18 ウェズたちの新人育て
パーティーを組んでのモンスター討伐は、想像以上に楽だった。
「うらぁっ」
前衛のウェズがぶんっと斧を横に振ると、突進してきたワイルドボアが豪快に真っ二つになる。
ウェズは最初に話しかけてきた人。大柄で筋肉質、割れた顎と太い首に重量のある斧使いという、攻撃の要と味方を守る盾役だ。
「大地よ。汝の中に潜む異物を炙り出せ」
両手を地面につけ、土魔法を使うのはザビエル。
彼は上背があるし筋肉質。しかも腰に剣を佩いているから、てっきり剣士かと思ったけだ魔法使いだった。見かけで判断しちゃ駄目だなぁ。
ザビエルの魔法で、土の中から牙ネズミが飛び出してきた。それをケイリーが短槍でグサグサと刺していく。ケイリーは二人に比べると細身で素早い。
ウェズが先陣を切り、ケイリーとザビエルが前衛のウェズと後ろの僕のフォローをしつつ、丁寧にモンスターを駆除していった。
回復スキル持ちはいない。というか、パーティーに回復スキル持ちがいないのが普通だ。
だって回復スキルがあるのなら、わざわざ危険で収入も安定しない冒険者になるより、安全で給料の高い治療院や神殿に勤めた方がずっといい。
「いくつか残しとくぞ。ルイ、いけるか?」
「いけます!」
3人がわざと突破させてくれた牙ネズミに拳をぶち込む。
『牙ネズミを倒しました。レベルが上がります。全ての能力値が3上昇』
うわー。今かぁ。
僕は複雑な気持ちになった。
始めたばかりで怪我もしてなければ、体力も有り余ってる時に上がるかー。
まあ、そんなもんだよね。
損をした気分だったけど、結果的にその後レベルアップの回復が必要なことは何もなかった。なにせ3人は、僕のところに抜けてくるモンスターを調整してくれる。必ず一体ずつで、強すぎないモンスターを通してくれた。
ドウェインたちだと、たまにモンスターが抜けてきても知らん顔。僕は重い荷物を背負い、必死で逃げ回った。逃げ足だけは自信があったものの、C級モンスター相手では逃げ切れず、死にかけたことが何度もある。
そんな時ドウェインたちは、舌打ちしながら僕を追い回すモンスターを始末して、ポーションを飲ませてはくれたものの、後で代金を請求された。
あの日々は何だったんだろう、と涙が出てしまうくらい、今の僕は安全でウェズたちは優しい。
「ちっこいくせにやるじゃないか!」
「ありがとうございます」
ウェズにばんっと背中を叩かれ、僕はよろめいた。
「俺が言えることじゃないが、どう見てもひ弱な優男なのに。素手でゴブリン倒してたって、本当だったんだな」
あはは。ザビエルさん魔法使いには見えないですもんね。
「短剣くらいなら貸してやるって言っても断るし。変に強情張ってんのかと思ってたが。打撃スキル持ちか?」
腰に手を当てたケイリーが、興味深そうに見下ろしてくる。
「まさか」
僕は笑って首を横に振った。
母さんは剣士だったから、剣術を重点的に教えてもらった。父さんは回復と攻撃魔法スキル持ちだったけど、杖での戦闘も得意だった。他にも両親の知り合いやらにあれこれ教えてもらってたから、一通りの武術はいけるんだけど。冒険者になってからお金がなくて、安い短剣を使ってた。
それでも短剣を断ったのは、まだよく知らない人に貸しを作るのは怖かったからだ。口約束で貸して、返せなかった時に無茶な請求をされてはたまらない。
もちろんいい人たちだとは思ってる。だけど、今の僕1人じゃない。万が一にもヒヨリさんとモーリーに迷惑をかけられないんだから、慎重にいかないと。
「じゃあ、俺らを警戒してたのか。偉い偉い」
「警戒するのはいいことだ。ヒヨリと言ったっけ? あの彼女、よく見ると結構美人だしな。それにモーリーみたいな幼い女の子は高く売れる。容姿がいいやつは、つけ入られるような隙を作るべきじゃないさ」
「あははは‥‥‥」
ウェズにくしゃくしゃと頭を撫でられる。ケイリーは垂れ目の三白眼を生温かく細めてるし。
嫌じゃないけど、子ども扱いされてるなぁ。
3人とも僕より10才以上年上で既婚者子持ち。さらに僕はどっちかというと若く見られるから仕方ないか。
背も高くないし、童顔だし。筋肉も付きづらくて厚みがない。依頼のない時は、毎日走り込みと素振りやってたのにな。あ、ちょっと悲しくなってきた。
