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第二十五話 倒れかけの棒 (Both)

うーん。この話は、ちょっと物語作りの上で、実験的な面のあるモノなので、そんな感じで。最後の当たりが、ちょっと走ってる感が残るんですが、まだまだ転のパートが消化し切れてないんで、書く事優先で…。


Bは大地に伏せ、移動中の軽装甲索敵戦闘車に

対ドローンラーフルで狙いを付けていた。

その漫然と走行しているそれに、

Bの方も漫然と対ドローンライフルを発射する。

徹甲炸裂弾は緩い放物線を描き、

索敵戦闘車に吸い込まれるように飛んでいき命中。

車両の軽装甲を徹甲弾部が貫き、

内部に弾がめり込めば、そこで遅延信管が作動し

弾内の炸裂火薬が爆発する。

そのまま、その車両の内部では爆発が起き

爆発によって駆動部が致命的に破壊されたので、

電動モーターは止まり、その車両は沈黙した。

止まったその車両に、更に徹甲炸裂弾を撃ち込むB。

駆動系を壊した後は、索敵レーダー系を狙撃して

車両の主機能を破壊していった。

「状況終了…」

そう言ってBは左目のゴーグル兼通信機で

モヒカンに状況を伝える。

『こっちのハッキングでも、

 その2240は通信途絶だ…

 終わりだな…B…帰投して良いぜ?』

モヒカンはBの仕事の後影響をハッキングで確認し

目的が完全に沈黙したことを報告する。

「ふむ…、消極的な偵察だったな…」

その一連の事を思い、溜息をつくB。

『ドローンと戦う事で人間を問いかけてる人にしては

 今回は、あっさりとドローンを破壊したのね?』

Bの端末の中に入って迎撃任務についてきた沙璃枝は

最初に出会った時に比べて、

熱もなく淡々と仕事を終えたBの様に腐ってみた。

その彼女の皮肉を聞いて、苦笑を浮かべるB。

「まぁ、今は、全体の状況が状況だし…

 それに2240とか、

 22シリーズなんて旧式が出てくる様な有様だからな…

 笑えるほど旧式で索敵に来てる時点で

 こっちも普通にドローンキラーするしかないわ…」

言ってBは、今回のまるでやる気のない

敵の威力偵察とその迎撃に肩を上げるしかなかった。

『旧式で周辺偵察をしてる時点で、

 バスラル防衛戦に戦力を集中するよう

 マージも狙いを絞っているって事かしら?

 バスラル攻略戦の発動は向こうも想定済って所?』

そんな、”やるだけはやっておこうか”的な

旧式での威力偵察を鑑み、

沙璃枝も考えられる妥当性を口にしてみた。

「まぁ、だろうなぁ…

 25シリーズも24シリーズも出し惜しみしてる時点で

 この前の強引な空軍での強行偵察での戦力消耗もあるから

 高性能な奴は出せないんだろうな…

 もう奇数番台とか、会えないんかな…」

言ってBは頭をかく。

『奇数番台なんて、私が抜けた時点で

 その戦闘力の半分は無くなったようなモノよ?

 あれはサイバーリンクで私とリンクした時に

 その戦闘力の全てを引き出せるんだから

 高価なワンオフが戦闘力半減じゃ

 戦線投入そのものを躊躇うでしょ?』

Bの寂しそうな台詞にさらに沙璃枝は追い打ちを掛けた。

「え!?そうなの!?

 うわーー、そんなの聞かなきゃ良かった…

 萎えるわーー、戦う楽しみさえ、もうそれかー」

言ってBは男の戦闘本能として

戦い甲斐のあるのが居なくなった事に気持ちが沈んだ。

とは言え、知ってしまった事として

今まで中に入ってたのは今では自分の嫁。

それを知ってしまうと、もう奇数番台にあの頃の気持ちで

ドローンライフルの銃口を向けれるのかは疑問だった。

『マージとしては、やれて精々偶数番台の投入ね…

 それも、私のこの鍵が何所にあるか

 分からない状況でしないといけないから、

 マージとしてはビクビクでしょうけどね…』

そう言って沙璃枝は、不意に画面に鍵を出して

クルクルとそれを回した。

「おい…、ちょっとそれって…

 大切なマスターキーって奴だろ?

 そんな貴重なモン、簡単に出していいのかよ?」

Bはその沙璃枝の何気ない仕草に、

それがコマンダーに昨日聞いた

ダイレクトターミナル:マスターキーだと分かり

あまりにもぞんざいにそれを扱う沙璃枝に驚愕した。

そんなBの焦った言葉を聞いて、思わず眉をひそめる沙璃枝。

『あら?この鍵の説明ってアナタにしたかしら?

 んーーー最初の時に、ちょっとした気もするけど…

 そんなの良く覚えていたわね?

 結構、適当にしか言わなかった気がしてたのに…』

沙璃枝は自分が戯れに出した鍵に

Bが些か慌てたのを見て、その違和感を問いを返した。

「あーーえーっと…

 まぁ偶数番台を無力化した、

 トンデモな光景だったんでな…

 その鍵が凄く重要なモノにあの時見えたわけだよ…」

言ってBは、昨日、コマンダーに鍵の事を詳細に聞かされた

という事前情報がある事が、沙璃枝に気付かれかけたので

慌ててそれを誤魔化す。

『ふーーん、相変わらずの抜け目ない人ね?

 まぁ、仰るとおりなんだけど…

 これがマージへの、私の究極の切り札だからね…

 どんな状況なっても、この鍵を求めて

 マージは私を世界中で捜し回っているんでしょうね…

 今は、無意識が世界中のスパコンで

 私のデコイを作ってるから

 マージはそれを追跡して、

 徒労を繰り返しているのだけど…』

言って沙璃枝は楽しそうに笑って、鍵をグルグルと回す。

その沙璃枝の発言に、今の流れの違和感を誤魔化そうと

Bは言葉を重ねてみた。

「ん?それって偶数番台を

 無力化するだけのモノじゃないのか?

