第二十三話 リンゴ (Taste)
ふーむ…、やっちまった感が前話であったけど
それはそれで使いようだよな…というのもあり
昼パート夜パートで交差していくのも面白いナァとは思うんですが…
そうすると思った以上に文量が膨らむんで、それをどーしたモンか…
どの面を下げて会いに行けばいいんだろう?
という言葉は、正に今のBのそれだった。
ともかくトンデモな事を5代目からマシンガンの様に
知らされては、人工知能と結婚とか更にトンデモな事になり
挙げ句に、マージへの作戦会議は
ともかく明日からにしよう、と切り上げられて
3人は帰って行ったはいいものの
『もうお前の嫁なんだから、
そのポンコツは朝までそこに置いておく』
とか5代目に言われて、
その嫁になったらしい6代目さんと
一緒に添い寝(?)をして眠る事にされたB。
ちょっと待ってくれ的なところだったが
5代目のキャラから”黙れ”の一言で一蹴され、
壮絶な気持ちでドキドキしながらも、
その6代目と同じベッドで眠る…。
いや、節操の問題で、5代目に
サイバーリンクにみんなで示し合わせて投げ込むのは禁止
という事になったので、
結局、立体映像がそこにあっただけなのだが
ともかく絵的には、一緒に寝る事にさせられたB。
問題なのは、むしろその後だった。
超絶に驚く状態だったのに…
まぁ昔話でもしましょうかとか言われて
6代目とドローンでの戦いの日々を語り始めると
「ああ、そうそう!あの時は死ぬかと思ったよ!」
『あの時はそうでしたね!』
と昔話が楽しく弾み
正に旧知の間柄で盛り上がって
僅かな時間で、全く知らない美人さんから
昔からよく知ってた美人さんに
認識が切り替わってしまったのだ。
なんか、これならこれでもいいか的に
その状況に恐ろしい速度で慣れてしまったB。
冷静に考えれば”初めての見る人”と話しているはずなのに、
この数日の、昼の悪態と毒舌を放射する暴走特急の
沙璃枝さんの顔への慣れにも助けられて
”ああー、こういう沙璃枝さんなら、ええなぁ…”
という昼の方の対偶に対する安心感も生まれて
認識のギャップにやられたというのだろうか?
こんな人が嫁なら、それでいいかナァ という
そんな気持ちに僅かな時間を共にしただけで
なってしまった。
と、いう気持ちを伴って眠って起きると
天国に逝くような気持ちで地獄行きに心がなるのだった。
(おいおい…
じゃあ、これから、あの末っ子沙璃枝さんと
どんな顔で会えばいいっての?
つーか、6代目の沙璃枝さんが俺の嫁って納得したら
7代目の沙璃枝さんは、俺の義妹になるわけ?
え?あの暴走特急が、俺の義妹?
マジで!?)
その思いで頭を抱えながらリビングに入ったのだった。
そしてそこにはいつもの仏頂面の沙璃枝さんがいた。
昨日の笑顔がとても可愛い沙璃枝さんとは
真反対のそれを見て、また難しい気持ちになるB。
『何、その今にも死にそうな顔は?
今日も私、血流ができたからかしら?
物凄く調子も気分もいいってのに
また昨日みたいに、朝からあんたのその顔を見ると
気分台無しなんですけど?
もしかして、3日連続で、
私の知らない姉の妄想夢見て死にたくなったの?』
沙璃枝は入って来たBのその様を見て、冷たくそう言った。
”まさかまたなの?”的な懐疑の目が、
ミジンコを見るかのような冷たい視線になっていた。
(妄想じゃなかったんだよ…
むしろこれなら妄想の方がまだマシだったよ…
マジで、その姉さんの情報が残ってて
挙げ句に結婚ですよ…
その上、あの沙璃枝さんなら、
別に死にたくはねーなって、そう思えるんだよ…
この沙璃枝さんじゃなくて、あの沙璃枝さんなら
オールオッケーなんじゃね?って思えるんだよ…
そこが逆に死にたくなるんだよ…
つーか、お前、今日から俺の義妹ですよとか
そんな事、言えるわけねーだろうが、おい…)
それを心の中で悶々と思ってBは頭を抱えてテーブルに座る。
『あの…えっと…そんな凄い妄想の夢見たの…
ご、ごめん…そのごめん、うん…
昨日みたいに部屋の隅で震えられるとウザいから
えっと……、いいじゃない!
