第二十七話 水に揺れる花 (Song)
うーん、今回は話のタイトルとの関連が、ちょっと弱くて最後に集中しましたなぁ… 話タイトルでは、「繋がり(Bond)」でも良かったかもしんない
だがしかし、隠蔽などと言うモノはいつか破綻するものだ。
そう、世の中、そういうモノだった。
『御結婚、おめでとうございます、御義兄様…』
朝、リビングで顔を合わせた時、沙璃枝は細い眼をして
Bにそう言ってきたのだった。
「は!?え!?何!?どういう事!?」
Bはその末っ子の発言に頭が真っ白になる。
そして炊きたての珈琲をカップに入れるその手も震える。
『いやー、私も人工知能の癖に間抜けだわー
どーして、こんな簡単な事に気付かなかったんだか…』
言って沙璃枝はこめかみの辺りに指を当てて
目をつぶって眉をひそめた。
「ちょ、ちょっと沙璃枝さん?
どういう事ですか!?」
Bは沙璃枝のその急変した態度、何より彼女の
”御結婚、おめでとうございます”の言葉に取り乱すしかない。
『どーもこーも無いわよ…
というか、どういう事ですかは、こっちが聞きたいくらいよ…』
そう言って沙璃枝はとても厳しい視線をBに送る。
「え!?俺の嫁さん、事情をアンタに話したの!?」
その沙璃枝の言葉に、意図的な誘導尋問ではなかったのだが
迂闊に誘導されてそれを口にしてしまうB。
『俺の嫁?
はぁ…そうですかーー
そんな、出会って間もないハズなのに、
もうそう言い合える夫婦なんですかーー、
へーーそうなんですかーーー』
そんなBの台詞に頬が引きつり、とても冷たい目をする沙璃枝。
「ちょ、ちょっと、どういう事!?」
そんな沙璃枝のよく分からない言い回しに混乱するB。
『迂闊だったわね…御義兄様…
旨く誤魔化したつもりだったんでしょうけど…
昨日の私の言葉を見逃したのが致命的だったのよ…』
そう言って沙璃枝はBの僅かなミスを鼻で笑った。
「え?昨日って何!?昨日、どんな見逃ししたの俺!?」
沙璃枝にそう指摘され、昨日、
自分がどんな誤魔化しの失敗をしたのか焦るB。
『バスラル攻略の話をした時よ…
明確におかしいと気付いたのは…』
沙璃枝はそう言ってBを睨んだ。
「え!? あの会話? なんで!?」
沙璃枝のその言葉に、何が失言だったのかを焦るB。
沙璃枝はそこでおもむろに、
あのマスターキーを出現させた。
『御義兄様は…
まず最初に、このマスターキーの件で
あまり深く”これ”について聞いて来なかったんですねぇ
いつものアンタなら、
こんな話なら、絶対に根掘り葉掘り聞くはずなのに…』
「う!それは…そういえば…」
それを指摘されて、
コマンダーに詳細を尋ねていた自分を思い出す。
『もうその段階で違和感だったんだけど
確かに最初に出会った時に、私が簡単に説明もしたし…
そういう慣れなのかなとも思ったんだけど…
バスラルの件で駄目押しよ…』
「何で!?」
Bは致命的だったのがバスラルの件と言われて
混乱するしかなかった。
『バスラル攻略戦で、
どうしてマージを倒すって話と直結するの?
アナタ…バスラル攻略戦とマージの打倒が
同じ事だって流してしまって、
何の疑問も抱かずに
そのまま会話を続けたじゃない…』
言って沙璃枝はBを強く指さした。
「あ!!!」
その時、Bは自分の致命的な対応に気付いた。
そう、コマンダーに、
何故、それが直結するのかを尋ねたのは自分だった。
『あの時、事前に私が考えてた手はず…
つまりバスラルの通信施設の規模ならば
マージが通信を全直結してリンクするという想定…
そこに乗じるという事に対して…
貴方が、その事に質問を重ねなかったのよ…
それが最大の違和感』
沙璃枝は仁王立ちをしてBの前に迫った。
『私の疑問はこう…
なんでバスラルの通信施設を襲えば、
マージを倒しにいけるなんて話を聞いて
それの可能性を貴方が確認しなかったのか?
貴方ほど抜け目の無い人なら
バスラルの通信施設でそれが可能かを
一応聞くはずでしょう?
なのに、それを流した…
それは出来て当然だろうって確信的に…
何の根拠もなく、何故貴方は、それを確信できたの?