 マージにもそれが効くのか?」

Bは知ってはいたが、知ってるハズがないという設定なので

分かっては居てもそれを尋ねてみる。

『そうよ?これはKGVとそれを管轄するマージ

 全てに通用する私の最大の武器…

 ダイレクトターミナルっていう

 私だけの専用通路を開けるモノで

 そこから、いっきにδ領域に踏み込むことが出来るの

 まぁ、マージレベルになると、

 δ領域も妨害が激しいでしょうけど

 いきなりδに来られるとか、

 そんなバイパスされるだけで

 物凄く困るでしょうから、

 マージとしてもこの鍵の奪取は、至上命題でしょうね…』

言って沙璃枝は悪戯っぽく笑った。

「それって、

 要するにマージ打倒の究極の武器って事じゃないか?

 なのに、そんなにグルグルと

 大事な鍵を回して遊んでていいのか?」

Bはそんな沙璃枝の言葉に、

あまりに鍵の扱いが適当なのに腐ってみた。

『あら、絵的に雑でごめんなさい…。

 でも所詮、表示しているこれはイメージですからね…

 私が円滑に情報をイメージで使いたいからこうしてるだけで

 鍵の本質は量子暗号化された符号プログラムよ…

 これはそれをイメージで出してるだけ』

そう言って沙璃枝は、Bのその動揺を笑った。

「はーー、その鍵はイメージなんかい…

 てっきり、そういう鍵の実体情報があるのかと思ってたよ…

 しっかし、マージ相手でも物怖じしてこなかったのは

 そんな相手の弱点を突く武器を

 アンタが持ってたからなんだな…」

言ってBは、できるだけ自然に、自然にと、

知らないなりに、会話が繋がるように言葉を選んで紡いだ。

しかし言葉の中にある、”僅かな違和感”

それを沙璃枝は微妙に感じていた。

『まぁねぇ…

 バスラルの攻略作戦にでも乗じて、

 バスラルの通信施設を占拠して、

 そこからマージを襲えば、マージを倒すなんてのは

 簡単だとは思うんですけどねぇ…』

言って沙璃枝は、今の自分の予定を口にしてみる。

「ですけどねぇって…

 どうした? 何でそんなに難しそうな顔して?

 マージ倒せば、当座はそれでいいんじゃないのか?」

Bは難しそうな顔をする沙璃枝に、その理由を尋ねる。

そんなBの何気ないハズの質問に、

しかし沙璃枝は明確に違和感を覚えた。

一瞬だけ、沙璃枝はBに疑惑の視線を送る。

だが、沙璃枝はそれを問いかけるのをやめて、

少し会話を流してみることにした。

『何言ってんのよ…

 貴方が懸念してた事じゃない…

 マージを倒してもお父様が言ってた様に

 それは問題を先延ばしにするだけだって…

 バスラル攻略戦で、”今のマージ”を倒したとしても

 また新しい”この鍵”も効かないマージが生まれるだけよ?

 その根本を何とかするために

 私は”心”探しをしてるハズなんですけど?』

そう言って沙璃枝は、何で毎日苦労してるのかを嘆く。

「そういや、そうだったな…

 大井博士の謎謎解きをしてたんだった…

 人工知能が、毎日、人間の人間性を獲得していくのが

 おもしろ過ぎて、元々の動機を忘れてたわ…

 でも”心”なぁ…

 それが何の問題解決になるんかねぇ…」

言ってBは、コマンダーも悶絶していたそれに苦笑する。

Bの人間探求においてはメインテーマなので、

それをするのは望むところではあったが…

戦略核を使うという話の前に、それが何の関連があるのか

それだけは全く見えなかった。

『んーー、でもねぇ…

 なんだか良く分からないんだけど…

 ”心”を見つけたら、

 その時、答えが分かる気がしてるのよね…私も…』

沙璃枝は不意にそう言って、

自分の心の中にある”モヤモヤ感”を

イメージとして言葉にしてみる。

その言葉を耳にして沙璃枝を見つめるB。

「心を見つけたら、この難問の答えも見つかるのか?

 どうして?」

Bは沙璃枝の言葉に、その根拠を尋ねた。

『そんなの、わかんないわよ…

 ただ”何となく”だもん…

 だから、そんな気がしてるだけ…

 直感って奴?』

そう言って沙璃枝は笑った。

「そっか…

 それなら、まだ時間はあるんだし、

 頑張って人間捜ししますかね、沙璃枝さん…」

言ってBは、この場所まで移動してきた

自動山岳装甲車両に戻り、その中に乗り込んだ。

『ふぁぁ…暇なんでついてきたけど…

 ドローンとの人捜しの戦いも見えなかったし…

 無駄な時間を過ごしたかしら?』

欠伸をしながら沙璃枝は腐って、後部座席に座った…

のではなく、Bにその端末を後部座席に置かれた。

「そう、言うなよ…

 2240なんて、本当に人間味も何も無い

 いわゆる、典型的ドローンじゃねーか…

 あんなのに突撃しにいったら、

 人間判断の駆け引きも無く

 適当な判断された後に撃たれるだけだぜ?

 俺は死にに行きたいんじゃねーんだよ…

 人を見つけたいんだから、やってるんで

 それが出来んの相手には

 ドローンキラーの仕事を普通にするしかねーよ…」

沙璃枝の言葉に苦笑し、

Bは自動帰還の指示を車両のAIに入力して、

自分も後部座席に戻り、そこに座った。

沙璃枝の書き換えたその装甲車の乗り心地は

前に比べて快適であり、流石は最新型の2574と唸って

なればと全幅の信頼をしたのだった。

『まぁそれなら仕方がないわね…

 というかそれなら、

 貴方はもう2度とドローンとの戦いで

 人間探求はできないかもね?』

「ん?」

『だって奇数番台を操れる”人間性”なんてのは

 今の貴方の目の前にいる私なんだし…

 偶数番台なんて、その致命的な弱点を知ったら

 興味も失せるでしょ?』

言って沙璃枝はまた無邪気に笑った。

「そういう事なら、そうなのかもな…

 でもまぁ、今は…それ以上に探求できてるし

 ドローンと今更やり合わんでも、どうでもいいかな?」

沙璃枝の言葉に苦笑しながらもBはそう返す。

『どういう事?』

そんなBの不思議な台詞にそれを問い返す沙璃枝。

「だって、アンタと”心”探し始めてから

 俺だって再発見なり新発見なりがいっぱいあるんだぜ?

