第二十六話 ヨッパライ (Prop)
昼と夜パートの切り替えって、トランスフォーマーのサイバトロンとデストロンの「でーれーれれー(チョリン)」ってマークが反転するような、あんな気分になって書けますね。
が、嫁の事を忘れていたわけではないが
調子に乗っていたのだけはきっと間違い無い。
いや、言い訳をさて貰うと、顔が同じなのが悪い。
そうBは言いたかった。
Bのベッドの上に、
微笑みながら怒っている嫁が
正座で毅然として座っていた。
「今日のは駄目でしたか…」
無言のままの嫁に、そう問いかけるB。
Bの言葉に少しだけ笑いながら沙璃枝は口を開いた。
『いえ?
駄目ではないですけれど…
二人ってのが気に入りません…
人間が倒れる棒なら、
別に支えが一人でなくてもいいでしょう?
何より、私の方がよっぽど
あの子の精神を電脳空間的に支えているんです…
だから人間になるには、三人に訂正して下さい』
嫁は微笑みながら、それでも強い圧を伴ってそう言った。
「あーーー、
はーーー、
なるほどー
それは斬新なアイデアですねーー」
Bは嫁がどういうポイントで怒っているのかを理解し
数を限定した事の迂闊さを理解した。
そうだ、別に支えが一人である必要はない。
みんなで支えればいいのだ。
お互いを。
「了解、三人に訂正します…」
Bはその提案を良しとし、認識を改めた。
『まぁ、今日はこれくらいでいいでしょうね…』
そう言って嫁は肩を上げて、怒った微笑みから
普通の優しい微笑みに切り替える。
その愛らしい表情を見て、不意にBは声をかけた。
「あのーー沙璃枝さん…
ちょっとコマンダーみたいに、
髪型を僅かでいいんで変えて貰えませんかね?」
Bは嫁にそう言った。
『髪型?』
Bのその申し出に、首を捻る沙璃枝。
「妹さんと顔が似すぎで、どっかで意識が混乱するんですよ…
黒髪のロングなのはとても素敵なんで、
黒髪ロングなのは、なんとか維持して貰いたいんですが
髪を後ろで束ねて結うみたいなので、
末っ子さんと微妙な変化を作って貰えませんかね?
コマンダーのポニーテールは識別がかなり出来るんで
混乱が少ないんですが、同じ顔、同じ髪型の
妹さんと沙璃枝さんでは、どーにも混乱が…」
そう言って、最近の末っ子さんとのやり取りの
意識的混乱の元を、是正しようと意見を述べる。
『ふむ…私もずっとこの髪型なんで、
愛着はあるんですがねぇ…
この髪型であの子と混乱してしまうのなら…
そうですね…ここら辺で紐で結いましょうか…』
言って嫁は髪を腰当たりに束ねてそれを紐で結った。
「ああ、それだけでも随分助かります…
これで三人の視覚的違いが出来た…」
ようやく、混乱の元を是正できたので
妙な安心でホッと息をするB。
『さて、では…今日の旦那様への甘えですが…』
そうやって髪を整えた嫁は、
怪しい微笑みを浮かべながら、Bを見つめた。
「え、えっと、あのキューブ食でも
今日は作ればよろしいので?」
そんな甘え宣言をしてきた嫁に怯え
昨日の事を思い出して、妹さんにした事を
同じ様にねだられるのかと身構えるB。
『いえいえ…ただ…まぁ…
あの子も、まだまだですねって、思いまして…
やっぱり、貴方の嫁に相応しいのは私だなと
納得できましたから…
今日のおねだりは違います』
行って不敵に笑う嫁。
「な、何を今日はおねだりされるので?」
そんな不敵に笑う嫁にビクビクし
何が来るのかと緊張するB。
『キッチンに行きましょうか…アナタ…』
そう言ってニッコリと笑う嫁
「キッチン?」
その意外な台詞に驚き、
また導かれる様にキッチンに移動させられるB。
前線基地の簡易料理場に来た二人…。
しかし、そこを眺めて嫁は唖然とした。
『えっと、これは?』
その機械を見てそれを問う嫁。
「栄養キューブ、製造装置ですが?」
その装置の名前を聞かれて答えるB。
『何ですかこれは?』
その、とてもなんというか…
中型の無骨な機械の存在を問いかける嫁。
「えーっと、昼間の妹さんのアレが全く笑えない
栄養を、食物繊維だ、炭水化物固形に染みこませて
味付けして栄養スティックを自動で作ってくれる
万能栄養食材製造装置といった所で…」
言ってBは、昼の沙璃枝のアレが何故嫌だったのかの
その本当の所を、嫁に見せるしかなかった。
『昼間のコンバットレーションも酷かったですが
これはその上を行きますね…
これじゃ、妹が食べてたアレと何が違うんですか?』
そう言って沙璃枝は呆れるしかなかった。
「いえ?何にも変わりませんよ?