私のお姉さんと命がけで殺し合ったんだから
それが妄想の愛に変わっても…ねぇ?』
そんな昨日以上に負のオーラを背中から発しているBを見て
流石に”乙女の真心”が発動したのか
沙璃枝の基準的には、”優しい言葉”のつもりでそう慰めた。
その沙璃枝の言葉に心を貫かれるB。
(ああそうか…
命がけで殺し合うって信頼感は…
反転すると、愛に変わるのか…
それは…そういうものなのかもしれんな…)
沙璃枝の言葉を受けて、6代目の猛烈な信頼感と熱愛を思い出し
そしてそれを自然に受け止めれるという自分の不思議に
納得できる合理性をそこに見いだしたB。
そこでBの心に落ち着きが生まれた。
「そうだな…
あんなに何度も命がけで鬩ぎ合ったんだ…
それが無くなるってのが寂しいって思えたんだから
妄想の中でも、もう一度会いたいって思うのは
当たり前の事なのかもしれんな…」
そう言ってBはおもむろに珈琲を炊き始める。
(ただ妄想じゃ…ないけどね…)
と心の中で添えながら。
そんなBの急に憑き物が落ちて、落ち着きを取り戻した様と
あまりにも不気味な台詞が口から出たことに破顔する沙璃枝。
『ちょっとやめてよ!
妄想の中でもいいから会いたいなんてっ!
その言葉で、お父様と沙理江さんの事、思い出したじゃない!!
それで気がふれて、私も見た事もないお姉さんの
人工知能で作るとか、そんな事言いだしたら殺すわよ!
ただでさえ、大井家はそれで大迷惑を被ったっていうのに!』
言って沙璃枝は自分の生まれた起源を心の底から全否定した。
(大丈夫だよ…
お前のねーちゃんは無くなったどころか
俺の寝所で、元気にピンピンしてっから…
作る必要がねーから、それはないわ…)
そう心の中で思って頭をかくB。
「まぁお前の親父の
プラトニックラブってのも、いいんじゃねーの?
もう会えないから、だから尚更会いたいって…
そういう願望、結構、人間らしいだろ?」
そう言ってBは軽口を叩いてみる。
(いや、これから毎日、夜に会う事になるんで
あんたの親父みたいなプラトニックラブとは
天地が変わるほど違うんですけどね…)
そう思い、Bはこれからの歪な夫婦生活を思い項垂れる。
実体があれば、Bのこの生業に支障もきたすだろうが
実体が無いという究極の都合の良さがある。
それは戦場にあるものにとって、
大事な家族を危険に曝さなくて良いという点で
絶大なアドバンテージであった。
その点で6代目沙璃枝は正にBにとっては理想の嫁といえた。
(あーープラタ-人って、こうだから
あっこから出てきたくなくなるんだろうなぁ
なーんかよく分かったわーーー
そうかー、あの6代目沙璃枝さんが…
俺の対存在だったんかーーー)
と、そういう思考を巡らせたとき、
不意にBはその事実に驚愕する。
(俺の対存在が…6代目の沙璃枝さんなのか…
でもどうして!?
俺はあのネオTKで、
自分の対存在を心の中に見つけられなかったのに…)
その疑問が浮かび、それに焦るB。
Bはその焦りを落ち着かせる為、珈琲をカップに注ぎ
それをちびちびと飲んだ。
『もう会えないから‥だから尚更、会いたいねぇ…
そう考えれば…
私、お父様には
どんなに不満があっても、もう一度会いたいのかしらね?
こんな家族でも、親子ですもんね…』
そんなBの言葉に頬を膨らせて
沙璃枝は自分に、そんなもう一度会いたい何かが
死んだ父以外に全く居ない事に腐った。
「孝行のしたい時に親は無しって、言うからな…
俺だって、親を事故で両方とも亡くしてから
その後に色々苦労して、親の有り難みってのは、
それでよく分かったからな…」
言ってBは、あのエネルギー消費を徹底的に抑えた
ネオTKという世界で、
それでも未だに起きる”事故”なる偶発で
自分の家族の要を失った事を思い出した。
『あら…Bさん…ご両親を…
それはそのマズイ事を聞いてしまって…』
誘導的に出てきたBの家族構成を知り
聞いてはならないことに思えて萎縮する沙璃枝。
「そっちだって、父親も母親も亡くなってんだろ?