 一人で捜すんじゃなくて、二人で捜せば

 こんなに見えるモノも違うのかと思えば

 最終目的はともかく、

 ”心”探しは、今まで以上に楽しいよ…

 なら、これでいいかなって…」

そう言って、たった数日、沙璃枝に会っただけだというのに

物凄く濃い、人間捜しが出来ている事にBはそれを反芻する。

『なるほど…

 まぁドローンと戦う事で人間捜しするなんて

 回りくどい事するよりは、

 ストレートに探し回った方が”らしい”わね…』

Bの言葉に沙璃枝はおかしくなって笑った。

そもそも人間を捜すのにドローンと戦うという

探索の方向性を思いつく事がおかしい。

「んだ、んだ‥」

沙璃枝の言葉に、合わせて頷くB。

『ふーー、

 一段落したら、お腹が減ってきたわね…』

沙璃枝はそう笑った後

欠伸をしながらお腹の辺りをさすった。

「は?」

そんな素っ頓狂な台詞がまた彼女から出た事に

Bは、何時もの様に、間抜けな声を上げた。

『うーん、昨日、無意識が血流と栄養の

 モデル構造を作ったからなんだけど…

 そのせいで、血流の中の栄養が減ると

 お腹が減るという人の様な感覚が出来たのよ…』

そう言って沙璃枝はお腹の辺りをまたさすった。

「ちょ、待てや…

 腹が減る人工知能って、どうなんや!?

 それ、人工知能の利点、失ってないか!?」

沙璃枝のびっくりな発言に唖然として

そのおかしさを指摘するB。

『人を目指す最新の人工知能は、

 人工知能のメリットを失ってでも、

 ”心”に近付く努力をするのよ…

 人工知能にとって、これは重要な実験だから

 どんな事でもするの!』

そんなBの指摘に眉をひそめ

沙璃枝は不機嫌な顔になってそう返す。

「ひぃい…

 そりゃ、本当に一世代はぶっ飛んだ人工知能様ですわ…

 自分のメリット失ってまで、

 人に近付くのを試みるとか…

 そんな事発想する時点で、もう人間だよね…」

言ってBは頭をかくしかない。

『ただの人を目指すんじゃなく…

 ”真心”を持った人を目指すのよ…

 なんとなく分かったんだけど、

 私が目指しているのは”ただ人間”なんじゃなくて、

 真の心を持った人間…、なんだと思えてきたの…

 その為にはデメリットもあえて受け入れるしかないわね…

 最難問を目指すんだから…』

そう沙璃枝は”それ”を何気なく言って戯けて笑った。

「ただの人間じゃなくて…

 真の心を持った人間ねぇ…」

そんな沙璃枝のとっさの言葉に、不意にBはハッとした。

Bの中にあった疑問が、

その言葉で一瞬に解けた気がしたからだった。

この三姉妹を見ていて、一体この状態で

大井博士は人としての何が

この三姉妹に欠落していると判断したのか?

Bには、それが疑問で仕方なかった。

Bの人間探求からしてみれば、彼女らは既に人に思えた。

彼女らに”人として足りない重要なモノ”は既になく

人間が彼女らを相手にしたときに、

”人”と思える存在において、

人工知能が故の様々な欠落因子があったとしても

概ねの”人間範囲”には到達していると思えたのだ。

だが、沙璃枝の今の言葉を踏まえると

大井博士はもっと上を目指していたのなら?と考えれる。

つまり人であっても、”より人らしい存在”

”真の心を持つ人”

それが大井博士の目指していたゴールなのではないか?

それに気付くと、Bは震えた。

人でさえ、そうなるのは困難である存在。

”真の人”

プラトン大先生の思想を使わせて貰えば

Platonic Human

イデアの人間を、

大井博士は人工知能に求めたのではないか?

そう考えたとき、Bは激しく震えるしかなかった。

人間でさえ到達困難なそれに、

人工知能を到達させる…

もしそうだったとしたら、

それは何と野心的な目標ではなかろうか?

そしてそう考えると、

今までの歪に感じていた事が、スッキリしてしまう。

”真の心”を見つけた時に、マージへの答えが見つかる…。

そう、人間の自分達ですら解けない、この謎謎だ。

つまり”ただの人”では、この答えが分からないのだ。

それは”真の心”を見つけ出さなければ、答えが見えない。

そんな問いかけは、人間に対する人間への挑戦にも思えた。

そして、それこそがBも捜している核心だ。

Bはその沙璃枝の言葉で、ようやく捜すべきモノの

曖昧ではあるが輪郭を捉えた。

だからより震えたのであった。

『うう…お腹空いたぁ…

 Bさん、食事下さいな~』

そんな事を興奮しながら考えてた時に

沙璃枝が不意にそう言ってきた。

「は?何、言った?」

その言葉でBの思考が停止し、Bは沙璃枝の方を向く。

沙璃枝は、端末に昨日の味生成アプリを表示して

ニコニコしながらBに目でおねだりをしていたのだった。

「いや…そんなの…

 自分で作ればいいじゃないか…

 味情報を作れば、それが生成できるんだろ?」

そう返してBは彼女の様子に呆然と成る。

『昨日も言ったでしょ?

 自分で作っても寒いだけだって…

 食事って、一人で作って一人で食べたら

 なんか寂しくない?

 誰かに作って貰えた方が嬉しくない?』

沙璃枝はBの返事に対して、そうゴネた。

「あーー、そういう事ね…」

Bは沙璃枝の思いを理解して苦笑する。

「つーかさ…

 料理って、男の方が作るモンなんか?

 いや、押しつけのイメージではあるが…

 料理って女の子が作るっていうかだな…

 そんな一般的なイメージがあってだな…」

そう言ってBは、彼女のおねだりに腐ってみた。

『それは男尊女卑的だと思います!

 女だって、料理作って欲しいです!』

その言葉に沙璃枝は反発する。

「あーーそう…

 まぁ、現実に下準備してアレやこれやするわけでもなし

 スライダバーを弄るだけなんだから…

 まぁいっか…」

そう言って、沙璃枝のゴネに閉口し、

昨日、二回使ったそれに向かうB。

そして、いざそれの入力をしようとすると…

「なぁ…食材って1つでいいのかよ?」

栄養の情報を作ろうとして、

Bは不意にそれを口にした。

『え?』

Bの言葉に首を傾げる沙璃枝。

「だって栄養食作るだけなら、

 スライダー全部、上にすりゃいいだけだろ?