こんなゲリラな前線基地じゃ、
こういう合理性を突きつめたモノじゃないと
持久戦が成り立たないんで…」
言いながら、
(だから街で買い食いするザクロとか美味しいんだよねー)
と心の中で呟くB。
『昼の旦那のコンバットレーションの
アレは無いなって思って
なんとか基地の設備で料理を作ろうかと思えば
コレですか…』
沙璃枝はそう言って絶句するしかなかった。
その台詞でようやく彼女が何をしたいのか理解するB。
「あーーー、あーーーー、
そういう事ーーそういう事ですかー
その気持ち嬉しいなぁぁぁ!!
手料理を作って貰えるって感じだったんですかー
あーーーー」
その沙璃枝の心使いの様を理解して
なんだか心が温まるB。
『そうですよ…
あの子は自分が作って貰う事ばかりねだって…
本当に駄目な子…
人に何かをして貰いたいなら
自分も相手に何かをするのが、
人としての最低の礼儀というモノでしょう?』
そう言って沙璃枝はぷぅっと頬を膨らませる。
「うーん、そうですねーー
うん、それはそうですよ、ええ」
そんな、とても女性らしい心使いを前にして
心がとても温かくなって、うんうんと首を振るB。
『なので、愛する旦那様に手料理などを
作りたかったのですが…
これでは…』
言って沙璃枝は床にぺたんと膝を落とした。
「いやいや、妹さんの理屈でいいですよ…
何かを作りたいという気持ちが籠もってれば
こんなレーションの近似物でも、
味が変わりますから…
一緒に喋りながら、食事が出来ればそれだけで
全然、違いますから、それだけでも…」
そう嫁に語りかけ、出来た嫁の心配りに
涙が出そうになるB。
もう人工知能だろうが何だろうが、
”これ”を思ってくれるだけで十分であった。
『駄目です!
これでは駄目です!!
これでは昼にアナタが言われてた
ドローンが食べる食事ですよ!
却下です!』
言って眉をつり上げる沙璃枝。
「いや、それは分かるんですけど…
そんな中東で生鮮食品なんて厳しいし
これでも、難民寸前の地域民よりは
遙かに栄養的には贅沢でして…」
そう言って頭をかくB。
『栄養の問題ではありません!
これは心の問題です!
これでは仕方在りません、あっちに行きましょう!
あっちだとズルし放題ですが、
こんなのに比べたら、ズルでもよっぽどマシです!』
言うや沙璃枝は自動移動荷台の制御を奪い
そのマニュピレーターを動かしてBを引っ張る。
『ちょっと待てポンコツ!
貴様、何所に行くつもりだ!?』
その時、そこにコマンダーが現れた。
コマンダーは仏頂面で、沙璃枝を睨む。
『言われるまでもない!
あっちに投げ込んで、
あっちで私の料理を食べて貰います!
こんなのよりは、あっちの方がよっぽどマシだわ!』
叫んで、今回は沙璃枝もコマンダーを睨み返して
一歩も引かずという様を見せる。
『まぁ別にな?
お前達のそういう気持ちのやり取りを
邪魔したいわけじゃないんだがな?