なら同じじゃねーか…
そんなのずっと気にしてちゃ、
こんな終わりかけの世界は生きていけませんわ…」
言ってまた珈琲をひびちびと飲むB。
『クールね…
物凄い妄想癖があるワリには…』
そんなBの物言いに呆れて毒を吐く沙璃枝。
「妄想結構、
そういうのがあってもいいんじゃねーかって思うよ。
孤立した者同士が、お互いの存在をかけて
存在理由を問うて、お互いを求めて殺し合いをしたんだ…
超越的な解釈をすりゃ、それも歪な家族状態だろ?
好敵手が家族ってのも変だが…
亡くしてみると、それさえ家族だって思える…
そうだな…あのガキ共や一緒に戦った戦友と同じだ…
亡くしてしまった時に、それが家族だったんだって分かる…
馬鹿な話さ…」
言ってBは、本当に失った家族だと後で思えた者達を思い浮かべる。
そう気付くなんてモノは、それが在ったその時ではなく
亡くしたときに分かってしまうモノだ。
それを思うと、6代目の沙璃枝さんが失われずに
自分の側に今あるというそれは、自分が感じれている以上に
素晴らしく大切な宝物に思えた。
(そっか…家族か…
そうか…家族なのか…
それなんだな…)
そんな奇妙な納得をしてしまうと
6代目を嫁に迎えるという事は、
とても幸せな事なのだとBは悟った。
そのBの独り言の様な台詞が、しかし沙璃枝の胸を打った。
その台詞は沙璃枝が父と死別するときに
父が言っていた台詞と全く同じ内容だったからだった。
それに沙璃枝は少し慌てて、毒を吐いて焦りを隠そうとする。
『な…なによ…
姉の妄想夢を思い出して悶絶して
昨日みたいにミジンコ並の卑屈にならないの?
なんか、憑きものが落ちたみたいな顔になって…
もしかして脳味噌って、腐るところまで腐ると
むしろ涅槃に入ってしまうぐらい
悟りの境地になるの?』
言って沙璃枝は、その昨日とは別の意味で不気味なBに
奇妙な恐れを感じ、
自分の心の焦りも手伝って毒を吐きまくった。
(5代目さんが…本来は、この末っ子さんは
学習してない赤子の状態だって言ってたんだよな…
知識を底上げするために、5代目と6代目で
知能を支えているって言ってたけど…
だったら、この口の悪さは
5代目さんの知識の影響なんだろうか?)
不意にBは、沙璃枝のそんな毒にまみれた言葉は
いったい何所から発生するのだろうか?と考えてみた。
確かに自分対して敵愾心の塊だった5代目が
知識のベースにあるのなら、
こんな毒になるのかもしれない。
しかし、どーも、5代目のキャラを
あの短時間で感じるとそういうわけでもなく思える。
5代目は確かに敵愾心はあったが、
それは彼女の尊厳と矜持から来るモノに思えた。
すると、この毒を吐きまくるキャラクターが
末っ子さんの素のキャラに思えてしまう。
(個性の諸元ってのは、
いったい何で決まるんだろうなぁ…
それはとても不思議だなぁ…)
そう思ってBは沙璃枝を見つめた。
そんな時にリビングに入って来るモヒカン。
「ヒヒヒヒ、ようB?
”ゆうべはお楽しみでしたね?”」
そう言って嫌らしい笑みを浮かべるモヒカン。
「おいモヒカン…
てめーとはそのうち
二人だけで腹わって、
命がけで、語りあわねーといけねーよな?」
モヒカンの言葉にカチンと来て
その面を見てBはこれ以上ない殺気をたぎらせて睨んだ。
「おう、望むところだぜ?
お互い、腹わって語り明かそうじゃねーか」
そんな殺気をものともせず
両脇を抱えて胸を反らしてその言葉を受けて立つジョージ。
その二人はそこで突然、目に見えるかの様な
激しい火花を散らして睨みあったのであった。
『何なのよ…
今日の朝はいったい…』
沙璃枝はその様に、ただ狼狽するしかなかった。
『でーきたっと!!』
沙璃枝は暫くの時間、立体スクリーンで
情報のブロックをタッチして移動させてはラインを引き
何かを一生懸命作っていたが
それが完成したらしく、終わりの声を上げた。
「何を作ってたんだい?」
そんな沙璃枝の台詞に、
沙璃枝が賢明に作っていたそれを尋ねるB。
『味情報生成プログラム!』
そう言って沙璃枝はパァっと微笑みを漏らた。
「味情報生成プログラム?」
沙璃枝の素っ頓狂な返事に眉をひそめるB。
『そ!ザクロやリンゴや、
味の情報を今まで即席で作ってたからね!