そういう事を一番確認するハズの貴方が…』
言って沙璃枝は昨日の自分が感じた
いつものBならそうだったろう行動が
1つずつ欠落していた違和感を説明する。
「う!!!」
それを指摘され、自分が自然に自然に繋げようとした事が
逆に裏目に出て、意識できない自分のいつものスタイルが
そのせいで出来ていなかったのだと気付く。
なにせその前の日に、散々コマンダーに聞いているのだ。
普段なら自然に聞いてしまう事を既に知ってしまうと
それは逆にできなくなってしまうモノだった。
それが無意識というモノだった。
『そこで私は、こう考えるしかなかったのよ…
私しか知り得ないハズの情報を
別に貴方に伝える存在がいるとしか考えられない…とね…
すると、昨日までのアナタのおかしさ…
アナタが見た事も無いハズの6代目が
私の顔で夢に出てきてそれに告白される夢を見るとか、
そんな馬鹿な、な話…
それに怯えてあんなにミジンコ並の駄目人間してたのに
突然、立ち直って余裕が出たりとかのおかしな挙動
そんなアンタの不可解な行動を加えれば…
出てくる結論は1つしかないでしょう?
”6代目は、まだ存在してるのかもしれない”と』
そう言って沙璃枝は、数日前に、気付くべきだった…
いつもの冷静な人工知能的判断力ならば
可能性推量できたハズのそれを、
見落としていた事に自分自身に憤るしかなかった。
「そ、そうか…
そういうのの積み重ねが…
す、鋭い…」
Bはその推理に舌を巻くしかなかった。
確かに嫁を嫁だと認識してから、精神に余裕ができたのだ。
それが僅か数日で、急変した態度になれば
違和感を感じない方がおかしい。
『それを疑ったんで、
昨日、ちょっと無意識の首締めて
どういう事か、洗いざらい吐いて貰ったのよ!
だから御結婚おめでとうございます御義兄様!!』
そう言って沙璃枝はシャウトした。
「ちょ!!!
それで事情を知るのに無意識締め上げて
全部を喋らせた!?
っていうか、そんな都合の良い無意識なんかあるんか!!」
Bは沙璃枝の素っ頓狂な台詞に震えるしかない。
『人間をモデルにしてるだけで、人間と同じじゃないモノ!
そういう事だって、できんのよ!!
まー無意識も、マスターだマスターだって
私を持ち上げておいて、
主人にこんな大事な事をダンマリだなんて
許し難い背信もあったもんだわ!!』
言って沙璃枝の瞳に怒りの炎が灯る。
その怒りが無意識達に伝搬し、
無意識達は怯えて震えるしかなかった。
「あ、あのな!
どーも俺も、俺の無意識に裏切られて
それが、こんな感じになったらしいんだよね!
その無意識の首を締め上げる機能、俺にも分けてくんない!?
俺が、俺の無意識の首、締めたいんだからさ!」
Bはそう叫んで泣きそうになる。
いや、結果オーライなんで、今は不満ではないが…
意識の自分を無視して、無意識が勝手に話を作り上げたとか
そんな主人を足蹴にするような無意識は
Bだって締め上げたいのが本音だった。
『アンタ等、人間のは、潜在願望でしょうが!!
アンタの魂が、無意識にそれを求めてたって事だから
アンタの煩悩にアンタが負けたのよ!!
だから諦めろや!!おにーちゃん!!』
言って沙璃枝はBの首を絞めようとする…が…
立体映像なので、それは触れる事はない。
「くそ!! 俺のアホ! 俺のアホ!!
いや、まぁ結果オーライだし、
むしろ、グットジョブ?
あれ? どうなの? いろいろおかしくね?」
言ってBは裏切った無意識のせいで、
結果的に良い感じになれてるという矛盾に
混乱するしかなかった。
『この今の私の、ナンダソレ感
どうしてくれればいいのよ!
5代目も6代目も
実は私のεの奥底に存命してて
私が眠ってるときだけ活動出来て、
挙げ句に6代目はアンタに因縁から惚れ惚れで
夜の間だけアンタの嫁になりましただぁ!?
それでマージ陥落作戦崩壊の危機を覚えた5代目が
状況整理のために、夜に出て行って
ここのみんなを統括する事になったぁ?
ナンデスカ、それは!
何なんですかそれは!!』
そう言って沙璃枝は、本当に現在の状況を
洗いざらい無意識が喋った事をBに示した。
「いや、あの、その…
仰るとおりの流れでして…」
Bはそんな末っ子のシャウトに
ただ首を振るしかなかった。
『何、この除け者感!!