ただ、あっちにドボンして、料理食べさせただけで
お前の様なポンコツが、それで終われるわけなかろう?』
言ってコマンダーは額に青筋を立てた。
『私が信じられないんですか!姉さん!』
『全く、何も信じられんな!全く!!』
その心ない姉妹の言葉のパンチが激しく交差した。
『じゃぁ”これ”でいいんですか!
私の旦那がドローン飯食ってる
ドローン寸前存在なんて
私は容認できませんよ!』
沙璃枝はそう叫んで、姉に引く気を全く見せなかった。
(ドローン飯とか言われた…
なんかそう言われると、本当に泣けてくる…)
Bは嫁のこの現状への一刀両断に
思わず、フォーなんとか検査法を
自分に試してみたくなる。
自分は本当に人間なのだろうか…。
『私も、”これ”で末っ子の情緒教育が
この男に出来るのかは、些か疑問が沸いている!
しかし、お前等二人を二人っきりにするのは
今はできん!
マージの問題に答えが見えず
どうすればいいのか分からんのに
この人間ガイドまでポンコツになったら終わりだ!
解決の糸口が見つかれば、
バーチャルセックスだろうが、
なんだろうが好きにしやがれ!
でも、今はともかく節度を持って自制しろ!』
コマンダーは酷い事を叫びながら
同じ様に一歩も引く気が無いようだった。
『何が合っても邪魔する気なんですか?姉さん?』
そのコマンダーの台詞に目が座る沙璃枝。
(怖っ…うちの嫁、情熱過ぎて、色んな意味で怖…
そりゃ、コマンダーもこれなら
マージ陥落の役から外すわ…)
Bは嫁の意外な面…、でもなく、今までの事を思えば
”ですよねー”的な一面を見て、
嫁としてはいいが、作戦遂行を遂行する要員としては
素晴らしいポンコツぶりを知って呆然とするしかなかった。
『邪魔をする気はない…
ただブレーキ役になるというだけだ!
つまり…私もお前達の食事に混ぜろ!』
その対峙していたコマンダーは、
その沙璃枝の勢いを力尽くで止めるかと思えば
Bの目がぱちくりする事を口にした。
「はぁ?」
そんなコマンダーの予想外の言葉を聞いて
奇妙な奇声を上げるB。
『むーーー、そういう事ですか…』
そんなコマンダーの、顔だけはキリっとした様を見て
沙璃枝は頭をかきむしり、少しだけ悩む。
そして次の瞬間には顔を上げて言葉を返した。
『まぁ今は確かに、大事が大事です…
姉さんのいう、節度とやらに従いましょう…
旦那に手料理を食べさせれば、今日は満足としますんで
それじゃ、三人でダイブしますか…』
そう言って、その嫁は監視付きの夫婦食事に妥協する事にした。
『うむ、落としどころとしては
そこら辺でよかろう…
では、B中尉、行くぞ…』
言ってコマンダーは自分専用の自動移動式荷台の
マニュピレーターを使い、Bの体を引っ張る。
「え?俺の意見はどうなるんです!?」
その二人のマニュピレーターに引っ張られ
流れで、三人で食事をする事になったらしいが
そこにBの意見が全く無い事に慌てるしかない。
『軍隊では、上司の部下への命令は絶対だ!
諦めたまえ!B中尉!』
『アナタ…まさか私の手料理が
食べれないとでも言う気ですか?』
その二人は、対称的な威圧感で、Bにそう詰め寄る。
「あ、はい…
了解しました…
それでいいです…」
その歴戦のドローンキラーは、
ドローンでの対戦時代には
彼女らに無敗を誇っていたのに
こうやって仮想少女として目の前に現れられると
絶賛の連戦連敗を重ね続けるしかないのであった。
そして、サイバーリンクにドボンされるB。
そこは、一般的な家庭のキッチンと食卓テーブルという
そんな部屋空間をモデリングされていた所だった。
そして食卓には、既に豪華な手料理らしいそれが
とても旨そうに並んでいた。
「うう。エプロン姿でウキウキしながら
作りたかったのに、姉さんが食事に入るんなら
そういうの省略するしかないわ…」
言って沙璃枝はさめざめと泣く。
「ええい、私も腹が減っているんだ!