だから、味成分の情報群を
こういうスライダーで多い少ないって指定して
味のスペクトル情報を作るツールを作ったの!』
言って沙璃枝は、シンセサイザーにあるかのような
数十種のスライダーバーが並んでいる操作系の
アプリケーションをBに見せて、胸を張った。
「ああ?味スペクトル情報?」
Bはその素っ頓狂な沙璃枝の言葉とツールに首を捻った。
『そうよ?これで私がモデリングしたボクセルに
この味情報のスペクトルを入力して味覚を作るの!
私達の電脳空間での食事ね!』
そう言って胸を張って満面の笑みを浮かべる沙璃枝。
「いや、アンタ電気で動いてるんだから
食料とか要らんだろ?」
Bはその沙璃枝の奇想天外な発想に更に首を捻るしかなかった。
『”感じる”は5感よ!
昨日の血流が出来てから、触覚が研ぎ澄まされてるの…
そう、私は確かに鼓動を感じてる
だからね、味覚も作ろうと思ったのよ!
要るとか要らないとかじゃなくて
それを”感じたい”のよ!』
沙璃枝は微笑みを重ねて、そう浮かれた声を上げた。
そんな屈託のない微笑みが重なると、
Bは6代目の微笑みとは違う
7代目の笑顔の綺麗さに少しだけ衝撃を受ける。
昨日の寝てしまうまで、
6代目は何より嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
それを見ていて、その好意溢れる笑顔が、
眩しく美しくて綺麗だと思ったが
それとは何か違う…7代目の無邪気な笑顔に
Bの心が何故か透くような様な気持ちになった。
それは不思議な感覚だった。
その沙璃枝の笑顔にあったのは
好意ではなく”無邪気”だった。
なのに何故かそれがBの胸を打つ。
「ふむふむ…
まぁ『左のイデアル』が世界を感じる事なら
感じる事を、何でもかんでも、感じてみればいいわな…
食事ではない味覚を作るなんて、
無意味かもしれんが…
ジョージ先生の言葉を借りれば
その無意味に、観測者が意味付けをしていきゃいいんだもんな。
無意味は無意味じゃなくて、新しい何かを発見する為の挑戦だ。
なら、いいんじゃないか? 味を作るってのも…」
言ってBは沙璃枝の作ったその”無駄”に破顔した。
『何、他人毎の様に言ってるの?
じゃぁ、はい、お願い…』
言って沙璃枝はBの前に
そのツールを立体スクリーンとして展開した。
「あ?何? これ、どういう事?」
沙璃枝にそのツールを渡されたような形になって首を捻るB。
『Bさんが作ってよ…このリンゴでいいから味を…』
言って沙璃枝は自分の手の中に
モデリングされたリンゴを表示させる。
「は? なんで俺が作るんだ?」
沙璃枝の突飛な言葉に眼をぱちくりさせるB。
『だって、これが今の私の世界での
そっちの世界での料理みたいなモノなのよ?
じゃぁこんな味スペクトルといえど
味を生成して貰ったら、手料理みたいなモンじゃない…
私のために料理を作ってよ、Bさん…』
言って沙璃枝はさもそれが当たり前であるかの如く
Bに彼女の世界での手料理を要求する。
「いや、だから、何で俺が、沙璃枝さんの為に
て、手料理?
手料理ってなんか釈然としないが…
まぁともかく、
アンタの為に手料理つくらにゃならんのだ?」
Bはそんな彼女の言葉にただ問い返すしかなかった。
『だってBさん言ってたじゃない?
心を食べるんだって…
自分で作った完璧な味を、自分で作って
一人で美味しいを食べても、
それじゃなんか寒いだけだわ…
例え不味くても、自分じゃない誰かの心を食べたいのよ…』
そう言って沙璃枝はニッとまた笑った。
その言葉を耳にしてポカンとするB。
「はぁぁ…なるほどね…
そういう事ね…
でもいいのか?
