第一章4話
ゴリゴリ……ゴリゴリ……ゴリゴリ……
すり鉢に入れた傷薬の原料になるニーラ草をゴリゴリ、ゴリゴリ、ゴリゴリと摩り下ろして行きます。
あたりに独特な刺激臭が立ち込めるのですが……。遥かなる私の記憶をたどるとですね。これの臭いに思い当たる節があるのです。……なんでしたっけねー。んーただ、お肉と一緒に炒めて食べると美味しそうではあります。
そんな、ニーラ草を摩り下ろしながら魔力を込めなさいと言われたので込めつつゴリゴリして、完全なペースト状になった物をアレーデ先生に見せる。因みに今のアレーデ先生は挨拶の時に見た状態ではなくサラサラストレートロングの御髪が美しく、多少目の下にクマがあるぐらいですが素敵な美人さんなのです。どうも、あの時はデスマーチ中だったらしく、ご本人と、ゾンビ……もとい、アシスタントさん達の理性のタガも外れていただけみたいです。
「んー。いい感じね。後はもっと魔力を絞り込んで摩り下ろせる様に成らないとね」
「まっまだ、魔力を絞るのですか……」
「そうよ……そうねぇ、これと同じ品質を50個程作りる事をイメージしながら魔力を絞ると良いわね」
「はい!?ごっ50個ですか!?」
「実際にはその前で気力の方が尽きるけど、魔力を込める指針としてはそのぐらいと言う事なのよ。これは私が弟子達に最初に指導する微細な魔力操作の練習法なのよ。後々、錬金術の魔術で手っ取り早くポーションを作らなくてはいけない時に、作り方を体で覚えておくのと、知識と術式だけで作るのでは出来上がりが大きな差となって現れるの。だから、今はこれを集中して続けないさい」
「はっはいなのです」
「それじゃ、これから来客があるから席を外すけど、何かあったら他の人達に言って頂戴」
「はい!!」
アレーデ先生を見送った後はまた例によってニーら草をゴリゴリと摩り下ろし始めるのです。今度はもっと魔力を絞りつつ、絞りつつ……ひたすらゴリゴリすり鉢で摩り下ろす。
いいのかなぁ。今日はこのニーラ草をゴリゴリ磨り潰すだけで、日当銅貨50枚。日によってはアトリエに併設されてる薬草園のお世話等の場合もありますが、一日の稼ぎとしては少ない方だと思うんだけど、ご飯食べられるし何より初級植物知識と初級薬師のスキルの練習がガンガン出来るので凄くありがたいんです。朝は朝で、跳ねる猪亭で料理の仕込のお手伝いをすれば、まかない出して貰えるし……これって贅沢さえしなければ日当分をまるまる貯金出来るのでお金がガンガン溜まってくのです。
と、言う訳で私的には至福なひと時な訳であります。……ただ、一つ疑問があるんですが、神聖魔術の第零階位、レベル的には0の呪文の中に<クリエイト・ウォーター>と言う水を作り出す呪文と第一階位の<ピュリフィケイション>と言う浄化の呪文があります。これをガンガン使わされるのですが、良いんでしょうか?村に来ていた修道士様は神の御技は無闇に見せびらかせる物じゃないって言ってたんですけど……。
ただ、ここだけの話、この二つの呪文は私の日常生活に無くてはならない呪文ではあります。お水の補充に体や服の汚れを一瞬で解決できるこれらの呪文はその利便性を知ってしまうと手放せなくなりますのです。……おっといけない。今は目の前のニーラ草の摩り下ろしに全力を傾けねば。これを達成すればご飯と日当、ゲットなのです!!
