟音と共に、周囲のモンスターを肉塊に変え、地面を陥没させた。
よしっ。狙い通り。
「残念。僕はこっちだ!」
「ぐおっ?」
モンスターの隙間からひょこっと顔を出して手を振る。オーガは一瞬不思議そうにしてから、僕を見つけて再び憤怒の表情になる。
「ぐおおお!」
オーガがメイスを横に薙いだ。ゴブリンが、エントが、キラーウルフが、叩き潰される。僕はさっとモンスターたちの間をすり抜けて、また顔を出す。
「こっちだ、こっち!」
「ぐおおおおお!」
オーガは攻撃と防御には優れているけど、知性とスピードはない。馬鹿だから、僕に敵意を向けさせれば、他のモンスターもろとも攻撃してくる。挑発しながらオーガの周りをちょろちょろしてるだけで、モンスターを一掃できるってわけ。
武器を短剣に変え、モンスターの間を右に左に縫いながら、ついでに足や喉を掻っ切る。僕が通り抜けた後をオーガのメイスが襲い、地面とモンスターを破壊していく。
そうやって鬼ごっこをやているうちにも。
森に避難した村人たちのところに行かないよう、後方でみんなが戦っていた。
うにゃあああああ!
3メートルほどの大きさになったソラが鳴くと、幾筋かの雷が落ち、モンスターを黒焦げにする。近くのモンスターは前足で叩くと、面白いように吹っ飛ぶ。
「行かせるかよ!」
「大地よ。槍となって敵を突き刺せ」
「シッ!」
ウェズが盾で気を引きつつ剣を振るい、ザビエルが魔法を使い、ケイリーが槍を突く。
「おい、こっちだ。こいこいこいこい!」
「うわっ来たぞ。刺せ!」
「うりゃ!」
「そっち行ったぞ!」
「任せろ。おりゃおりゃ」
村人たちが数人で固まってモンスターを1体1体倒す。
「『ぽかぽか』『回復』『防御壁』!」
怪我人が出る側からヒヨリさんが回復し、危なそうな人を防御する。
なによりも驚いたのは。
「そっち行っちゃめっ! こっち!」
モーリーの声にモンスターたちが従っていること。
低級とはいえ殺気だった複数のモンスターがモーリーの声でぴたりと動きを止めて、言う通りにしている。契約して使役、という過程をすっ飛ばして従えているのだからすごい。モーリーのテイマーの才能は、かなり高い等級なのかも。
「ほーら、こっち」
怒れるオーガの周りを、モンスターたちの攻撃をかわしながら走りまわる。オーガはまんまとつられて、ごついメイスで僕の代わりにモンスターを叩き潰す。おかげでオーガ以外のモンスターはまばらになってきた。
ここまで順調。
だけど。
なんか僕、普段よりすごい動けてるんだけど。不屈の効果えぐくない?
猛烈に嫌な予感がした。
不屈は自分より強い相手と自分の能力値差の30%が上がる。つまりオーガの能力値がそれだけ高いってこと。
周囲のモンスターが減ったことで、僕の姿がオーガに丸見えになってきた。挑発なんてしなくても、僕を正確に追い回し始めた。
僕の方は、走り続けているせいで肺と心臓が爆発しそう。足が重い。
「ぐおお!」
オーガのメイスが僕の胴体を薙ぎにくる。僕はそれを右に転がって避けようとした。オーガの攻撃は遅いから、十分避けられた。
はずだった。
気がつくと、視界が逆さになっていた。次に地面が迫る。土に生えた草と小石を一粒一粒まで見えた。
次に肩、背中、腰に衝撃。ぐるぐると景色が回る。
『生命の危機に陥りました。スキル『失敗は成功のもと』発動。回避に失敗しました。ランダムでスキル付与します』
『B級スキルふわふわドスン:アクティブ:あらゆるものの質量を任意で変えることができる。持続時間10分。クールタイム10秒』
ああ、そっか。急にスキルに目覚めたのってそういうことか。
「がはっ」
血の混じった胃液を吐く。左わき腹を押えると、ぐにゃりとした感覚がした。これは骨が粉々かな。
参ったな。掠っただけなのに。
「ルイ! この馬鹿が」
太い腕が僕を抱えた。ウェズだ。どうやら後方のウェズたちの所まで吹っ飛ばされたらしい。はは、運がいい。『目標達成』の効果だね。
ふっと空気が変わる。ソラの聖域とヒヨリさんの防御壁の中に入ったんだ。
「『ぽかぽか』『回復』ルイさんっ!!」
「ぐぅうっ!」
回復したことで麻痺していた痛みが押し寄せてきた。激痛に体を丸めると、もう一度温かいスキルに包まれる。今度は痛みが和らいだ。
「ぐおおおおっ」
「おわわわっ」
「ひえええええぇ」
どすどすという足音が近づき、メイスが防御壁を軋ませた。
「『ぽかぽか』『防御壁』っ!」
ヒヨリさんがすかさずスキルを重ねたけど。
バキィッ。オーガがメイスを振るう度に嫌な音がして、空気が震えた。
「めっ! 殴っちゃめっ!」
モーリーが叫ぶけど止まらない。流石にB級モンスターには効かないらしい。
にゃああああっ。
空気を切り裂き、雷がオーガに落ちる。ぶすぶすと黒煙を立ち上らせたオーガがしばらく動きを止めたけど、またメイスを振りかぶった。なんて耐久力と回復力。
駄目だ。このままだと破られる。