妄想癖の激しいクソムシの作る様な
電脳世界の手料理で?」
Bは沙璃枝の考えを理解して、納得はしたが
それが自分の作る程度のモノでいいのかと尋ねてみる。
『まぁ、ここには人間は2人しか居ないし…
そのうちジョージさんにもまた作って貰ってもいいけど
まずは目の前に居ますからね…
人間探求者さんが…
なら、贅沢言ってられないんで
早速作って貰うかと、そんな所で…』
そう言って沙璃枝は難しい視線をBに送った。
現状、沙璃枝は潜伏中の身である。
誰かに作って貰うとしたら周囲人しか有り得ない。
「まぁそりゃそうだな…
人間だけで作るんなら、
俺とジョージしかここにゃいないしな…
エミリーに作らせてみたら、
それはそれでまた面白いかもしれんが…
ま、人が作る心を食べるにゃ、そうしかならんか…
分かったよ…どうやって使うんだ?これ?」
Bは沙璃枝の言葉に、この状況の問題も含めて納得し
それなら、彼女の世界で言う手料理でも作るかと観念した。
そして彼女の作ったそのスクリーン上のツールを見る。
『まだ要素を付け加える余地はあるけど
まずはオーソドックスに栄養素のカテゴリで
その濃度の過多を変化させるようにしてみたの。
各スライダーに栄養の項目があるわ…』
そう言って沙璃枝はそのスライダーの下に
栄養素の名前があるのを示す。
「砂糖量、塩分、ビタミン類、タンパク質類…
ふむふむ…なるほど…
全ての栄養素とはいかないが、
大まかな栄養素はピックアップしたってわけか…
ふーむ、これの情報を与えるのが手料理ねぇ…
これはこれで、料理の新しい概念かもな…」
そう言ってBはそのツールのシステムに苦笑するしかなかった。
ただし、この思想に近しいモノは現実に存在している。
それはもっと味気の無い、寂しいモノではあったが…。
しかしそれを人の気分で作るというのがBには秀逸に思えたのだ。
仮想情報と言ってもである。
「んじゃ、適当に…
糖分こんだけの…ビタミンとか沢山あるべきだな…
食物繊維とかあった方が良い…水分も沢山欲しいな…」
言ってBはリンゴの平均的な栄養素など無視して
自分が考えてしまう、栄養かくあるべき、な数値を入れていった。
「んーーー、こんな感じか?
ちょっとテストでしかないが…
これで味入力していいか?」
Bは入力し終わった状態でそう沙璃枝に尋ねてみた。
『良いわよ?どうせ最初なんだから
最初から、旨いモノが出来るなんて期待してないし…
こんなのはトライアンドエラーよ…
そういうマズイの失敗を積み重ねるのも、
料理であり味なんでしょ?』
そう言って沙璃枝はいつぞや、
Bが言った言葉をウィンクして返してやった。
その返事に閉口して肩を上げるB。
「そりゃそうだ…
最初から最後までずっと百点じゃ、
人生、何も面白くないわな…
なら、ほいよ、情報入力…」
そう言ってBは情報入力のボタンを押す。
するとリンゴが光るエフェクトが入り、
何らかの情報が入って行ったようだった。
『んじゃ、試食といきますか…
どうせマズイんでしょうけれど…』
言って微笑みを浮かべながら、沙璃枝はリンゴを頬張る。
『………』
沙璃枝はリンゴの欠片を口に入れてムシャムシャと食べると
眼をぱちくりして不思議そうな顔になった。
「やっぱマズイか? この数値設定…」
『うーん、美味しくはないわね…
なんていうか個性的な味付けというか…
これリンゴの現実の栄養情報と全然違うでしょ?
適当に作ったなら、すっごくマズイモノになりそうだけど…
そういうわけでもなくって…
なんていうか、そう…個性的な味…
これ、どういう情報付けをしたの?』
その不思議な味を食して、
不思議な気持ちになってそれを問う沙璃枝。
「まぁ、これも人工知能さんじゃ、
ちょっとわかり難い設定かもな…」
言ってBは破顔した。
『ん?…という事は、
体がないと意味が無い設定数値にしたって事?』
昨日の話を思い出し、沙璃枝は人工知能に分かり難い事
”5体があって初めて意味がある情報”をBが入力した事を悟る。
「ふむ、食えない味ではないが、
美味しくはないか…
現実にこんな味を作ってもそうなんだろうな…」
そう言ってBはスクリーンに自分の作った味の情報を示した。
『うん?水分とビタミンが過多で、タンパク質と糖量がそこそこ?
カルシウムも多いわね…ミネラルの中で特に…
それを食物繊維で満たしてるの?