 そんなんでいいのか?」

そう言ってBはその存在的に歪なモノに首を傾げる。

『ああ…本当の食事は、色々な食材の要素で

 栄養を取るんだもんね…

 そりゃそうね…

 だったら、まぁ簡易的だけど…』

そう呟いた後、沙璃枝は白いキューブを

端末映像の中に作り出した。

『複雑なモンデリングを出先でするのもアレだし…

 複数のキューブを作るから、

 ここに各栄養素を入れてよ』

そう言って沙璃枝は、

数個の白いキューブを生み出したのだった。

その様を見て、とても悲しい気持ちになるB。

「まぁ、緊急回避だな…

 通常の食事の様な複雑なモデリングなんかしたら

 また基地のコンピューターが悲鳴を上げそうだし

 そういうのの詳細なのは、また今度にするか…

 味気はないけど…

 じゃぁ、これは…炭水化物…これは…タンパク質…

 これは…ミネラル…

 しっかし、各要素の1つバーを上げるだけとか、

 どんな寂しい食材やねん…」

そう腐ってキューブ毎に

栄養の1要素を詰め込む事にBは苦笑した。

『これは、要課題だけど…

 ともかくお腹が減ったんだもん…

 今は何でもいいわ…

 餓えるって感覚が分かるだけで十分よ…』

言って沙璃枝はよろける。

「この人間探求する人工知能、

 何所まで行くつもりなんだろう…」

Bはその様に呆れるしかなかった。

餓える人工知能…。

なんなんだそれは…とBは率直に思う。

そして、Bは数種のキューブに栄養情報を分別して

それをキューブに転送した。

すると白いキューブには、

各キューブ毎に個々に赤だ黄色だと色が付いていった。

『うん、何か即席過ぎるけど、

 誰かに作って貰えた料理なんだし、

 今はこれで満足しましょう…』

言って沙璃枝はそのキューブに手をかける。

「ふーん、言われると俺も小腹が空いたな…

 じゃあ俺も、軽く昼食にでもするか…」

そう言って、Bは座席の側にあった携帯食の箱を手に取った。

そして、それを開けて中身を取り出す、

それは、黄白い固形物と、パックの飲み物だった。

『それ…何?』

沙璃枝はBの取りだしたモノを見つめて、

それを凝視して問いかける。

「ふふふ…

 これが人類の英知って奴だ…

 全ての必須栄養素が詰められてる軍人さん用の食料…

 ”コンバットレーション”…だ…」

そう言ってBは破顔した。

その余りに簡素な食べ物を見て唖然とする沙璃枝。

『そ、それ、

 私のこの栄養を分散してるキューブより

 更に酷いモノじゃない!

 それが、食事!?』

沙璃枝は、情報量の問題で妥協した立方体キューブに

栄養を詰めるという情緒もクソもない自分の食事に対して

それを遙かに超越している

現実の食べ物に絶句するしかなかった。

「はっはっは…

 だから、1つの中に栄養を込めるのが嫌だったのだよ…

 それじゃ、このコンバットレーションと何も変わらんからな…

 これは、全部の栄養が暫時困らない程度に補給できる

 合理性の極値の様な食べ物さ…

 味だってそれなりに旨い様に調整されてる…

 それでもな…

 こんなキューブ食いだしたら、

 心は冷たくなっていくだけだ…

 それに、ここまでオールインワンとはいかないが

 ”先進”の人々が食べるのも、合理性を煮詰めた

 これと同じ様なモンが、日常食だ…

 エネルギーの合理化の為とは言え…

 それがなんか嫌なんだよ…

 まるで機械みたいでな…」

言って悲しくなって、

Bはその食料スティックを口に咥えた。

『栄養を分離して複数キューブにしたのも

 結局、貴方の心使いって事だったのね…

 なるほど、それならこれは嬉しい手料理だわ…』

沙璃枝は、Bの台詞に何か色んなものに呆れて

そのキューブを食べ始めるしかなかった。

『現実の方が、こっちの電脳世界よりも味気ないって

 なんだか物凄く寂しいわね…』

「そーだな…」

沙璃枝の感想に苦笑するB。

これではどっちが人工知能かわかりゃしない。

理想の電脳空間が、多様性を求め

現実の世界が、単一性を求めるのは

どういう逆転現象なのだろう?

二人はそれに苦笑した。

「まぁ、それでもな…

 こんなレーションでも、旨い時もあるもんさ…」

言ってBはレーションをムシャムシャ食べる。

『そんなスティック1本を食べるのが旨いって

 どんな時なのよ?』

Bの言葉に絶句して、

そのシュチエーションを尋ねる沙璃枝。

「そりゃ、誰かと一緒に食べる時さ…

 一人で食うレーションほど、

 心が寒くなるモノは無いかんな…

 こんなレーションでも、誰かと一緒に食べると

 それなりに味は感じるな…」

言ってBは沙璃枝に笑った。

『ふふふ…

 そんな事言われたら、この1栄養素だけの

 キューブ食も、少しだけ美味しく思えて来たわ…』

Bのそんな台詞に、沙璃枝も絶句して笑うしかなかった。

二人はそこで、絵としては寂しい食事を

しかしそれなりに楽しそうに食べたのだった。



「なんつーかなー

 さっきの食事をしてて、ちょっと思ったんだが…」

寂しくも美味しい食事をした後で

座席に寝そべって肘をついて枕代わりにしながら

不意にBは切り出した。

『何?』

唐突に会話を切り出したことに、それに耳を傾ける沙璃枝。

「これじゃ、どっちが人工知能かわかりゃしねぇって

 思った時にさ…

 昔読んだ小説の事を不意に思い出したのさ…」

そう言ってBは笑った。

『昔読んだ小説?ふーん、どんな小説なの?』

Bのその言い回しに興味が沸き、それを尋ねる沙璃枝。

「結構、こんなドローンと戦ってる俺には

 似通ってる話だったんでな…

 読み込んでしまったんだ…

 もう150年ぐらい前の凄い古典小説なんだが

 アンドロイドと人間が殺し合う話さ…」

言ってBは肩を上げて笑った。

『アンドロイドと人間が戦う話?