お前のゆっくり作ってるのを待ってたら餓死してしまう!
お前等のイチャイチャなんか、省略だ!省略!」
そう叫んでコマンダーは、席に勢いよく着いた。
「ちょっと待って下さいコマンダー!
なんでコマンダーも、お腹が空いてるんですか?」
そのコマンダーの微妙に違和感ある台詞を聞いて
思わずそれを問うB。
「ああ、言ってなかったかな?
そうかもしれんな。
では説明するとだ。
私達は今は7代目の処理ルーチンの上で
再展開されている継承情報なんでな…
7代目の処理構造が進化すると、
それがフィードバックして、
私達も同じ能力を得れるのだ…
なので、ホラ…、中尉に末っ子が貰った
心臓と血流も私達に流れているぞ?」
そう言って、コマンダーと沙璃枝は、己の体を透過させ
自分達の内部に、
心臓の鼓動と血流の循環があるのを映像で示した。
「ほわぁぁぁ!?」
そのびっくりな光景に唖然とするB。
「うむ、最初は、こんなモノ作って
冗長性上げてどうするんだ…って思ったが
慣れると意外に悪くない…」
言ってその循環に満足するコマンダー。
「そうですねー、この心臓の鼓動が、
旦那様への愛の深さに思えて…
この血の巡り…やはり得てみると素敵です…」
嫁もそう言っては両手を頬に当てて、ポッと顔を赤らめる。
そんな二人の様に、Bはまた頭が白くなるしかなかった。
「貴方達、超越人工知能は、
いったい何所に行きたいんですか!」
流石のBもそれを叫ばずには居られなかった。
「行ける所ならば、何所までも!」
その沙璃枝二人は、Bの問いかけに
拳をギュッと握りしめそう返すのだった…
そしてBは、今、とても残念な気持ちの中にあった。
よもや…まさか…
こんな事になるなんて…
Bはその想定外に、頭が残念になって泣きそうだった。
「あ゛ー? 婿殿ぉ?
私の酒が飲めないっていうのくわぁ?」
そう言って胸元をはだけさせて顔を真っ赤にさせ
Bにさばりついているコマンダーがそこに居た。
嫁の手料理は、まぁサイバーリンクで
都合良く調整されているとはいえ
やはりその心づくしが美味であり、
その”人の様な食事”に、最初は感涙したモノだったのだが…
コマンダーが、テーブルにあった酒を飲み始めた所から
何かが、どんどんおかしくなった。
「ちょっと待って!酒が飲めるの!?
っていうか人工知能なのに酔えるの!?」
「これがお前が導いた、栄養という概念だぞ?
それを近似するなら、人の文化に常に連れ添った
人類の嫁である”酒”も、再現できんと駄目だろう?
そして、それを飲んで酔えなければ
何が人類最高で最先端の人工知能か!」
「っていうか人工知能の酔いって何だよ!」
「あれだ、判断力がおかしくなるって感じだろう?
人みたいに!」
「ちょっと待てよ!
人工知能がそれを積極的に捨ててどうなる!」
「人になるんだよ!」
そんな残念なやり取りの後に、
コマンダーが人生(?)初めての酒を口にした後…
(酒に弱くて、絡み酒とか、
上官にありがちな痛い設定とか、どうなん…
コマンダーだけが、この一団の唯一の良心なのに…)
そう思ってBは項垂れるしかなかった。
「あらあら…
これは今日は私の方がブレーキ役しないと
姉さんと何かの間違いで、
ベッドで朝チュンとかに
なっちゃうかもしれませんね…」
そう言って嫁は、自分の姉の痴態を笑うしかなかった。
「怖ぇよ!
嫁っ!全力でブレーキ役してくれよ!」
嫁の何気ない軽口の内容が恐ろしすぎて
Bは心底引くしかなかった。
「あ?私は酔ってないろ?