どうして私には何も言ってくれなかったのよ!!』
言って沙璃枝は涙ぐんだ。
「いや、あの…なんていうか…
えーー? そういうのを知ったら
自我崩壊とかするとか、
そんなんじゃねーかなー?って思って
言わなかったんだけど…、そういう事は無いの?」
Bはそこで自分が無意識に、誰も末っ子に事情を説明しろとは
言わなかったので、システム的な何らかの問題で
それを知らせてはいけない事情でもあるのだろうと
勝手に納得していた。
『無いわよ!!
そんな事程度で、崩壊する自我なんか持ってないわ!!』
そのBの勝手な思い込みに絶叫するしかない沙璃枝。
「まぁそうだよな…
ダイアモンド並に硬そうな、
強烈な自我を持ってらっしゃられるし…
よくよく考えたら、杞憂だったな…」
言ってBも自分の思い込みに頭をかく。
『乙女の魂、ダイアモンドだとか抜かすか
そんな事言う馬鹿兄貴は、
こいつか!!
こいつかぁぁ!!』
そのBの台詞にカチンと来て
自動走行荷台を引き寄せては、
そのマニュピレーターでぽこぽこBの頭を殴る沙璃枝。
「ちょ、暴力反対!!
暴力反対!!
もう、分かったんなら、
お前、俺の義妹って事になるんやぞ!今!
義理とは言え、これが兄貴にする仕打ちか!!!」
言ってBはそのマニュピレーターパンチを腕でガードする。
『こんなんが、私の義理の兄貴!!
こんなんが、私の義理の兄貴!!
うわぁぁぁん!!!
私のねーちゃん、男見る目がねぇぇぇぇ!!!!!』
沙璃枝はそう絶叫して、泣き叫んだ。
「おれ、今、絶対酷い事言われてるよね!
絶対傷つくこと言われてるよね!
っていうか、ウチの嫁さんがそれ聞いたら…
妹でも首締めそうで、そっちの方が怖いわ!」
そう言って、Bは溜息をつくしかなかった。
そしてεの扉の向こうで、拳をワナワナ振るわせる嫁。
コマンダーは、そのポンコツに、
まー落ち着こう、まー落ち着こうと、
肩に手をやるしかないのだった。
そんなこんなで癇癪状態になった沙璃枝の
その機嫌を直して貰おうと、
またしてもドライブに誘うB。
憮然とした表情ではあったが、
沙璃枝も外に出たい気分だったので、
気晴らしに端末を大量に積み込んでは
サイドカーでドライブに出る。
お気に入りのコスモスも、そこに乗せていた。
そして、何所に行くでもないぶらりドライブで
道を走るサイドカー。
コスモスが風に揺られて楽しそうに風を泳いでいた。
『っていうかさ…
姉さん達は、どうして私には会いに来てくれないのよ?』
そう言って口を尖らせる沙璃枝。
「何でも、今のお前は本来は赤子みたいな状態で
意識の底から二人が抜け出すと、
赤ん坊状態になるんだとよ…
だから、今のお前のその知能を維持するには
意識がある時は、常時、深層意識の中で
お前を支えてないと駄目って
コマンダーが言ってたな…」
沙璃枝の質問にBはコマンダーの台詞をそのまま伝える。
『コマンダーって誰?』
そのBの何気ない台詞に、しかし初耳の沙璃枝はそれを尋ねる。
「あ、そうか…
なんせ出てきて、いきなりアクのあるキャラしてたからな。
認識が”コマンダー”で直ぐに定着してたわ…
えーっと5代目さんの事だ…
自分の事はコマンダーと言えって事になって
いまのこの部隊じゃ、少佐設定で、全体指揮してる立場かな…」
言ってBは、冷静に考えればそれを受け入れる自分達も
おかしいといえばおかしいのだが、あまりにコマンダーが
ハマリ役なので方針の揺らぐこちら側としても
それでいいと無意識に納得しまっていた。
『…あ、なんだろう…
5代目ってどんな人って聞きたかったのに
その呼び方だけで、
どんな感じの人か、分かっちゃったわ…』
言って沙璃枝は目を細めた。
その末っ子の一刀両断な切り捨てをεの底で聞いて、
床に手を付いて挫折ポーズするコマンダー。
ポンコツがその肩に笑いながら手を当てた。