「よし。この調子で周辺の掃除を続けるぞ。解体はその後だ」
「りょーかい」
「おう」
「はい!」
ぐるっと村を一周して今いるモンスターを全て倒す頃、村から数人の男たちが手伝いに来た。
彼らと一緒にワイルドボアは毛皮と食肉にして、他のモンスターは素材と魔石を取った。
今回は依頼じゃないので討伐部位は放っておく。
食肉にするモンスターだけは、倒した直後に頸動脈を切って血抜きしてある。血抜きだけは殺してすぐじゃないと臭みが出るし、保存もきかなくなるんだ。
「解体の手つきもいいな。お前ほんとに新人か?」
ザビエルが僕の手元を覗きこんで首を傾げた。彼自身も手慣れた様子で内臓をとって毛皮を剥いでいる。
ちなみに、解体は素手でとはいかないので村の人からナイフを借りている。
「あはは」
ごめんなさい。新人じゃないです。
解体はドウェインたちのパーティーで散々やってたから、どっちかというと熟練かな。
「皆さんこそ、新人の面倒見が堂に入ってますよね」
笑って誤魔化しつつ、疑問に疑問を返して矛先を変えた。
ついでに本気の疑問でもある。
僕みたいなお荷物をパーティーに誘ってくれただけでなく、モンスターの討伐も解体も経験させてくれる。僕は新人じゃないから必要なかったけど、助言や手助けもしようと、ずっと見守ってくれてた。
なんでそんなに親切にしてくれるのか、不思議だった。
「ああ、そりゃそれが俺たちの役割の一つだからな」
「役割?」
僕の疑問を受けてウェズが苦笑する。
「俺たちはこの村の農家の生まれだと言っただろ? 本当は冒険者なんかじゃなくて、そのまま後を継ぎたかったんだよ」
「だけど今はモンスターの出没が昔の比じゃねえ。定期的にこうやって掃除しなきゃ危なくて農場なんてやってられねえ。かといって冒険者にほいほい依頼を出せるほど裕福な村じゃないからな。村の若いもんが出稼ぎがてら冒険者やるようになったってわけだ」
「引退するまでに次のやつ育てなきゃなんねぇから、新人育成も役割の一つなんだよ」
ウェズたちもそうやって、先輩の村人に育ててもらったらしい。手伝いに来た村人たちは、その先輩なのだという。
「え、でも僕、村の人間じゃないですよ」
「はは。そうだな。でもルイみたいな若い冒険者が育ってモンスターを狩ってくれたら、村にとっても助かるんだよ」
「俺らの後継はもう育て終わったしな。引退前にあと一人くらい面倒見ても構いやしないさ」
そっか。おかげで僕は助かった。
「じゃあ、頑張って装備を整えて、モンスターをたくさん狩れるようになります!」
「おう。そうしてくれ」
そうこうしているうちに、解体が終わる。
血の臭いのする物はなるべく村の外でやった方が安全面でも衛生面でもいいので、内臓は穴を掘って埋め、肉はざっと川で洗った。丹念に洗って部位ごとに切るのは村でやるそうだ。
「周辺のモンスターは一匹残らず片付けといたから、当分は安心していいぞ。また一ケ月後に来るが、それまでに異常があったら知らせてくれ」
「おう。ありがとうよ」
食肉を積んだ荷台をひいて、先輩の村人たちが村に戻っていった。
もう一つの荷台に毛皮と魔石を積んで、カストルムのギルドへ持って行く。
牙ネズミ20体、ワイルドボア3体、アーススネイク14体、エント2体。
1体あたりの魔石は牙ネズミ銅貨4枚。ワイルドボアは魔石が銀貨1枚、毛皮は銀貨1枚。アーススネイク銅貨5枚、エント銀貨2枚。
報酬の合計は銀貨19枚と銅貨5枚だった。
「ほら、ルイ」
ウェズが僕の手のひらの上に取り分を置いた。
えっ? これって。
「多くないですか!? 僕の取り分って10分の1でしたよね」
手のひらに乗っているのは、銀貨4枚だった。僕は銀貨1枚と銅貨14枚のはずなのに。
「途中から普通に戦力になってたし、雑用の手際も文句なかったからな。流石に少し差をつけさせてもらったが、正当な報酬さ」
「でも」
「明日は雑用じゃなくて戦力に数えるからな。これで短剣くらい買えよ」
ぽん、とケイリーに背中を叩かれて僕は下を向いた。
「ありがとうございます」
ちょっと声が震えてしまった。
不定期になるなる詐欺で、なんとかかんとか木曜更新できました。
一つのブクマ、リアクション、感想に力をもらってます。
本当にありがとうございます。