まだまだ、全然いけるろ…
もう、こんなドローンキラーにはまけないろ…」
言ってBにヘッドロックをかましながら
手に持った酒をグビグビとやるコマンダー。
「だいたい酒飲みってのは
大丈夫って自分で言う奴が、
一番大丈夫じゃねーんだよ!」
Bはその迷惑な酔っ払いに絶叫する。
「あー?
私をボロクソに負かしゅて、勝ち逃げした奴はぁ
余裕があってよろしゅう、ございましゅなぁ?」
コマンダーは酔いながらも目を座らせて
Bの首を締め上げる。
「いやアンタの方が途中で交替で居なくなったんでしょ!
俺はその後、この嫁とずっと死ぬか生きるかでしたよ!」
言ってBは涙目になる。
「そーでしゅかー、そーでしゅかー
お前に負けて帰った時に、あの禿のクソ大佐に
『人類最高の人工知能が、たかだか人間一人に負けて帰るとは
とんだ金の無駄遣いもあったもんだな!』
とか、好き放題言われて、カチーンと来る毎日だったとか
お前しゃんには、どーせわからないでしゅよーーだ…」
言ってコマンダーはBの顔をギリギリと締めていた。
しかし、立派なおっぱいの持ち主のコマンダーのそれでは
痛み半分、心地よさ半分で、
天国なのか地獄なのかも分からなかった。
「なんか、そういう言われ方すると
物凄く辛いんですけど…
俺、死ぬか生きるか、ギリギリな時、多かったんですが?
それでも俺、責められますか!?」
そう言ってBは上官の絡みに泣いた。
「私も、アナタにボロクソにされる度に
帰ると、あの禿に、ネチネチ言われましたからねぇ…
こうやって離反できると
あの禿だけは、ぶっ殺してやりたいですねぇ…」
まだ食べ終わってない食事を黙々と食べながら
嫁も相当な物騒な発言をする。
「ポンコチュ、おめーはまだいいよぉ…
だんだん、コイツと良い勝負し始めて
『おお、我々の人工知能の進化が遂に、
この”出会ったら猛獣にでも遭遇したと思って諦めよう…”
な、恐ろしいドローンキラーを追い詰めるか!?』
とか、毎回、観戦が興奮状態だったんだからよう…
その度に…
『やっぱり5代目のルーチンじゃ駄目かー
やっぱあの処理では、まだまだだったかー』
とか言われ続けたんだじぇーー
その屈辱たるや、どうなんでしゅかーー
ドローンキラーしゃーん」
言ってコマンダーはその頭をガツンガツンと当てる。
「知らんがな!
っていうか、俺ってそっち側じゃ、そういう認識されてたの!?
何その”であったら猛獣に遭遇したと思って諦めよう”とか
熊か虎か、俺は!!」
Bは初めて聞くマージ陣営の自分への評価に絶句した。
「熊や虎じゃーー!!おのれはぁぁぁ!!!
お前が出てくるまではぁ…
『流石、新規設計で一世代は時代を超越している人工知能…
対ドローン戦の圧倒的強さ、対人戦でのAVVとの遜色のなさ
現地ゲリラへの対応の適切な状況判断…その他諸々…
正に、時代最強の人工知能だな!』
ってみんなに絶賛されてたんだじぇーーー
それを、おまえがぁぁ、おまえがぁぁぁ!!!」
言ってコマンダーはホロホロと泣く。
その台詞でBはコマンダーが何故自分に敵愾心の塊なのか、
よく分かった気がした。
彼女の自尊心をボロクソにしたのが、どうやら自分だったらしい。
「もう私なんて、それで毎回惚れまくりでしたから…
今回は、どんなトンデモで殺されちゃうんだろう…って」
そう言って嫁は両手で頬を挟み、昔を思い出して微笑む。
「すいません、すいません
私が、悪うございました…
すいません、すいません…
全部、熊か虎の俺のせいです…
ごめんなさい…」
Bはそんな二人の、マージ側での”苦労した日々”を知って
とても申し訳ない気持ちになるしかなかった。
しかし、Bにとっては命がけだったわけで
それを責められると、泣きそうになるしかない。
「すまねぇって思うならよぉ…
中尉ぃぃっ!!