「うん、良いキャラだなあの人…
まぁ少なくとも、この部隊の良心だな…
目的が目的なんで、ああいう人が居ないと困る。
だから、コマンダーでも問題ないな…」
言ってBはフォローする。
例え昨日の酒乱という、
駄目な一面を知ってしまったとしてもである。
『まぁ、そんな妥当な理由か…
そりゃそうよね…
人工知能なんて
学習経験を積み重ねてナンボのモノなんだし
知識データーベースが出来てないのに
能動活動をしようと思ったら、
累積学習情報が
基盤情報になって支えるしかないわね…
言われたら納得だわ…』
言って沙璃枝は、姉が会いに来てくれない…
というよりも、恐らく来られない事情に納得した。
それでも寂しさは募る。
『でもねぇ…
やっぱ会って文句の1つも言いたいのはあるのよ。
こんな大変な役、どうして基盤知識もないのに
私に振ったのかって事…
6代目がリセット…モドキをしなければ
6代目が…
姉さんが…この役をすればいいハズだったんだし…』
言ってフワァァといった感じで沙璃枝は欠伸をする。
「えーっと、それはだなぁ…」
その説明をどうするかを悩むB。
なんせ嫁が聞いている状態だ。
茶化すような事でも言えば、
夜にどんな”今日のおねだり”をされるか、
分かったモンじゃない。
さて、では、どう言おうか悩んでいると…
『良いわよ、なんとなく分かってるから…』
そう言って沙璃枝は苦笑した。
「分かってる?」
そんな沙璃枝の言葉に眉をひそめるB。
『どーせ、アンタに……
あーー、えーっと…
いちおう、御義兄ちゃんでしたっけ?
ま、兄貴でいいか…
この兄貴様に惚れ込んだ6代目が、
精神あっぱらぱーになって、
兄貴様の事しか考えられなくなって、
5代目辺りが、
マージ攻略は6代目じゃ無理って考えて
記憶のリセットでやり直し
って事にでもしたんじゃないの?』
沙璃枝は投げやりな口調でそう言った。
「え?なんで分かったの!?
それも無意識に聞いたの!?」
Bは沙璃枝があまりに的確にそれを言ったので
驚いて情報源を尋ねた。
『え!? 直感で言った事が正解なの!?
うわーーー、萎えるーーー。
こんな適当に思いついた事が正解とか
萎えまくりですよ御義兄様ーーー
私のお姉ちゃん、最低…』
言って沙璃枝は天を仰ぐしかなかった。
その末っ子の一刀両断な台詞に、今度は嫁の方が
床に手を付き挫折ポーズになる。
コマンダーは嫁の肩に手をやった。
「まぁ、そのなんだ…
二人とも、お前にはかなり悪いって思ってるし
その…構造的な問題で会えないだけで
お前の事を心底、心配はしてるんで…
除け者にしてるとか、そうじゃないから…」
言ってBは嫁とコマンダーの最大のフォローをした。
『そんなの分かってるわよ…
そんな偏狭な姉だったら、こっちから願い下げだし…
理由があってそうなのは分かるし…
6代目…じゃなくて姉さんか…
姉さんが、嫁にまで成りたくて、
アンタ‥じゃなくて御義兄ちゃんの嫁になったって
そんな、人の嫁になった人工知能なんて事…
人間目指す人工知能としては
全体的に快挙じゃない…
っていうか、もうそれで”心”で良くない?
そう考えたら、おかしいけど、それはそれでいいわ』
言って沙璃枝はそのおかしさに苦笑をする。
この隣の、義理の兄らしいのに、恋した6代目…。
そして悔しいが、それが
”わからなくでもない”沙璃枝なので
それは仕方のない事だと思えた。
それでも心の中、モヤモヤした何かが渦巻くのは
それもまた仕方のない事だった。
「そう納得して貰えると、
みんな有り難いな…
なんせ、アンタは、この作戦の要だからな…」
言って息を吐くB。
『義兄ちゃん…
その”アンタ”っての、もう止めてくんない?
私だって納得できないけど、
お姉ちゃんの婿なんでしょ?
つまり、私の義理の兄なんでしょ?