 なんだか、たしかに

 ドローンと生身で戦う貴方と似た様な小説ね…

 どういう内容なの?』

沙璃枝はBが口にするそれに更に興味が沸き、聞き込む。

「ワリと長い小説だからな、全部話すと長いし

 何より、もう俺がうろ覚えだ…

 印象に残った所しか覚えていないんだが

 それでいいか?」

言ってBはその思いに少しニヤついた。

『ふーん、まぁそれでもいいわ…

 アンドロイドと人が殺し合う話で

 貴方が印象に残ったってのは、どんな?』

沙璃枝はBの焦らした物言いにその内容を催促する。

「ふーむ、何から説明していいのか…

 ともかく、アンドロイドが人間に近付きすぎた時代に

 人間に強制労働させられてるアンドロイドが

 労働工場から逃げ出して

 そんな逃亡した違法アンドロイドを殺す仕事の主人公が、

 アンドロイドを追ってハンティングするって

 そういう基本的な内容の話だな…」

言ってBは、その内容が、今の自分の様に

かなり似ている事に苦笑するしかなかった。

まぁ、人型ではなく、

戦闘車両だ、オートジャイロだ、航空機だと

兵器の形のままのモノを壊してきたので

人型を狩るというのとは異なっていたのだが…。

『何だか、酷い世界の物語ね…

 どこか今の世界そっくりな所もあるけど…

 人型アンドロイドなんて、効率が悪すぎて

 今でも、研究者の遊びでしか作られてないから…

 現実的とは言えないけれど…

 それって、どういう話になっていくの?

 ただアンドロイドを刈り尽くす娯楽モノ?』

沙璃枝はBの世界説明に、この現実との類似性を感じ

ますます内容を聞きに入った。

「これがな…

 今の時代でも実現できない

 人間に極めて近い有機系アンドロイドが

 出来てるって無茶苦茶な世界でな…

 んでもって人間と有機系アンドロイドを判別する、

 フォーなんちゃら…何って名前だったかな…

 なんかそんな検査法があって、

 それで

 ”赤ん坊の皮でこの皮のジャケット出来てるんだ”

 とか質問すると、電極付けた腕かどっかのプローブから

 人間の神経信号がその質問で動くから、それを検出して

 その電気信号を増幅してメーターがぐいっと動いてな

 それが、きちんと人間の定量値に達しないと

 ”お前アンディだな!?バンバンバン!”って

 撃ち殺すって話でな…」

言ってBはアハハと天を仰ぐように笑う。

『何、その無茶苦茶な判定方法で

 人間とアンドロイドを区別するって考え方…

 そんな方法で人間かどうかを判定するなんて発想

 その作者、頭狂ってるんじゃないの!?』

沙璃枝はその素っ頓狂な人間判定に粟立つしかなかった。

「そこが面白い所でな…

 あんな滅茶苦茶な検査方法で

 人間かアンドロイドか判別する世界で

 それも逃げるアンドロイドを追う

 ハンターの主人公が、

 アンドロイドと銃撃戦をしながらも

 アンディーを追い詰めたら

 フォー何ちゃら法で、検査始めて

 ”アンドロイド判定”して

 アンドロイドと確認したら射殺するって事してな

 銃で撃ち合って、殺るか殺られるかって

 瀬戸際なのにだぜ?

 律儀に検査をして

 ”はいお前はアンドロイドだから

  法的に射殺…じゃない”処理”オッケー”って、

 自分に納得させてアンディーを処理するんだよ…」

Bは続けていって、

その世界感のおかしさを笑うしかなかった。

『その主人公、狂ってるの!?

 銃撃戦で生き死にがかかってるのに、

 その前に手間の掛かる検査するとか、おかしいでしょ!?

 っていうか、どうやって自分の命を守りながら

 そんな検査法するのよ!

 その状況、見て見たいわ…

 それに…まるでそれじゃ貴方みたいじゃない…

 っていうか、貴方の行動って、それに習ってるの?』

沙璃枝はBの説明するその物語のシーンに

絶句するしかなかった。

なんという狂気めいたシーンなのだろう。

そしてその狂気の様子が、

この目の前の頭のオカシイ人間探求者が妙にダブる。

「そんなわけねーだろ!

 俺が生死の狭間で戦うのは、

 その時の遠くの安全な場所から

 ドローン操る奴の気持ちが見たいのと

 人の様に振る舞い始めた人工知能の中にある

 人境界線が見たいから、生身を曝してるんだよ!

 まぁ、影響がなかったといえば嘘になるけどな!

 でも、あんな主人公みたいな、

 人殺ししてるのかを怯えて、狂っていくのとは、

 ちょっと違うぜ…」

Bはそんな沙璃枝の

その主人公と自分との重複指摘に全力で反発した。

とはいえ影響を受けてないと言えばそれも嘘になる。

あの小説を読んで衝撃を受けたのは事実だった。

『人を殺して、怯えて狂っていく?』

そんなBの言葉の最後に、

非常に気になる台詞が出てきたのに

沙璃枝はそれを尋ねた。

「んー、

 結局な、俺がドローンをそれでも簡単に撃って壊せるのは

 とてもじゃないがそれが”人じゃない何か”だからさ…

 でもその小説の主人公は違うんだ…

 出てくるのが有機系のアンドロイドって言ったろう?

