16 甘かった
僕のスキルは、どう考えても普通じゃないんだよな。
宿のベッドに仰向けに寝転がって、僕は突然身についた自分のスキルについて振り返った。
ヒヨリさんとモーリーは別に部屋を取ったので今は僕一人。ヒヨリさんは宿代が勿体ないから一緒でいいと言ったけど、女性と同じ部屋っていうのはよくない。まあ、一緒に野宿はしたけど。それはほら、非常事態だったし。囲いのない自然の中と、部屋という狭い空間とはなんか違う。
モーリーの兄らしき子からもらった革袋も、部屋に入る時モーリー本人に渡した。
モーリーが戸惑いながら開けた中身は、木の実や綺麗な石ころ、蛇の脱け殻だった。あのくらいの年の男の子からしたら宝物だったんだろうなってラインナップにほっこりした。モーリーも嬉しそうに木の実や石ころで遊んでいた。蛇の抜け殻は触ろうともしなかったけどね。まあ、あれは女の子向きじゃないかも。
と、閑話休題だね。
「スキルの名前とか詳細とか、レベルが上がったとか。頭を打った後遺症で、あんな具体的な声が聞こえるわけない。ってことは‥‥‥あの声もスキル?」
頭の中に響いた声は、スキルがどうのと言っていた。
スキルは基本的に先天的な才能だ。生まれた時から持っていて、大抵は物心つく頃に使いこなせるようになる。
もちろん例外はある。特殊な条件を満たさないと発動しないスキルの場合だ。僕は多分、それなんだろう。
「うーん、でも。何が条件だったんだろ」
ドウェインたちと戦っていた時は、耳鳴りが酷くて聞き取れなかった。多分あの時条件を言ってたんだろうなぁ。
というか、他の人に聞いたところ、スキルって直感で使うものらしい。スキルを使う時に頭の中で声がするなんて聞いたことない。
「あの時の声は、何て言ってたっけ?」
なんとか思い出そうと記憶をこねくり回すけど、ぐねぐねするだけで形にならない。駄目だ。ドウェインたちとやり合っていた時を思い出すのは諦めよう。
「条件はもう置いておこう。次だ」
次に声が聞こえたのはモーリーを見つけた時。あの時ははっきりと聞こえた。
「A級スキル『不屈』、B級スキル『目標達成』‥‥‥A級とB級なんてめちゃくちゃいいじゃないか」
『不屈』は敵と僕との能力値差分30%の能力値上昇。『目標達成』は目標を達成するまで運が50%上がる、だったっけ。ほとんどの敵が最弱の僕より強いんだから、『不屈』はすごくいいスキルだ。運が上がるのだって、戦いの中では運が生死を分けることは多い。これもいいスキルだ。
「あとはあれだ。レベルが上がりましたってやつ。大体レベルってなんだよ。そんなの聞いたことないぞ」
おそらく一定数の敵を倒すと、レベルというものが上がる。一緒に能力値ってやつも上がってたな。体感的にレベルが上がると怪我も治って、身体能力も上がる。能力値っていうのは、身体能力のことなんだろう。
「レベル……段階。能力や品質の度合いだよな。怪我が治る理屈は分からないけど、身体能力が上がるのはなんとなく分かる」
モンスターを倒せば、経験が積み上がって同じモンスターを簡単に倒せるようになる。
それを数値化して、レベルという概念に落としこんだスキルってところかな。
剣術スキルがなくたって、剣を振り続ければ筋力が上がる。
忍耐スキルがなくても、走り続ければ持久力が上がる。
でもスキルがあれば剣を振ったことがなくても、それなりに剣を振れるし、振れば振るほど他の人より上達する。鍛練なしで走っても息が切れにくい。
ということは、レベルが上がるというスキルは、モンスターを倒せば倒すほど、モンスターを倒すための能力が上がりやすいんだろう。回復するのはまあ、ついでみたいなものなのかな?