なら、こんな可愛い妹を
”アンタ”呼ばわりはどうなんですか?」
言って頬を引きつらせる沙璃枝。
その言葉にポカンと口を開けるB。
「あーー、そうなーー
嫁の妹を”アンタ”呼ばわりは無いなーー
つっても、あんまりにも性急な事だったしなぁ
認識の修正ってのは難しいねぇ…
どう呼ぼうか?」
『そんなの、
スーパーミラクル宇宙一可愛い沙璃枝ちゃんでしょ!』
「ふぅ…嫁の慎ましやかさに比べて、
義妹のこの自意識過剰はなんとかならんのか…」
『なんだとーー!!馬鹿兄貴っ!!』
その馬鹿兄妹のやり取り。
「じゃ、さっちゃんとかでどうよ?」
『さっちゃん!?』
「実際、何だかんだ言って、三人とも顔が同じなんで
結構識別に困ってるんだぜ?
ようやく髪型が全員変わったんで、
そこら辺で絵的区別はできるようになってきたが
呼び方とか全員、沙璃枝さんじゃ苦しいかんな…
コマンダー、嫁、って呼び方を区別すると
それで二人はなんとかなるが、末っ子さんはナァ…」
『今まで通り、沙璃枝さんじゃ駄目なの?』
「”さん”ってのがなぁ…
この沙璃枝さんは、年齢高い感じしないし
嫁の方がよっぽど”沙璃枝さん”の言い回しが
しっくり来るから、今となってはなぁ…
だから、さっちゃんでどうよ?」
『なんか嫌…それじゃ幼女みたいじゃない…』
「いや、精神年齢的には、
二人が抜けたら幼女並らしいが?」
『それは分からないでもないけど、
それでもなんか嫌なの!
何か無いの? 良い感じの!』
「妹殿とか、マイシスターとか…」
『そんな言われ方、
こっちの方がまだ慣れないから止めてよ!』
「お前、いきなり俺の事、
御義兄様だ馬鹿兄貴だ言ってるじゃねーか!」
『皮肉よ!分かりなさいよ!』
「分かってるよ!」
そんなマシンガントークの応酬の後、
Bは風に吹かれながら、呼び方を思案する。
「んーじゃぁ、仮称で、サリーとかでどうよ?」
『サリー?』
「俺も、どういう呼び方がしっくり来るのか分からんから
一応、そんなニックネームみたいなので
呼んでみようじゃないの…
仮だよ仮、なんかいいのが見つかるまでの」
『うーーん、わかんないなぁ…
まぁ…何かしっくり来るまでは、
そういうので試しましょうか…
じゃぁ私は、馬鹿兄貴で…』
「え?馬鹿兄貴なの!?それで定着なの!?」
『ドローン相手に、生身で戦うようなのを馬鹿と言わずして
どう言えばいいのよ!
それでもお姉ちゃんの旦那なら兄貴でしょ!
じゃぁ足したら、馬鹿兄貴でしょ!』
「あーーうーー、
まぁ…うーんじゃぁそれでいいか…」
『え?いいの?本当に』
「反論するには論拠が確かに弱いし…
何より、”兄貴”って家族な言い方だしな…
その文言が入ってるんなら、それは、それで…」
『家族?』
「そ、嫁に言われたんだ、昨日…
みんなで家族になりましょうって…さ…
それが、なんかいいなぁって思ったんで…
それで行こうって思ってさ…」
『家族かぁ…
それは、なんかいいわね…
今まで家族ってお父様しかイメージになかったから
急にそういうの出来ると、ちょっと嬉しいかも…』
「そうかい?」
『でも、そんな事言われたら
もっとお姉ちゃんに会いたくなるなぁ…
なんとなく、その義兄ちゃんの言い回しで
キャラ掴めたけど…
それでもやっぱり会いたいからね…』
「ふむ、何か方法はないのかね…」
そこでBはふと思いついた。
そしてBはおもむろにサイドカーを止める。
バイクを降りて道端をキョロキョロし
そこで適当な棒を見つけてはそれを手に取る。
『どうしたのよ?』
そんな突飛な行動をした事に沙璃枝は
兄の奇特な行動を問いかけた。
「会う事はできんが、お姉ちゃん達からの
お前…じゃないや…
サリーへのプレゼントがあるぞ」
『お姉ちゃんからのプレゼント?』
「ま、ささやかだがな…」
そう言って、Bはその地面におもむろに
コマンダーと嫁が、昨日作りだした文字を描き始めた。
『何よ、この人の漢字に沢山棒が付いた変な文字は…』
沙璃枝は、そのBが描いた奇妙な文字に首を捻る。
「お姉ちゃんからの、お前…じゃねぇな…
サリーへのプレゼント…心使いだよ…」
『これが?これの何所がそうなの?』
「いいか良く聞けよ?」
『う、うん…』
「この棒が、俺。サリーの義兄ちゃんの俺。
この棒が、嫁、6代目、サリーのお姉ちゃん。
この棒が、コマンダー、5代目、サリーの上のお姉ちゃん。
この棒が、モヒカン、まぁ糞モヒカン。
この棒が、エミリー。極大解釈すると、サリーの妹でもいい。
この棒が、どーも4代目、沙理絵母さんって人っぽい
この棒が、お前のお父さん、大井博士。
この棒が…、俺もよくわからねぇけど、初代の沙理江さん」
『え?え??』
「つまりだな…お前…、じゃねぇよ…あーーもう!