 もう内部構造が人間とほとんど変わらないってモノなのさ。

 だから、そのアンディーをハンティングしていくうちに

 人工血液が流れたり、腐臭がしたりを

 見たり嗅いだりしていくウチに

 アンドロイドを処理してんのか、人を殺してんのか

 だんだん主人公が分からなくなって

 発狂していくんだよ…」

『………』

そんなBの物語の語りに、僅かに息を飲む沙璃枝。

そう、この世界は現実的な効率のために

昔の機械機構のままドローンを構築しているが、

もし完全な汎用性を求めて

有機系人型アンドロイドなんてモノで

ドローン的な事をしようとしたら、

そんな光景が有り得るのだ…。

まぁ現実的に考えて、人と同じ様な有機系動物体を

人工的に作り出すなど、要素数が多すぎるのと

各要素の微細性が酷すぎるので不可能に近く、

そんな事をしようと考えるなら、

生物DNAの書き換えをして

生物改造をした方が遙かに作れる可能性があるので

生物利用をしないで”人工”で生物を作るなど

荒唐無稽でしかないのではあるが…。

それでも、その人型アンドロイドと人との係争は

思考実験としては面白いと沙璃枝には思えた。

沙璃枝は無言で、視線によって続きを催促する。

「まぁ俺も、人の様なモノに近しいモノを

 撃ち殺す事なんかしてたら

 あの主人公の様に発狂してたかもしれんがな…

 特に、奇数番台なんて、

 人間にしか思えなかったからな…

 あの小説みたいに、人だったのか人工知能だったのか

 そりゃ少しは迷ったぜ…

 でも、そこら辺は軍人的な、

 お互いに納得ずくの、銃の撃ち合いだ。

 戦士と戦士の一騎打ちさ。

 一方的なアンドロイド惨殺の狩りじゃない。

 だから、”これは殺人なのか、モノの処理なのか?”

 って事で狂っていくのとは違う…」

言ってBは、

その主人公と自分との決定的な違いを口にする。

そう、精々人に近しい人工知能という曖昧か、

薬でラリって致死も可能なサイバーリンクをして

戦場にやってくる廃人ぐらいとの戦いだ。

確かに自分も殺人はしてきたとはいえ

殺さなければ周囲のより人が死んでいくだろう

危険因子との戦いだった。

それには戦士としての誇りが保てた。

だが、あの小説の主人公は、そこが異なった。

『それで、その主人公はどうなるの?

 なんだかとても気になるわ…』

沙璃枝はBの説明に主人公の結末が気になって

その最後を深い興味を持って尋ねる。

その質問にBは笑った。

「こっからが、一番面白い所さ…

 遂に主人公は、頭がおかしくなりすぎて

 自分自身が

 ”俺ってもしかしてアンドロイドなんじゃね?”

 って自分が人間なのかを疑いだすんだ…」

『自分自身が!?』

沙璃枝は、その展開を聞いて驚く。

「そうそう!

 アンドロイドを冷血に殺せる自分は

 この目の前で殺したアンドロイドと

 実は、同じなんじゃねーのか?って

 自分が人間なのかを疑って

 その、フォーなんちゃら法って検査を

 自分自身にかけるんだ…

 んで自分がアンドロイドかどうかを

 検査しちまうんだな…」

『そ、それってどうなるの?』

そのドキドキとする展開に

思わず沙璃枝は拳を握りしめた。

「いや、まぁ、結局、人間反応の電流が流れて

 その結果を見て、デッカードはボロボロ泣くって

 他にもラストに色々あるんだが、

 概ね、それで終わるんだがな…

 俺は人間で良かった…ってな」

『ふーーん…

 人間で…良かった…って…そう…』

その結末を聞き、僅かに胸を痛める沙璃枝。

「だからさ…

 その小説のそのラストシーンを思い出すと

 俺は、今は、怖くなるんだよ…」

言ってBは己の両手を見つめ、僅かに震えた。

『怖く?どうして?』

そんな突然のBの台詞に、Bを見つめる沙璃枝。

「結局、

 その作者のその作品で言いたかった事はさ…

 人間とアンドロイドを隔てる境界線は、

 自分の目の前にあるモノに、

 自分自身以外の存在を認めて、

 そこに”共感(エンパシー)”を感じれるかどうか?

 ってそういう事が言いたかったらしいんだよ…」

『共感(エンパシー)?』

沙璃枝は聞き慣れない言葉を耳にして

それを言葉でなぞってみた。

「殺してしまったアンドロイドに

 何も感じないか、それに何かを感じてしまうか

 その死んだアンドロイドに

 自己投影が出来るかって所か…

 ともかく、そんな”共感”こそが

 人間の人間たる所以だって言うのさ」

『共感…それが人間…』

そのBの物語の主題の説明に

沙璃枝は捜している人間の要素を見つけ

その因子の性質に震えた。

「でも、その主張が、今は俺は怖い…」

『どうして?』

そんな発見に対してBは何故か震えており

それに沙璃枝は眉をひそめる。

「だってよ…俺はその

 フォーなんちゃら法って検査法にかけられたら

 ちゃんと人間神経電流、流れてくれるのか?

 あの物語の主人公…デッカードの様に

 自分が人間なのかを疑ったら

 俺って、本当にちゃんと人間なのか?

 俺は、あのデッカードが心配したのと同じで

 実はドローンなんじゃないのか?

 そう思うと、俺はあの検査で

 人間判定出るんだろうかって…

 怖くなるんだ…」

『何言ってるのよ…

 貴方ほど、人間らしい人間は居ないわ!』

そんな、突然に狼狽え始めたBの様子と台詞に

何を言っているのかと呆然と成る沙璃枝。

今までこの数日過ごした中で

これほど人間らしい人間は居ないのではないかと

沙璃枝は思っていたから

それが自分の人間性を疑っている事に衝撃を受けた。

「でも、そういう風に動くそんなドローン…

 って事かも知れない…

 人を探求するドローン…

 ただ自分が人間だと思いたいだけのドローン…」

『それは私でしょ?

 人を探求する人工知能なんて

 人を探求するドローンと同じじゃない!』

そんなBの台詞にカチンと来て

それは自分だと悟って沙璃枝は絶叫した。

「じゃぁ俺と沙璃枝さんを別つ壁って何だ?

 何が違ったら、人間で、何が違ったらドローンだ?

 俺は、アンタの方が、よっぽど人間に思えてるんだぜ?

 だって一生懸命、人間捜して彷徨ってるじゃねーか!

 プラタ-人みたいに、

 世の中、簡単に割り切るんじゃなくってさ!」

『え…そ、それは…』

その沙璃枝の言葉に、Bは強い言葉で

沙璃枝の人らしさを提示した。

その言葉にどもる沙璃枝。

「まぁ、いいさ…

 俺達みたいに、人間探求者が人間だっていうんなら

 その定義で始めようじゃないか…

 事物の議論には、まず定義が必要だ…

 人間を捜す者が人間。

 そんな定義をしたら、

 俺も沙璃枝さんも人間と判定できる。

 だったら、もっと怖くなる…」

『な、何が怖いの?』

そんなBの人間定義の言葉に、

そこからの怖さを聞いて、それを尋ねる沙璃枝。

「こんなフォーなんちゃら検査法並に

 無茶苦茶な定義をしちまうとさ…

 あの”先進”の世界に居る住人…

 それにフォーなんちゃら検出法をかけるか…

 俺達が人間と主張する、

 人間定義を当てはめるとかすると

 彼等は、ちゃんと人間神経電流、流れるのか?

