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第3話 女神と勇者



「簡単に言うと、あなたの夢は強すぎる」


シンプルな白のワンピースに着替えてきた女神が、そう言った。

空から場所を変えて、今はリュウトの家のリビングだ。


「強すぎるって、なんだよ」


「夢を思い通りに支配するチカラが、強すぎるのよ」


たとえば、と言って、女神は自分の掌を上に向けた。


「ここに、イチゴ出して」


直後に、女神の掌にイチゴが現れる。


「このイチゴは甘いでしょ?」


「いや、ものすごく酸っぱい。オレが庭で育てた失敗作だ」


「それよ」


「え?」


女神がリュウトを指差す。

意味がわからず、リュウトは首を捻った。


「私の言葉を即座に否定できる、これがまずおかしな話なの」


「私は、夢と夢を渡る者。夢を現実につなげる、私にはそれができる。

だからこそ、夢をある程度支配できるのよ」


言いながら、イチゴを頬張る。

「すっぱ…」

きゅっと顔をしかめながら、女神は話を続ける。


「私の力を悪用されないように、悪い夢を抱く者を修正し、支配する能力が、私にはあるの。

それなのに、あなたには私の支配が効かない」


そのうえ、と女神はリュウトに尋ねる。


「あなた、私の変な服が見えていたわね?」


変な服って自覚あるのかよ、と思いながら、

「当たり前だろ。あんな目立つ服見えないがわけない」と答える。


ふぅっとひと呼吸を置いて。


「今まで、私の服装まで認識した人間はいないわ。

ついでに言えば、私を疑う人間もいない。なぜかわかる?」


「え?」


「私の1番強い力はね、魅惑なの。

1人残らずトリコにし、1人残らず拒否させず、1人残らず疑わせない。

私がどんな服を着ていようが、すべて良い記憶にすり替わるほどのね」


それを聞いて、リュウトの中でふと答えがわかった。

今まで不思議だった疑問の答えだ。

夢の女神の力は、どこまでを保証してくれるのか。

神の力のその後を、誰も不安に思わなかった理由。


「みんな…あんたの魔法にかかっているだけなのか?」


「そうなるわね」

リュウトの言葉に、女神は悪びれもせず笑った。


「ふーん…君は私のチカラを疑っていたんだねぇ。

マリーとサチは今までと同じ『普通の人間なのか』ねぇ…」


心を読まれていることに気づき、頬が熱くなる思いがした。

夢を支配する女神の前で、隠し事はできないということか。

ならば。


「教えろよ。オレの疑問にこた…」


「私にもわからない」


リュウトの言葉を遮り、女神は言う。


「死者を蘇らせたのは、マリーとサチが初めてなの。私にもわからないわ」


なんて無責任な。


「まぁ、ゲイルの望みから見て、明日死ぬってことはないと思うけど」


なんだそれ。

生き返らせただけで感謝しろってことか?


抑えられない怒りが湧き上がる。

家の中にいたはずの2人の周りの景色が、全て消えた。

ピリッと空気が張りつめるのがわかる。


「現れよ、ダークドラゴン」


そう言い放ったのは、リュウトだった。

先程、女神が出現させたドラゴンそのものが、2人の前に現れる。

ただし、今回の標的は女神のほうだった。


「ちょっと待った…て言っても、聞いてくれないよね」


言いながら、いつのまにか女神はワンドを握っていた。


「アイシクルストーム」


そう言い終えるが早いか、吹き荒れる風と共に大量の氷の刃が黒竜の全身を覆うようにまとわりついた。

氷雪系の高位呪文である。

刃が刺さった場所から、黒竜の表面が凍っていく。数えきれないほどの氷刃をその身に受け、黒竜が氷の塊となるまで、30秒程の出来事だった。


黒竜が行動不能になったのを見届けると、女神はワンドをリュウトへと向けた。


「私の話を聞きなさい」


言葉の出し方を忘れてしまったように、リュウトの喉は黙り込んでしまった。

否定したいのに、できない。


「はい」


その言葉だけ、はっきりと出てきた。

これが女神の能力なのだろう。


「ワンドを介しての魅惑で、やっと効くレベルかぁ。しかも君、まだ抵抗しようとしてるよね」


顔を覗きこまれて、リュウトは目をそらした。


「私に敵意はないよ。信じられないかもしれないけど、君の大事な人達を生き返らせたのは、本当にゲイルを思ってのことよ」


信じられるか、と言うようにリュウトは女神を睨んだ。その眼は、魅惑の魔法に支配された者の眼ではなかった。


「わかった、正直に言うわ」


女神は、こう話を続けた。


「ゲイルを勇者だと思ったのよ、最初はね。

いつも強い夢の反応があった村の人間だったし、夢の扱いにも慣れていた。もしかして、君が何か教えたことがあったのかもね」


そう言われて、リュウトには思い当たる節があった。

マリーとサチを失って、夢でもいいから2人に会いたいと泣いていたゲイルに、明晰夢のコツを伝えたことがあった。


「勇者じゃないと途中で気づいたけれど、あんな小さな子を亡くすなんて…

蘇生が必ずしも良いことだなんて、私も思っていないわ。

だけど、大事な人を取り戻したいと願うのは、悪いことなんかじゃないもの」


女神にも、取り戻したい大事な人がいるのだろうか。

リュウトは、真剣に話す女神を見て考えていた。


「先がわからない蘇生を行ってしまったことは、謝る。そしてこれも」


ふと、リュウトの体が軽くなる。

女神が魅惑での侍従を解いたらしい。


「強制的に従わせてごめんなさい。

マリーとサチの今後については、2人でゆっくり策を練りましょう。夢の勇者と女神に、叶えられない夢なんてないもの」


そう微笑む女神は美しく、そして誠実に見えた。





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