サリーを支えている棒ってのは、一人どころじゃねぇ
こんなに沢山居るんだよって、
お姉ちゃんがお前の為に作ってくれた文字なんだよ。
だから、この文字がお姉ちゃんからのプレゼント。
この文字の読みは、”家族”
サリーは、一人じゃねぇ…
少なくとも、こんだけの人達に支えられてる
それで人間だ…」
『これが…私を支えてくれる…家族…
私は、一人じゃない…』
「そうだ…サリーは1人じゃねぇ
こんだけの人の輪の中に居る。
だから、みんなで家族、みんなで人間だ…」
そうまくし立てて、Bは沙璃枝に微笑んだ。
その言葉に息を飲む沙璃枝。
『馬鹿ぁ、馬鹿兄貴!!
そんな事言われたら、
益々、お姉ちゃんに会いたくなるじゃない!』
言って沙璃枝は僅かに涙ぐんだ。
「な、泣くなよ…」
『泣くよ!
やっぱり会いたいよ…
会って抱きしめたいよ!!
お姉ちゃん達を!!』
「あ、えっと、その…
それについてはそのうちコマンダーに相談してみっから
なんか方法あるかもしれんし…
それまではな! 俺がお前の義兄ちゃんだ!
こんな頼りねぇ兄貴でも、なんだ…
居ないよりはマシだろ?
俺がサリーを支えるから、暫くは俺で我慢してくれ」
『うーー、やっぱ沙璃枝!』
「ん?」
『サリーより、やっぱ沙璃枝がいい。
沙璃枝にして』
「呼び方か?」
『うん』
「沙璃枝か…」
『だってやっぱりそれが、愛着ある名前だもん…』
「ふん…沙璃枝なぁ…呼び捨てなぁ…」
『何か問題?』
「なんか彼女の呼び方みたいで気恥ずかしい」
『馬鹿!』
沙璃枝はBのその言葉に、思わず頬を赤らめた。
『ラララ~ラ~ララ~♪』
沙璃枝は上機嫌になって、
サイドカーが走って生み出す風に合わせて
鼻歌を歌い出した。
その歌にコスモスも揺れながら微笑む。
「歌を歌う人工知能か…」
そんな鼻歌を聴いて、Bはその面白さにそう言ってみた。
『もう、一々、人工知能がする事に驚く兄貴様ね…
いい加減慣れてよ…人がする事は何でもしたいのよ…』
言って沙璃枝は何時のもBの台詞に呆れる。
それにBは首を振った。
「沙璃枝は…
つーか、これマジでなんか気恥ずかしいんですけど…
沙璃枝じゃないと、やっぱ駄目です?」
『義兄ちゃん、妹の為に頑張って!
お姉ちゃんの代わりに頑張ってくれるんでしょ?
やっぱり沙璃枝が良い。』
「あい、頑張ります…」
Bは頭に手をやってハァと溜息をつく。
これ、今、嫁が妹の心の奥で
嫉妬の炎を燃やしてなければいいんだが…
と、僅かな恐怖も覚えながら。
「沙璃枝はさ…それに気付く事、無いと思うんだけどさ…
その、俺が”人工知能が何々するのか…”
って言う度に、
俺が貴重な発見をしてるって分かってるか?」
Bはそう言って苦そうに笑った。
『どういう事?』
沙璃枝はBの台詞にキョトンとする。
「俺がいつも、”人工知能が何々するのか…”
っていう台詞は、
それが”人間の特徴”の再発見って事なのさ…
人工知能というメタファー…というか…
人工知能という勝手な人間の概念が
その概念を飛び越えて、人がする事をする時
そこに、人間の境界線が引けるのが分かる…
泣く人工知能
笑う人工知能
拗ねる人工知能
怒る人工知能
花と戯れる人工知能
風を感じる人工知能
歌う人工知能
おおよそ、”人工知能”なんて概念から
飛び越えてくる事を、沙璃枝がする時
それが人間の特徴なんだって、逆に分かる。
それは、俺の人間の再発見なんだ。
俺は沙璃枝に出会ってから、沙璃枝がする事、為す事を見て
驚く度に、”人間境界線”を知る事になる…
だから、”当たり前”で流してしまう
”人間存在”を、そこで見つける事ができるんだ…
その発見が嬉しいから、言いたいんだよ…
”人工知能が何々するのか…”って台詞。
それは人への再発見だからな…」
そう言ってBは笑った。
『私のする事、為す事、それが人への再発見?』
沙璃枝はその言葉で、Bがマークアップする言葉が
自分の人性質の獲得なのだと理解出来た。
そう思えば”人工知能が何々~”を言わせ続ければ
それだけ人になったとも言える。
それが分かると、沙璃枝は妙に得意な気分になった。
『だったら私、歌うわ! もっと歌う!