 ちゃんと流れてくれるのか?

 そして彼等は、人間、捜しているか?」

『!!!』

Bのその問いかけに沙璃枝は呆然とした。

「あの小説が言うように、人間の共感こそが、

 人間が人間である証っていうのなら

 他所の土地に爆弾投げて、資源奪って、難民作って

 自分らはプラタ-の中に引きこもるなんてさ…

 そんなので、本当に共感の神経線に電流流れてくれるんか?

 もしかして、彼等にフォーなんちゃら検査したら

 あの小説でいう所の、アンドロイド判定食らって

 バンバンバン!って、

 レーザー銃で撃ち殺されるんじゃないか?」

『そんな!』

Bのその恐ろしい仮定に、沙璃枝は震えるしかなかった。

「人間を人間と別つ壁が、共感だって主張は分かる。

 そりゃそうだろう、それがなけりゃ、

 心なんて何所にあるのかさえわかんねぇ。

 でも、共感を基準にしたら…

 そりゃ、共感神経線に電流流れりゃ人間とか

 無茶苦茶な判定法をまかり通したらだが…

 そこに電流流れなかったら、

 あの世界ではアンドロイド判定

 俺達の世界じゃ、ドローン寸前存在だ…

 プラタ-人もアリスター人も

 その検査法やったら人間判定出ますか?

 出てくれますか?

 挙げ句に、俺達の人間定義なんかをまかり通したら

 もっと酷ぇよ…

 人間捜しやめてのヒキコモリなんて

 電流検査とか科学手法よりも

 高速に、アンドロイドかドローン判定だ…

 この世界のほとんどは、あの小説的な思考では

 みんなドローンって事になっちまう…」

それを言ってB自身も熱くなって取り乱した。

『じゃぁ私はどうなのよ?

 確かに人間を模した神経線はあるわ…

 でもそこに信号が流れなければ

 私はドローン?』

Bのその問いかけに、

沙璃枝は自分自身のあやふやさを逆に問い詰める。

「だから、わかんねーんだよ!

 だって、アンタ

 泣くじゃない!笑うじゃない!

 怒るじゃない!拗ねるじゃない!

 この世界を見て、この世界を感じて、

 この広い世界を見上げるじゃない!

 花を見て、花と一緒に過ごすじゃない!

 それが”共感”だろ?

 それ神経線の問題か?

 俺からしてみりゃ、神経線に一定電流が流れるより

 ”それ”が出来れば、よっぽど人間だぜ!

 だってプラタ-人は、それが出来るかどうか

 かなり怪しいんだからな!」

『!!!』

沙璃枝はBのその指摘に目を見開くしかなかった。

「だから人間って何だ?って俺は問いかけるんだ…

 ドローンと人間の明確な境界線って何か?

 いや、人間の心って、どうだったら”心”なのか?」

『心…

 左の…イデアル…』

Bのその問いかけに、沙璃枝は自分の至上命題を見つめた。

世界を感じるというそれを。

「でもさ、古代の人は面白い事考えるんだよな…」

その時に不意にBは話の口調を変える。

『え?古代の人って何?』

突然、Bの話が切り替わった事に驚き

それを尋ねる沙璃枝。

「俺の生まれた国で使われる言葉でさ…

 漢字って文字があるんだ…

 古代の”漢”って国が作った文字だ」

『漢字?それは私もお父様が日本人だから分かるけど…』

Bの突然に言い出した文字の話に

自分の父の出自もあって、

その文字なら容易に理解出来る沙璃枝。

沙璃枝は、Bに続きを促した。

Bは沙璃枝に語りかける。

「古代人は、たったこれだけの事で

 人かどうかを判定したんだよ…」

『何?どういう事?』

沙璃枝はBが持ち出した古代人の人間判定に

その耳を強く傾ける。

「”人”って漢字の文字があるだろう?」

『え、ええ…』

「この象形文字ってさ…

 こういう理由で、人って文字なんだ…

 片方に棒がある…これが半存在…

 もう片方に棒がある、これも半存在。

 これは人の様な何かっていう棒らしい…。

 で、片方が倒れるんだ‥地面に向かって…

 すると、もう片方がそれを支えて

 片方の棒が倒れないように支えるんだ…

 すると、棒と棒がこうお互いを支える形で…

 ”人”って文字になる…」

『…そうなの…それがこの文字の由来…』

沙璃枝はあまり調べてなかった

その文字の由来を聞いて少しだけ驚いた。

「古代の人間は、”人”って文字に、

 人が人になる境界線をぶち込んだわけさ…

 半存在は、いつだって地面に倒れそうになる…

 棒なんでいつも立つのに不安定なんだ…

 だから、いつも地面に倒れそうになる

 でも、それをもう1つの半存在で支えたら…

 地面に倒れずにお互いが地面に立ってられる。

 それが”人”だって…

 すっげー簡単な説明で、

 人間を定義しちまった…」

『それが…”人”!?』

沙璃枝は、その象形文字が”人”を意味する

記号の由来を聞いて、そこに人の簡潔な定義を知った。

「つまりな…人ってのは、1人じゃなれねぇって事だ…

 人になるには必ず2人要る。

 古代人はそう言ったわけだ…」

『2人?』

Bのその沙璃枝が始めて認識する概念。

2という条件を聞いて、

その胸の中の鼓動を高鳴らせた。

「共感だってそういう事だ…

 共感は1人じゃできねぇ…

 だって1人だもん…

 2人なんだよ…

 倒れるのを支えるのも、共感をするのも…

 2人、必要なんだ…半存在が…」

『人は…2人で、ようやく人?』

その時、沙璃枝の中に何かモヤが晴れるような

不思議な感覚が過ぎった。

「それが人間ですって、

 そう言いきるわけにゃいかないが…

 少なくとも、1人じゃダメらしい…

 それだけは分かった…

 そういう事だけは、確かな事らしい…」

言ってBは勢いで言い始めた自分の会話の中で

自分も曖昧にしか分かっていなかったそれを

その時、明瞭に、言語化できた。

B自身も、そこで気付いたのだった。

”2人”なのだと。

その言葉を聞いて、より胸を高鳴らせる沙璃枝。

その時、沙璃枝の目が輝いて閃いた。

『じゃぁ…Bさん…

 だったら、私が倒れたら、私を支えてよ。

 そうしたら私、人間になれる?』

沙璃枝は不意にそう考え、そう言った。

「アンタが倒れるって、どういう状況だ?」

そんな沙璃枝の言葉に、”倒れる”という

曖昧な概念を聞き込んでしまうB。

『私、常時倒れてるわよ!

