第4話 叶えられない夢
リュウトが夢から覚めたのは、いつもの自分のベッドだった。
幼い頃から祖母と暮らす、小さな家の粗末なベッド。
それでも、リュウトにとっては特別に過ごしやすい空間だ。
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「今日の夢の出来事は、何も叶えない。
現実に持ち込むには、君の能力は危険すぎる」
夢の終わりに、女神はそう言った。
「納得できない、って顔してるわね」
「まだ、何も聞いていない。勇者がなんなのか、マリーとサチのためにこれから何をすべきか、何も」
リュウトはそう言って、女神の目を見つめた。
黒に近い濃褐色の瞳には、強い意志が宿っているように見えた。
マリーとサチが、彼にとってどれだけ大切かを語っていた。
おそらく、彼にとって勇者などという肩書きは、なんの魅力も持たない言葉なのだろう。
女神はそれを読み取って、ふぅ、と息を吐いた。
自分のようだ、と思った。
女神なんて肩書きに、何の意味もないように。
見た夢を叶えるという偉大なる能力があるものの、彼女は万能ではない。
大きく分けて4つのルールがあり、それは彼女にも破ることができない絶対のものだった。
1,叶えられる夢は、明晰夢のみ。対象者が自我をもち、夢を夢だと気づいた場合のみ、叶えることができる。
2,夢を叶えるかどうかの判断は、女神が行える。女神が許可した事象のみ、現実へと移行される。
3,叶える事象は、夢の中で対象者本人が作り上げた現象に限る。女神が代行して作った事象は、現実に移行されることは無い。
4,夢の中であっても、女神が対象者を殺すことはできない。
「対象者の心を殺すことも、したくないな…」
ポツリと女神が呟いた。
「え?」
リュウトの耳には届かなかったようで、彼は不思議そうな表情を女神に向けた。
「なんでもないわ。
そうね…ドラゴンの召喚は無効にしましょう」
女神はそう言って、にこりと笑う。
「他は、この夢で使った能力はそのまま使える。
これからの話は、今日は残念ながらもう時間がないようだから、次の明晰夢でまた私を呼んでくれたら、その時に」
早めの口調でそう一息に話して、女神はリュウトを見つめた。
あまりに整ったその姿に、リュウトは今更ながら見入ってしまう。
「それでどうかしら?」
「は、はい、オネガイシマス…」
気圧されるように、そう答えて。
そこで、目が覚めた。
今日も朝早くからマリーの畑仕事を手伝って、祖母の昼と夕のご飯を作った。
今日はやけに疲れて、まだ日が落ちないうちに眠りについたのだった。
もうすっかり夜になっていた。
暗いものの、いつもと変わりない部屋。
自分自身も、特に変わりはないように思う。
両手を見ても、いつも通りだ。
とりあえずベッドから起き上がろうと体に力を入れた時、ふと夢の中で飛んでた感覚を思い出した。
体が重さを忘れるような、あの感覚を再現してみようと思った。
途端に、ふわりと体が浮かぶ。
夢の中と同じ感覚だ。
「おおおおお」
思わず声が出た。
たしかに、夢が現実になっている。
興奮が喉の奥から漏れ出るのを、なんとか抑える。
その瞬間、ゴツンと天井に頭を打った。
「いってぇ…」
ああ、これは狭い部屋でするものじゃないな。
外で試すか。
そう思い、浮遊しながら窓を開ける。
ツンと焦げた臭いが鼻を刺した。
これは、覚えがある。
マリーとサチが死んだ、火事の時と同じ臭いだった。
文字通り窓から飛び出して、高く浮かび、当たりを見回す。
今日も午前中にマリーと作業していた、『女神の畑』が燃えている。
「マリー!サチ!」
叫ぶリュウトを尻目に、炎と煙は、マリー達の家をも飲み込もうとしていた。