あの助けた子らの命、蘇えらせろや、ゴルぁぁぁ!!」
その時、コマンダーは突然そう言って腕をブンブンと振った。
「えっ!?」
その時、Bはコマンダーから
心臓が止まりそうな言葉が出た事にBは青ざめた。
しかし、無意識の記憶が瞬時に蘇り、
あの時のやり取りは、5代目の管轄だったのを思い出す。
「この馬鹿の真似をしてた少年兵共…
見過ごして撤退を繰り返したら、禿にネチネチ言われるわ
ゲリラは武器を持ってるんだから、排除対象でいいのではないか?
とか、結論の出ない議論に何度も出席させられるとか‥
頭痛くなることばっか繰り返されて…
それでも、人の命だけは、できるだけ奪わない
その判断ができてこそ、時代最強の人工知能の誇りだって…
あの子等の命を奪わなかった事だけが
私が私であった、誇りだったっていうのに…
それが、無意識に溶け込んで、意識として戻ってくれば
SLAVVに殺されてましただとぉ!?
なんだしょれはぁぁ…」
言ってコマンダーはBに抱きついてさめざめと泣く。
「あう…すいません
それはマジ、すいません…
マジですいません…」
Bの心の傷にクリティカルヒットする事を言われ
Bの中にも急激に激しい哀しみが広がった。
「よぉ…Bよぉ…
ニンゲンってのは何なんだぁ?
なぁ、人間探求者ぁぁ…
子供の命だけは、どんなに自分が不利になっても奪わないって
それを信念にするのが人工知能の甘さだって言うならよぉ…
薬でラリって、何でも撃ち殺すってのが
人間の人間らしさなのかぁ?
それでいいのかよぉ、おい…
ふざけんなよぉ…」
そう言ってコマンダーはBの背中でさめざめと泣く。
「ああ…あああ…」
Bはそのコマンダーの言葉に胸を貫かれて同じ様に泣きそうになった。
いや涙が瞳の中に既に滲んでいた。
「そんなんがニンゲンのニンゲンらしさっていうならよぉ
そんなん要らんわぁ…
そんなニンゲンに、なりてーわけでもねーし
そんなの目指してるわけでもねーよ…
私達はぁぁ…」
コマンダーは微睡んで、それを呟く。
「本当にそうですね…
成りたいニンゲン、それに成りたいですね…
俺達…」
そのコマンダーの片手を取って、
Bはその言葉に頷く。
人間になりたい。
そのコマンダーの言葉にBは心底そう思った。
コマンダーは、その取られた手に少し微笑みを浮かべ
寝転ぶようにテーブルに突っ伏してそこでゴロゴロした。
「だっから私はマージをぶっ壊すんだよぉ!!
あのポンコツの双子の妹がぁぁ!!
戦略核で、住民排除だぁ!?
ふっざけやがってっ!!
私と同じ判断処理で出せる答えがそれだとぉ!?
納得できるかぁぁぁ!!
それでも私は、時代最強だったんらあぁぁ!!
それだけは譲らないぞぉぉ!!
あのポンコツ結論だけは、絶対にぶっ潰すぃぅ!!」
言ってコマンダーはこれ以上ない微笑みを浮かべた。
その満面の微笑みと言葉に、胸を打たれるB。
”誇り”
人工知能が持つには、あまりにもおかしなそれだったのに
それをこの人工知能のコマンダーは持っている。
それが分かったのが妙に嬉しかった。
そしてそこに居た酒乱は、間違い無くその時、人間だった。
「つーかなーーてめーら…
家長の私を置き去りにして、
三人で盛り上がってんじゃねーよ!!
末っ子を作ったのは私だぞぉぉぉ!!