「うー、なんで今ごろ‥‥‥これが最初からあったら苦労しなかったのに。いやでも、ゴブリンさえ倒せないのは一緒だったろうから無理かぁ……でもでも、もしかしたら……」
僕は頭を抱えて、ベッドの上をごろごろと転がった。
今までどんなに頑張ってもモンスターを傷つけることすら出来なかった。それが急に倒せるようになったのも、おそらくスキルであろう声が聞こえるようになってから。ということは、スキルさえ発動していれば、普通の冒険者になれていたはず。
「ええい、考えたって仕方ないものは仕方ない」
いくら考えても惜しんでも、過去に戻れるわけじゃなし。やめだ、やめ。それよりこれからのことだ。
「お金は今日の宿代でほとんどなくなったし、僕がなんとか稼がなくちゃ」
明日最低でも三人分の宿代は確保しなくちゃいけない。F級の僕が受けられる依頼は、薬草採取かゴブリン討伐。どっちも報酬が安いけど、今の僕はゴブリンを一発殴れば倒せる。
ゴブリン1体の報酬は銅貨2枚。宿代は1人銅貨6枚。最低でも3人分の銅貨18枚は必要だ。
ゴブリンは増えると困るので常に依頼はあるけど、体内の魔石は使い道のないクズ石で、お金にならない。せいぜいが魔石2つで銅貨1枚ってとこ。解体して取り出す労力と、解体中に襲われる危険を思えば、魔石は諦めた方がいい。
なので、ゴブリン9体以上を倒せば宿代は確保できる。丸一日頑張れば15体くらいはいけるんじゃないか? うん。いける。
そうと決まれば寝よう。
明日からの展望が見えて安心した僕の意識は、すぐに落ちた。
****
そして翌日の夕方。
甘かった……!
なんでいけると思ったかな。僕のあほー。
床に這いつくばって動けなくなった僕は、自分に悪態をついていた。
「大丈夫って言うから送り出したのに、ぼろぼろじゃないですか! 『ぽかぽか』『回復』」
「すみません……」
僕は床に正座して小さくなった。
モーリーを危険な目に合わせられないからと、ヒヨリさんを説得して、二人には宿で待ってもらっていた。その結果がこの様なんだから、本当に面目ない。
馬鹿だ僕は。本当に馬鹿だ。
モーリーと出会った時に数十体のモンスターを倒せたのは、途中途中でレベルが上がって回復したからだ。それなのに、倒せなかったモンスターが倒せるようになったからって、急に強くなった気になっていた。
確かに今の僕はゴブリンくらい楽勝だけど。それは単体、もしくは少数での話だ。
だけど基本的にゴブリンは、単体で行動しない。集落を作り、3から5体で狩りに出る。そうすると数体のゴブリンを、一人で相手にしなければならないわけで。
武器なしで数体のゴブリンに楽勝できるほどの実力は僕にない。どうしたって無傷とはいかない。
最初の2体を殴り倒した時は調子よかった。その後3体目を相手にしていたら、別の4体に囲まれて攻撃を防げなくなった。
ゴブリンの武器はこん棒だ。打ち据えられる度にズキズキと痛み、熱を持つ。背中を叩かれてからは、酷く息が切れた。陸の上で溺れているように苦しく、動きは鈍くなっていく。回避率が下がり、一発で殴り倒せなくなって、さらに打撲が増えた。
しかも、もたもたしている間にさらにゴブリンがきた。
小さな怪我でも積み重なれば致命になる。冒険者である僕は、それを十二分に分かっていたはずなのに。
怪我をしても『レベルが上がれば治る』という謎のスキル、不確定要素をあてにしてしまった。
だけど、ゴブリンを10体以上倒してもレベルは上がらなかった。格下になったゴブリン相手では『不屈』は不発で、『目標達成』も発動しなかった。
なんでだよ。この前はあんなにがんがん上がったのに!
剣術でも何でも初心者の頃は上達が早いもの。それと同じで、レベルも上になるほど上がりにくくなるのか?
って、ごちゃごちゃ考えてる場合じゃない。逃げなくちゃ!
とはいえ簡単には逃がしてくれない。追ってくるゴブリンに頭をこん棒で殴られ、反射で蹴り返して『目標達成』が発動。
そこから必死にどろどろの泥仕合でなんとか仕留めて、討伐部位である耳を武器も道具もないから手でちぎって持って帰った。袋も何も持ってなかったから、ポケットに詰めてだ。
朦朧としながらカストルムに帰ってきたから門番さんが心配してくれたけど、何て受け応えしたか覚えてない。その後ギルドに行って換金したのもうろ覚えだ。
戦闘中に回復があるとなしは、想像以上に違った。頭では分かってたんだけど、実際に経験すると身に染みた。
重い体を引きずって宿に戻って、入り口の扉をくぐったところでぶっ倒れ、ヒヨリさんに回復してもらったのが今だった。
お読み下さりありがとうございます。
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来週はおそらく木曜更新できますが、再来週から不定期になります。