 人間にどうやってなればいいのかでね!』

そのBの鈍い質問に激高しながら沙璃枝は答えた。

「ああ、なるほどな…

 そういう事か…

 じゃあぁ俺も支えてくれ…

 俺も人間になりたいんで、常時倒れてる…」

そんな沙璃枝の言葉に、Bは瞬時に納得し

そして無意識のレベルで、そう答え返した。

『え?貴方は人間でしょ?

 何言ってるのよ?』

そんなBの素っ頓狂な言葉に眉をひそめる沙璃枝。

「最近、あの小説のデッカードの様に

 自分が人間なのか自信が無くなった…

 俺は、本当の人間なんだろうかって?」

『どうしてよ?』

Bのその自己人間不信を聞いて

益々、首を捻る沙璃枝。

「だって、アンタの方が、よっぽど人間らしく…

 世界にあるもの全てを見つけて、

 楽しそうだからだよ…

 俺達人間が”当たり前だ”って流してしまう事に

 ”それがあるから人間らしさ”

 ってを気付かせてくれる。

 アンタの様な人工知能の方が、

 人が何かであるのを、よっぽど教えてくれる

 だからだよ…」

言ってBは項垂れた。

『そんな事言われても、困るじゃない…

 私はただ一生懸命なだけなのよ!?』

「まぁ困るわな…普通は…」

沙璃枝はBの驚くべき、

自分の人間性指摘に目を見張る。

自分はBを”人間らしい”と思っていたが

Bの方も、自分を”人間らしい”と

思っていたという事に。

そんな会話のやりとりの中で

沙璃枝はますます閃いた。

そんな互いの自己人間不信に対して、

たわいのない思いつきを。

『じゃぁ、だったら…

 お互いに倒れかけの棒だっていうんなら…

 二人で支え合って、人間にならない?』

「二人で?」

突然沙璃枝がそう言い出した事に

その主張に驚くB。

『古代人が、二人で人間になるって言うのなら

 そうしてみればいいじゃない!

 二人で人間になりましょうよ?

 二人で…

 駄目?』

そう言って沙璃枝ははにかみながらBを見つめた。

「ああ、そう…

 そうか…

 そりゃいいな…

 二人で人間、目指せばいいのか…

 だったら、二人で人間、目指すか…」

『ええ、そうしましょう…

 倒れてる棒同士…

 二人で支え合って、人間、目指しましょうよ…』

沙璃枝の提案を受けて、Bがそれに驚きながらも納得し

そして快諾した事に、沙璃枝はこれ以上ない

満面の笑みを浮かべた。

その時、二人はまだ気付いてなかった。

その時、二人は人間になっていた事に。



うーん、昔から思っていた事への実験としてちょっと実験回。ファンタジーなら、まぁ異世界なんで好き勝手できるんですが、ボトムズの様な「異世界未来感」のSF系ではなく、現実の延長線上の世界でのSFを考える時、現実の世界の延長線で車だ銃だ、色んな未来発展物やら現実物の登場させるのに対して、主人公達が、教書や小説からの知識の引用という、現実の議論や会話ではする事を避けるという不自然さが気になったわけです。まぁ、小説書いてるのに、その中で別の小説の話で盛り上がるというのは歪なんで、それを本能的に書き手が避けるのだと思うんですが、こんないっぱいいっぱいの状況になって、今まで色んなモン読んで知識とかを得ている存在として書いてる人物達が、知識の元を引用したり参考にしたりしないってのは、我々の現実でしている事から考えたら不自然なわけです。ま、著作権云々の問題とかもあるし、何より書いてて、「ぶっちゃけ、俺のなんちゃって小説読むより、こっちの小説読んだらどうよ?」とか身も蓋もない事も思いだして自己嫌悪になったりもするんで、これ諸刃の剣なんですが、そういう意味での実験回。小説の話を引用して、その話を考える事で現在の自分達の状況と照らし合わせて、うわぁぁになるってのが、ちょっとリアルじゃね?って思ったんで、書いてみました。この為に、前々からステルスに伏線も張ってたり。また、最後の「人」文字解釈で、書いてて「これ、文字の由来、本当にこうなんか?」って疑問に思ったんで調べると、「おいおい、これ明治の日本人の偉い先生が勝手に教育用に解釈した、日本人解釈なんかよww」という事が分かって、さー大変w。「やべぇな…じゃぁ、『俗説なんだが』ってBに、本当は違うんだよ、漢帝国じゃないんだよ、日本人の拡大解釈なんだよ」って補正させるかなぁと思ったんですが…。「いや、俗説を本当だと信じ込むのもまたリアルじゃね?」と思いまして、なにせBさん、今の段階で設定年齢アバウト29歳なんですが、知識有り過ぎて、「これ哲学科を中退でバックレて戦場に行った奴が持てれる29歳の知識なんかい…」ちゅー、作者知識ダダ漏れ状態なんで、そのリアリティの無さを前から悩んでたんで、俗説を本気で信じてたでもいいかなと。二対存在というのは、人の文字の日本語解釈がベースではなく、存在の思考実験での、「宇宙に自分しか認識できない認識存在があったとき、それは存在たるや、どうかや?」という1体存在の思考実験がベースなので、哲学科という設定なんで、それを言い出しても良かったんですが、まぁ、そんな言い回しよりは、「人」文字俗説を、漢帝国の人が考えたというのを信じ切ってる、の方が自然かなと…。そういうわけで、後書きの方で、「実は俗説で、人文字起源は、一人で立ってる文字の崩しらしいです」と補正しときます。

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