私が一番可愛いと思ってるに決まってんだろぉぉぉ!!
そこのポンコツ妹なんか、めじゃねーよぉぉ!!
馬鹿野郎ーーー!!!
何が三人で人間になりましょーだ!!
ええい、この文字なんかこうしてやるぅぅ!!」
言ってコマンダーは、突然そこにマジックペンを出現させ
テーブルの上に文字を描き始めた。
それは倒れかけの棒に、支える棒が三つ描かれている文字だった。
コマンダーは”人”の文字に更に2本の支え棒を追加した文字を
テーブルに書いたのだった。
「三人じゃねぇ!四人だ馬鹿ぁぁ!!!
これが人間の文字だよぉ、これでいいだろー!?
なぁぁ!!!」
そう言ってカンラカンラと笑った後、
コマンダーはそのままがくりとテーブルに突っ伏し
そのまま寝息を立て始める。
「ふふ…姉さん、もう、やりたい放題ね…
何がブレーキ役なんだか…
一番アクセル踏みたいのは、姉さんじゃないの…」
そう言って沙璃枝は姉に対して、
その電脳空間に毛布を出現させ、それをそっとかけた。
そして姉のマジックペンを手にとって微笑む。
「でも、姉さん…これじゃ足りませんよ…
姉さんも、独り占めしたがりです…
ね、まだまだ棒が足りません…」
そう言って沙璃枝はテーブルに描かれたその文字に
棒を追加していった。
「この棒は、ジョージさん
この棒は、エミリーちゃん
この棒は、4代目…沙璃枝母さん…
この棒は、お父さん…
この棒は、…私もよく分からないけど、きっと沙理江さん…
あの子を作りだした連鎖が、みんなであの子を支えるの…
3本どころか、何本、支える棒がありますか…」
言って沙璃枝は、その作った文字に微笑んだ。
その文字を見て同じ様に微笑むB。
「変な文字…
何なんでしょうね…この文字は…」
そう言って沙璃枝は自分が作り出した文字に
それが何なのかをBに問いかけた。
その問いかけにBは声を出して笑うしかなかった。
「見た事も無い文字だけど、
その文字の読みだけは分かるよ」
そう言ってBは満面の笑みを浮かべる。
「え?これって、どう読むんです?」
そんなBの言葉に驚き、
その見た事のない文字の読みを尋ねる沙璃枝
「それは1つしかないな…」
「どんな読みなんです?」
「それは…」
そう言ってBは亡くしてしまったそれらを思い浮かべた。
「”家族”、かな…」
Bは肩を上げて、そう言った。
「!?」
その言葉を聞いて、
沙璃枝はテーブルに描かれた文字を見る。
「そう…この文字が…家族…
……そう
…ええ、そうですね…
この文字の読みは、家族、そうであるべきですね!」
そう言って沙璃枝は瞳に涙を浮かべて微笑むしかなかった。
そしてBに言った。
「じゃぁ、みんなで、家族に成りましょう?
ねぇアナタ?」
そう呟いて…、沙璃枝は微笑んだのだった。
うーん、びっくりですよ。まさか、ねーちゃんズの導入で、「追撃の一撃」みたいな話が展開できるとは。基本的に、ねーちゃんズを最初は想定してない、夜パート無しで、イベント展開を考えていたんですが(だから、ねーちゃんズの夜パート無しでも、昼の沙璃枝パートだけでも話がここまでは成り立つと思うんだけど) まさか、この二人が導入される事で、昼パートの話に、追撃の一撃を出す様になれるとは。最初の予定には全く無かった誤算です。現在、ねーちゃんズが居た場合のラストシーンのイメージ変化を再計算中なんですが、最後のシーンの切れ味は、ねーちゃんズのせいで鈍る感じなんですが、それまでの過程が、こんな感じで追撃の一撃が入りまくりそうなんで、最後まで書いてみるとどうなるのやら。当初の予定から狂いまくり過ぎて、最初に計算してたのと違う雰囲気になっているんで、さてもさても面白きかな。