アレーデのアトリエの客間にて出されたお茶を飲んでアレーデを待っているんだが、目の前の、ビショップがなんとも優雅に茶を飲む姿が様になっていやがる……。
俺よりもマッチョで、厳つい顔の癖に……。しかも、こいつの二つ名は「拳で語る者」から「拳者」と言われてる程の脳筋な癖に、なんか納得がいかん。
そんな悶々とした気持ちを抑えようとしてはいた所、客間の扉が開き待ち人が来る。
「待たせたわね」
「さてと、アレーデも来たし、今後の事について認識をすり合せておこうか」
「うむ、異論は無いぞ」
「ええ、構わないわ」
「まずは、俺からだが少なくともしばらくの間はアレーデの元で薬師関係の基礎を学ばせ、後は街の連中との顔繋ぎをさせるための雑務クエストを順次斡旋してゆこうかと考えている」
「私としてはそうして貰えるとありがたいのだけど……ローレンスは構わないの?」
「うむ。まったくもって構わない。一応注文を付けるとすると兎に角、神聖魔術を使う様にしてくれ」
「それはやってもらってるわ……特にクリエイト・ウォーターやピュリフィケイションは錬金術以外にも役に立ってるけど、そう言うのって出し惜しみするもんじゃないの?」
「そう言う輩が居るのは承知しているがね、セラみたいなこれから成長する子には兎に角使わせなくてはならんのだよ、魔力の総量の増加もそうだが、神聖魔術の応用範囲は意外と広いのだ。視野を広くさせる為にもどんどん使わせてくれ。『若い内は、神の御技と言うのは使ってこそ意味がある。』我が師が仰っていた言葉である」
「ええぇ、何か良く言われている事と逆なんだけど。一応、水を樽一杯にしてもらうとか汚れた服とか、公衆浴場行けない日とか……そりゃ、もう、遠慮なく使わせてもらってるわ。正直な所、日当銀貨1枚でも安いと思えるぐらいに」
「逆に、ローレンスの方は何か指導とかしなくても良いのか?」
「そうさな。有るには有るのだが、今は本人が神聖魔術を用いてどう言う事を生業とするのか?と言う事の道筋が見えてからでも十分間に合うさ。私の様に武神の教えと出会い、その質実剛健な生き様に惚れ込んでその道へと進む場合もあるしな。なまじ神殿の教義に感化されて頭が固くなってしまう方が問題だよ。それにな……」
身内の恥を晒す様で恐縮なのだが、と言いつつ話し出した内容にはため息が出る。
ようは、神殿の「権威派」と呼ばれる連中の大半は属性魔術師からの転職組みであり、生粋の聖職者であるローレンスらと神殿のあり方で対立する事がままある。今回生粋のアコライトが誕生したことで「権威派」の連中がセラの育成に関与させろと、とってもうるさいので黙らせるのに時間が掛かるから、その間はなるべくセラを近づけたくないって事らしい。
まあ、こっちもこっちで内情は似たような物で、今は大人しいがその内またセラの事で主導権争いが起こる可能性も高い。今の内にギルドからの依頼を干されても、街の有力者達からの指名依頼を受注出来る環境を整えんとなぁ。
「わかった。お前さんがそう言うならな。まあ、権威派の影響力が少なそうな孤児院とか救護院とかの雑務系が回ってきたらセラに優先的に回そう。後は週一程度はお前の所に行かせるから、内情は兎も角、今の素晴らしい思想を語って聞かせてくれ」
「了解した。アレーデはそれでも良いか?」
「ええ、十分すぎるわ」
後は、余り考えたくないが、最悪の事態を想定しておくに越したことは無いだろう。
さて、どうしたものかな……。
「ゴルノフよ。もしもの時は帝都のわが師の所にやるのが一番だろうよ」
「序に私も、アカデミーへの推薦を取り付けておくわ」
「そうか……すまねぇな」
「だもんで、もしも、帝都へと送り出す時は、後ろ盾は用意してやるから、お前が向こうでの面倒を見てやれ」
「そうね。あの子、あんまり交渉ごと得意そうじゃないし、騙されない様にするために保護者が必要だもんね」
はあぁ!?俺かぁ!?普通、社会的地位や信用問題からお前らのどっちかの方が良くねぇか?何?神殿を離れられんし、アトリエをほっぽっていけるわけ無いだと、たっ確かにそうだが……。
それに、自分たちでは手配できない街の有力者連中の紹介状は俺しか用意出来んだろうがって……。
「最後に、もし、セラを帝都へと送る嵌めになったときにお主の居場所がギルドにあると思うか?」
「そうそう。絶対に首を切られるわよ。金貨で100枚掛けても良いわ」
……ひっ否定のしようがねぇ。