なにこれ? どういう基準でこういう栄養素なの?』
そのBの作りだした不思議な味というか
栄養情報に首を捻る沙璃枝。
「これはさ…
この地方じゃ得るのが難しい栄養素の構成さ…
特に中東じゃ、水分は何より貴重なモンだからな…
味はともかく…
この地方の子供達が必要な栄養の構成だな…」
そう言ってBは苦笑した。
『!!!』
沙璃枝はそんなBの情報付けの基準を聞いて息を詰まらせる。
そして不意に沙璃枝は彼の端末にあった
”ガキ共”の写真の中にあった、
一緒に彼等と食事をしていたBの姿を思い出した。
『じゃぁこれは
貴方の教え子に食べさせていた栄養って事?』
それを思いだし沙璃枝はそう尋ねる。
「んにゃ? こんな都合の良い栄養の食べ物なんか
現実に出来るわけねーだろ?
食物に入ってる栄養は決まってるんだからな…
それに、こういう栄養は、複数の食材で補うモンだ…
これはこの地方では手に入りにくい栄養素のごった煮…
リンゴ一つの中に、こんだけ欠乏栄養が詰まってたら
そりゃこの地方を救う救世果物だな!
これは、あのガキ共や、
それだけじゃないこの周辺の沢山のガキ共、
みんなに食わせてやりたい不足しがちな栄養素さ…
だから、この地方への理想の食べ物…か…
この地方の食糧事情に対する対存在だな…」
そう言ってBは苦そうに笑った。
それを聞いて沙璃枝の心臓の鼓動が脈打ち全身の血流がざわめく。
思わず沙璃枝はそのリンゴを見つめる。
そしてその残りをムシャムシャ食べた。
『私のように、栄養というモノが意味のない存在には
まったく意味のない味付けって事ね…』
それを食べて、沙璃枝はそう呟いた。
なるほど、それは五体がないと意味が無い情報だ…
血流が出来たと言えど、それは近似したモノ…
血の中に流れるのは栄養であり、
それが五体を満たして全身を支えるのだ。
食べるとは生きる事。
それが人間。
そこにある沙璃枝と人間との隔たりに、沙璃枝は衝撃を受けた。
『これ、美味しいわ…』
沙璃枝はそう呟いた。
「おいおい、こんな、
”こんな都合のいい栄養が集まった食べ物あったらいいな”
って気分で作った情報だぜ?
味が旨いわけねーだろ?
病院食みてーなモンだ…。
旨い手料理って奴からは、迂遠の存在だよ…」
言って沙璃枝の言葉に首を振る。
そう、味なんか無視した設定だ…
旨いはずが無い。
『でも、これが貴方の心が求める味なんでしょ?
じゃぁこれが貴方の心。
だったらこれ、不味いわけないじゃない…
貴方の心の味…美味しいわ…とっても…』
言って沙璃枝は、悲しくも嬉しそうに微笑んだ。
ねーちゃんパートの割り込みが無ければ、こんな感じで
ショートなイベントが続いて行って、それでラストの大イベントで
転パート終わりで、終パートって考えてたんですが
ねーちゃんズを書いてみると、「個性あるなこの二人」って思ったんで
あの二人をチョイ役にするのも勿体なく…悩ましい…
ともかく、今の全体における歪感は
「実はぜんぜん日にちが経ってねぇ」なんですよ
これで出会ってから5日目になるんかの?
文章がけっこうな量になってるんで、
時間進行がかなり経ってる錯覚は生まれてると思うんですが
数えてみると、実質的には5日で、一週間も経ってない。
なんで、ねーちゃん、かなり後に出てきた感なんですけど、
実際には、物凄く直ぐに出てきてるんですよな…
ただ、話の時間の進行的には、これぐらいの日単位変化じゃないと
大きな組織が鬩ぎ合ってて、一日毎に状況の展開を頑張ってるハズなんで
外部状況や、大きな組織の視点での「焦燥感」からすると
こんぐらいの時間進行で、丁度という、全体時間からみたら適切という悩み所
特に、マージがぶっ壊れているのが潜在一隅のチャンスというのもあって
攻めれるモンなら今攻めたいってのが、全体の軍的な思考では正しいので
一週間も指咥えて眺めているのが、おかしいんですよな…
そういう、主人公達の内部時間の、心の変化に対する時間進行の性急さと
外部背景の全体が動く場合での、外時間のゆっくりし過ぎなのの
時間ミスマッチが、書いてる側にとって「うーーん」な感じで…
そういう物語の時間管理っていつも困りますわー