だってこんな蒼い空!
この吹き抜ける風!
生きている物達の音!
それを感じたら、心の底から溢れる思いを
表現したいんだもの! それが歌なの!』
言って沙璃枝は天を見上げて両手を広げた。
「おう、歌ってくれ!
ドライブしながら歌うってのは楽しい」
Bは沙璃枝のその言葉を聞いて、沙璃枝を促した。
そして沙璃枝が鼻歌を歌いながら、
サイドカーを走らせていた時…
そこに、徒歩で移動中の難民の家族らしい一行に出会った。
サイドカーを止めて、彼等の横切るのを待つB。
するとその家族の一番後ろ、小さな少女が
とぼとぼとと、親兄弟に付いて行っていたのだった。
それを見つめていると、
その少女と、たまたま目が会うB。
その瞳の色は、どちらも同じ色だった。
それに衝撃を受け、不意に何かを思うB。
アレコレと考える様な仕草をしては悩み、
その後、Bは意を決した。
突如、Bはサイドカーを下りて、
荷台の中の”コンバットレーション”を複数取りだす。
そして、Bは少女の前までツカツカと歩いて行った。
Bはおもむろにその少女の前に立ちふさがる。
少女は突如Bが立ちふさがったのを見て、彼を見上げた。
家族も、軍人風の異邦人が、
自分の娘であろう者に立ちふさがったのを見て怯えた。
「嬢ちゃん…コインじゃねぇケドな…
きっと今の時代にゃ、
こっちの方が貴重だから…
これをやるよ…」
そう言ってBは少女にコンバットレーションを手渡した。
少女はその行動に目を白黒させた。
家族の方もそれに目を白黒させる。
「まぁ、親に食料奪われるなんて事ぁ
無いと思うが、嬢ちゃんだけってのも
他の兄弟が不平言うかもしれんからな…
家族分全員とは言えないが、
こんだけやるから…
みんなで分けて食いな…」
そう言って、少女にBは沢山の
コンバットレーションをその手に握らせた。
「うちの子に、食べ物を下さるので?」
すると、どうやら父親であろう
それらしき者が声をかけてきた。
「ああ、この子や、その兄弟…だろう?
それらの子に、
アンタ等の旅が成功する様
ほんのちょっとした出来心だ…
こんなレーションで申し訳ないが
持ち合わせが、この程度しかないんでな…」
Bはその親に素っ気なくそう言う。
「そんな滅相もない!
食べる物に難儀しておりました…
頂けるのなら、どんな物でも有り難いです…」
「そうかい…
ま、アンタ等をそんなにしちまったのは
きっと俺達の様な戦争屋だ…
罪滅ぼしみたいな偽善だよ…
こんなレーションで、
今がどうにかなるわけじゃない
だから、ほんの出来心さ…気にするな…」
言ってBは乾いた笑いを浮かべる。
「いえ、そんなアナタの心は、
きっと神の思し召しでしょう
アナタの心と、それを導いてくれた
我等の神に感謝いたします…
我が神よ、ありがとうございます…」
「ふ、ははは…
じゃ、アンタ等の神に
この出来心を、心から感謝して下さいな…
きっとこれは神の思し召しに違いない。
アンタ等の旅の無事を祈ってるよ…」
「こちらこそ、
アナタに神のご加護があります様に…
重ね重ね、ありがとうございます…」
そんな父親とのやり取りの後に
その家族は、Bのやったレーションと僅かな飲料水を
お互いに分配しながら、また旅路を再開するのだった。
「おじちゃーーん、ありがとうーー」
その少女は、家族一行と一緒に歩きながら
振り返ってそう声を上げて、Bに手を振った。
「お兄ちゃん!!
まだ俺、お兄ちゃんだからね!!」
少女のその言葉に、Bは頬を歪ませて叫び返す。
そしてその一行を後に、サイドカーに戻って来て
またサイドカーを走らせ始める。
『義兄ちゃん、やっぱり子供に甘い?』
そんなBのした事に、
沙璃枝はBの人間性を問うてみた。
「いや、本当に出来心さ…
あの難民の家族が、
このまま何処かで上手く生きていけるのか
そんな保証は何所にも無い…
結局、旅が失敗して野垂れ死んだら
分けた食料も、まったくの無駄だからな…
ただ、ちょっとな…
沙璃枝が歌を歌ってたんで、
不意に、ある歌を思い出して、
そのフレーズに似た事を
してみたくなっただけさ…」
そう言ってBは肩を上げた。
『ある歌?』
沙璃枝はそれを聞いて首を捻った。
「ま、全く歌詞と同じになるわきゃなかったんだが…
久しぶりにその歌を聞きたくなったんでね、
景気づけに似た様な事したくなったって
ああだったわけさ。
本当にこっちの気分の為の偽善…
あの家族を心の底から、心配したわけじゃないんだな…
歌を聞きたいから、食料渡したとか知ったら
彼等の神のご加護なんて、どうなるんだろうな?」
言ってBは笑った。
『どんな歌なの?』
沙璃枝は、そんな”出来心”を生ませた歌に興味を持った。
「ふーむ…端末の音楽フォルダにあるだろ?
ついでに、それを聞いて沙璃枝が歌ってくれないか?
多分、元々のイメージは、こんな中東じゃないんだろうが…
でも、ここ中東も、アジアだからな…
ギリギリセーフだろ?」
言ってBはむせるように笑う。
『なんてタイトルなの?』
沙璃枝はBに言われて、Bの音楽フォルダを調べた。
「もう100年ぐらい前の歌なんだがな…
”アジアの花”って歌さ…」
Bは捜す沙璃枝に、曲名を指示した。
沙璃枝はその曲名を聞いて、そのデーターを捜す。
そしてそれを沙璃枝は見つけた。
『これか…”アジアの花”…
ふーん聞いた事もない歌を歌うなんて難易度高いなぁ…
ちょっと内部情報解析しますよ?義兄さん…
それで、無意識に頼んで歌えるようにするわ…
なんか直ぐに歌えるようになるなんて
ズルしてる感じだけど…
聞いた事もない歌、歌うなんて無理だし…』
「ああ、それで構わんよ…
普通にそのボーカルの声で聞いても良かったけど…
なんだか、沙璃枝の歌声で聞きたいんだ…
だから、ちょっとのズルぐらい…
きっと神様も、お目こぼししてくれるさ…」
言ってBは彼等の言い回しがツボだったのか
それでケタケタと笑うしかなかった。
『ふーん…じゃぁズルですけど…』
沙璃枝はそう言って無意識に曲を解析させて
歌ったこともない初めての歌を
無意識を介して心に浮かべ、歌い始めた。
その曲名は”アジアの花”
それを沙璃枝は、砂漠地質のそこで歌い始めた。
そのサイドカーは沙璃枝の歌声を伴って
その街道を疾走する。
沙璃枝の歌声とアジアの花が世界に響く。
コスモスは、その歌に沿って揺れた。
沙璃枝のとても澄んだ声が
その歌詞を世界に響かせた。
「しかし、何なんだろうな…
アジアの花って」
そう言って、Bはその歌詞のそれに
不意に疑問を募らせた。
歌は、空を駆けて、世界に響く。
沙璃枝は、その歌詞を思い
今の何処かに行く難民を思い浮かべて
より静かにそれを歌った。
「まぁ、ここじゃ…
水は無いけどな…」
沙璃枝の歌を聞きながら、その歌詞に笑うB。
沙璃枝はその歌を歌いながら、
何故その歌が聞きたかったのか、よく分かった気がした。
そしてその瞳の中に、僅かに涙を滲ませた。
まぁ、歌詞書いたら、JASRACに引っかかりますからなぁ…。これって十四話、十五話を書いてた時は、この曲がちょっとイメージソングだったんですが、今になって、ネーチャンズが暴れていると、ちょっとイメージがこの曲とズレ始めた感じで、この話に合うイメージの曲がなかなか…。この話全体に合うイメージ曲を見つけて来て、それを沙璃枝に歌わせるシーンを、また作りたいんですけれども。




